Fri.

石化の魔物その2  

 結局は宿の亭主に仕事を押し付けられた冒険者たちは、渋々森へと訪れていた。
 生まれたときは愛着を抱いていた相手だが、さすがに他所様へ迷惑を掛けるようになってしまった場合は退治対象にするしかないと亭主が割り切っているため、その辺は気が楽である。
 だが、何しろ報酬が銀貨300枚とあっては、割に合わないことおびただしい。
「『当時わしがコカトリスの卵を買った値段と同じだ』と親父さんに言われた時には、さすがに【蒼の軌跡】を撃ち込んでやろうかと思いました…」
「ふっかけられ過ぎだろ、若い頃の親父……」

 辺りの様子を確かめながらテーゼンが慨歎する。
 一応、石化を解除するための薬を宿の亭主から三つ預かり、当時コカトリスをあやすために使っていた東洋の玩具とやらも渡されていた一行だったが、果たして百年近くも前の物に匂いが残っているのかどうか心許ない。
 ある程度踏み均された道を行くと人影が現れたため、ぴくりと冒険者たちが反応して体勢を整えようとしたが、よくよく見ると……石にされてしまった村人のようだ。

石化の魔物3

 動く気配はない。

「あれは、石にされた人なのね…」
「こうはなりたくないもんじゃの…」

 彼らは石化解除の薬は持っているが、これは石化してすぐの相手に効果を示すものである。
 何日も前の相手の状態を戻すとなると、やはり聖北の奇跡に頼るほかない。
 今にも動き出しそうな村人の様子が気になりはしたものの、今は石化の原因のほうをどうにかするべきだと気持ちを切り替えて先を急いだ。
 ふと気配を感じたテーゼンが、腕を横に伸ばしてパーティの進行を止める。
 それと同時に、彼らの目の前へぬめる緑の鱗を持つ蛇が飛びかかってきた。

「こいつら、今どっから現れた!?」
「木の上から降ってきたんだよ。さっさと構えろ、白髪男!」

 そう要請すると、テーゼンは≪ダリの愛槍≫を旋風のごとく振り回して大蛇を薙ぎ倒す。
 ≪剣士の護符≫を握るアンジェが、素早く鎌首を伸ばしてきた攻撃を髪1本の差で回避し、その伸びた首をロンドが思い切り肘打ちした。

「よし、まず一匹!」
「油断はしないで!」

 長剣をしならせて蛇との攻防を続けているシシリーの後ろから、テアが【まどろみの花】で敵たちを眠りの淵へと案内する。
 こうなってしまえば後は簡単で、最後の一匹はウィルバーの魔力の矢が吹き飛ばした。

「この種類の蛇は、たまに毒牙を持ってる奴がいるんだよ。危なかったな」

 テーゼンが道に横たわった蛇の死骸を素手で掴み、草むらへと投げ捨てながら説明した。
 血の匂いで妙なものが寄ってこないよう、念入りに草の葉を散らし、地面を踏み荒らす。

「これで大体は何とかなるだろう。先を急ごう」
「お前、こういうの慣れてるな…」
「そうか?森での生き方を知ってるやつなら、誰でもできるだろ」

 平然とロンドに応えた後、テーゼンは肩を竦めた。

「……まあ、色んな経験すりゃ何でも覚えるって」
「そういうものか。ま、先へ行こうか」

 蛇の後始末を終えてからさらに森の奥へと踏み込むと、数人の石化された人間が現れた。
 アンジェとテアが顔を見合わせる。

「これだけ石にされた人がいるということは…」
「近いということだろうね……」
「さて、鳥が出るか爬虫類が出るか、メデューサでも出るか…」
「いや、コカトリス以外だったらほっといて帰ってこいって言いましたよ、あの親父さん」

 冷静に突っ込んだウィルバーは、ここで一度支援を掛けておこうかと提案した。

「いつもの援護の他に…確か、テーゼンが新たな技術を仕入れてくれたでしょう。魔法抵抗力を上げるための踊りを」
「ああ、そうだな。今回みたいなケースなら、少しは役に立つかもしれねえ。使っておくか」

 テーゼンはテアの【活力の歌】が終わった後に、【切ない秋】と名付けられた切ない想いを体現したステップを踏み始めた。
 彼のしなやかな腕が天にかざされると同時に、魔法に対する抵抗力が全員高まっていく。
 後はウィルバーの【魔法の鎧】や【飛翼の術】を唱えると、旗を掲げる爪は覚悟を決めて奥へ行くことにした。
 じわじわと木の葉や草むらすら石と化した道を歩んでいくと、大きく蠢いているものがある。

「親父さんの危惧していた通りだったですね!」

 ヤケクソのようにウィルバーが言い放ったのも無理はなく、現役時代の亭主が買い求めた雛は、巨木が後ろに隠れてしまうくらい大きな鳥に成長していた。
 低い辺りに轟くような鳴き声を発して、しきりに地面を踏み鳴らしている。

「興奮しているみたいよ!来るわ!」

 散開した旗を掲げる爪は、それぞれの位置からコカトリスへと襲い掛かった。
 ≪ダリの愛槍≫で遠距離を貫いたテーゼンに続き、腕輪からワイヤーウィップを引っ張り出したアンジェが【黄金の矢】を応用した魔力を這わせてコカトリスへと突き刺す。
 だが、攻撃が決まったのはここまでで、直後に繰り出された【十字斬り】やスコップの渾身の一撃はあえなく回避されてしまった。
 【死の呪言】により相手の体力を削ったウィルバーだったが、大して効いていないことに気づいて舌打ちをする。

「チッ……これでは痛打になりませんね」
「どこかの伝承では、火に弱いとも聞いておるが…」
「婆さん、それ本当か?」

 嘴による攻撃をスコップで受け止めた戦士が、唸りながら訊ねる。
 老婆はそれに、正しいかは分からないと注意した。

「なにせ、地方によってコカトリスも効くもの効かぬものが違うようじゃしな」
「いやなに、何の情報もないよりは、試してみる価値はあるって!」

 ロンドはスコップの発火能力を高めると、そのままコカトリスの毒々しい緑の腹部へと突き刺した。

石化の魔物4

「クエエエエェーっ!」

 コカトリスが猛々しい悲鳴を上げる。

「効いてるな!」
「効いてる、あと少しだよ、兄ちゃん!」
「ああ……って!?」

 空中に飛び上がったコカトリスは、鋭い爪をロンドへ振り下ろした。
 腕に激しい裂傷を負ったロンドは、スコップを構える手を持ち替えて再び飛びかかろうとする。
 それを制したのは、無言のまま低空飛行でひと筋の矢のように穂先を突き刺したテーゼンの姿であった。
 どう、と血煙を上げながらコカトリスが倒れる。

「だいぶ弱らせたわ。あとは止めを刺すだけね」
「止め……」

 アンジェは自分の荷物袋に入れていた毬を取り出した。

「これ、止めの前にあげちゃ駄目かな?」
「そんなこといっても…これで懐かれたら、ちゃんと止め刺せるの?」
「うーん、でも……」

 コカトリスは毬に興味があるようで、じっと見つめている。

「クケーッ」
「お、毬の匂いをしっかりと確認してるな…もしかすると…」
「そういえばいいもの持ってるよ」
「いいもの?」

 首を傾げたロンドに、アンジェは得意顔でブーツを取り出した。

「何だそのブーツ。すごい匂いだな…」
「親父さんのものだよ。これ嗅がせたらどうなるかな?」
「いや待て、なんでお前がそんなもの持ってるんだよ」
「小遣い稼ぎに靴を磨いてくれって頼まれてたんだけど、忘れてたわ…」

 えへ、とアンジェが舌を出す。
 そんな彼女が掲げる靴へ、コカトリスは今までの凶暴さがどうしたと聞きたくなるような様子で近づき、

「クケ~」

と語尾にハートマークをつけそうな勢いで匂いを嗅いでいる。

「明らかに喜んでおるのう」
「もしかしてまだ、親父さんのこと覚えてるのかな…?」
「さて、どうする、シリー?」
「どうするったって…どうしよう…」
「ねえ、宿に連れて帰らない?」

 とんでもないことをアンジェが言い出した。
 本気かとウィルバーが問いかけるが、彼女はいい考えじゃないと自賛している。

「元々は親父さんが撒いた種なんだし。親父さんが解決するのが一番じゃないかと思って」
「それだけの理由で?」
「本音は、連れて帰ったら面白そうじゃない?」
「お前はやっぱり根がホビットだよな……」
「え、ええ?でもこれはさすがに、リューンの門番に止められてしまうと思うんだけど」
「そうじゃのう。この姿では、一発でばれてしまうだろうしのう」
「……空からならどうだ?」

 テーゼンの提案に、全員が彼を見た。

「いや、適当な布か着ぐるみでも被せて、空から『珍しい鳥を捕獲したんで連れて来た』って降りたら、どうにか搬入できるんじゃねえか?」
「……できなくはないかもしれませんね。コカトリスが協力してくれるんなら、ですが」
「どうだ、お前も久々に飼い主と会いたいだろう。ちょっと我慢してくれねえ?」

 テーゼンが呼びかけて首を軽く叩いてやると、果たして言葉が分かっているのか、しきりに頷く仕草をしている。
 リーダーであるはずのシシリーが思わぬ流れに戸惑っている間に話が纏まり、コカトリスはかなり久しぶりに飼い主である宿の亭主と再会した。
 かくて、コッケスと昔の名前でまた呼ばれるようになったコカトリスは、空いている納屋で飼われることになり、亭主の不在時に≪狼の隠れ家≫へ押し入ってきた盗賊たちを石化するという手柄を後に立てるのだが――これは、旗を掲げる爪の冒険譚とは別の話である。

石化の魔物5

※収入:報酬300sp
※支出:
※ぼぼるだー様作、石化の魔物クリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
32回目のお仕事は、ぼぼるだー様の石化の魔物です。
シナリオ自体は短編なんですが、思いもかけない(?)親父さんの過去に思わずツッコミが止まらないギャグ要素がお気に入りの作品です。
ぼぼるだーさんの作品は魅力的なテーマが多く、つい寝る前に遊ぶと長くても続けてしまう…。
コカトリスという魔獣、実は私が知っているだけで3つのシナリオに登場するのですが、その中でも戦闘後の和解でこれだけ可愛らしい仕草を見せるのは、この石化の魔物が一番かなと思っています。
シリアスを続けるつもりならコカトリスに止めを刺すべきなんですが、毬を持っていると、ついコッケスちゃんに絆されるというか……。
というか、親父さんはペットを飼ったらちゃんと最後まで面倒見なさいよ、と言ってやりたい(笑)。
今は猫がブームだの、この犬種が人気だのとよくテレビなどで拝見しますが、ペットの管理をちゃんとできる人に飼って欲しいと思います。
…ペットショップに犬を返した理由が『排泄するから』とか、なんだよそれ…。

≪狼の隠れ家≫の亭主は人間には到底不可能な長生き、という設定なので、ちょっとばかりこのシナリオに向かない親父さんかなとは危惧したんですが、案外とやってみたら面白い結果になったかも。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/04/08 12:25 [edit]

category: 石化の魔物

tb: --   cm: 2

コメント

このシナリオは親父さんの反応が面白くてめちゃ好きなシナリオです。
最後の感想には強く共感しました。

URL | ハテナ #- | 2016/04/11 08:12 | edit

コメントありがとうございます

>ハテナ様
またご感想をいただき、ありがとうございます!
そうそう、親父さんの昔語りだったりコッケスちゃんとの再会だったり、いろいろと反応楽しいですよね(笑)。
私も猫や犬は好きなんですが、諸般の事情で飼う事はしてません。
画面越しに「ふおおお、かわいい…」と言ってるうちが花なんだと思います……。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2016/04/13 11:35 | edit

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