Sat.

不遇の呪文その3  

 見回りの人員をアンジェが暗殺したら、それがゾンビであり、不死者を破壊されたことに感づいたクドラ教神官の注進で脱走がばれてしまった冒険者たちは、大量のクドラ教徒に追い回されていた。

「屋敷のどこに、これだけ人がいたんだろうねー」
「人とは限らんぜ。中にはゾンビが混じってるのかも」

 その俊敏さを生かしてパーティを先導するアンジェとテーゼンが、息も切らさず呑気に会話している。

「いたぞ!捕まえろ!」
「逃がすな、追え!」
「早く、こっちです!」

 セリリがひとつの通路を指差すも、途中で進行を遮るように立ち塞がったクドラ教徒があった。
 足音に後ろを振り返ったロンドが唸る。

「挟み撃ちか…上等だ!」
「数が多いのう……じゃが、倒せぬわけではあるまい」

 テアは竪琴を構え、≪活力の歌≫で仲間たちの援護を行なった。
 テーゼンの指示によって妖精ムルも矢を飛ばし、アンジェが投げつけたガマガエルが生きている教徒を心底驚かす。
 そんな中、シシリーは握りこんだ聖印を天へ突き出すように構えた。

「神よ、天におわします聖北の神よ…私のやろうとしていることが間違いではないのなら、どうか目の前の不死者たちを天へ導きたまえ…!」

 彼らの前に立ち塞がっていた厄介なゾンビプリースト――回復魔法こそ使えないものの、霊を魔弾として撃ち出してくるアンデッドらが、シシリーの祈りによって天へと還って行く。
 それに驚いた術者たちは、たちまちにロンドとアンジェ、テーゼンやグレイブの振り回す武器の餌食となっていった。

不遇の呪文5

 軍隊蟻のように群がってきたクドラ教徒やゾンビたちが斃れ、通路の向こうに上階へ続くであろう階段が見えた。
 まだ、あのケルトン氏をゾンビにした男や、代弁者と名乗る女性が残っている。
 ウィルバーは用心して、魔力の翼による援護を複数名に行なうと、自身には魔力の矢を準備した。
 かなりの覚悟をして階段を登った冒険者たちだったが、見える範囲内に待ち構えている敵の姿はない。

「玄関だ」

 グレイブが自分の立っている場所に気づいて言った。
 そう、獅子のノッカーを叩いて通して貰った玄関ホールであった。
 ホールの端にあった、てっきりコートクロークだと思っていた樫の扉は、なんと彼らが捕らえられていた地下に続く出入り口であったらしい。
 アンジェが希望に輝く目で、違うパーティの戦士を見つめながら言った。

「じゃあ…」
「ああ。あそこから外に脱出できる」
「やったね!あたし、一番乗り!」

 意気込んでドアノブに手を掛けたアンジェだったが、その瞬間、驚くほど禍々しい魔力がホールを包み込んだことをウィルバーが察した。

「何……!」

 魔力は魔法陣の形となって冒険者たちの立つ床の上を循環し、『それ』が発動した途端、シシリーやセリリたちの活力が奪われていく。

「きゃっ」
「これは……!?」
「我らがクドラの術式」

 いつの間にか、ホールの吹き抜けの向こうから、あの神官が彼らを見下ろしていた。
 旗を掲げる爪は知らなかったが、彼は転位の術を身につけている。
 このクドラ教神官は、転位の呪文による力で彼自身と仲間達をこの場に出現させたのだった。

「魔法円の上にいる者たちから生命力を奪い、術者に還元する」

不遇の呪文6

「ドアノブがスイッチだったとはやられたわ…」
「最終的には必ずここを通るはずだからな。地下で捕まえられなくても、ここで檻を用意しておけば勝手に入ってくれるわけだ」

 得意げに己の手柄を吹聴する男を、静かな声が制する。

「フレアさん、お喋りが過ぎます。余計な情報を与える必要はありません。彼らはしょせん、生贄なのですから」
「は、すみません、オワニモ様」
「若いもんの言うことだからと黙っておれば、好き放題言ってくれるのう。誰が生贄じゃと?」

 テアは不気味に伸びた鼻を鳴らして、クドラの恩寵厚い者たちを睨み付けた。
 すでに竪琴を構えており、生きることをここで止めるつもりはないということを如実に表している。

「下賎なる者たちよ。私はクドラの代弁者オワニモ…クドラの神は、強き者の命を求めておいでです。汝らにはその尊き生贄となる資格があるのです」
「アホかこいつ。かなりの」
「兄ちゃん、兄ちゃん。生贄求めるような宗教の信仰者が、アホじゃないはずないじゃない」

 アンジェは腕輪からワイヤーウィップを引っぱり出し、戦闘に備えながら続けた。

「生贄が必要って、つまりお礼は他力本願なんでしょ。神様から力借りておいて、自分でそのお礼が果たせない人の言うことがまともなわけないよ」

 ホビットの娘の宗教観に、しばしその場に沈黙が落ちる。
 それを破ったのはテーゼンの清々しい笑い声であった。

「クック……アハハハハ!なるほどな、お前は正しいよ、アンジェ」
「な、有翼種ごときが何を……この崇高な使命が分からないのですか!」
「ああ、謹んで辞退させて頂く。僕を生贄にしようなんざ、クドラの神の方が怒りだすだろうよ」

 攻撃の成功率や武器からの回避率は著しく低下しており、状況は冒険者側に不利といえる。
 だが、それすら意に介さない様子でテーゼンは槍の穂先を代弁者へ突きつけた。
 悪魔を神に捧げるなど、洒落にもならない。

「いえ。初めから実力行使で従ってもらうつもりです」

 そう口にするクドラの巫女の冷静さがややひび割れていることににやりとした悪魔は、雷電のごとく激しい動きで槍を薙ぎ払った。
 オワニモに対する攻撃は、彼女に付き従っているゾンビによって防がれたものの、その横に控えていた生きている神官や教徒を傷つける効果はあった。
 ムルも妖精の羽根を忙しげに動かし、ゾンビたちの攻撃を掻い潜りつつ矢を放つ。

「死体が動くとか、怖いですね…」
「気持ち悪ぃなら、引っ込んでて構わないぜ?」
「いえ、共に戦います!こんな…勝手に、身体を動かされるなんて可哀想ですもの」

 悪魔と妖精がやり取りする中、魔術師を取り巻いていた魔力の矢が走り、ゾンビへと突き刺さる。
 もちろん、クドラ側も己の優位な魔法円を利用して体力を吸収し、まだ稼動可能なゾンビが、槍の技で体勢を崩したテーゼンや、魔力の翼で辛うじて攻撃を弾いたアンジェを傷つけていく。
 さらにオワニモが聞きなれない呪を唱えている。

「闇の中から甦りし者。リンプ・ビズキット。我と共に来たれ…闇と共に喜びをわかち…」

 彼女の細い指が円を描き、ひび割れた空間からゾンビが2体まろび出てくる。

「く、ゾンビが増えた」
「とりあえず手近なゾンビから潰していこうぜ、ライモール」

 大柄であるだけに魔法を避けづらいロンドが、腿から血を流しながらも、ゾンビの一体をスコップで吹き飛ばす。
 テアは【小悪魔の歌】で神官の口を封じ、テーゼンが傷つけた一体にシシリーが剣を切り上げて止めを刺した。

「おのれ……あの娘を傷つけろ!」

 オワニモが剣を持って従うアンデッドに指示を出す。
 群がるゾンビに遮られ、死角から襲われたシシリーが鎖骨の辺りを浅く斬られた。
 血の花が上がる。

「つぅ……やったわね!」

 手近なゾンビを蹴り倒し距離を取ると、彼女は返す刀で杖をかざそうとした男を攻撃した。
 テアがやれやれといった風に声を出す。

「次から次から……きりがないのう」
「いいや、そろそろ死体も品切れさ。ばあ様は、回復に専念してくれ」

 テーゼンが槍を横一文字に構える。
 基礎的な【薙ぎ払い】の技で後方から現れたクドラ教徒を怯ませると、彼はムルやアンジェに撹乱の合図を出した。
 その意を汲み取った妖精とホビットは、それぞれ矢と短剣という手段でフェイントをオワニモにかける。

「これでもくらえ!」
「そらそら、刺しちゃうぞ!」

 遠距離と超近接という二つの距離からなる攻撃に翻弄された巫女は、死体に指示を出す前に、慌てて下がろうと足を動かす。
 果たして――その横にいたクドラ教徒を攻撃していたシシリーの≪Beginning≫が、軌道を変えてオワニモを背後から斬りつけた!

不遇の呪文7

「く…っ」

 充分すぎる間合いから放った一撃は、彼女の命をあっけなく断ち切った。
 創造主を失ったゾンビたちが次々と崩壊していく。

「ば…馬鹿な…。そんな…」

 自分たちを導くクドラの巫女の死に、信じられないとでも言うように残ったクドラ教徒が呻いて頭を抱えている。
 その男を、ロンドがスコップでほどほどに殴りつけた。
 土嚢を落としたような音を立てて、気絶した男の身体も血と腐肉に塗れた床に横たわる。

「これで仕事は終わりっと。……やれやれ、生きてる者も死んでから動かされた者も、こうなってしまうと同じだな。まるでここ、墓場みたいだ」

と彼はらしくもなく言った。
 後に、このセリフからロンドの異名が出来るのだが――それは今は与り知らぬ事である。
 とにかくシシリーやセリリたちは館からの脱出を果たし、その足で事のあらましをヴィスマールの自警団に伝えに走った。
 自警団の捜査により、館の地下から行方不明とされていた冒険者の遺体が、多数発見されたという。
 ロンドによって気絶させられ、逮捕されたクドラ教徒の話によると、彼らはクドラ神への供物として捧げられた生贄だったらしい。
 結局はクドラ教のアジトを壊滅させた旗を掲げる爪には、その功績を讃え、自警団から報奨金が支払われることとなった。
 セリリたち一行と旗を掲げる爪は仲良くそれを分け合い、共に≪狼の隠れ家≫へと帰還した…。

※収入:報酬1400sp
※支出:依頼中に400sp使用
※VIPの>>154の方様作、不遇の呪文クリア!
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■後書きまたは言い訳
28回目のお仕事は、VIPでアップされている匿名様の不遇の呪文です。
同じ宿の仲間を救出する為の謎解きから、一転してクドラ教との対決!
プレイしてみるとそう長いシナリオではないんですが、限られた時間の中で色んな要素がぎゅっと詰め込まれた面白い作品です。
作者様のお名前が、何度リードミーを読み直しても書かれていなかったため、シナリオを作るきっかけとなったくだりにあった番号を作者名のところに勝手にふらせて頂きましたが、もしこのことで何らかの不都合が生じる場合は、ご遠慮なく仰っていただければと思います。
ただ、作者ご自身が最後の方で「二次配布OKな素材しか使ってないので実況でも転載でも好きなように」とお書きになられているので、シナリオがリプレイになること自体は構わないのかな、と判断させて貰っております。
今回こちらの作品をセレクトさせていただいたのは、以下の二点からです。
・前にも戦ったクドラ教徒との対決で、もう少しシシリーを聖北寄りに戻したい。
・もしかしたらテア婆ちゃんの【破魔の歌】大活躍の予感。
……お読みになられた方にはお分かりの通り、前者はともかく後者は叶わぬ夢でしたが……。
でも一応、沈黙キーコードは頑張りましたよ!

例によって例のごとく、シナリオ内には存在しないセリフとかちょくちょく織り交ぜておりますが、その最たるものが、最後の対決におけるアンジェのセリフです。
元々、孤児院で人間によって育てられたために、ホビットとしては異質なほどリアリスト傾向のあるアンジェなのですが、彼女が不完全とは言え、ちゃんと宗教観を持っているとは思ってませんでした。
てっきり、シシリーが信じているから否定はしない、程度の認識しか持ってないのかなと……いや、貸し借りは他人を当てにしないでちゃんと自分でやれって言う辺り、結構彼女らしくはあるんですが。
ちょろっと書いてありますが、ロンドにはちょっとした異名をつける予定があります。
この依頼で吐いたセリフを、テア婆ちゃんが歌に織り込んで付け加えてみたら広まっちゃった…的な経緯を辿るつもりです。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/04/02 11:57 [edit]

category: 不遇の呪文

tb: --   cm: 2

コメント

VIP WIRTH GUILD+に乗っている同タイトルシナリオと同じならU.N.Oは番犬なのか?様ですね。…タイトルはボスの名前の元ネタを指してるんだろうけど聞き覚えがあるのに思い出せない…。<作者名

URL | 通りすがり #qNvON.nQ | 2017/07/09 13:59 | edit

コメントありがとうございます

>通りすがり様
おお、そういうお名前なのですか。
今からでも更新し直したほうが良いでしょうか?

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2017/07/31 12:34 | edit

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