Wed.

不在の遺跡調査その3  

 魔法的な仕掛けの解除により、新たに出現した通路を発見した旗を掲げる爪は、またあった宝箱の中身(ちなみにちらっとアンジェが解除したところ宝石だった)に別れを告げて奥へと進んでいた。

不在の遺跡調査5

「惜しい話じゃの。これだけ苦労しておるのだから、あれぐらいの役得はあっても良さそうなものなんじゃがのう」
「おっしゃることはごもっともなんですが、うちのリーダーじゃ黙って中身を失敬する、なんて真似はどうあってもできませんからねえ」
 また出現し始めたワイトやグールを蹴散らし、通路の罠を調べるものの、相変わらず盗賊除けの罠のようなものは見当たらず、魔法的なトリガーに当たりそうな怪しい物体もない。
 ウィルバーは首を傾げた。

「はて…この遺跡は、一体どういうものなんでしょうね?宝物を置いているというのに、守りはアンデッドだけ。別に邪教に身を捧げた民族のようにも思えないんですが…」

 彼には机上で習い覚えたものとは言え、一通りの民族知識がある。
 依頼主が小屋に置いていたメモの民族の判明した文化からすると、クドラや他の邪教徒がいたずらに死霊を操るのとは違うように思えるのだが……だが、そんな彼の思考を断ち切るように、ホビットの娘が明るい声を出した。

「見て、地下があるよ!曰くあり気だね、兄ちゃん!」
「おお、なんかワクワクするな!」

 状況の変化を嬉しがっている2人に水を差すように、テーゼンがぽそっと呟く。

「おい……その下、たぶんやばいのがいるぞ。そんな気配がする」
「ということは、ここで体勢を整えろってことね」

 シシリーが彼の忠告に頷くと、テアとウィルバーが味方を支援する呪歌や魔法を掛け始めた。
 特に軽傷を負っているアンジェには、【飛翼の術】による魔法の羽も与えている。
 仲間たちの用意が済むと、リーダーの少女はさっと手を地下に向けた。
 地下へ続く階段は、始めは真っ直ぐ下りるだけのものと思っていたのだが、途中で変な風に折れ曲がり、螺旋のようになり出した。
 地下に一切の明かりがないことに気づいたシシリーが声を発する。

「ランプさん、スピカ。松明ぐらいの感じで足元を照らして。何か前方にいる様子だったら、スピカが先行して照らしてちょうだい」
「……♪」
「分かりました、ご主人様!」

 今までベルトポーチに隠れていた二種の光精は、それぞれに返事をすると辺りを不便のないよう明かりを灯し始めた。
 互いの足を踏まないように注意しながら、そっと進む。
 やがて奥で何者かが蠢いているのが分かると、魔女のような三角帽を被ったフォウがさっと上空に舞い上がり、真下の蠢く相手を照らした。

「……!」

 アンジェが≪早足の靴≫を履いた足を後退する。
 そこにいたのは、トロールであった。
 本来ならオランウータンのようにごつごつした独特の容貌に、岩と同じ色をした肌を持つはずであったが、その肌は青黒く変色しており、濁った白い目からはどうも生気が感じられない。
 ロンドが前に進み出ながら、不審そうな目で相手を観察した。

不在の遺跡調査6

「まさか…こいつもアンデッド?」

 よく見ると、変色した皮膚はいたるところからグズグズと腐敗し、剥がれ落ちているようである。
 ただ、トロールでもっとも脅威とされる回復力は生前のままなのか、剥がれ落ちた皮膚の下からはすでに新しい皮膚が顔を覗かせている。
 ただ、その新たな肌すらすでに腐敗し始めており、再生能力はあまり意味を成しているようには思われなかった。
 まだこちらにトロールが気づいている様子がなかったため、さてどうしようかとウィルバーが顎に手を当てて考えようとした、その時だった。

 ズズズ…ズズズズ……。

 妙な音がする。
 冒険者たちは周囲を見渡してみた。
 部屋の端に目を向けると、そこでは驚くべきことが起こっていた。
 剥がれ落ちたトロールの皮膚が這い回り、ひとつの場所へ集まっていく。

「なんなの、これ……」

 剣を抜きつつ眉をひそめたシシリーが見つめる中、皮膚は一箇所へ集まるとだんだん形を成して、やがて人の形をとってみせた。
 それは――紛れもなく、ゾンビであった。

「なっ…」

 彼女が息を呑む中、見る見るうちに皮膚がアンデッドへと姿を変えてゆく。
 信じがたい光景ではあるが、これが遺跡に湧いたアンデッドの原因であろう。
 鈍いながらも、やっと天井で輝く鳥に気づいたのか、トロールが大きな唸り声を上げた。
 猛スピードで近づいてくるトロールに対し、冒険者たちは武器を思い思いに構えた。

「グオオオオオ!」

 トロールがその巨大な腕を振るい、シシリーの若木のような体を吹き飛ばす。
 とっさに剣を立てて後ろに飛ぶことで、辛うじて攻撃の勢いを逸らした。

「シリー!」
「大丈夫…!前を向いてて!」

 ロンドに無事を告げると、光の精霊が照らす天井のギリギリまで飛びあがったテーゼンが、新たな槍の技――傭兵都市ペリンスキーで習い覚えた【地霊咆雷陣】によって、皮膚から生まれた不死者たちを、生みの親であるトロールごと雷撃で負傷させる。
 すぐに他より体力の劣るゾンビが2体、活動を停止した。

「よっしゃ!」
「よくやった黒蝙蝠!」
「黙れ白髪男、さっさと仕事しろ!」

 すでに痛覚はないだろうが、トロールが電撃の衝撃によって身を震わせた隙を縫い、体勢を立て直したシシリーが【十字斬り】を、そのすぐ後を追うようにロンドがスコップによる渾身の一撃を食らわす。

「グアアアア!ゴオオオオ…」
「グルルル……」
「おっと、こちらに来るかね!」

 トロールの意味を解しかねる唸り声に答えるように、盾をかざしていた老婆にグールが襲い掛かるも、辛うじて軽傷で済み、毒を含んだ爪による麻痺も免れた。
 いよいよ勢いづいてきた冒険者たちの中、続けて飛び出したアンジェが、腕輪から奔らせた鋼糸に魔力を通し、【黄金の矢】による攻撃をトロールに与える。
 何とか今まで攻撃を耐え忍んでいたトロールだったが、才能ある魔術師が【魔法の矢】を発展・改良した魔法からなる技術により、巨木のような体躯が崩れ落ちる。
 周りを囲っていたアンデッドたちも、みるみる泥のように崩れてしまった。

「しかし、どうしてトロールがアンデッドに…?」

 テーゼンが薬草で簡易的な手当てを施している中、テアは不思議そうに首を傾げた。
 アンジェもそれに迎合するように頷きながら、

「そもそも、なんでこんなところにトロールがいたんだろうね?」

と疑問を呈している。
 気になった一行は、部屋の中を調査してみることにした。
 見つけたのはアンジェであった。

「うん?」
「どうしました、アンジェ?」
「これ……」

 ホビットの娘は、床に奇妙な粉末が散らばっているのを発見した。
 見慣れない変な色をしており、明らかに砂糖や小麦粉の類ではありえない。
 死霊術には詳しくない(使っているのは一名いるが専門家ではない)ので、これがあるいはアンデッド発生の原因という可能性があるだろうと見当がつくだけではあったが、旗を掲げる爪はその粉末を集めてハンカチに包み、持っていくことにした。
 依頼主の小屋に戻り、依頼を達成したことをメモに書き加えてから杖を元の場所に戻すと、遺跡の地下で発見した粉末を机の上に置いた。
 アンジェが皆に問う。

「これで一件落着……でいいのかな?」
「とりえあず、僕らにできることは全部出来たと思うぜ。宿に帰ろうや」

 テーゼンの促しに応え、≪狼の隠れ家≫に戻った冒険者たちは、宿の亭主がメモを残してくれた依頼主と友人であったことを知らされ、それで無理矢理にでも仕事を受けさせようとしたのかと合点がいった。
 宿の亭主は仕事の成功に喜び、いつもより品数の多い食事を出し、追加報酬で貰ったジーベック銀行券の換金を行った。
 魚の香草焼きを摘みつつ、シシリーが首を傾げる。

「それにしても、結局、あのトロールと奇妙な粉はなんだったのかしら?」
「そうですね。それについては、後日委員会から教えてもらえると思いますよ……なにせ、親父さんのご友人だそうですから、情報くらいはすぐ入るでしょう」

 ウィルバーの予言どおり、遺跡調査委員会によって、アンデッドが現れた原因が明らかとなった。
 遺跡地下に落ちていた謎の粉末はゾンビパウダー……死体をゾンビとして蘇らせ、パウダーの作成者の言いなりにするという物質であったそうである。
 つまり、この事態の裏にはゾンビパウダーを使用した何らかの人間が関与しているということだ。
 しかし、その人物の正体が明らかになることは、今のところなさそうだ。
 依頼達成の礼とともにもたらされた調査報告書を折り畳み、シシリーは深いため息をついた。

※収入:報酬799sp、【渦巻斬り】、≪葡萄酒≫×2
※支出:武具「夕日の鉄撃」(SIG様作)にて≪カイトシールド≫、見習いの研究室(罪深い赤薔薇の人様作)にて≪銀のブローチ≫、≪銀の薔薇≫、≪銀の蛙≫、風渡り(焼きフォウ描いた人様作)にて【麦食らい】、裏路地の達人達(黒豚和牛様作)にて【鉄山靠】【霍打頂肘】を購入。
※その他:SARUO様の水の都アクエリアにて”第七層””第十二層””第十八層””第二十五層””第三十三層””第四十二層””第四十五層””第四十九層””第五十層”をクリアし、報酬6000sp、≪セントクワイエス≫≪カメのスープ≫≪ダリの愛槍≫≪海の呼び声≫を獲得。焼きフォウ描いた人様の城館の街セレネフィアにて”大鴉退治”をクリアし、報酬1100spを獲得。
※ミマス様作、不在の遺跡調査クリア!
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■後書きまたは言い訳
26回目のお仕事は、最近、次々と気楽に遊べる面白い冒険を作ってくれている、ミマス様の不在の遺跡調査でした。
100KB祭りで出品なさっている作品も面白かったのですが、新しい技能も色々増えたので、やはりここはアンデッド相手に戦うものにしてみようかとこちらを選びました。
リードミーには、黒幕の人間がこのシナリオで出てこなかったので真相解明編を作ろうかとあり、どんな悪い魔術師や神官が出てくるのだろうと今からワクワクしております。
シナリオ自体は謎解きありのダンジョンで、実は宝箱の中身は持って行くこともできるそうです。実を言うと、まだLeeffesやったことがないのですが…。
ゾンビパウダーを使われたトロールと、そこから生まれるアンデッドという設定は、なかなかぞくっとさせられる不気味さがありますね!やっていて結構怖いものがありました。
ゾンビパウダー自体は墓守の苦悩(Ask様作)が初出のアイテムですが、これって直接イラスト(というか素材?)が出てきたことはなかったですね。
なので、これこれこういうものです、という描写が出来ずに曖昧な感じになってしまいました。

このシナリオで本棚から回収した【渦巻斬り】は、同作者様の作っている「静寂の都市フィルト」でも販売されているスキルです。
「静寂の都市フィルト」はAsk絵でお馴染みの16色スキル&アイテムが色々と揃えられるので、そっちの絵柄で技能を統一したい!という方にはオススメです。
【渦巻斬り】、結構面白いので持たせようかと悩んだのですが…剣技を使うシシリーと適性(筋力+狡猾)がどうしても折り合わず、残念ながら今回は見送らせていただきました。
ですが、もし他宿でリプレイをなさっている作者様がいらっしゃったら、≪狼の隠れ家≫から横流し品として出しても面白いのではないかと……げふげふ。
そろそろ防具を買い始めてもいいかな、と思うので、アクエリアに行く前にちょっとお店シナリオを色々と出入りさせていただこうと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/30 11:59 [edit]

category: 不在の遺跡調査

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