Wed.

不在の遺跡調査その1  

 後味の悪いヨンドネ村の魔術師退治の後、しばらくはのんびりと宿で過ごしていた旗を掲げる爪だったが、そろそろ防具を買い揃える資金のことも考えて、依頼を受けようか…という話をしていた。
 そんな時にウィルバーが持ってきたのが、この貼り紙であった。

不在の遺跡調査


「遺跡に大量のアンデッド発生……?」
「グラノ村か。聞いたことがないな」
「っていうか、あたしたちで遺跡の冒険って珍しいね」

 口々に言う孤児院組みの3名の言葉を小耳に挟んで、くるりと宿の亭主が彼ら一行を振り返った。

「おや、あんたたち、その依頼に興味があるんだな?」
「いや、そういう訳では…」

 まだ検討中なんだ、と続くはずだったテーゼンを遮って亭主は言う。

「それはグラノ村近辺の遺跡調査の依頼でな。中にアンデッドが巣食っているから、退治してほしいらしい」
「ああ、なんだ。いつもと同じ討伐系統の仕事なんだね」
「そういうことです。それなら、まあ慣れていると言ってはちょっとアレですが、他の仕事よりは手早く済ませられるかと思いまして」
「ただし、遺跡内の宝箱などには手を触れないで欲しいそうだ」

不在の遺跡調査1

 ぐりん、と全員の首が亭主の方へ向けられる。
 一斉に不満の声が上がった。

「なんだそりゃ!?冒険者に遺跡へ潜らせて、宝箱に触るなって!?」
「ずいぶんと殺生な話じゃの……」
「…僕、この依頼のやる気なくなってきたぜ…」
「むむっ、そんな依頼だったとは……いけません、その条件は想像の外でした」
「いや、想像しておこうよ、おっちゃん。だって調査機関からの依頼なら、アンデッド追っ払った後に自分たちで探索したいんでしょ」
「アンジェの言うとおりだ」

 宿の亭主が重々しく頷いた。
 遺跡調査委員会というこの仕事の依頼主は、貴重な遺跡の調査・探索・保護を目的に動いている組織なのだが、遺跡における罠やモンスターに対して専門家――すなわち、冒険者たちほど技に秀でているわけではなく、あくまで知的活動として歴史的遺物である遺跡に対している。
 つまり、何らかのトラブルがあるごとに、適当と思われる冒険者を雇うようにしているが、遺跡自体は自分たちで調べたいということらしい。

「また遺跡の近くには休憩用の小屋があるそうだから、休みながらアンデッドと戦えば比較的楽に依頼を進められるだろう」
「ふむ。この依頼、面倒そうじゃが受けるか?」
「そうね……」

 シシリーはちょっと苦笑したが、宿の他のパーティを見渡すと、慌てて皆が目を逸らしている。
 そんな美味しいところのなさそうな依頼は、興味がないということなのだろう。
 いつまでも放って置かれる依頼が出てしまうと、結局、仲介料を貰っているであろう宿の亭主が困ることになる。
 あまり食指の動く仕事ではなさそうだったが、現金でもらえる報酬もそこそこということで、シシリーは一応頷くことにした。

「今から地図を渡すから、少し待ってな」

 やっとこの仕事が片付きそうだと思った亭主は、破顔していそいそと彼らに必要なものを渡し始めた。
 地図の他、葡萄酒も二本付けてくれる。
 テーゼンがしばらく地図とにらめっこした結果、到着までに半日は掛かるだろう、ということだった。

「この依頼は直接現地に向かうの?それとも…」
「依頼人は休憩用の小屋で待っているそうだ。向かったら先に話をしておけよ」

と亭主がシシリーの疑問に答えた。
 あまりやる気は見られないが、旗を掲げる爪はやむを得ず出発することにした。
 まだ雪の多い道を、転ばぬように注意を払いながら、体力の少ない者を気遣って休み休み進む。

「それにしても……宝箱、あっても開けられないのかー」

 道中で未練たっぷりに零しているのは、ロンドである。
 以前に探検したかぼちゃ屋敷でもそうだったが、彼は宝探しという単語にとてつもなく浪漫を感じるらしく、今回も亭主にその夢を打ち砕かれるまでワクワクしっぱなしだったのだ。
 その背中を慰めるように老婆が叩いた。

「世の中、こういう依頼もあるということじゃな。引き受けた以上は、一応完遂させんと」
「テア婆さんの言うとおりだろうけどさ…うーん」
「兄ちゃんはまだいいよ、戦士なんだから」

と口を挟んだのは、さっきからわざと凍っているところを選んでは滑っているアンジェである。

「盗賊が宝箱目の前にして、手を出しちゃいけないんだよ?ストレス溜まっちゃうよ!」
「……いや、その、あんな依頼とは思わず、すいません…」

 持病の胃痛が若干襲ってきたものか、胃の辺りを押さえつつ大人が謝る。

「報酬も適性の範囲内だったし、そう遠くもなければ、拘束期間も短いようだったので、悪い条件ではないと思ってまして……」
「だけど、そもそもダラダラと過ごしてた僕らが容易に見つけられた時点で、怪しかったんだろうな」

 魔術師の精神的傷口に塩を塗りこめると、テーゼンは翼を羽ばたかせて上空へと浮いた。
 しばし旋回すると、さっと下りてきてシシリーに告げる。

「見つけた。たぶん、問題の遺跡だと思うぜ」
「アンデッドが出てきている様子はある?」
「僕が見れた範囲内では、ないみたいだな。あと、入り口の近くに山小屋っぽいのもあった」
「きっとそこが依頼主のいる小屋ね…。もう少しで着くから、みんな頑張って」

 シシリーは全員に声を掛けると、先頭に立ってふかふかの雪道を踏みしめ、後ろから通る者たちが少しでも楽に通れるようにと工夫した。
 ほどなく到着した小屋の近くまで行くと、直近にある遺跡から微かな腐臭が漂ってくる。
 何人かが、腐肉のついたアンデッド特有の匂いに眉をひそめた。

「あれ?何か貼ってるな…」

 テーゼンが小屋の前に張られた紙に近づいた。
 遺跡調査の前に説明しておきたいことがあるので、先に小屋に入って欲しいとある。
 出迎えもなしか、とぶつぶつ文句を言ったテーゼンだったが、とりあえずノブを回し、小屋の中へ踏み込んだ。
 寝台がひとつ、机がひとつ、大きくて頑丈そうな本棚がひとつ――生活空間としては、少々問題のあるだろう小屋の中は冷え切っていた。

「誰もいないね」

 テーゼンの後から続いて入ってきたアンジェが、きょろきょろと見回して言う。

不在の遺跡調査2

 机の上にメモが乗ってあり、ぴらりとウィルバーが取り上げる。
 それには、遺跡について、アンデッドの特徴についてなど、様々なことが書かれていた。
 このメモを残したのは遺跡調査委員会のもので、彼は普段、グラノ村で暮らしているとある。
 道理で、この小屋の物が異様に少ないわけだ。
 彼はこの小屋で冒険者たちと対面し、遺跡について色々と伝えるつもりであったようだが、急用が出来てしまった為に、メモを残したそうである。
 お詫びの追加報酬を置いておくともあり、アンジェは銀貨100枚分の価値があるジーベック銀行券を
メモの裏に発見した。

「ふむ……この遺跡、数週間前の土砂崩れで偶然発見されたとありますね」
「いつの時代のものなのかしら?」
「今から数百年前に造られたものであるのは間違いないようです……独特の習慣を持った民族の手になる遺跡であるため、学術的に貴重ということらしいですよ」
「アンデッドについての詳細はあるかの?」
「三種類いるとあります。でも…何の変哲もないもの、っていうのはゾンビなんでしょうかね?」

 首を傾げたウィルバーが、メモの続きを読み上げる。

「あとは触ると痺れる爪を持つもの、再生能力を持つもの……」
「ほう。グールやワイトの類のようじゃな」

 テアは数々の伝承や伝説を知っているだけあって、そういう話に出てきたモンスターにも詳しい。
 ウィルバーの読み上げた特徴から、近いと思われる不死者の種類をあげてみせた。
 おそらくそんなところだろう、と同意の頷きを返したウィルバーだったが、メモの下端に書いてある走り書きを見て、難しい顔に変わった。

「倒していくと数が減り、いくらか出会いにくくなる…が、しばらくするとまた数が増える?」
「妙な話だな」

と言って、テーゼンが首を傾げた。
 彼の知る限り、村の中など人の集落でのアンデッド発生ならともかく、遺跡という閉鎖空間におけるアンデッドが、速いペースで増え続けるということはあまり例がない。
 なぜなら、ゾンビやワイト、あるいは吸血鬼などは、”人を襲う”ことで数を増やすからである。
 人のいない遺跡の中で、一度数を減らしたはずのアンデッドが何故また増えるのか?
 意外と今回の依頼は、思っていたより難しいものなのかもしれない。
 黙り込んでしまった仲間たちに代わり、しばし考え込んでいたシシリーが口を開いた。

「ひょっとしたら、そういう死霊術による発生装置みたいなものが、遺跡にあるのかも知れないわね」
「だとすると、そういうものをどうにかするのも仕事のうちになるでしょうね」

 リーダーの立てた予測に魔術師が相槌を打つ。
 そして彼は最後の数行を読み上げた。

「ああ、遺跡から出ることがなければアンデッドは増えない、とあります。生命感知の魔法かそれに類するものが、遺跡のどこかにあるのかもしれません。それに引っかかると、アンデッドを一定数まで召喚する……」

 ウィルバーはそこまで考えつつ喋った後、机の脇に立てかけてあった杖を手に取った。
 依頼主がアンデッド対策に置いていったアイテムだと、メモにあった品だ。
 聖なる力の篭った杖は、何度も使うと力が切れてしまうものの、安全なところで魔力を込めなおしたら再度の使用が可能となるらしい。

「杖ですか……私は≪万象の司≫があるので、出来れば他の方にお持ちいただきたいのですが」
「その杖、長すぎてあたしじゃ邪魔になっちゃうよ」
「僕も槍があるから、それ持ってると動きづれえんだよな」

 ウィルバーの要請に、たちまち及び腰になる者が二名。
 シシリーも困った顔になって杖を見つめている。

「私も剣で戦うし、ロンドだって敵が見えたら、まずスコップ構えちゃうでしょう?」
「ああ。そだ、テア婆さん使ったら?」

 効果を聞きはしたものの、そんな大した品物だとは思っていないロンドが、ごく自然な手つきでテアに杖を渡した。
 歩行補助に使えば?ということらしい。
 さすがにちょっと絶句したテアだったものの、確かにあれば便利であることは間違いないので、ありがたく使わせてもらうことにした。
 遺跡に潜る前に改めて装備を確認し、納得が行くと、一行は遺跡へと向かうことにした。

2016/03/30 11:52 [edit]

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