Fri.

プレゼントは私その2  

 翌日、本番である洞窟の道で――。

「く…くちゃい!お、お鼻がへこんじゃうぐらいくちゃい、くちゃいよ!」
「鼻ペチャは元からだろ。…だが、俺も臭い。キツイ」

 水の都・アクエリアで入手していたクロスボウで見張りを片付けた後、ロンドとビルギットは悪臭立ち込める中でへこたれそうになっていた……主に嗅覚のみ。
 種類も種族も分からない、洞窟に住み着いたモンスターというのは、鉱山でも出会ったことのあるオークであった。
 集団生活を好むこいつらは、その腕力や生命力よりも恐ろしいのがその悪臭である。
 生来、嗅覚に優れている犬にとってはたまらないことだろう。
 現にビルギットも、懸命にロンドについては来ているが、鼻が利かないとしょんぼりしている。

プレゼントと私4

 おまけに洞窟はオークが作ったらしい罠があり、さっそく落とし穴で怪我を負ったロンドは憮然とした表情になっていた。
 せめてテーゼンやアンジェのように周囲を調べることが出来ればと思うが、彼にそんな技術はない。
 ある一定の地点まで訪れた時、急にビルギットは自分の鼻を前足で押さえ、蹲ってしまった。

「ここら辺、くちゃいよ…。他のところの倍ぐらいくちゃいよ…。うう、あた…ま…痛いよぅ…」
「ビルギット、大丈夫か?…匂いが酷いとなると、ここら辺に多くオークが…?」
「はやく、ぬけよう…」
「ちょっと待ってろ、いいもんあるから」

 ロンドもだんだん強くなる匂いに頭がくらくらしてきたが、荷物袋から白い花を一輪取り出し、ブルドッグのつぶれた鼻へ差し出した。
 かなり初期の冒険で、変なテンションの人骨から貰った百合だ。
 嗅ぐとなんとなく勇気の湧いてくる枯れない花は、少しだけだがオークの悪臭を和らげてくれた。
 さぞ多くのオークが待ち構えているだろう、と覚悟をして道へ飛び込んだ1人と1匹は…。

「やった!出口だわ!これでアイリスちゃんに会える!くちゃいのともお別れ!」
「いや…」

 外の光が燦々と差し込んでくる洞窟の出口と、

「ちっ、最後の最後で数が多い。ビルギット、隙を作るから駆け抜けてしまえ。豚は俺に任せろ」

とスコップを片手にロンドが唸ったように、オークロードが手下を従えて立ちはだかる姿を確認した。

プレゼントと私5

「やだ!ブルドッグは納得できないことは…聞かないの!私も少しなら戦えるもん!」
「ええい、お前が足元でちょろちょろしてる方が俺は怖いんだって!踏み砕きそうで!」

 目前のオークより足元の犬に悲鳴を上げたロンドは、小さく付け加えた。

「…まったく…悪い子だ。良い子だと親父が言ってたのは嘘だったみたいだな」
「悪い子でいいですよぅだ!宿に帰るまでが冒険だもん。ロンドが帰れなかったら、私、やだもん」
「仕方ない…共に抜けるぞ、ビルギット!」
「うん!頭痛いけどがんばる!」

 5対2というあからさまに不利と思われたロンドたちだったが、ロンドが血まみれになりながらもスコップを縦横無尽に振り回し、どうにか最後の一匹まで駆逐した。
 最後のスコップの一撃を食らい、

「ぶひぃ!?」

と鳴いたオークが倒れる。
 額から流れる血を乱暴に拭いつつ、ロンドは足元の犬へ話し掛けた。

「よし。これで通り抜けられる。これならば、間に合うはずだ」
「うん…今度こそ…アイリスちゃ…んの家に…」
「ビルギット?」

 ロンドは頼りなげなビルギットの声に不審そうな声をあげた。
 とさり。
 小さな犬の体がその場に横たわる。

「ビルギット!?」
「あたま…いたい…」
「ああ、もう言わんこっちゃない!おい、しっかりしろ!ビルギット、おい!」

 少年は自分が怪我をしていることも忘れて狼狽した。
 今はシシリーもテアもテーゼンもいない。
 魔法や薬草の技術で、彼女を治すことが自分には出来ないのだ。
 ブルドックの体を前に右往左往していたロンドだったが、その場で匂いを我慢して深呼吸し己を取り戻すと、震える腕でビルギットを抱き上げた。

(これは犬じゃないこれは犬じゃないこれは犬じゃないこれは犬じゃないこれは犬じゃない…)

 必死に自分へ言い聞かせ、小さな体を揺らさないように抱えて洞窟を出る。
 ビルギットは何か夢を見ている(ロンドは犬が夢を見ると初めて知った)らしく、何か呟いている……ロンドは、それを聞かなかったことにした。
 どれだけ経っただろうか――ふるりと身震いした犬は、黒々とした丸い目を開けて辺りを見回した。

「起きたか。…お前、気絶したんだよ。犬にあそこは辛かっただろ」
「…なんか…夢…みた…の。……あれ、なんか…暗い?」
「洞窟からここまで運んでくるのは、別にどうってことないんだけどな。…動かして大丈夫なものか、分からなくてよ」

 仲間内から、筋肉馬鹿だの脳みそ筋肉だの言われ放題のロンドである。
 体力的な問題は皆無だったのだが、問題は精神面の方であり、今でも鎖帷子や衣服に覆われた下の皮膚は粟立っていた。
 しかしそれをおくびにも出さず、ビルギットに具合を尋ねる。

「そんなの!平気よ、ありがとう…」

 ビルギットは、そこで何かに気づいたようにハッとなる。
 時間の経過――パーティの期限は?
 黙りこんだままのロンドに、もう猶予がないことを察した。

「い、急ごう。私のせいで、ごめんね……がんばって、歩こう」
「……ああ」

 間に合わないかもしれない――意識を取り戻したブルドックは必死に歩いているが、ペースも格段と落ちており息苦しそうである。
 体力の限界が近いのだ、ということは、容易に見て取れた。

「終わっちゃう…間に合わない…間に合わないよぅ。…どうしよう、どうしよう…」
「……」
「…はっ…はっ…。…ぐすっ…ひっく…。…アマリア…」

 ついにはへたり込んでしまったビルギットが、悲しげな泣き声と鳴き声をあげた。

「犬畜生にしては…お前はがんばった。よくやった。…だから、休め」
「…まだ…まだ、頑張れる…。少し、休んだら…!まだ、歩くもん…!」
「呼吸は整ってきたようだが、お前の足では間に合わない…残念だが、無理だ」
「…間に合わない…なんて…。…うえ…ぐす…。アマリア、ごめんよぅ…。ごめんよぅ…!!」
「……」

 ロンドは意を決して彼女に宣言した。

「…ビルギット。リボンをつけるぞ」
「……え?」

 有無を言わせず、不器用なごつい手がシフォンでできたリボンを、ビルギットの細…くもない首に結んだ。

「ロンド!?わ、私、重たいよ!?20キロあるよ!?」
「お前ぐらい軽いもんだ!お前の足で間に合わんのならば、こうするしかないんだよ!」

 再び粟立つ肌を意識して気にしないようにしながら、彼は言った。

「しっかり捕まれよ!依頼を引き受けたからには絶対にやり遂げる。それが冒険者の誇りなんだぜ!必ず、期限までに送り届けてみせる!」
「……うん!」

 1人と1匹は、いよいよ雪のちらついてきた中を懸命に進んだ。
 道はまだ伸びており、彼らの足元は氷が侵蝕しつつある。
 でも。止まることだけはしない。

「…ロンド。プレゼント、喜んでもらえるかな?」
「喜ぶに決まってるだろ!」
「アイリスちゃん…好きになってくれるかな?私のことなでなでしてくれるかな?」
「めちゃくちゃ撫でまわすに決まってるっての!絶対に!」

 ずるり、と左足が滑りそうになって、慌てて踏み止まる。
 ……実は失血のせいでロンドの体調も万全とは言えないのだが、そんな事を気づかせるわけにはいかない。

「…でも…不安なんだ…。私、鼻ペチャワンコだし…子犬でも、ないし…。おっさん面、だし…」

プレゼントと私6

「犬嫌いの俺が抱えて走れるくらい、お前はクソ可愛い犬だよ!自信を持てよ…!!」
「……うん!ロンド、大好き!ありがとう!!」
「俺は、犬は嫌いだがな!いい加減、黙ってろ!舌を噛むぞ!」

 街に辿りつく――ここからさらに、目当ての家を探さなければいけない。
 だが、諦めたりなんて、できない。
 ここ!と声をあげたのは、腕の中のビルギットの方だった。
 小さなレンガ造りの、居心地の良さそうな家であった。
 ビルギットの鼻には、柔らかなスープの名残りの匂いや、まだ暖炉で弾けている薪の焼ける匂い、清潔そうな布団の匂いなどが届いている。
 彼女の耳が我知らず、緊張で揺れていた。

「…まだ、起きていてくれるといいんだが…」

 コンコン、とこの少年にしては穏やかな音でノックをする。
 程なく女性の軽い足音が聞こえ、ドアが開かれた。

「はーい!夜遅くにどちら様かしら…?」
「あ、お母さ…ん…!わ、わた、私!あの、えっと、たんじょうびの…!」

 母性を感じさせる優しい笑みを見せた女性に、ビルギットが慌てて声をあげるが、なかなか意味のある言葉にならない。

「アマリアさんからアイリスさんへ、誕生日プレゼントのお届けです。アイリスさんは…いらっしゃいますか?」
「ああ…!そのリボン!ビルギットちゃん…!ビルギットちゃんでしょう!」
「なんだ、よかった。親父から連絡が行ってたか。…そうだ、この子がビルギットだ」
「やっぱり…!アマリアからの手紙には、いつも必ずね、貴方の事が書いてあったのよ…!アマリアの最高の相棒だって…!」

 もっとよく顔を見せるように、と言われたビルギットはおずおずと女性の方へと寄っていく。
 その様子に微笑んだアマリアの母は、苦労して来たらしい2人を奥へと誘った。
 彼女の言によると、馬車が動いてないからビルギットが来れないと、アイリスが泣きっ放しであったという。
 それを聞いたビルギットは、慌ててぐるぐる回りだした。

「泣いて!?な、泣かしちゃったの、私!?どうしよう、ロンド!嫌われちゃうかも!?」
「そんなわけ…」

 ないだろ、と続けようとした声は、幼い歓声によって遮られた。

「わんわんのこえ!ビルギットちゃん!?ビルギットちゃんがきたの!?」

 慌ててがちゃがちゃとノブを回す音と、開いたドアから勢いよく転げるように走ってくる、子供の足音。
 もう、耳に届く音だけで、ビルギットが幸せに迎え入れられるだろうことが、ロンドには理解できた。

「び、ビルギットちゃん!」
「は、はい!」
「お前にプレゼントだ。この子はずっと、お前に会いたがってたんだぜ…ほら、ビルギット」
「ビルギットちゃん…。あいたかった…!!」
「うん…!私も、会いたかった!アマリアの大事な、アイリスちゃんに!」

 そんなに勢いよく尻尾を振ってると千切れるぞ、と茶化したロンドは、アイリスの母が持ってきてくれたスープと葡萄酒を、礼を言って受け取った。
 温かな暖炉のそば、彼は星のそばで見守っているであろう、あの世のアマリアに――気絶していた際のビルギットが、夢の中で助けたくても助けられなかった亡き一人の冒険者にに――杯を掲げた。

※収入:報酬500sp、≪レッドブル≫、≪傷薬≫
※支出:
※ユメピリカ様作、プレゼントは私クリア!
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■後書きまたは言い訳
25回目のお仕事は、ユメピリカ様のプレゼントは私でした。
先に謝罪から入ります……ユメピリカ様、ごめんなさい!
実はこちらのシナリオ、本当はクリスマス用の作品なのです。
ただ、それだとパーティの初期の冒険がハロウィンであった旗を掲げる爪が、とんでもない密度で冒険を繰り広げていることになってしまい…途中で解散の危機もあったので、クリスマスよりもうちょっと後の出来事にするしかなかったのです。
どうしてもこれをリプレイにしたかったのですが、時期だけをずらさせていただいております。
ユメピリカ様本当にすいませんでした。

ビルギットの可愛らしさにほっこりする作品で……プレイヤーは犬が好きなんですが、犬嫌いのロンドだとこういう反応なんですね。
犬嫌いPCで今までプレイしたことがなかったので、途中で色々笑ってしまいました。
お前、そんなに犬が怖いのか!
ロンドがなぜ犬を嫌っているのか、という設定は一応作ってあるのですが、まさかここまで根深いとは…敵対する相手が犬を飼ってたら、この人きっと動けませんね。
ユメピリカ様の作品は、どこかビターな深い味わいがあるものが多いのですが、今回もそうです。
リプレイに書き起こしてはおりませんが、エンディングなど「あああ」とプレイヤーが呻きたくなってしまいました…親父の優しさプライスレス。
ビルギットの心の傷を、アイリスがゆっくり癒してあげられることを祈らずにいられません。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/25 13:12 [edit]

category: プレゼントは私

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