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魔術師その1  

『わたくしどもの村に嫌がらせをする大変意地の悪い魔術師を、どうか懲らしめてやってください』

 旗を掲げる爪が一週間ほど前に≪狼の隠れ家≫で見つけた依頼書には、そう書かれていた。

魔術師
 非常に簡素な依頼書ではあったが、その内容のシンプルさに惹かれた冒険者たちは、こうして今依頼主の元へと向かっている。
 ちょうどその依頼を引き受けたときに別件の依頼で出かけていたテーゼンとは、現地で落ち合うことになっていた。
 宿の亭主いわく、依頼の村に辿り着くのは恐らくテーゼンの方が早いだろう、ということだった。
 亭主がある事情のためテーゼンへ頼んだ依頼の詳細を、シシリーたちは知らない。
 冒険者たちは、スピカと名付けたフォウが木々の間を自在に縫って飛ぶ下を、しっかりとした足取りで歩いていく。

「やけに静かな森ね」
「…そうですね」

 低く抑えた魔術師の声が返ってくる。
  一行は辺りの様子を探るようにしながら歩き続けた。
 鳥の声、虫の声、小動物の、あるいは危険な肉食動物の移動する音……通常ならそういった音が聞こえていてもおかしくはないはずなのだが、死がこの森へ羽を広げたかのように静まり返っている。
 あまり馴染みのない感覚に、背筋にやや冷たいものを感じていると、

「姉ちゃん、見てよ」

とアンジェが前方のとある方向を指し示した。
 それはちょうど旗を掲げる爪が目指そうとしていた方角である。
 疲弊しきった、ボロを纏う貧しそうな人々が連れ立って歩いてくる。

魔術師1

「少しいいかの。話が聞きたいんじゃ」

 醜いが温かい笑みを浮かべた老婆の呼びかけに応じて、列の先頭を歩いていた男が顔を上げた。

「わしたちはこの先にあるヨンドネ村を目指しておるんじゃ。おぬしたち、村について何か知っていることはないかの?」
「あそこは…もう…が……ていける場所じゃない……」
「何だって?」

 掠れきった男の声を聞き取れず、テアは眉をひそめた。

「あそこはもう…人が生きていける場所じゃないんだ…。僕たちは遅すぎた…事態を深刻に見るべきだった…」
「待て、ひとまず落ち着くんじゃ。それから冷静に話を……」

 テアが制止したその刹那だった。
 ドサリ、という鈍い音と、同時に恐慌をきたした他の者たち。
 人々の輪の中に紛れていた少年が地に倒れている。

「まただ!」
「また死んでる!」
「う、うそだ…」
「死にたくない…!」

 ある者は泣きながら、ある者は不気味な笑みを浮かべて、走り去っていってしまった。
 後に残された少年の亡骸が、寂しそうに天を仰いでいる。
 ウィルバーはしばしの無言ののち、少年の見開いた目を閉じさせてやった。
 状況から察するに、今散っていった貧しい人々は間違いなく村の人間だろう。

「嫌な予感がするわ…」
「わしもじゃわい」

 何が起きているか、村へ先に辿り着いているだろうテーゼンは無事なのか――不安げに眉を寄せたシシリーの肩を、軽くロンドが叩いた。

「あの黒蝙蝠は、めったなことじゃ死なない。大丈夫だ」

 何しろ、自分と途中まで互角に殴り合いしたくらいだから――と彼は安心していいのか、微妙な言葉で元気付けようとしている。
 彼のその気持ちに報いるべく、シシリーは小さく頷いた。

「村へ急ぎましょう」

 少年の謎の死を迎えてから、半日ほど歩いただろうか。
 やっと目的地までやってきた冒険者たちは、思わず言葉を失った。
 村には人っ子一人いなかったのである。
 生き物のの気配も、まるでしない。

「これは予想してませんでしたね…」
「何……これ……」

 しばらく呆然とした様子のアンジェだったが、空から舞い降りてきたランプさんとスピカに気づき、どうしたのかと訊ねる。
 ひらりとホビット娘の肩に乗ったスピカが、

「向こうの丘に変なものがいっぱいあります」

と報告してきた。
 つかのま顔を見合わせた冒険者たちは、光の精霊たちが見つけた方向へと歩き始める。
 精霊たちが見つけた、家々の合間から覗く小高い丘にあった”変なもの”とは、無数の墓であった。
 この村で一体何が起きたのかを仲間内で討論し始める前に、ふらりとひとつの墓に寄り添っていた人影が動き――影には、蝙蝠のような翼がついていることに彼らは気づいた。

「テーゼン!」

 真っ先に駆け寄ってきたアンジェに、人形のように整った美貌が微笑みかける。
 どことなく前に会った時と様子が変わったように、彼女には思われた。

魔術師2

「待ってたぜ。…ま、お互い遅かったみてえだけど。こういうのって嫌なんだよなぁ、ホント…」
「やっぱり…」

 シシリーの呟きを拾って、彼が問うた。

「何か思い当たるようなものでも見てきたのかい?」
「ええ。この村から逃げていく村人たちをね」
「そうだったのかよ…。連中と僕はどうやら、入れ違いだったみてえだ」

 テーゼンはふう、と一呼吸置いた。
 ゆっくり仲間のため話を進めてくれる様だ。

「僕が来た時、この村はもうすでにこうなっちまってた。例の魔術師ってのが、好き放題にやってくれたみてぇだ。…特定の行動で発動して人間があっさり死んじまう魔法を、面白半分冗談半分で村人たちにかけていたらしい」

 おかげで、と彼は自分が寄り添っていた墓を指差す。

「依頼主もあそこへ埋まっちまってるんだとよ」
「……ふむ」
「ってことは」

 年齢差50歳以上の女性陣の合いの手に、テーゼンは深刻そうな顔で頷いた。

「タダ働き確定だ」

 リアリストであるアンジェは肩を竦めてから、シシリーのほうを見据える。
 判断を姉と慕う彼女に任せる様子である。

「テーゼン。特定の行動で死ぬ魔法と言ったわね」
「おう」
「何をすると死ぬの?」
「匂いを嗅ぐと死ぬ」
「なんじゃそれは」

 傍らで聞いていたテアが漏らした――まあ、そうも思うだろう。
 だが、魔術の専門家であるウィルバーの目は真剣味を帯び、目線で話の続きを促すようにしている。

「ふざけた話だと思うだろうけど、状況はわりと深刻だぜ。例の魔術師は人の嗅覚を操作する術をも身につけてやがる」
「という事は…感覚を鈍くすることも?」
「ああ。その気になりゃあ嗅覚を壊した後に匂いを嗅ぐ、っつー行為に誘導して、村人を殺せるという環境だった」

 ここでシシリーが口を挟む。

「なぜそんな回りくどいことを?」
「とんでもなくヤらしい奴みてえだ。”なぜ死ぬのか分からない”という顔をしながら死んでいく人を見るのが、最高に楽しいらしいぜ。まったく、人の身のくせに悪魔の仲間みたいな性格だな」
「よく分かったわね?」
「奴の拠点へ侵入したのさ。そこで見つけた奴の日記から得た情報だぜ。間違いねえだろう」
「……クズね」
「違いねえな。僕も同意見だぜ」

 テーゼンは槍の石突部分で、コツコツと自身の苛立たしさを表している。

「おまけに残忍と来てやがる。人を殺すことに何の躊躇いも持たねえのさ」
「何の確執も持ってない村人相手に……かの?」
「ああ。ただただ、自分の楽しみだけで殺してた。全くいかれてるぜ」

 シシリーは途中ですれ違った少年の死を思い出した。
 彼もまた、自分がなぜ死んだのか分からないまま死んでいったのだろうか、と。

「嗅覚……つまり、他者の感覚操作の魔法ですか」

 そこでウィルバーが瞑目し考え込み始めたのを、ロンドが声を掛ける。

「ウィルバーさん、なんかあったのか?」
「…私が冒険者になる前に、確かそういう他者への強制的な感覚操作について、幻覚とか幻術関係の資料が持ち出されたとかいう話を聞いたように思うのですが……ううん、思い出せませんね」
「奴さんが賢者の搭にいたってことか?」

 ロンドのその疑問は、実は後々に重要な意味合いを帯びてくるのだが、この時の旗を掲げる爪にそれを知るすべはなかった。
 タダ働きが確定したことに不満げなアンジェではあったが、他のメンバーは自分たちが間に合わなかったことや、魔術師の想像以上のいやらしさに嫌悪感を覚え、士気が高まっているように思える。
 シシリーは、この事件の首謀者を到底許してはおけないと決意した。
 いつもは優しい光を宿している感受性豊かな碧眼が、今は怒りの色に染め上げられている。

「テーゼン」
「あ?」
「奴の拠点まで案内してちょうだい。行くわよ」
「シシリー…」
「こんなことはあってはならない。私は奴を許したくないわ」

 彼女は念を押すことにした。
 これは骨折り損とも言えるため、付き合いきれないと思う者は申し出て欲しいと切り出す。
 しかし、そこでロンドがきょとんとした顔で言った。

「何言ってるんだ」

 どうやら、彼の中ではとっくに自分がついていくことは決定事項だったらしい。
 そのことに気づいて苦笑したウィルバーも、首肯して彼女に向き直った。

「付き合いますよ、シシリー」
「他人の家に入るんなら、盗賊は必要でしょ。仲間はずれは嫌だよ」
「許せんと思ってるのは、おぬしだけではないぞ」
「俺たち、みんなお前と同じ気持ちだって」

 お互いの気持ちを確認しあった冒険者たちは、残忍な魔術師を討伐しに行くことになった。

「シシリー、ついてきてくれ。こっちだ。案内するぜ」

2016/03/22 12:54 [edit]

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