「とりあえず入り口に着いたね」
「ここで戻ってくるのを待ちましょう。…本当は奇襲をかけたいぐらいですが…」

 ちょっと肩を落とし気味のウィルバーだったが、乾いた地面を踏みしめる複数の足音が耳に届くと、アンジェと同じようにいつでも戦闘に入れるように、やや足を開いて杖を構えた。
 入り口の光が遮られ、初老ぐらいの男が現れる。
 彼は黒い眼帯を身につけており、今までの人生の労苦によってか、年に似合わない深い皺が顔に刻まれている。
 やや太りじしの体躯を揺するようにして、こちらを子分と間違えたのか親しげな声を掛けてきた。

「今日は早く帰ってきたぞー……って、だ、だだだ…誰だ、てめぇら!?」

大胆慎重5

「名乗るほどの者じゃないよ。…それより、あんたがウルフを使って追いはぎしていた張本人だね!?」
「な……そうか!…商工会議所が雇った冒険者どもか!」

 彼は自分の疑問に自分で答えを導き出すと、

「こっちだって商工会が≪狼の隠れ家≫に依頼を出していたのは知っていたからな。先生方!」

と大声で呼ばわった。
 非常に得意そうな顔になっている。
 それに応えるように、4人の手下の後ろから、辺りを睥睨するかのような目つきの2人組みが出てきた。
 杖を手にした艶冶な姿の女と、長剣を腰に佩いた隙のない身ごなしの長髪の男である。

「…こいつらがあなたの雇った”用心棒”ですか」
「なかなか手ごたえのありそうな奴らだね。戦い甲斐がありそうだよ」
「ふん、たった2人で何ができるか。粋がっているのも今のうち、ここを貴様等の墓場にしてやる」

 首領が手をさっと振ると、先に打ち合わせでも出来ていたのか、素早く敵が陣形を敷いてきた。
 首領は一番奥に、杖を持った女と長剣を持った男がその両脇に立つ。
 手下たちは、切れ味の悪そうなナイフをちらつかせ、にやりとこちらを見て笑っていた。
 確かに見た目、ただの小さな女の子にしか見えないホビット娘と、特にこれと言って凄みがあるわけでもない平凡そうな男のコンビ、あまり恐れるような相手には見えまい……酔っ払いは誤魔化せても、素面の男たちにはそうとは思えなかったろう。
 冒険者側にとって、それは強みである――魔術師の男は素早く術を唱えた。

「そのたった2人に、やられてしまうのがあなた方ですよ。……【飛翼の術】!」

 ウィルバーの呪文によって、身軽なアンジェの背中に魔法の翼が広がる。
 その援護によって、手下たちや剣士が波のように攻撃して後退を続けるも、ことごとくそれを回避し続けて腕の鋼糸を奔らせる。

「よっ、と……【吊り蜘蛛糸】!」
「え……!?」

 首領の脇という、狙われづらい位置に立っていたはずの女の身体に、細く頑丈な糸がぐるぐると巻き付いて動きを封じる。

「一丁あがり!」
「ちっ、舐めるなガキが!」

 用心棒の思わぬ失態に舌打ちした首領が、手にした湾刀でアンジェの肩を掠め斬った。
 薄暗い洞窟に、血の花が咲く。

「アンジェ!」
「まだ大丈夫だよ、おっちゃん。……よくもやったなぁ!?」

 激昂したアンジェだったが、彼女一人だけ突出した形になってしまったため、残りの手下たちが開いている脇をすり抜けて、ナイフによる攻撃をウィルバーに見舞う。
 彼は辛うじて致命傷を避け、激痛に顔をゆがめながらも、懸命に呪文を唱え続けた。

「くっ……凍える魔力よ、蒼き軌跡を描く帯よ…!」

 突き出した魔術師の掌から、冷気を帯びた光線が真っ直ぐ首領に突き刺さり、急激な低温により心臓に影響を与える。

「ぐっ!?」
「お頭ァ!」

 慌てた手下の一人が、持っていた≪コカの葉≫で首領を辛うじて正気づかせるものの、続けざまに剣士が再度の【蒼の軌跡】によってその場で凍りつき、短剣をかざしたアンジェがまだふらついていた首領に止めを刺したとあっては、

「ひ…ひえええ…助けてくれー!もう、賊から足は洗うから…」

大胆慎重6

と降参の合図を必死に出さざるを得なかった。
 雑魚なら見逃しても問題あるまい、と判断した魔術師は、なるべく冷たい表情を作って彼らを睨んだ。

「行けばいいでしょう。…もう二度と現れないで貰いますよ」

と釘を刺す。
 ばたばたと逃げ出した手下たちを見送って、2人は顔を見合わせ、互いの負傷具合を確認して苦笑した。
 残念ながら、傷薬を一本使うことになってしまったものの、依頼は完了である。
 肩の傷に手当て用の布を巻きながら、はしゃいだ様子でアンジェが言う。

「おっちゃん、見てくれた?私、強かったでしょ?これからは遠慮せずに、どんどん私に頼ってくれていいんだよ」
「…今回は無茶が通用しましたが、常にこうも上手くいくとは限らないんですよ」
「え、また説教…」
「……でも、ま…たまにはこういうのも悪くない…かもしれませんね」
「そうでしょっ!?さすがはおっちゃん、話が分かるね!」
「…勘違いなさらずに。た  ま  に  は …です。毎回毎回危ない橋を渡れますか!」
「はいはい」
「ま、こんなところで油を売っていないで宿に帰りましょう。夕飯の時間になりますから」
「…その前にこの伸びている奴らを依頼主に引き渡さないとね」

 奥にあったロープで、まだ気絶している奴らだけを縛り上げる。

「では、行きましょう」

 2人は連れ立って商工会議所に向かい、そこから人手を頼み、アジトに転がっていた首領たちを運んでもらうことにした。
 ひょっとしたら大人しく治安隊に捕まっていた方がいい、と思うような眼に遭わせられるのかも知れないが、これが仕事である以上、そこから先は関知するつもりはない。
 報酬を1週間後にもらえることが確定した2人は、祝杯とはいかないが、いつもよりちょっとだけ豪華な食事を≪狼の隠れ家≫でとって、依頼が上手くいったことのお祝いをすることにした。
 嬉々としてフォークを取ったアンジェだったが、ふとその手がチキンの香草パン粉焼きを突き刺したところで止まる。

「……ウルフはどうなるのかな。アジトで育てられていたとか言う子ウルフ達は…」
「攫われて人間の手で育てられた奴等が、野生で生きられはしない。恐らくだが、商工会は……」

 口篭った宿の亭主は、クリームシチューをウィルバーに薦めつつ首を振った。

「……………まあ、色々思うことはあるだろうが、今はこの話はやめにしよう」
「うん。………分かった」

 人の手で育てられたウルフたちのこれからを、今解散中に近い自分たちと重ねてしまったのだろうか。
 温かい食事を前にしょげたアンジェの頭を、宿の亭主は優しく撫でてやった。
 後日、条件どおり送られてきた報酬は、追いはぎにあった被害者が無事に盗品が戻ったことを喜んだこともあって、銀貨100枚が上乗せされた。
 時に大胆に、時に慎重になる2人組みは、この追加報酬に気を良くして、早く他の仲間に今回の仕事のことを話してやりたくなったのである……。

※収入:報酬700sp
※支出:
※机庭球様作、時に大胆に、時に慎重に、クリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
18回目のお仕事は、机庭球様のプライベートシナリオである時に大胆に、時に慎重に、でした。
「新月の搭」や「新人と私」など、数々の面白いシナリオを作ってくださっていた机庭球様の、約4年半ぶりの作品ということで、発表された時にワクワクしながらプレイさせていただきました。
本来は大胆な発言(アンジェ)と慎重な発言(ウィルバー)のコミカルなやり取りを楽しみながら賊を退治するシナリオなんですが、今回はセリフはそのままに違う意味に取れるような感じで書いたり、オープニング部分などをかなり変えて書いております。
現在パーティ分裂中のためということで、大目に見ていただけると助かります。
このリプレイは、現状の説明をして、皆の帰りを待ってる組の話ということで……書いてる私も、「連れ戻しに行く人員、逆じゃね?」と思ったりもしたんですが、次に待ってるシナリオ的になんかこういう風になってました。

で、ウィルバーとアンジェだったんですが……こっちの2人は、相手の状態異常手段が束縛しかなかったんですね…おまけに回復手段もアイテムのみ…やってみてびっくりしました。
今まで、どれだけテア婆ちゃんにおんぶに抱っこしてたんだよ!と、私自身が裏手でツッコミ入れたくなりました。チームプレイって大事ですね。
今回は何も使わなかったんですが、宝箱から出てきた品々や、あるいは奥に乱雑に置かれていたアイテムを使って、賊たちに働きかける道具を作ったりすることが可能です。
ただ、宝箱の中身に関しては、リプレイどおり追加報酬にも関わってきますので、シナリオにいるキャラクターの能力と相談しつつ、使うか否かを決めた方がいいかもしれません。
さて、次はロンドとテーゼンの犬猿の仲クーポンつけたコンビなんですが…上手くいくといいなあ。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/15 12:27 [edit]

category: 時に大胆に、時に慎重に、

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