血気に逸ったアンジェは、遠距離攻撃や暗殺で狙うこともなく、正面切ってウルフと戦ったが、口にした宣言どおり2分とかからず狼を沈めてみせた。
 最初の攻防で爪に引っ掛けられ軽傷を負ったが、それ以外に怪我をした様子はない。
 そんな短い戦闘のすぐ後に、洞窟から現れた賊と思われる目つきの悪い男が出てきたが、大木に(死骸と一緒に)隠れることでやり過ごした。
 自分たちの推測がとりあえず当たっていたため、洞窟の主とその一味を潰す、ということを目的に、見回りを警戒しつつ洞窟の中を探っていくことにする。
 ウィルバーは念のため、入る前に【理矢の法】を唱えておき、くるくると魔力の矢が自分の周囲を飛交う形にしておいた。

「…それにしても、敵の気配があまりしないですね。…主はここにいるのでしょうか?」
「あー、なるほどね。確かにピリッとした空気じゃないね。親父がいない≪狼の隠れ家≫みたいだ」
「…その表現が適切なのかはちょっと私には分かりませんが…」
 洞窟の割には湿った気配が無い――それどころか、人の居住が可能な程度には乾燥している。
 通路から感じる人の気配を避けて進むと、突き当たりにある椅子や棚の置かれた空間に出た。

大胆慎重3

 洞窟にある品としては妙な物だったので、手分けをして調べてみると、棚の引き出しの裏に隠すようにして小さな鍵があった。

「ん…この鍵は?」

 見つけたウィルバーは、何かの役に立つかもしれないと思い、それを上着のポケットに入れる。
 他にも、未開封の傷薬を発見した。

「品質にも問題なさそうですし、貰っていきましょうか…あなた怪我をしてますし」
「うん。でも今使わなくてもいいよ、勿体無いから」
「ここは恐らく、主の部屋なんでしょうね。ロッキングチェアは音が出ますから、座らないで下さいよ?」
「はいはいっと。…ここは他に何もなさそうだね。次に行く?」
「そうですね…人の気配があったところまでいってみましょうか」

 東の通路を行くと、賊が2人ヒソヒソと何か話しこんでいる。

大胆慎重4

「話の内容は聞こえないけど、談笑しているっぽいよ」
「…どうやらこちらには気づいていないみたいですね」
「ねぇ、今突撃すればアドバンテージを取れるんじゃない?おっちゃんも、そういうのは嫌いじゃないでしょ?」
「うん、まあ…そうですが、もっと確実に始末することが出来そうな気がします。私としては、今回に限って言えば突撃は止めておきたいですが…」
「でも止めたところで、あたしたちじゃ強制沈黙も催眠効果もできないじゃない。正面切って戦う方が、たぶん楽だと思う」

 沈黙も催眠も、テアの十八番である。
 今まで搦め手でどれだけあの老婆に頼っていたかを痛感し、ウィルバーはため息をついた。

「仕方ないですかね…」
「結果にコミットすれば問題なしじゃん」
「変なネタを使いますね、アンジェ…こっちは準備できていますよ」
「じゃ、やろうか。……賊どもめっ、覚悟!!」

 アンジェが短剣と鋼糸を用意して飛び込むと、談笑していた一人が慌ててこっちを振り向いた。

「な、なななっ!?」
「ああ、なんだか凄い調子がいい気がする!よっし、いくぞー」

 アンジェの短剣が複雑な軌道を描き、只でさえ混乱していた賊はその動きについていけず、あっさりと喉笛を裂かれて息絶える。
 残った賊が慌てて腰の手斧に手をやるが、その身体を魔術師を周回していた魔力の矢が吹っ飛ばした。
 ≪コカの葉≫で回復を図ったものの、それで気を取り戻す前に、アンジェの【黄金の矢】とウィルバーの【蒼の軌跡】が、今度こそ彼らの抵抗を奪った。

「……ここらには、特に何もないみたいだね。次はどうする?」
「まだ見回りがいますよね。そちらをやっつけましょう」

 2人は勢い込んで、残りの一人を気配を頼りに探した。
 残っていた通路にそっと足を踏み入れ進むと、奥の方で妙に揺らめいている人影がある。
 残りの賊を見つけたのはウィルバーが先だったが、

「よし、あいつをこの私がしとめてやるよ」

とアンジェがぺたんこの胸を叩いてみせた。
 ところが、彼女の肩を素早くウィルバーが抑える。
 彼の嗅覚に対して、微妙に訴えかけてきたニオイがあったからである。

「まぁまぁ、アンジェ。ちょっとお待ちを」
「ん?」

 2人が見守る中、賊の男はゆらりと腕を上げた……その手には、よく酒屋で売っている葡萄酒の瓶が握られている。

「うぃ~…ヒック。真昼間の酒はたまんねえなあ…」
「あらら……大分聞こし召してるぽいね」
「シッ……何か呟いてますよ」
「そーいやぁ、お頭…いい用心棒をリューンで雇うとか言ってたけど、見つかったかなぁ?ヒック…お頭たち…何時ごろ帰ってくるんだろ?」

 ブチブチと独り言を口にしながら、まだ半分残っている瓶を煽っている。
 ふむ、とウィルバーが顎に手をやって言った。

「…用心棒を雇う、か。これは使えるかもしれません」
「おっちゃん?」
「私たちが雇われた用心棒だとあいつに名乗り出て、情報を頂きましょう」

 そうやって驚いて口を開けているアンジェを他所に、さっと岩陰から姿を現したウィルバーは、ごく普通の足取りで酔っ払いの賊に近づき、

「どうも、今日から用心棒として雇われたウィルバーです。こっちは相棒のアンジェ」

とケロリとした顔で自己紹介を始めた。
 何しろ魔神アポクリファを騙し通した男である。
 酔っ払っている男など、赤子の手を捻るよりも簡単に欺いてみせた。
 ウィルバーに手招きされて隠れていられなくなったアンジェが、渋々姿を見せて、怪しまれないようにぺこりと会釈する。

「見た感じなかなかできそうだねぇ。こんな腕の良さそうな用心棒をお頭はよく雇えたなぁ…ひっく」
「これからここで働くに当たって、色々教えてくれませんか。分からない事だらけで困っていて」
「おう、いいぜ。何でも聞いてくれよ~…うぃ」

 アルコールによってだいぶ気が大きくなっていた男は、べらべらと新参の偽用心棒に向かって、この洞窟を占拠している組織の詳細を話し始めた。
 お頭は元冒険者であり、その下に構成員が8人いること。
 お頭は4人の手下を連れて、今は出かけていること。
 裏山で拾ったまだ年若い狼を、この洞窟からちょっと東に行った原っぱで育てていること。
 飼い慣らした狼を使って、追いはぎを始めたこと。
 ところが、最近になって商工会議所が有名な冒険者の宿に依頼を出したことに首領が気づき、そいつらが現れたときの用心のために人を雇うと決めたこと。
 次々と事情を聞き出したことにさすがに不信感を持ったのか、賊は急に、

「…って、てめえら、なんか臭いな…ヒック」

と言い出した。
 アンジェは、酒場のどうしようもない酔っ払いを見るのと同じ眼で男を睨む。

「いや、あんたの方が酒臭いけど」
「そういう意味じゃねーよ…酔っててもこっちは賊だぜ?…てめえら、冒険者だろ?この俺から色々嗅ぎまわるなんて生かしておけねえ、始末してやる」
「馬鹿だね。始末されるのはあんたなのに。ま、肩慣らし肩慣らしっと」

 気軽な口調と共に、ひゅ、と鋼糸が薄暗い洞窟の中で奔る。
 酒精の影響で足元もおぼつかない賊が、避けられる道理はなかった。
 喉元に巻きつけた糸をアンジェはぐっと引いて、一思いに彼を片付けた。

「なんだか、すごく調子がいいなあ!このまま押し切るよ!」
「なんとなく虚しい……やはり、あのアポクリファほどの緊張するやり取りは、しょせん賊には求められませんか…」

 ちょっと気の抜けた感じのウィルバーだったが、洞窟にはまだ見ていない場所もあるし、入り口にはまだ一人賊が生き残っている。
 お頭とやらがまだ戻ってこないうちにと、残りの見ていない場所を捜索してみた。
 すると、T字路を北に行ったところで宝箱が鎮座している。
 キラン、と2人の眼が同時に輝いた。

「やっちゃうよ?」
「やってください」

 傍で聞いていても、分かるものにしか分からないやり取りであったが、正確に意思疎通したアンジェはブーツの隠し場所から針金と蝋の塊を取り出し、罠がないことを確認しながら箱の鍵を外した。

「あ…開いたっ!」

と眼を輝かせているアンジェと裏腹に、

(あれ?さきほどの棚にあった鍵、ここで使うものだったんでしょうか?)

とウィルバーは心中呟いたものの、さすがに間が抜けているので、もう言い出すつもりはなかった。
 しげしげと中を覗きこんでいるアンジェに並び、自分の目でも確かめてみる。

「これは…!」

 そこから取り出されたものは、いくつかの宝箱を開けてきたアンジェにとっても、あまり見たことのない品々だった。

「なんか変なものばっかりだね。特にこの豚の置物とか。…いや、可愛い気もするけど」
「確か東国で使われている蚊を落とすための器です、それは」
「へー、さすがはウィルバー。詳しいね」

 彼らが話題の的にしているのは、全長だいたい20センチほどの、陶器製の豚の形をしたものだった。
 色が豚グッズによく見られるピンクではなく白で、中が空洞になっており、何かをセットするためか底は平らになっている。
 ウィルバーの説明によると、虫除けの香を中で焚くようにして使うらしい。
 もうひとつ、東国の品物として、風を起こして涼むためのうちわという道具もあった。

「粉みたいなものは………。焚くと催眠効果が期待できる眠りの粉といわれるお香です」

 首飾りと葦笛は、特に何の効果もない。
 特に首飾りなどは、洒落たデザインの割に使われている石には価値がほとんどないという代物だった。
 珍品ばかりで統一感もない。

「間違いなくこれらは盗品でしょう。私たちが持っていって、それがばれたらお縄になる…」
「持ち主に返還する方針だね。…ま、こんなことで捕まってもいいことないし」

 出した品物をそのままに、彼らはまた別の通路を通って行った。
 今度は見慣れた品ばかりで、箒にカンテラ、仲間の一人がよく武器に使っているスコップなどが乱雑に置かれている。
 それらを検分していると、やがて入り口からこちらの方へとやって来る人の気配がした。

「おや…やっとこちらに来ましたね」
「どうしよっか?」
「この場所に逃げ場はない…思い切って私たちから奇襲をかけませんか?」
「うん、いい考え。そうだね」
「よし来た!いきましょう、アンジェ」

 2人は岩陰に潜んで見回りをやり過ごすと、後ろから襲い掛かった――まさか侵入者がいたとは気づいていなかった賊にとって、この攻撃にはひとたまりもなかった。

「賊は4人いるという話でしたね。…うん、全て倒したはずです。とりあえず入り口に戻って、そこで次の一手を考えましょう」
「なんで入り口なの?」
「入り口ならば、奴等がいつここに戻ってきても対処できますよ。変に奥にいて、私たちの気配を悟られて逃げられたり、奇襲を食らったらまずいですから」
「色々考えるねぇ、おっちゃんは。了解!」

2016/03/15 12:24 [edit]

category: 時に大胆に、時に慎重に、

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