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迷宮のアポクリファその4  

 この搭の部屋をいくつか探索していて、わかったことがある。
 搭の主要らしい部屋には、すっかり色の褪せてしまった絵が飾られており、石版に刻まれている部屋の名前はその絵のタイトルから取っているらしいということだ。
 回廊は夜のしじまに守られているように静かで、細長く優美なアーチを描く窓から見えるのは、相変わらず外の世界に満ちているらしい霧であった。
 そんな薄暗い空間を切り裂くように、次の部屋はぼんやりとした光に満ちていた。
 辺りを見回すと、高い天井のてっぺんがガラス張りになっており、そこから空の光が柔らかく差し込んでいるらしい。
「……今度は何の部屋じゃろうの」
「『虹の間』ですって。ええと、『空より光は還る。人の子と、人ならざるものの子が、心に真実をもつならば』と書いてあるわね」
「何やら意味深なようじゃの。おちびちゃん、そっちはどうだい?」
「罠っぽいものはないけど…ここで何かの実験でもしてたのかな?机の上に空のガラス瓶があるよ。他には――あそこ」

 アンジェのまるまっちい器用な指が、部屋の一段高いところを示す。

「水晶で出来た何かが置かれてるよ。これは……プリズム?」

 人為的な罠はない、ということだったので、プリズムのひとつに何気なく近づいてみると、全員の頭の中に声が響いた。

『神を信ずるもの、約束の王国を望むもの、儚き絆を信ずるもの、未来を恐れるもの――そして、人の形に作られし命が、触れよ』

アポクリファ5

「えっ、えっ」
「触れてはいかん!――まだ捨て置け。どうやら、魔法的な装置の一種のようじゃ」

 狼狽しているシシリーを制止すると、テアは他のプリズムに自分で近寄っていった。

「むう……なるほど、それぞれの主張する何らかのタイプに合致したものだけに、何かを許可するか、何かを与えるかする装置なのじゃろうな。それだけに、合致しなかった場合が不味いのかもしれん」
「そういうもんなのか、テア婆さん?」
「セオリーというもんじゃ。ひとまず、ここは後回しにしたほうが良いと思うぞ」

 年長者の慎重な意見に頷くと、シシリーは今度は東の通路を行こうと提案したが、そこは長い年月に耐えられなかったのか、空中回廊が途中で崩落していた。
 この搭にはこんな場所がちらほら見受けられる。
 だから、この時も迂回するしかないだろうと冒険者たちは考えたのだが、中に一人。

「どうしたのじゃ、考え込んで」
「ううん。ここの崩落の仕方は大きいから、空が見えるでしょ。空が飛べれば外に出られるな、と思って」

 アンジェの言葉にテーゼンが足元に気をつけながら辺りを確かめる。

「ああ――確かに、いけるかもしれない」
「ちょっと待てよ、黒蝙蝠」

 犬猿の仲の相手の言葉に、翼を持つ青年が振り向いた。

「お前は一人で行けるだろうが、こっちはどうするんだ?向こうに見える建物まで結構距離があるから、お前一人じゃ全員を運ぶなんてできないぞ」

 ロンドはやや自嘲とも取れる目つきで、自分の重たい装備を見下ろしている。

「それに、いつも魔法の翼を生やしてくれるウィルバーさんは今回いないんだぜ」
「大丈夫だよ、兄ちゃん」

 そこでアンジェが口を挟んだ。

「昼間解散した後、皆でそれぞれ準備してたでしょ?あたし、あの時にウィルバーの荷物袋を漁って、役に立ちそうな呪文書を持ってきたんだよね。これ」

と言って彼女が誇らしげに皆へ見せたのは、確かに【飛翼の術】と呼ばれるスクロールであった。

「お前……怖いもん知らずだな。ウィルバーさんに後で叱られても、俺は知らないぞ」
「大丈夫だって、そのおっちゃんのためにやってるんだから。ただこれ、急に思い立って持ってきたものだから、もし使うんなら≪魔法薬≫を使わないとあたしには使えないんだけど……姉ちゃん、どうする?」

 ≪魔法薬≫は、七種類にわたるハーブを調合し、魔法により保存性と効力を高めた飲み薬で、精製が困難なことから高額で取引される品である。
 彼らの荷物袋に入っている分は、あの水の都・アクエリアの依頼の中で手に入れた貴重な品であった。
 だがシシリーは、迷いなく彼女に首肯した。

「やってみてちょうだい。ここで出し惜しみしてウィルバーに何かあったら、後悔してもし切れないじゃない」
「分かった。じゃあ、お薬もらうね」

 アンジェは水色の瓶に入ったそれを一気飲みすると、まずは自分の体に魔力による白い翼を生やした。
 後の3人――シシリー・ロンド・テアにもそれぞれ翼を与え、全員が飛べるようになったところで空中へ飛び出す。
 辺りを見回してみると、六つの搭が空中回廊で繋がっているのが良く見えた。

アポクリファ6

「――?あれは……」

とシシリーが呟く。
 崩落した空中回廊の少し先に、何かの魔力の影響か、空中に漂う大きな岩場が見える。
 冒険者たちは、飛行能力を使って浮遊する岩に近づいた。
 岩場に降り立つと、小さな石造りの建物があるのが見える。
 その手前には、非常に頑丈そうな鉄格子の下りた門があった。
 アンジェが試しに調べてみたが、固く閉ざされた門を開く仕掛けのようなものは、どこにも見当たらない。
 ロンドが舌打ちした。

「無駄足か」
「――そうでもない。この先に、なんかあると思うぜ」
「分かるのか?」

 ロンドの言葉に首を縦に振ると、テーゼンは右手を門にかざして目を眇めた。

「僕は魔法使いじゃねぇけど。これも封印のひとつなんだと思う。よほど教団にとって大事なモノを保管してるんじゃねぇのかな」

 この空間においてだが、テーゼンの悪魔としての五感が研ぎ澄まされている。
 もしかしたら、ここに干渉した首謀者は――と、テーゼンが心中で推論した。
 
「ここも後回しにしましょう。近くに仕掛けがないのであれば、他のところで門を動かすように出来ているのかも」

 極めて常識的なシシリーの提案に一同は賛成し、後ろ髪を引かれる思いで元の搭へと戻っていった。
 そしてもうひとつあった北のほうの通路へ歩もうとすると、

「っ……!」

と思わず息が詰まってしまうほど強い風が、シシリーたちの前方から吹きつけてきた。
 進むのすら困難である。

「これって、自然の風じゃないと思うよ……この先にある魔法的な装置が、吹かせてる風なんだと思う」
「でも、何のためにだ?」
「そこまではわかんない」

 言い合いをしている血の繋がりのない兄妹の足元に、門扉の横からカラカラに乾燥した白骨が転がってきた。
 ずいぶんと置くから風で飛ばされてきたのだろう。
 アンジェは人骨をしげしげ見やった後、おもむろにしゃがみ込んで調べ始める。

「どうしたの、アンジェ?」
「この白骨、何かおかしいよ、姉ちゃん。胴体や首の骨が、鋭利で重い何かですっぱりと斬られている」
「……本当だ。普通、剣や斧でこんな風にはならないわ」
「しかも、この白骨一人じゃない。何人かの遺骨が、向こう側から飛ばされてきたんだよ」

 異様な展開に誰かがごくりと喉を鳴らす。
 アンジェの正確な指摘に、さらに用心を重ねるようにして通路を進む。
 3メートルくらいの感覚を置いて辺りを調査していた盗賊役の娘が、不意に警告の声をあげた。

「――待って!みんなその場を動かないで!」

 鋭い制止に反射的に仲間達が身構えた、その鼻先を、ごうと掠めていったいたものがあった。

「なっ――!何、これは……!」
「こいつだよ!さっきの白骨死体をバラバラにしたのは――!」

アポクリファ7

 ペンデュラム。
 鎖の先に大きな鎌がついた振り子のようなそれは、天井から繋がれ、限られた空間に死の旋風を起こしていた。
 テーゼンが冷や汗を拭う。

「そのまま突っ込んでたら、今頃全員が半分にされてたな……」
「ちょっと待っててね。3、2、1……そこっ!」

 アンジェは巨大な刃が往復するタイミングを計ると、手にした短剣を向こう側の敷石に投げつけた。
 それと同時に、死の鎌の運動が止まる。

「……止まった。何をやったんだよ?」
「向こうの敷石のひとつがこの罠の解除装置なの、羽の兄ちゃん。動いてももう大丈夫だよ」

 この手の罠は、維持管理のためすぐ傍に停止装置があることも多い――と語った娘を見て、他の一同の心の中に「蛇の道は蛇」という言葉が浮かんだ。
 探索を再会し、また色あせた絵画の飾られた部屋を通り過ぎると、迷宮の闇の奥から何かが近づいてくる音がして、冒険者たちは立ち止まった。
 独特の不快な腐臭に、うつろな目。
 何より、腐りかけた肉が落ちていく人型のその姿。

「ゾンビか!」

 唸ったアンジェが短剣を握り直し、ロンドがスコップを肩に担いでいた体勢のまま一歩踏み出す。
 かつては信者だったのだろう。
 僧服に身を包んだ動く屍たちは無残な姿で、冒険者たちへと襲い掛かった。
 ――と。
 動く死体を見据えていたテアが、仲間を手で制して前へ出て行く。

「――!?婆ちゃん!」
「ここは任せておけ。どれ、おぬしら……歌は好きかえ?」

 テアは歩み寄るゾンビたちの前で臆することなく、古く、美しい鎮魂歌を演奏し始めた。

「ア…ア……ウ……?」

 やがて哀れなゾンビたちは、どこか安堵したような声をあげて、闇の中に、灰と化して崩れ落ちていった。

「もはや日の光を見れないなら。せめて人の歌で、送ってやらねば――」

 テアは最後の一音を爪弾くと、寂しげにそう呟いた。
 灰が風によってどこかに運ばれ、静けさを取り戻したところで辺りを見渡すと、そこは不思議な青い材質の石で壁が組み上げられており、壁には今まで見たのと似たような、色あせた絵が一枚掛けられている。
 上方を見ると、空中には大きな檻がいくつもぶら下がっていることに気づいた。
 怪訝そうな顔になったロンドが、

「あ、あれを――」

と指差して凝視した。

「中に誰かいる」
「え!?」

 ゆらり、と檻の中の男が動いた。
 つい先ほど天へと還っていったゾンビと違い、こちらは人の姿を保っている。
 年の頃はテアと同じくらいで、人間にしてはやや長い耳に金細工の耳飾りをつけていた。
 その割に身に纏っているのは粗末な貫頭衣である。
 彼は大儀そうに身を起こすと、

「………騒がしいのう……なにごとじゃ?」

とこちらへ問いかけてきた。

「檻越しじゃ話しかけづらいんだけど、爺ちゃんだれ?」
「何者だって?色々あったが、忘れてしまったよ。ここでは腹も減らん、記憶も曖昧になる」
「腹が減らないって?うーん、何かそれはありがたくないような便利なような……」
「ちょっと黙れ、白髪男」
「覚えとるのは……”教団”の司祭に言葉巧みに誘われ、ここにやってきたが……」

 彼は哀しげに肩を落とし、セリフを続けた。

「最後は、魔神の生贄にされるちゅうて、ここに閉じ込められたことだけじゃ」
「魔神の……生贄!?」

 シシリーがぎょっとした顔になった確認すると、閉じ込められた男はずいぶん前のことに思えて記憶が曖昧であると言った上で、魔神についての情報を教えてくれた。

「もともと、この迷宮を造った魔術師は、異界から呼んだ魔神をここに閉じ込めようとしたのじゃ」
「え、でも……魔神はここにいるんですか?」
「いや、魔神は魔術師を喰らい、ここから脱出した。今にして思えば……空色教団とは、創造主の意に従う教団ではなく、魔神の口車に踊らされた者たちだったのかもしれぬ」
「爺ちゃん。その魔神は脱出した後、どこに行ったの?」
「昔……生贄に連れて行かれた男が、こう言っておった。『司祭の元に連れて行かれた信者は、だれも帰ってこない』とな」

 その男はこうも語ったという。

『あの司祭こそ、魔神が姿を変えたものに違いない』

と。
 衝撃の事実に身を震わせたシシリーを他所に、檻の中の囚人はしみじみ慨嘆した。

「思えば、若くしてあの落ち着き――それに異様な美しさ……何年も姿が変わらぬのも、数々の術を使いこなすのも、魔神の変化というなら道理じゃ」
「………」

 迷宮と魔神の関係について語り始めた直後から、妙に静まり返って槍を手挟みながら腕組みしている青年を、アンジェはちらりと見上げた。
 恬淡としていているその様子は、まるで”魔神の仕業であることが分かっていた”ようにも思える。

(まさか……もしかして……)

 疑惑の雲を他の者に伝えることはしなかったが、元々パーティが出会った時に青年と同行していたテアの難しい顔からすると、老婆は彼女の疑念の答えを知っていたのかもしれない。
 シシリーが男と話すうちに、ここから出たいかと訊ねたが、すっかり体が弱っているからここから出たら寿命はすぐだろうと断られている。
 その健気な横顔を見上げながら、これから先に待ち受けているかもしれない諍いに、アンジェはやや憮然とした顔となった。

2016/03/12 12:00 [edit]

category: 迷宮のアポクリファ

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