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赤い一夜その2  

 装備やアイテムの確認をし終わった旗を掲げる爪は、リューン治安隊の詰め所へ向かった。
 パーティが割り振られた見張り所は、小さな無人の家だった。
 ドアや窓もしっかりと閉じ、暖炉はいつでも使える状態で残ってはいるが、現在火は使えない。
 煙で見張りに気づかれる恐れがあるからである。
 耳に届いた微かな水滴の音に、テーゼンは眉をひそめた。

「……雨か」
 冷たい雨である。
 雲が空を覆いつくしているため、月が顔を出せず、奇襲を目論んでいる治安隊側にとっては有利な条件ではあるが……その代償として、四肢がかじかむような寒さが襲ってくる。
 体を擦って耐えるものの、冷気は容赦なく室内へと滑り込んできた。
 テアは震えの止まらなくなってきたアンジェの小さな体を毛糸のショールで包み込み、抱き上げて椅子に座る。
 その2人を守るように毛布をかけたのはウィルバーで、彼はテーゼンやシシリーにも毛布を被るよう無言で指示していた。
 頑健さが売りのロンドにはまだ寒さは及ばないらしく、彼はただ無言で立ち尽くしている。
 今、見張り所にしている家のように、この界隈は無人の家が多い。
 静かだが、地理的な不便さが理由で寂れているのである。
 ≪赤い一夜≫のアジトも、そんな屋敷のひとつを乗っ取ったもののようで、盗賊という職業には不似合いなほど瀟洒な建築物であった。
 それをカーテンの僅かな隙間から皆で睨んでいると、軽い軋みとともに開いたドアから、例のヒゲの生えた初老の男性が入ってきた。

「よう……寒そうだな。そんな調子じゃ満足に戦えねえだろ?良いモン持ってきたぜ」

 彼は治安隊の中でも機動部隊を指揮する隊長であり、これまでの段取りを統括してきた立場である。
 そんな男が自ら、綿入れに包まれた大きな鍋と瓶を持参してきた。
 ぴくり、とロンドの目が動いた。
 その二つ、特に瓶の方は、最近どこかで似たものを見た気がする。
 白髪の重戦士の反応に気づいた隊長は、にやりと笑った。

「≪狼の隠れ家≫の親父の差し入れだ。具たっぷりのスープと、温めたワイン。今のお前らには何よりの逸品だろう?」
「うっわ、やべえ、親父さん拝んでおこう」
「これはこれは……我々にとって、最上の差し入れですよ」
「まだ結構温かいんだ……ほら」

 武骨な彼の手が鍋の蓋を開けると、そこにはまだ熱そうな湯気を立てるスープ。
 鉄瓶からは、これも火傷しそうなグリューワインがカップに注がれた。
 ワインは『別室』で振る舞われたものと同じライムの芳香を漂わせ、スープもニンニクの混じった食欲をそそる匂いを鼻腔に注いでいる。
 スープは亭主の名物料理の一つで、鶏肉・じゃが芋・人参・玉ねぎ・カブが大きめに切られて煮込まれている、相当に食べ応えのあるスープなのである。
 寒さに震えていた冒険者たちにとって、これより有り難いご馳走があるだろうか?

「アンジェ、こぼさないようにね」
「大丈夫だよ、姉ちゃん」
「人参……ばあ様……」
「残すんじゃないよ、全部食べな」

 全員が競うようにスープを平らげ、ワインはかじかんだ指を温めながら飲み干した。
 ちゃっかり自分でも食べている隊長も、≪狼の隠れ家≫の名物料理はお気に召したようで、

「旨いな、このスープ」

と言って、木のスプーンを忙しげに動かしている。
 宿の亭主の、文字通り温かな心遣いで腹ごしらえを済ませたパーティは、静かに時を待った。
 心地良い緊張感が体を包む。
 旗を掲げる爪は無言で頷き合い、得物を構えた。
 瞬間――。
 暗く沈んだ闇の中で、火薬のような破裂音が響いた。
 合図である。

「さて、始めるかねぇ」

 冒険者たちが真っ先にアジトに躍り込み、ロンドが体重に任せてドアを蹴り破る。
 中は酒臭く、十数人の盗賊たちがテーブルを囲んで賭けカードゲームに興じているところだった。
 倒すのは訳もないことだ。
 しかし、冒険者がわざわざ雇われたのは一刻も首領を叩くためであり、こんな所で無駄な時間を使うわけにはいかない。
 ウィルバーの鋭い双眸が、使える物がないかとさっと周囲を見渡し……水を溜めた大きな樽や、木で作られた重そうなシャンデリアが彼の注意を引いた。
 樽を転ばしてやれば、未だ状況の把握も出来ていない盗賊相手のこと、効果的な足止めくらいにはなりそうだが、すぐ体勢を整えてこられても困る。
 シャンデリアの位置が盗賊たちの真上にあることを瞬時に見抜いた魔術師は、こちらを使うことにした。

「凍える魔力よ、蒼き軌跡を描く帯よ…!」

 彼の放った【蒼き軌跡】は、シャンデリアと天井を繋ぐ鎖をぶち抜き、盗賊たちの頭上へ見事に落としてみせた。
 半分以上の盗賊がそれに押しつぶされ、残りもほとんどパニック状態である。
 冷気を放ったのはあくまで鎖の部分だけだったので、まだ燃えていた灯火が破片とともに散らばり、盗賊たちの混乱を煽っている。
 そんな状況を置き去りに脇をすり抜け、冒険者たちは奥の階段へと走った。
 何人かこちらを止めに来た盗賊もいたが、さほど時間を食うこともなくロンドの体当たりで沈めて突破していく。
 一階の鎮圧を治安隊に任せ、階段を駆け上る。
 長い廊下の向こうに三階への階段が見えた。
 わき目も振らず駆け抜けようと思ったパーティだったが、廊下の途中にある大きな扉の向こうで、なにやら騒がしい気配がしている。
 シシリーがアンジェに囁いた。

「アンジェ」
「任せて、姉ちゃん」

 ここは先ほどの部屋と違い、長い廊下と窓があるだけで役立てられそうなものは何もない。
 ドアの向こうにいるだろう大量の盗賊を防ぐため、アンジェは懐から楔とハンマーを取り出すと、驚くべき早業でドアの下の数箇所に素早く打ち込んだ。

赤い一夜3

 間一髪というところだろうか、

「おい、何だ、早く開けろよ!」
「開かねぇんだよっ!くそっ、向こうから何か抑えられてやがる」

という盗賊たちの荒っぽい怒声が聞こえてきた。
 それを尻目に、パーティは階段に向かって走り、とうとう最上階の一際豪華な装飾の扉の前に辿り着いた。
 手早くウィルバーとテアの支援を受け、ウィルバー自身が【理矢の法】を唱えて理力の矢を周囲に準備すると、シシリーは思い切りよく扉を開け放った。
 首領の部屋と思しきその場所には、首領の他取り巻きが四人いるだけである。
 冒険者たちの後ろから着いてきていた隊長が、

「チャンスだ!今なら楽に仕留められるぞ!」

と叫ぶ。
 首領を逃がさないようテーゼンが接敵し、とりあえず厄介な魔術師からの呪文を防ぐため、他のメンバーが魔術師を攻撃する方針である。
 だが、テーゼンが接近するよりも早く……。

「ふんっ!!」

 首領の得物が、唸りを上げて旗を掲げる爪を吹き飛ばすように薙ぐ。
 受けられるだけの援護を受けていたにも関わらず、シシリー・ロンド・ウィルバーがそれによって軽傷を負い、たたらを踏むこととなった。
 お返しに、準備済みだった理力の矢の一本を首領に飛ばすと、ウィルバーは負傷した脇腹を押さえながら唸る。

「この男……中々やりますね!」
「ウィルバーさん、呪文に集中してくれ!」

 ロンドが魔術師の一人の脳天をスコップでぶん殴り気絶させると、傭兵たちの手斧による攻撃を蝶の如くひらひらと回避していたアンジェが声をかけた。

「兄ちゃん、もう一人はあたしに任せて、もう行って!」

 ロンドが見やると、彼女の指にはすでに鋼糸が生き物のように揺らめいている。
 糸の先で四肢を束縛されてしまった魔術師が慌てているが、すでに後の祭りである。

「任せた!シリー!」
「治療が先ですよ!」

 【癒身の法】でウィルバーの負傷を癒したシシリーは、残る傭兵を相手取るために≪光の鉄剣≫を構え直した。
 さらにシシリーやロンドに残っていた怪我を、テアが【安らぎの歌】で緩和させる。
 五体に痛みを感じなくなったロンドが、スコップによって首領の肩を激しく打ち、狼狽した盗賊が隙を作った。
 その隙を見逃さず、部屋に羽ばたいた黒い翼が一対。

「そこだぁっ!!!」
「!?」

 邪魔しようとした取り巻きの手斧を見事な低空ムーンサルトで回避しきると、テーゼンの放った【龍牙】が首領の心臓を貫いた。

「か、はっ……ハハハッ。手前ら、自分たちだけじゃ勝てねぇからって、冒険者、雇いやがったか……ッ!」

 血の泡を吐きながら、盗賊の首領がどこか勝ち誇ったように笑う。
 ひゅ、とサーベルの刃についた血を振り落として隊長が応えた。
 残党はアンジェとシシリー、そしてウィルバーの【理矢の法】の攻撃によって、地に伏せている。

「これ以上、市民をお前らの食い物にさせる訳にはいかんのでな。なりふり構ってられんのさ」

 首領は忌々しげに旗を掲げる爪の顔を見渡し――崩れ落ちた。
 その後。
 ≪赤い一夜≫は首領や幹部をはじめとしてほぼ全員が捕縛、あるいは死亡した。
 パーティは依頼をやり遂げたのである。
 夜通し戦い続け、走り続けの仕事だったため、宿に帰還したパーティは風呂で汗と返り血を流した後に泥の如く眠った。

「よう、昨日は助かったぜ」

 翌日の昼近く、冒険者たちがベッドの誘惑をどうにか振り切り起きてくると、昨日ともに戦った隊長が宿の亭主と歓談していた。

「おっ、やっと起きてきやがったか。今すぐ朝飯、いや、昼飯を出してやる」

 そう言って厨房へと消えた亭主の姿を見送ると、隊長は椅子にかけろと手で示しながら彼らの顔を見渡した。

「今日は報酬を渡しに来たんだ」

 隊長は腰につけていた重そうな皮袋を卓上へと差し出した。
 アンジェが器用な指先で数えてみると、銀貨にして1300枚ある。
 端整だが温かみに欠けるテーゼンの美貌が、愉快そうに笑ってみせた。

「ほう!僕たちはあんたにとって理想的な仕事ができたらしいな」
「ああ。俺が『理想的に行けばこんな感じだろう』って思っていた通りを地で行ったからな。報酬も上限いっぱい、気持ちよく払えるってもんだ」

赤い一夜4

 報酬を受け取ってしばらくすると、宿の亭主が人数分の朝食を運んできた。
 香ばしい匂いが冒険者の胃袋を刺激する。
 じゅうじゅう音を立てる厚切りのちょうどいい焦げ目がついたベーコン。
 目にまぶしい黄色のいり卵。
 旨そうな香りのオニオンコンソメに、厚切りのトーストが二枚。
 バターと、特にシシリーが好んでいるマーマレードも一緒だ。

「さて、朝飯だ。昨日は飯も食わずに寝ちまったからな。腹も減ってるだろう?」
「親父、俺も朝から食ってないんだ。同じものくれ」
「はいよ、毎度あり」

 昨夜、凶悪な盗賊相手に死闘を繰り広げた者たちとはとても思えない、平和な食卓の風景。
 冒険者の宿、≪狼の隠れ家≫の正午は緩やかに過ぎていく。

※収入:報酬1300sp
※支出:御心のままに(烏間鈴女様作)にて【劫火の牙】、万魔の街シュカー(のりしろ様作)にて【杭打ち】、水魔術専門店(にわかブロンティスト様作)にて【漣の拳】を購入。
※その他:水魔術専門店(にわかブロンティスト様作)の入店イベントにて300sp入手。
※flying_corpse様作、赤い一夜クリア!
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■後書きまたは言い訳
16回目のお仕事は、flying_corpse様の赤い一夜でした。
シナリオとしてはかなりシンプルなのですが、冒険者が各々の場面で『どういう行動を起こすか』が色々と練られている作品だと思います。あと、グリューワインおいしそう。
隠者の庵(Fuckin'S2002様)のキーコードにも反応してくれるのですが、今回はそちらは使わずに一番スタンダートな感じで首領の部屋まで駆け抜けました。
もしかしたら、【飛翼の術】持ってるからショートカットしちゃうかな?と思ったのですが、あいにくとキーコード反応には引っかからず。後で調べて判明したのですが、予め魔法で飛行召喚獣出しておかないと反応しなかったようです。
まだ私もチェック甘いですね。
他のプレイヤーさんが操るパーティだと、どんな感じでクリアしていくのか凄い興味があります。
シャンデリアじゃなく樽使う人もいるだろうし、奇襲で力技持ってく人もいるだろうし……皆のを見比べたら面白いだろうなあ。
特にもらえるアイテムがあるわけでもないのですが、こういうシンプルで色々とやりようがあるシナリオというのは違うパーティで何度か挑戦したくなります。
そして謝らなければならないことが作者様へ一点。
作中、衛兵団と書かれていた組織について、以前に依頼を受けた治安隊として書かせていただいております。まったく今まで接点がなかった組織からの依頼というよりは、前にちょっと手伝ったところとまた共同戦線って方が受け入れやすかったので……ご不快でしたら真に申し訳ありません。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/12 11:44 [edit]

category: 赤い一夜

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