Sun.

とある外交官からの依頼その2  

 中は装飾という単語をそぎ落としているようで、きわめて殺風景な佇まいである。
 まるで空き家のようであった。
 突如、数の少ない物陰から柄の悪そうな男たちが現れ、一行を取り囲んだ。
 明らかに右手にナイフを仕込んで握っていると分かる小男が、不快な笑みを浮かべて言う。
「へへ…また首領がカモを連れてきたみたいだぜ」
「首領?それに…カモだと?」

とある外交官からの依頼3

 鎖帷子を着たままだとどう考えても疑われるだろうと、革鎧を着た上から黒い外套を羽織って移民のフリをしているロンドが聞き咎めた。
 ちなみに、普段の得物がスコップなものだから、とても武器とは判断されないだろうと彼は堂々とこれを手にしている。
 一般人にしてはとてつもなく物騒な体躯の青年に、やや気圧されながらも小男は芝居を続けた。

「おっと失礼、移民の皆さん。早速だが、移民審査を始めたいんで、邪魔な身包みを置いていってもらいましょうか?」

 言葉は丁重ながら、その態度と意味するところは山賊となんら変わりがない。
 にやりとフードの下で不敵に笑うと、ロンドがジェドを振り返った。

「…あっさりと本性を表したが、それじゃこっちも、もう猫を被る必要はないよな、ジェドさん?」
「そうですな…身包みを剥がされるのは困りますが、『移民』の仮面ならば、もう剥がされてもいいでしょう」

 なかなかウィットに富んだ返事である。
 彼らの会話の意味するところに遅まきながら気づいた柄の悪い男たちが、

「てめえら、どっかの回し者か!?」
「やっちまえ!」

と騒ぎ立て始めたが、すでに無言のままシシリーは抜刀し、テーゼンが杖と見せかけていた槍を構えていた。
 テーゼンの渾身の一撃が道を作り、後ろに魔法の発動体である杖を持っていた魔術師の一人を、シシリーは【十字斬り】で切り伏せる。
 テアに向かってきた男たちのナイフを短剣で上手くさばくと、アンジェは自分に目標を変えた凶刃を、とんぼ返りで軽々と避けてみせた。
 ロンドのスコップが横に軌跡を描いて男の一人を負傷させ、もう一人居た魔術師に対して、テアが【小悪魔の歌】を歌い上げて、まさに歌の小悪魔と魔法使いのごとく沈黙を強いる。

「さて、参りますか」

 【理矢の法】で魔力による矢を召喚していたウィルバーは、陣形の端っこに居て駆け寄りづらい男の一人を、素早く詠唱した【蒼の軌跡】による冷気の帯で吹き飛ばす。
 再び4人の仲間達が、各々の得物を手に室内に居る犯罪者たちを吹き飛ばし、テアの【まどろみの花】でもたらされた眠りが彼らに襲い掛かれば、あとの制圧はわけもなかった。

「ふむ……」

 老婆がしげしげと辺りを見回して確認し、頷く。

「室内におる奴らは全員、倒したようじゃの」
「後は、我々をここまで連れて来たあの偽騎士…あの者が拉致団の首領であるならば、逃がすわけには…」

 職務以上の熱心さを瞳に覗かせたジェドは、案内役の居るはずの外へ向かおうとする。
 彼を止めようと、テーゼンが肩に手をかけたのとほぼ同時に、入り口の扉が開いた。 
 鳳凰の盾を片手に、偽騎士が現れる。

「お前ら…なかなか派手にやってくれたじゃねえか」
「おや、噂をすればというやつじゃの」

 テアは醜い容貌からなる不気味な笑みを浮かべつつ、彼に対峙した。

「ずいぶんと手荒な審査で驚いていたところじゃ」

 ジェドに落ち着く時間を与える為のパフォーマンスであったが、ジェドは抑制しながらも激昂した様子で厳しく偽騎士に詰め寄ろうとする。

「そなたの仲間は全滅させた。観念したまえ!」
「ふん…俺はなぁ、討伐に来たロレスの騎士だって返り討ちにしたことがあるんだよ。この盾が、その証だ!」

とある外交官からの依頼4

「……」

 憎々しげに偽騎士を睨みつけるジェドを庇うように、テーゼンが前に立って穂先を敵へ向けた。

「年貢の納め時って知ってるか?もうそろそろ、てめぇには舞台を降りて貰わなきゃならんのさ」
「盾の鳳凰も、お前には飽き飽きした頃だろう。大人しくするんだな」

 犬猿の中の2人の、思ったよりも息のあった掛け合いに、正体を露にした拉致団の首領は

「何者かは知らねえが、楯突く奴は同じ目に遭わせてやるぜ!」

と言って腰の得物に手をかけた。
 抜刀すると同時に文字通り”飛び込んで”きたテーゼンの、【龍牙】による刺突をなんとか鳳凰の盾で捌いた首領だったが、あまりの強さに勢いを殺しきれずにたたらを踏んだ。
 続けざまに会心の一撃と攻撃を放つ孤児院組みの3名の息の合い方に、明らかに驚愕の色を浮かべている。

「く、くそ!」

 肉弾戦などできまいと高を括っていたウィルバーまでもが、≪万象の司≫によるフェイントをかけてきたのに苛立つと、彼は盾を持ったまま長剣で旗を掲げる爪を薙ぎ払った。
 スコップで防ぎきったロンド以外は怪我を負ったものの、重傷にまで陥ったものはいない。
 前に突出していただけに、一番大きな怪我を負っていたテーゼンはテアの【雨垂れの調べ】により回復し、自分の横を疾風の如く走ったアンジェの指から鋼糸が飛び出したのを、驚嘆の思いで見守った。 
 鋼糸は狙い過たず首領の四肢に絡みつき、その行動を封じる。
 ウィルバーの放った【蒼の軌跡】が、鎧を着ているだけにいっそう厳しい寒気を首領に伝えた。

「な…何だこいつら…!」
「なあに…ただの冒険者さ」

 ロンドの燃え盛るスコップが、手加減などとは無縁の強さで首領をぶん殴る。
 何とか不屈の精神で鋼糸を引きちぎった敵は、もう一度【薙ぎ倒し】で旗を掲げる爪に痛打を与えはしたものの、すでにボロボロになっていた体に、もう一度【蒼の軌跡】に耐え切る力は残っていなかった。

「ぐおおおっ…」

 首領格の偽騎士は一声呻くと、その場に崩れるように倒れた。
 その後、館内を探索したところ、地下で囚われの身となっていた人々を発見し、これを救出した。
 屋外で馬車も発見し、一行は救出した人々を乗せてリューンへと帰還した。
 保護した人々の処遇やリューン治安隊との折衝等の事後処理は、全てジェドが対応することとなった。
 報酬は次の日、≪狼の隠れ家≫まで持参することを約束して彼と別れる。

「ふあぁ、よく寝たわ…」

 郊外の屋敷に着くまでに妙な緊張を強いられたせいか、少々寝過ごしたシシリーが欠伸を漏らしながら一階に下りていくと、給仕の娘さんから客の到来が告げられた。
 見やると、粗末な外套による変装をすでに解いているジェドが座っている。

「シシリーさん、こんにちは。昨日は大変お世話になりました」
「こんにちは。こんな格好でごめんなさい」

 彼女が慌てて少し癖のついた金髪に手をやると、彼は笑って気にするなと告げた。

「お疲れなのでしょう?」
「ええ…戦闘はそうでもないんですけど、そこに行くまでに緊張したものだから…」
「依頼が上手くいったのもあなた方のおかげです。報酬をお持ちしましたので、ご査収のほどお願いいたします」

 彼が差し出してきた皮袋の中身を確認すると、銀貨にして1200枚の報酬が入っている。

「それと…こちらもお受け取りいただきたく存じます」
「え?」

 ジェドが卓上へ丁重に置いたのは、あの青い鳳凰の盾であった。

とある外交官からの依頼5

「この盾は、あの偽騎士の…?」
「はい、そうです。しかし、その盾の本当の持ち主は…私の息子でした」

 沈痛な面持ちでジェドは説明した。

「拉致団に返り討ちにされた騎士が居たという話、覚えてますでしょうか?」
「ええ、あの首領が自慢にしていた…」
「その騎士というのは…私の息子だったんです」
「まあ…」

 しかし、公務に私情を持ち込むべきではなため、そのことに触れずにいたらしい。
 なんと言葉を紡いでいいか分からないシシリーに、ジェドは何かから解放されたような顔でさらに言葉を重ねた。

「…結果的に仇を討ち、遺品の盾も取り戻せました」
「そうだったんですか…しかし、そんな大切な遺品を頂くなんて…」
「皆さんのような実力ある方にお持ちいただけるなら本望ですし…不要ならば、売って報酬の足しにしてくださいませ」

 彼は痩せすぎの体躯を綺麗に正すと、改めてシシリーに頭を下げた。

「一外交官として、そして一人の父親として、皆さんにお礼申し上げます。ありがとうございました」

 ジェドはまだ後処理が残っているという。
 今日はこれで失礼しますという元依頼主を、シシリーは入り口を出て見送った。
 復讐の激しさから解き放たれた男の背中を眺めながら、シシリーは彼に本当の幸あれと聖北の神に祈らずにいられなかった。

※収入:報酬1200sp、≪鳳凰の盾≫→テア所有
※支出:
※アレン様作、とある外交官からの依頼クリア!
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■後書きまたは言い訳
15回目のお仕事は、アレン様のとある外交官からの依頼でした。
中堅どころのシナリオが多いアレン様の作品には、他にもうひとつ街灯の精霊という可愛いキャラクターが出てくるシナリオもあり、どちらを旗を掲げる爪でプレイしようか迷ったのですが、すでにそちらを書き起こした面白いリプレイがあるため、こっちを選択しました。
途中でシシリーがジェドについて「寂しそうな哀しそうな人」とコメントしていますが、この辺は私の創作です。
復讐ってエネルギーが要るものだとは思うのですが、今回のケースだと息子を失った寂しさと哀しさが憤りの裏に隠れていたんじゃないかと…。
外交官としても法の側に立つ人間としても過不足のないジェドという男が持つ影を、上手くリプレイで表現できていたら…と思ったのですが、どうも力量が足りないようです。
アレン様、ご不快に思われましたらどうも申し訳ございません。
頂いた≪鳳凰の盾≫は、今のところテアに持たせることにしようかと思っております。
こちら、沈黙時でもカードを交換することの出来るアイテムで、重傷時に使用者へ技能カードを配布してくれるそうです。
使用時の能力値修正で回避が下がるのですが、テアは基本鈍重なので、防御や抵抗が上がることのほうがありがたかったりします。
適性としてはシシリーでも身につけられるのですが、彼女はすでに光精の賢者のおかげで、スキルカードが自動配布される状態にあるので…。
4000spもあれば、少し技能を増やしてもいいかな?

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/06 13:05 [edit]

category: とある外交官からの依頼

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