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Sat.

旧き沼の大蛇その3  

「沼の奥の遺跡…?」

 アントンは太く坐った鼻をしばらく掻いていたが、やがてあぁと声を上げて冒険者に言った。

「あの瓦礫の山のことだベな。なんだ、あんた達もあの瓦礫の山に興味があるだか?」
「…あんた達”も”?」

 すかさず聞き咎めたアンジェに、アントンは頷く。

「うんだ。何年か前にな、お偉い学者さん達が大勢やってきて…あの瓦礫の山を調べていったことがある」
「ほほう。その結果を記したものか何か、ここに残ってはいないかえ?」

 そんなものは…と老婆に否定しかけたアントンだったが、ふと思いついたように呟いた。

「…確か、そんとき学者さん達が忘れていった本があったよなぁ。おいら字が読めねっから、使いようがないんだけども…」

 えっと、と口に出しつつ彼はごそごそ棚の中を引っ掻き回し始めた。
 やがて薄汚れた衣服の山の中から、赤い表紙の分厚い本を取り出す。

「あった、あった…おいらが持っていてもしょうがねぇし欲しいならあんた達にやるだよ」
「ほんとかえ!?いいのか!?」
「かまわねぇだ。さっき言ったように、おいらは字が読めねぇもの」
「姉ちゃん、これ…!」
「ええ、魚人語辞書って書いてある!」

 興奮している世代間の広い女性陣に、ぼそりと依頼主は呟いた。

「それにしても…冒険者っつーのはただなら何でも持っていくだなぁ」
「あなた…命が惜しいのなら、間違ってもテアさんやアンジェにそのセリフは言わない方がいいですよ。ただでさえ好感は持たれてませんから」
「そ、そうなのか?」

 恐ろしいほど淡々としたウィルバーの忠告に、アントンが怯む。
 頼りないように見えるにしろ、理解できない書物を喜んで貰っていくにしろ、この冒険者達がヒドラを何とかしないことには、彼も生計の道が閉ざされたままなのである。
 これ以上余計なことを言って帰られるよりは、と彼は以後沈黙を保った。
 貴重な書物を大事に抱え、旗を掲げる爪は再び例の遺跡へと戻った。
 辞書と首っ引きになりながら、シシリーがどうにか翻訳を果たす。

「まず祭壇に、湿原に生える紅きムナの実、そして朽ちた木の影に宿りし激昂茸を供えよ。ええっと…続いて邪を打ち払う聖なる力にて、祭壇を清めよ。されば、蒼き炎吹きあがりて、天を焼くなり……」
「ふんふん…」
「こは異の異なるを焼く火なり。ゆえに聖なる火と称す…これだけね。他には何も書かれていないわ」
「ムナの木に、激昂茸か」

 石版から身を離した幼馴染に、ぼんのくぼを叩きながらロンドが確認した。
 そして全員を見渡して言う。

「両方とも湿原の植物だ。この辺りを探せば見つかるかもしれないが…」
「邪を打ち払う聖なる力って何なのかしら…?」

 ロンドの疑問点を引き取って、腕組みしたアンジェが発言する。
 しばし考え込んでいたウィルバーが、恐らくは、と推測を口にした。

「神聖な力の発現を指しているのではないかと。つまり、シシリーの【十字斬り】や、一般的な僧侶が唱える【亡者退散】の術のことではありませんか?」
「アンデッドをやっつける力ってこと?なるほどね…じゃ、問題は解決したんじゃない?」

 アンジェは仲間たちの気を引き立てるように両手を広げ、生き生きとした表情で口を開いた。

「つまり、ここでムナの実と激昂茸を採取して、姉ちゃんに法術を使ってもらえばいいんだよ」
「蒼き炎ってなんなのかまだ分かってねぇぞ」
「それはまた後で考えようよ。とにかく、今は動く時期なんだと思う」
「そりゃそうだ。ほら、行こうぜ黒蝙蝠。グダグダ考えるのはもう終わりだ」
「うるさいな、白髪男。まったく考えなしなんだから……」

 ぶつぶつぼやきながらも、テーゼンもまた、謎が解けたのだからいい加減行動に移りたいと思っていたらしい。
 旗を掲げる爪は、テーゼンの上方からの斥候報告とアンジェの聞き耳を頼りに、沼地の危険を回避しつつ必要なものを採取することにした。
 歩道に倒れた潅木の陰に生えた茸をそっと採取し、湿地帯の低木についた小さな赤い実をもぎ取る。
 途中で毒液を撒き散らすトードを振り切れず戦い、多少の怪我を負いはしたものの、どうにか蛙を片付けてまた古代遺跡へと戻っていった。
 なにしろ、ここの祭壇を使わねば聖なる火とやらは作成できないらしい。
 激昂茸もムナの実も、どちらも時期が悪かったせいか先ほど採取した分しか生っていなかった。
 うっかり失敗すると、もう作ることは出来ない。
 ウィルバーは慎重な手つきで祭壇へそれらを供えた。
 一握りの赤い果実の中に、茶色い平凡そうな見かけの茸が一本乗せられている。
 シシリーはそれらを見やると、深呼吸してから法術を発動した。
 不浄な存在に深手を負わせる【十字斬り】の技である。

旧き沼の大蛇5

 白く神々しい光を放つ≪光の鉄剣≫の刀身を、そっと祭壇へ近づけて押し付ける。
 すると、壁の石版が一斉にひび割れ、砕け散った。

「…な、何、何なの!?」

 さすがに狼狽したシシリーを他所に、冒険者たちを取り巻く景色が一転した。
 まるで現実感のない、赤と白の空間……その中、ただひとつ、本来の色彩を残した祭壇がほのかに青白い光を放ち始める…!

「火…火だ。ほら、青い炎が…!」

 ロンドはそこまで言うと、急いで松明の火を消し、白い煙を放つ松明の先端を今にも消えようとしている青い火に近づけ、聖なる火を移した。
 ドン!という腹に響く轟音とともに床が揺れる。
 遺跡が崩れる、と思い込んだ一行は慌てて頭を抱えるが…。

「え…?」

 くすんだ石造りの瓦礫。
 シシリーは先刻と変わらぬ景色にいる自分に気づき、訝しいように声を上げた。
 先ほどの赤と白に彩られた空間との格差に、辺りをしきりと見渡していた旗を掲げる爪であったが、ふと現実主義者のアンジェが気づき慌てた。

「火…火は!?火はどうなったの!?」

 祭壇に駆け寄ると、すでにあの青い炎は消え去っている。
 黒い煤に覆われ、大きなひびが十字に走っていた。
 ひびの具合を確かめようとしたアンジェだったが、彼女が触れると祭壇は粉々に砕け散った。

「……」

 誰もが沈黙する中、黙ったままのテアが節くれだった指で地面を示した。
 地面に転がった松明の先端に、青白い炎が燃えている。

「聖なる火だ…!」

 やっとその感嘆を搾り出すと、黒いローブを優雅に捌いて彼女は松明を拾い上げた。
 旗を掲げる爪は、どうやってその火を使ってヒドラと戦うかをシミュレーションしてみた。
 前に立つのは、先ほどと変わらずシシリーとロンドとテーゼン。テアとウィルバーは後ろから彼らを援護する。そいて、アンジェは…。

「これで焼いて回ればいいってわけね。了解」
「おちびちゃんに危ない役目を任せるのは業腹じゃが、テーゼンに前衛に出てもらう必要があるからには、他に身の軽い者もおらんしのう」
「≪早足の靴≫もあるのですから、アンジェならヒドラの攻撃も何とかさばけると信じていますよ。ちゃんと、戦いの前には【飛翼の術】で援護をしますので…」
「それやってくれるんだったら、首切った所を焼くくらい何でもないよ。任せて!」

 自信あり気にない胸を叩いてみせるアンジェに、年長組みは一抹の不安を感じはしたものの、自分たちがやるのは能力的に無理がある。
 一時的な飛行能力を授ける白い翼を術で生成し、ホビットの小さな背中に固定すると、彼らは今度、逃げ回る立場から一転して狩る者へと変わってヒドラを探し始めた。
 いつ出会うのか定かではないため、今回は事前の支援魔法は最低限しかかけられない。
 それでも、最初にヒドラにあった場所を目指して歩いていると、先ほど心胆を寒からしめた魔獣の咆哮が響いた。
 六本に増えた鎌首がゆらゆらと立ち上がり、冒険者たちの姿を認めると、ヒドラは轟音を立ててこちらに向かってくるようである。

「上等だ…やってやろうじゃねぇか!」

旧き沼の大蛇6

 槍を竜巻の如く振り回したテーゼンが首へ躍り掛かり、その全てを薙いだ。
 スコップを振り回したロンドと長剣を正眼に構えたシシリーが、同じ首に向かって得物を叩きつけようとする。
 するりとスコップを避けてみせたヒドラの首だったが、続けて振るわれた長剣には対処できず、むざむざと首の半ばまでを切りつけられた。
 そのとなりをアンジェの放った【黄金の矢】が貫き、テアの【活力の歌】が一行の回避力と行動力を一気に上昇させた後に、ウィルバーの得意の呪文【蒼の軌跡】が、聖なる火に負けないほどの美しい蒼を作りながら、ヒドラの首の鼻っ面をやすやすと凍らせた。

「今ですよ、アンジェ!」
「はーい!」

 喜び勇んだアンジェが、聖なる火の灯った松明を振り回して凍った首を焼くと、凍死してなお脈打っていた首が黒く炭化した。

「皆、これいけるよ!」
「アンジェ、やるじゃねぇか!」

 魔法の翼で飛び上がっているホビット娘に負けないほど、高いところまで滑るように飛んでみせたテーゼンが、穂先に気の力を込めて眼前の首を貫く。
 鋭い牙を見せたまま、その首は行動を停止した。
 残りはまだ攻撃態勢を見せていると判断したテアが、すかさず【まどろみの花】で眠りを誘う。
 全ての首が引き込まれる眠りに抗えなかったようである。
 首たちのひとつは、たちまちロンドのスコップにギロチンのように落とされてしまった。

「あと二つ……これで後ひとつ!」

 ウィルバーの指先から、また蒼く輝く冷気の帯が飛ぶ。
 残った首は、テーゼンが素早く後ろに翼を使って回り込み仕留めた。
 大きな地響きとともに、ヒドラの巨体が地へ倒れる。
 びくりと動いた巨躯に気づいたロンドは、アンジェに急いで聖なる火で首を炙れと指示を飛ばすが、彼女はすでに魔法の翼を上手く動かして、その作業にかかっていた。
 薄桃色の肉が、瞬時に黒い炭へと化していく。
 手際よく次々と焼く手つきは容赦なく、ヒドラは火を当てられるたびに苦悶にのた打ち回ったが、アンジェは頓着なく作業を終わらしていく。
 全ての首を焼き尽くすと、太く長い胴体だけとなったヒドラは身動きひとつしなくなった。

「…終わったわね」

というシシリーの安堵のセリフとともに、仲間たちは丸太のようなヒドラの体に背を預けて、濡れた歩道に腰を下ろす。
 疲れきった体に沼地を遊ぶ微風が、この上なく心地良いと思った。

※収入:報酬600sp、≪魚人語辞書≫
※支出:
※GroupAsk様作、旧き沼の大蛇クリア!
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■後書きまたは言い訳
14回目のお仕事は、公式シナリオであるGroupAsk様の旧き沼の大蛇でございました。
やっぱり公式シナリオは、いつやっても変わらず面白いですね!
作ってくださったAsk様に改めて感謝したいと思います。
そうそう、最初の方で宿の亭主が欲していたムナの実の酒については、公式シナリオにはありませんが、酒と露店の街デューン(dabu様)にムナの実を用いたお酒が販売されています。
≪狼の隠れ家≫の亭主はそれが好きなことにしようかと…すごい面白い街シナリオですから、できれば旗を掲げる爪にも行って欲しいな、と思っています。
街シナリオといえば、これに出てくる魚人族に絡めて、水の都アクエリア(SARUO様)のお名前を出させていただいてますが、クロスオーバーしているわけではありません。
ただ、孤児院育ちのろくに法術も使えないシシリーやその仲間達が、なんで魚人語知ってるのかという疑問点を解消するのに、アクエリアのマリナーたちは非常に良いバックグラウンドになってくれるかと思い、幽霊屋敷(オサールでござ~る様)の後にそちらをプレイしております。
皆さんご存知のあの最後の選択については、やりませんでした。
単に不利なことになるというだけでなく、シシリーが割と善人なので、死体をぐちゃぐちゃ弄るようなことはロンドやアンジェが面白がってもやらせないんじゃないかと。
そんなわけで、ラストの方の場面は割愛させていただいてます。ご了承よろしくお願いいたします。

祭壇の『聖なる力』のところで聖水を使っていらっしゃるプレイヤーさんもいることを拝見し、「そうか…その手があったのか…!…」と目から鱗。
もし聖水があれば、あえて”神聖な攻撃”のキーコードついた技を用意せずに済むんですね。
今度機会あったらやってみよう。
さて、今回からいきなりレベルが5に達しておりますが、実は幽霊屋敷をクリアした時点で全員がなっていました。
アクエリアは結構要求がきついのでレベル4にして挑んでいましたが、ディープワンというマリナーが依頼を出している施設の冒険は、もうワンランク上でチャレンジしてもいいかと思う(少なくとも私はそうしたい)ので、ここから先はレベル5で冒険していこうかと思います。
報酬が少ないので、シシリー・ロンド・テーゼンの三名については技能枠がまだ空いているのですが、ある程度貯まったらまた買いに行きます。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/05 12:57 [edit]

category: 旧き沼の大蛇

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