Wed.

幽霊屋敷その2  

 夜のしじまの中に佇む屋敷は、昼に調査へ来たときと違って見えた。
 また扉を軋ませて玄関へと入ると、背筋を冷たいものが這う感覚を覚える。
 そっと【亡者感知】を発動させたシシリーは、

「邪悪な気が漂っているけれど、まだ対処が出来るレベルね。一刻早く解決するに越したことはないけど」

と言って、建物の奥の方を眇めた。
「邪悪な気は…2階の奥に集中してます。向かいましょう」

幽霊屋敷3

 彼女の指示に従って、大きな屋敷を横断し始めた旗を掲げる爪だったが、精緻な彫刻を施された天井のあるホールまで移動した時、まるで彼らに立ち塞がるかのように、依頼主から聞いていた青白い火の玉――すなわち、ウィスプの姿が現れた。

「…っと、噂をすれば影、ね」

 足を緩めて立ち止まり、それぞれの得物を構える。
 とは言っても、自前の武器が血肉を持たない敵にも効果のあるシシリーとロンドだけが前に立ち、呪文を知っているウィルバーとアンジェが後ろで隙を見て援護する体制であったが。
 亡者に対しての対抗手段を持たないテアとテーゼンは、2人とも回復手段をもっているため、前衛に出た両者の体力に気を配っている。
 すでに何度もの戦闘を体験した2人である。
 ただの二合でウィスプは追い払われ、消滅した。

「よし、撃退したわね。ありがと、姉ちゃん、兄ちゃん」

と胸をなでおろしたアンジェが先頭に立ち、階段で待ち構えている気配が無いのを確かめると、一同は立派な手すりのついたそれを上がりきった。
 ウィルバーがそっとシシリーに訊ねる。

「……原因がいる場所は分かりますか?」
「ええ、はっきりと。廊下側の部屋に邪悪な気が集中してる……入るなら、準備を整えてから行くべきでしょうね」
「分かりました、ではちょっとお待ちを」

 彼は朗々と【魔法の鎧】を唱え、不可視のオーラで仲間達を包み込んだ。
 さらに武器への回避力と、魔法への抵抗力を高める【飛翼の術】による翼を、テアと自分のために作り出す。
 何もない場所から味方への身体能力を向上させるといった体系の術は、行使にかなりの精妙さを問われるため、慎重さを旨とする事が多い。
 そういう術であれば、彼の得意分野であった。
 彼の魔法が次々とかけられていく中、吟遊詩人であるテアもまた水の都アクエリアで習得した【活力の歌】を歌い、味方たちを鼓舞し援護をする。

「これだけやればなんとかなるでしょう…行きましょうか」

 声音にやや疲れた感のあるウィルバーの促しに、全員賛成する。
 先に立って扉を開けたのは、ロンドであった。
 ――その部屋に入ったとたん、今までに倍する寒気を背筋に感じた。

「…霊体特有の悪寒、というものね……元凶は奥よ」

 躊躇いなく言ったリーダーに首肯すると、一同はそろそろと移動する。
 かつて死霊術師にも感じ取った黒い気を前方に認めたウィルバーが、≪万象の司≫の魔法回路が組み込まれている宝石をそちらに突きつけて唸った。

「…!いた……」

 そこには、茶色いローブを着た透ける老人の姿があった。
 ゴーストはまだ冒険者たちに気づいていないらしく、辺りをゆらゆらと漂っている。
 ふと、何か危険を感知したアンジェがピタリと足を止めると、

『ヴォォォォ!』

幽霊屋敷4

という咆哮を上げてこちらを振り向いた…どうやら、こちらの存在を認めたらしい。

「構えて!!」

 シシリーの警告と共に、ゴーストの周りにウィスプが複数集まってくる。
 目と目を見合わせると、シシリーとロンドは雑魚に構うことなく、真っ直ぐ口の端から血を流し続けている老人の霊へと攻撃目標を定めた。
 邪魔をしようとするウィスプは、物理攻撃手段しか持たず身の軽いアンジェとテーゼンが進路を妨害してフェイントをかけている。
 吠える老人の霊までの道が開き、最後のウィスプがシシリーに襲い掛かってくるのを、光の精霊のランプさんが逸らしてくれた。

「今だ、いけシリー!」
「ええい!!」

 ただの鉄の得物に自分が敗れるはずはないと、老人は不気味な笑みを浮かべていたが……。
 その目が驚愕に見開かれる。
 彼女の持っている長剣の正体を知ったゴーストは、生者に掴みかからんと腕を伸ばしたがもう遅い。
 ≪光の鉄剣≫と呼ばれている魔法王国時代の遺物は、肉なき敵の心臓を見事貫いた。

『グゥォォォ……』

 断末魔を残してゴーストは消え去った。
 目の前のウィスプが同時に消滅したのを見たアンジェが、油断なく辺りに目を配る。

「背筋が冷たくなる感覚がなくなってくわ…どうやら、もう大丈夫なようね」
「ええ。原因のゴーストは消滅させたわ。これでもう人魂が集まるようなこともなくなり、異変も起きないでしょう」

 帰り際に、念の為に広い屋敷のほかの部屋を見て回ったが、特に隠れている敵などはいないようである。
 安心した旗を掲げる爪は、よき報告をもたらすために、一夜明けてから依頼主の元へと向かった。

「…と言うわけですので、異変が起こる事はないでしょう」

 ウィルバーの過不足ない説明に、ローレンス氏は頷いた。

「成る程。まさか、あの屋敷でそんな事が…何故屋敷にゴーストがいたのか、少し過去の居住者を調査してみる必要がありそうですね」
「はい。過去の居住者については、あなたにお任せいたします。我々の仕事はここまでです」
「もちろんです。異変の解決、本当にありがとうございました」

 ローレンス氏はさっと頭を下げ、報酬の入った皮袋を差し出した。
 銀貨が800枚詰まった重みが、魔術師の両の掌に渡される。
 依頼主はずっと懸念していた原因が解消されたためだろう、こけた頬に少し血の色を昇らせて喋っている。

「しかし、こんなに早く解決してくださるとは思ってもみませんでした。優秀な冒険者に依頼できたことは幸運です」
「申し訳ありませんが、褒めたところでこれ以上は何も出せませんよ」

 苦笑したウィルバーに、いやいやと手を振った彼が言った。

「本心ですよ。感謝しております」
「…それじゃ、我々はこれで…」

 帰る意を示したウィルバーに頷き、ローレンス氏は玄関まで見送りに出てくれた。
 ≪狼の隠れ家≫への帰り道に、テーゼンが呟く。

「そろそろ、またリューンから出てもいいんじゃねえのかな」
「あー……そうだね。ちょっと気分転換に他の都市へ行こうよ、姉ちゃん」
「行くのは構わないけど……どこにする?セレネフィア?アクエリア?それとも、新しいところとか?」
「おやおや、あなたたち」

 再び苦笑いを浮かべたウィルバーが釘を刺した。

「目的地を討議するのは、宿に帰ってからにしてくださいよ。依頼を無事完遂したと、親父さんに報告しておかないと」
「若い者は目先の楽しみが大事なのさ、ウィルバー殿。やらせておやりよ」

 老人の言葉に、魔術師は特に逆らうことなく首肯して、皆で宿への帰路を急いだ。

※収入:報酬800sp
※支出:
※その他:SARUO様の水の都アクエリアにて”新しい島”第三層””リザニガ掃討””クジラのひげ””女神の槍””灯台の奪還”をクリアし、報酬1000sp、【忍耐の歌】【安らぎの歌】【破魔の歌】【誘いの歌】≪魔法薬≫≪闇のマント≫を獲得。
※オサールでござ~る様作、幽霊屋敷クリア!
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■後書きまたは言い訳
13回目のお仕事は不吉な数字に相応しくお化け相手にと思い、オサールでござ~る様の幽霊屋敷です。
同名の依頼に野澤様の幽霊屋敷もあるんですが、今回はこちらで!
以前に妖魔の砦(匿名様&クエスト様)のためにACMを導入したのですが、それを生かすような依頼が適性レベルにないか調べてみたら……このシナリオがありました。
今までに何度もプレイしてはいるのですが、ACM付けて入ったことがなかったので、すごく新鮮に感じました……そうか、ACM使うとこんな風に処理できるのか。
非常にいい勉強をさせていただきました、まことにありがとうございます。
ACMないパーティだと昼間に来た際にもっと歩き回ったりしてたんですが、元凶を察知することでかなりショートカットしております。

シナリオと大分違う箇所……今回依頼人から冒険者たちに依頼を働きかけた、ということになっておりますが、これは今までの冒険でいかにもあり得そうなことだからとLeeffesが加えたアレンジで、シナリオ内では冒険者側で依頼が気になり、詳細を聞きに来たことになっています。
また、身体能力向上系統の術は慎重さがどうのこうのと書きましたが、これはただ単にウィルバーが知力+慎重適性が白丸だったため、適性の高い術を集めたら偶然そうだっただけで、別にカードワース全体がそうというわけではありません。実際、テアの【活力の歌】なんて精神+好戦なので。
カードワースのいいところは、自分で考えた魔法や技を、こういう理屈がつくからという適性で作りだせるところにあると思うので、あまり気にしないでいただければと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/02 12:13 [edit]

category: 幽霊屋敷

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