Wed.

幽霊屋敷その1  

 その日の仕事は、不動産業者からの依頼であった。
 ローレンツ・ヴィレッドと名乗った、やや年よりも老けた印象の拭えない中年男性は、

「依頼内容は屋敷の異変の調査、及び解決です」

と話を切り出した。

幽霊屋敷
「…屋敷自体はあまり大きいわけではないので、調査には半日程度で済むでしょうね」

 依頼人はそう保証してくれた。

「…問題の”異変”の内容を確認したいのですが」

と申し出たのはウィルバーである。
 鷹揚に依頼人が頷いた。

「その屋敷の”異変”とは、青白い火の玉…という物が現れる、という話です」
「火の玉……か」

 そう呟き、何となくアンジェを見てしまうロンドである。
 かぼちゃ屋敷で彼女が人魂になった記憶は、まだ彼にとって新しい。
 そもそも、この屋敷の調査依頼を彼らにぜひ頼みたい、という申し出があったのは、あのかぼちゃ屋敷におけるすすり泣きの調査や、精霊のランプさんと出会うきっかけとなった金持ちの別荘のことを、このローレンス氏が聞きつけたからである。
 今までに数度似たような事例を解決してきた旗を掲げる爪なら、きっと何とかしてくれる――ローレンス氏の希望的観測はさておいて、その期待には応えてやりたいと冒険者たちは思っている。
 彼の話では、屋敷で過ごすうちにどこからか謎の声が聞こえて……それを探しに行くと、青白い火の玉を発見した、ということだ。
 問題の火の玉は複数だったそうだが、詳しい数までは把握してないらしい。

「そして、その青白い火の玉に驚いている時、その火の玉がこちらへと飛び掛かってきたというのです」

 当然ながら火の玉に攻撃された被害者は怪我を負った。
 命からがら外へ逃げた次第である。
 しばし瞑目していたウィルバーが、すっと目を開いて依頼主に問うた。

「…聞いておきたいのですが、わざわざその屋敷の”異変”を直してまで売りたい理由は何なのです?…問題がなければ、で構わないのですが…」
「その屋敷は馬車乗り場までさほど遠くなく、市場までもあまり歩かなくてもいいような一等地にあるのです。私ども不動産業者としては、そのような一等地、値段が高いにも関わらず売れ筋がいいので…」

 結果、ほったらかしにしておくにはあまりに惜しいとなったわけだ。
 しかし、まさか火の玉を放置したまま売りつける訳にはいかない。

「私のところで買えば問題がある、と噂になってしまう可能性がありまして…」
「そうでしょうねぇ……モンスターの出る物件を扱っている不動産業者、なんて噂はまったくありがたくないでしょうから」

 そんな屋敷を売りつけているとなったら、一般人相手の商売人には致命的だろう。

「従業員などの給料も出せなくなってしまいます。そういうのはすぐに片付けてしまいたい、というわけなのですよ。…お分かりいただけましたでしょうか?」
「ええ、納得いたしました。では、報酬の方なんですが…」
「異変の調査、及び解決の両方が出来た時の報酬は銀貨800枚。調査後、原因が分かれば半分の400枚を支払いましょう。解決策も分かるようでしたら、報酬は600枚に増額いたします。対策さえ分かるのなら、私どもにもどうにかできるでしょう」

 大体確認しなければならない事項は、確認し終わったようである。
 最低報酬の条件もはっきりしているし、このパーティで対処できない場合でも、他に専門家を頼るなどの助言はできる筈だ。
 引き受ける旨を伝えると、ローレンス氏は大きく息をついて安堵した。
 依頼主の疲れきった目に、やっと精気が漲ってきたようだった。
 屋敷までの地図をもらい、立ち上がる。

幽霊屋敷1

「どうぞ、よろしくお願いいたします。吉報をお待ちしておりますぞ」

 さて、彼らが地図のとおりに進み、リューンの枯葉通りにある小道のひとつを抜けると、教会のような尖塔を持った屋敷が建っていた。
 晴天の下で見るそれは、おかしな現象が起こる建物にはとても見えない。

「……ここ、だな。問題の屋敷は」

 大きく仰ぐようにしてテーゼンが言う。

「思っていたより、ずっと大きな屋敷ですね。もっとこじんまりとした家だと思っていたのですが」
「まぁ、”売れ筋がいい”屋敷って言ってたからね。…結構な値で売れるんでしょ」

 極めて現実的なホビットの言に、ウィルバーは首肯した。

「…ですね。それでは、調査開始といたしましょう」

 件の問題のある屋敷の玄関に、目に見えるような異常は認められない。
 一応アンジェが調べた後に、ロンドが扉を開く。
 やや軋みをあげているのは、きっと油を差すなどの手入れを行なう前に、人員が火の玉に襲われてしまったからなのだろう。
 大きな屋敷の割りに、玄関はごく普通だった――少なくとも、大袈裟なシャンデリアや人間大の彫刻などは設置されていない。
 ただ、広い空間を埋め合わせるように赤い布張りの椅子がいくつか並べられているのがちょっと珍しく、これはもしかしたら、訪問者が立ちっぱなしで家主を待たないようにという気遣いかもしれなかった。
 吟遊詩人として場の雰囲気を大事にするテアにとっては、違う意味で拍子抜けである。

「…異変がある屋敷、と聞いた割にはずいぶん普通な作りじゃのう…」
「異変があるからって造りまで違うとは限らないだろう」

と言って、スコップを担ぎなおしたのはロンドである。

幽霊屋敷2

「…むしろ、普通という皮を被った異変の方が恐ろしいものだしな」
「ふむ…それはもっともじゃな。少し気を引き締めるとしようか。……シシリー殿?」

 テアの視線の先で、聖北教会の信者の証である聖印を握り締めたシシリーが、春の海のような色の目を大きく見開いていることに気づいた。

「……!これは……っ!」
「どうした?…何か分かったのか?」

 気遣わしげな家族同然の青年の言葉に、シシリーはこくりと頷いた。

「――大体のところは。少し待ってちょうだい、詳しく感知してみるわ」

 意識を集中させたらしく、聖印を中心に、彼女の法力が細い体躯を包み込むのが分かった。

「……成る程。となると――」
「終わったのかの?」
「ええ。ですが場所を変えましょう。…このままここにいても無意味のようよ」

 『何か』を感知し終えたらしい彼女の言に、パーティは全員同意し、枯葉通りにある一軒のパブへ移動することにした。
 飲み物と軽食を注文し、全員が席に着く。

「…で?あの屋敷で、一体何を感知したんだ?」

 ロンドがエールをちびちび飲みながら訊ねる。

「…う~ん、わかってしまえば簡単な話なんだけど…青白い火の玉、謎の声に、日中だと全く異常はないという事実」

 右手の人差し指、中指、薬指を順番に上げてみせたシシリーは、結論を告げた。

「…その答えは、ウィスプ。恐らく、ゴーストに引き寄せられたと思うの」
「…成る程」

 首を縦に振って同調したのはテーゼンである。
 彼自身はアンデッドではないが、闇に属するものの気配ぐらいはなんとなく分かる。
 シシリーの推論は彼の感じたことと一致していた。
 ウィスプはこんな街中で過ごす普通の人たちには馴染みのない相手だが、こと冒険者であれば実際に見かけたり、戦ったりすることも多い。
 事実、旗を掲げる爪も、死霊術師を相手にした討伐作戦の際に、道中でウィスプと戦っている。

「霊体は霊体に引き寄せられやすい。ウィスプのような低級霊の場合は、妄執にとらわれたゴーストに引き寄せられる、とはよく聞く話でしょう。……私たちの場合はネクロマンサーだったけれど」
「あー…そうでしたね」

 などと頷いているウィルバーは、実は今回、例の死霊術師が使っていた術を修めていた。
 生者にも死者にも影響を及ぼすことの出来る術であり、広範囲をカバーできるので、あればパーティにとって助けになるだろうと決意したのである。
 その代わり、それまで宿の亭主から借りていた【理矢の法】は呪文書を荷物袋にしまっており、今回は扱わないこととしている。
 それはさておき。

「何故あそこに妄執にとらわれた霊がいるのかは分からないけれど、そこまで調べるのは仕事のうちではないです」
「…で?この後はどうするんだ?」

 ロンドのセリフをきっかけに、皆で顔を見合わせた。
 選択肢は二つある。
 自分たちでゴーストを祓うか、依頼主を通じて聖北教会にでもお祓いを頼むか。
 ただ、昼間に幽霊の影響が出てこないということは、そこまで強い力を持った亡霊とは思えないと言うのが、パーティ内での専門家であるシシリーの意見である。
 幸いと言うべきか、先ほどウィルバーが修めていた死霊術【死の呪言】や、シシリー自身が習得している【十字斬り】などは、実体を持たない霊にも通用するスキルである。
 また、ロンドの担いでいるスコップは、見た目こそ強くは見えないが、切れ味が良いだけの魔剣よりも強力な魔法の武器で、亡霊なども相手取ることが可能だ。
 報酬の減額のこともつき合わせて考えると、

「亡霊退治を自分たちでやった方が稼げるだろ、白髪頭」
「白髪頭言うな、黒蝙蝠。…てことは、夜に再アタックか?」
「そうだね、兄ちゃん」

 アンジェが脇からロンドの食べていた揚げじゃがを摘まんで発言する。

「ま、たかが下級の亡霊ごとき敵じゃないでしょ。サクサクっと終わらせて宿で宴会しましょうよ」
「ふむ。では夜になったら行くとするかの」

2016/03/02 12:06 [edit]

category: 幽霊屋敷

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