Tue.

祭りの後にその1  

 その日、旗を掲げる爪は先日のハロウィンではしゃぎすぎたのか、少し寝過ごしてしまった。
 慌てて起きてみれば、思ったとおり宿の亭主はやや不機嫌になっていた。
 ふわ、と欠伸を隠し切れないままアンジェが挨拶する。

「ん~……おはよう、親父さん……」
「今頃起きてきたのか。ハロウィンも終わったんだ。そろそろ祭り気分もぬいておけよ」

 そんな言葉を冒険者たちにかけ、亭主は昨日の余りもので作った食事を卓へ並べていった。
 南瓜で作ったケーキ、色とりどりのアイシングクッキー。
 温め直しのレモネードと、スパイス入りのホットアップルジュース。
 甘いものばかりかと思えば、スペアリブをタレに漬け込んで焼いたものや、蒸した野菜に塩とチーズをかけたものも出てきた。
 肉といえば宴会で残らないはずなのだが、翌朝のためにと亭主が別にしておいてくれたらしい。
 それらを全て平らげると、

「食べた皿は頂きますね」

と言って、給仕の娘さんが手際よく片付けていく。
 なんとこの娘さん、実はフェンサーとして通用するほどに細剣の扱いに手慣れている……らしい。
 そのせいなのか、食器を盆に乗せて下がっていく動きが、非常にきびきびしている。
 彼女はいったん厨房に引っ込んだかと思うと、再びこちらへやってきた。

「あ、そうそう。これ、デザート代わりにどうぞ」

祭りの後に1

と差し出してくる。
 ハロウィンらしいオレンジと紫をした包み紙の袋の中には、残りのハロウィンのお菓子が入っている。

「あまりものです。あんまり食べ物を置いておくと痛んじゃいますしね」
「ありがとう、娘さん。後でおやつに頂くわ」

 シシリーがそれを押し頂き、一行は顔をつき合わせて本日の過ごし方について検討した。
 その結果、今日は街へ出かけて過ごそうということになった。
 祭の終わった後だけれど、そんなリューンでのんびりするのもいいかもしれない。
 何しろ、ハロウィンの宴会の直前まで、治安隊と聖北教会の依頼で動いていたのだから、少しは懐に余裕もある。

「親父ィ、僕たちちょっと出てくるぜ」

 扉へ手をかけたテーゼンが声をかけると、微かに頷きながら亭主が返事をした。

「出かけるのか。気をつけていけよ」
「いってらっしゃーい!」

 また厨房から出てきた娘さんも声を上げる。
 二人に見送られ、旗を掲げる爪は街へ出かけた。
 のんびりとストリートへ繰り出した一行は、辺りをきょろきょろと見渡した。

「どこに行きましょうかね……」
「おっちゃん、屋台通りに行ってみない?何かまだ残ってるかも!」
「僕は路地裏が気になるんだが……」

 仲間たちの喧騒をよそに、シシリーが目を留めたのは、宿の近くで佇む小柄な人影だった。

「あら、あんなところに仮装した子供達がいるわ」
「……なんだ、あの子供。テア婆さんが変身させられてた時の姿に似てる」

 ぼそり、とかぼちゃ屋敷の一件を思い出したロンドの呟きが耳に入り、テアは首を傾げた。

「……そうかの?」
「何か気になるわね……」

 シシリーがちょっと近づいてみると、シーツを被ってお化け姿になった子供が、ロンドがテアに似ていると言った魔女姿の子を、一所懸命慰めているようだ。

「元気だしなよー」
「分かってるけど…。風邪引いちゃったの悔しくて。私もハロウィンしたかったなあ」

 はあ、とため息をついた子の気を引き立てるように、ぱたぱたと手を忙しく動かして、

「ね、気分だけでもとりっくおあとりーと!」

とお化け姿の子が話しかけているが、謝意を口にしながらも、魔女姿の子が立ち直る気配はない。
 そのしょげきった様子が余りにも気の毒で、シシリーは近くにしゃがみ込むと、娘さんに貰ったお菓子の袋から、大玉の飴を取り出した。

「え…?」
「さ、台詞をどうぞ」
「あ…。トリック オア トリート!」
「はい、どうぞ」

 その小さなまるまっちい手に飴を三つ握らせると、柘榴色をした彼女の目が星のように輝いた。

「どうもありがとう!」

 お化け姿の子はシーツに遮られて表情こそ分からないが、友達がちゃんとハロウィン気分を味わえたことを喜んでいる雰囲気である。

「よかったね!」
「うん!」

 可愛らしい魔女とお化けはシシリーに深く礼をすると、にこにこしながら通りを駆けていった。

「転ばないでねー」

 2人が怪しい大人に絡まれる様子もなく去ったのを見届けると、旗を掲げる爪はアンジェの要請に負けて屋台通りへ顔を出してみることにした。
 もう朝もとうに過ぎているために、屋台通りの店のほとんどは閉まっていたが、一軒だけまだ女性の売り子が残っているところがある。
 背中の半ばまで届く黒髪をさらりと揺らし、彼女は口に手を添えて一行を呼び止めた。

「ちょっとそこの冒険者さん、良ければ買っていってよ」
「え?」

 そちらを見やると、ありふれた木箱の中に昨日さんざっぱら見たオレンジの塊が……南瓜だ。
 思わず遠い目になった一同に構わず、売り子は口上を滔々と述べた。

「近くの農家で取れた産地直送!オレンジ色が綺麗でしょ。今ならなんと、5個で銀貨250枚!お野菜とらなきゃ体に悪いし、風邪の予防効果もあるわ!」

 そっとウィルバーが首を横に振る。

「……いや、あの、すいません、いりません……」
「ね、助けると思って。こんなにあると自分で持って帰ろうにも食べきれずに捨てるしかないのよ」

 ここで、彼女がふあ……と欠伸をする。
 目の下にできた濃いクマといい、どうやら徹夜をしたようだ。

「もう、本当にこれがラストなの。早く帰って寝たいのよ…」
「えー……だって、私たち旅から旅の冒険者ですもの……」
「この際1個40に負けちゃうわ。合わせて200枚。お買い得でしょ、ね、ね!」

 リーダーが腕組みをして唸る。

「うーん…」

 本気で困っているらしい女性をそのままにするのも気が引けて、しばらく協議していた冒険者たちだったが、この先の冒険で料理して消費できるだろうと、買うことにした。

「買ってくれるの!」
「せっかくだからね」

 仕方ない、というように頷くシシリーの手をがしっと握り締め、売り子は感に堪えぬ声で叫んだ。

「ありがとう!これで…帰れる!寝れる!」

 銀貨200枚と引き換えに商品を渡し終わると、彼女は拳を天に突き上げて宣言した。

「お買い上げありがとうございます!よーし、店じまいよー!」

 一方で、ホビット娘がうんうん唸りながら南瓜を転がしている。

「……重い。兄ちゃんお願い」
「なんでお前が受け取ってるんだ、アンジェ……」
「だって、さっきから羽の兄ちゃんがこっち見てるもん!これ、あの兄ちゃんに料理させたら酷い事になるよ!?」

 自分だって宿のお菓子の試作の時には、結構ひどいクッキー(というかミミック)を作ったのだが……まあ、テーゼンはなんでもないキャベツを緑色のねばねばした何かに変化させたり、当たり前の魚を謎の黒炭に変えたりした前科があるので、彼に渡して食材が何らかの生物に変えないうちに、しまいこむのが順当と言うものだろう。
 南瓜を興味津々で見ていたテーゼンが、仕舞われてしまったことに残念そうな顔になりながらも、それならさっきから気になってた路地裏も覗こうと誘うので、彼の願いを果たしてやることにした。

「………」
「………」

 しばし、路地裏に佇む怪しい人間とにらみ合う。
 こないだ捕まえた死霊術師にそっくりなのだが、もしや脱走したのだろうか……。
 
「ふふふ」

 地獄の底から沸くような低い含み笑いに、一同はびくりと肩を竦ませた。
 しかし、今の声で分かったことがある。違う人物だ。
 落ち着いて見てみると、この黒ローブの人間は以前に捕まえた死霊術師よりも5歳以上は年かさで、背も彼の方がうんと高い。
 それにしても、何を笑っているのか……と近づいて覗き込むと……。

「ふふふふふ、ついに捕らえたぞ…光精フォウ!」

祭りの後に2

「きゃー!誰か助けてぇ!」
「ふふふ、助けなど来るもんか。さぁ、ローストチキンがいいかい?それとも焼き鳥?」
「ウィルバー、あれって……」
「ええ、シシリー。光の精霊であるフォウですね。帽子被ってるのは初めて見ましたけど」

 やや半眼になりながら魔術師が答えると、シシリーは自分の近くをふよふよ浮いているランプさんを見上げた。
 自分に近い存在が害を与えられそうになっていることに、ランプさんは非常に動揺しているようだ……表情は全然変わっていないのだが、何となく気配が分かってしまうようになった自分に、ちょっとだけシシリーはめげそうになった。
 それはそうと、フォウを実際に食べようとする人間に出会ったのはこれが初めてである。
 何しろ、≪狼の隠れ家≫には精霊術に長けた冒険者たちが幾人か所属していて、フォウだけに留まらず精霊たちを大事に扱っていた。
 特にエルフの少年などは、そうと知らない輩がフォウを食べようとするのを、イフリートで止めるくらいである。

「いやぁ!火あぶりは止めて!誰か、誰か助けてー!!」

とフォウはしきりに助けを求めている。
 精霊使いがいないパーティであるがゆえに、こんな身近に光精フォウを見たことはなかったが、ふんわりとした羽毛が淡い黄金色に輝いていて、つぶらな瞳がなかなか可愛らしい。
 人の言の葉も解する愛らしい存在が食べられようとしているさまは、非常に痛ましかった。
 同じ翼のあるもの同士とでも言うつもりなのか、シシリーとテアとアンジェの女性陣に背中を押されて、テーゼンが黒ローブの人間にやむを得ず待ったをかけた。

「苛めるのはやめとけよ」
「ん?なんだって?」
「やめとけっていったんだ」
「えー、美味しいんだよ?一口食べると気分が安らいでさ。人語なんて喋るんだ。きっとレアな効果も出るよ」

 そんなことを淡々と言う男の手の中で、ぴるぴると震える小鳥が叫ぶ。

「焼かれるのはいやぁ!助けてください、そこの方!」
「いいよ、助けてやるよ。……そのフォウ、僕らに譲ってくれねえ?」
「えー、そんなに欲しいの?じゃあ…欲しいものがあるから銀貨2000枚で売ってあげるよ」
「足元見やがって……」

 苛ただしげに翼を動かすテーゼンだったが、ここは裏路地とは言え、一応リューンの街中である。
 こないだパーティを導いたような異空間というわけでもないし、男は、自分はリューンの市民権を持っているから無体な真似はやめたほうがいい、と言い出している。
 たしかにここで男を相手にひと立ち回りしたら、ハロウィンの喧騒が広まりすぎないよう出動していた寝不足の治安隊によって、引っ立てられてしまうかもしれない。
 こないだ治安隊の絡む依頼を受けて評判をあげたばかりだと言うのに、自分たちで台無しにするのは上手くないだろう。

「仕方がない……」

 翼を持つ青年がテアとウィルバーを見やると、2人はもはや諦めたかのように首肯し、銀貨2000枚の入った皮袋を彼の手に落とした。

「本当にくれるんだ?…冒険者って案外人がいいねぇ」
「ちげーよ。フォウが食われるのを見逃して帰ったら、怒る先輩がいるんだよ」
「……ちなみに、君らの後ろにいる丸い光るやつは……」
「これもやらねぇ。銀貨はアンタにやっただろ、それ持って帰ろよ」

 ローブの男は肩を竦め、まいどありと言って更に暗い小道へと去っていった。
 手から解放されたフォウは、ぱたぱたと一同の頭上を飛びまわって礼を述べた。

「あ、あの、危ない所をありがとうございました!おかげで焼かれずにすみました!」
「あー、いいのよいいのよ。でも、これからは気をつけてね」

 すっかり光の精霊を見送る体勢に入っているシシリーを見つめ、彼女の肩に止まったフォウが衝撃的な発言を始めた。

「せめてもの恩返しに、従者として契約させて下さい」
「ええっ!?」
「しかし、おぬし……その娘もわしらも、誰も精霊術師ではないんじゃが……」

 フォウによると、別に精霊術の専門家でなくても契約はできるらしい。
 出来れば専門家のように精神力が強い者と組む方が力を十全に発揮できるそうだが、たとえそれほど精霊使いの素養がないものでも、フォウ自身に独立した人格(精霊格?)があるので、自分で判断して動けると主張している。

「私とて精霊の端くれです。炎さえ向けられなければきっとお役に立って見せます」
「ウィルバー……どうしましょう……」
「あなたには光の精霊に好かれる要素があるんですかねぇ。ま、世の中、諦めが肝心ともいいますから」

 一緒に来て貰ったらどうですか、と冷静に判断したらしいウィルバーは助言した。

「えー……。じゃあ、あなたさえ良いのなら…」
「今後ともよろしくお願いします。ご主人様!」
 
 先住民(?)であったランプさんとフォウがしばし見詰め合ったが、特に喧嘩する様子もない。
 というか、ランプさんが緑に光ればフォウが黄色く輝き、フォウが白く発光すればランプさんがオレンジに煌めいている……謎のコミュニケーションが取れているようだ。
 胡乱な目で見ていたシシリーがポツリと言った。

「目がちかちかする……」
「お前、降誕祭のツリーみたいになってるぞ」

 容赦のないロンドの指摘に、がっくりと肩を落とした。

「ところでおぬしら、気づいておるか?」

 アンジェがはて、と指を頬に当てる。

「え、何が?」
「銀貨の残りが200枚じゃ」
「……………あっ」

 どうでも、明日か明後日には冒険の仕事を引き受けて稼ぐ必要ができたようである。
 旗を掲げる爪はこの後も、途上のわんこを撫でまくって満足させたり、家族によって締め出された近所の青年を助け、銀貨150枚と可愛い首飾りを貰ったりしたのだが――翌日には聖北教会からの依頼で、
近くの廃村に住み着いたハロウィンの魔物を退治し、何とか生活費を支障のない金額にまで戻したのであった。

祭りの後に

※収入:150sp+200sp+600sp、≪お菓子≫≪幸運の南瓜≫≪お菓子の袋≫≪良い子の飴≫≪かぼちゃ≫5個【光鳥の賢者】→シシリー所有、≪幸運の南瓜≫を売り払い
※支出:依頼中に【光鳥の賢者】へ2000sp、≪かぼちゃ≫5個へ200sp
※環菜様作、祭りの後にクリア!
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■後書きまたは言い訳
12回目のお仕事は、最初のリプレイ連載でもお世話になった環菜さんのお祭りの後にです。
環菜さんは以前にも違うシナリオをアップなさっているのですが、ハロウィンカーニバル!(仮)の企画にて2作も楽しい新シナリオを作ってくださったので、どちらかをリプレイでやってみようと思ってました。
ですが、金狼の牙が同氏の万聖節の夜の夢をすでにプレイしておりまして……なので、旗を掲げる爪ではこのシナリオやろう、そして絶対フォウ様助けようと2000sp以上貯まるまで頑張ってました(笑)。
環菜さんのリプレイでも実は大活躍のフォウ様、やっとお迎えできました。わーい!
お金を結構使う救済措置なのでしょうか、ゴブリンの洞窟改変の依頼も受けられるようになっております。
今回は街で過ごす様子を優先させた為にそちらの詳細を端折ったリプレイになってしまったのですが、どんな改変なのかお知りになりたい方は、ぜひぜひご自分でプレイなさってみてくださいね。
ちなみに、≪良い子の飴≫は現在、一応テーゼンが持ってます……悪魔だけど適性が合ったので(笑)。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/01 13:13 [edit]

category: 祭りの後に

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