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安らかに眠れその3  

 クドラ教徒であり、死霊術師でもあるその男は、とても生きている人間の顔色をしていないように見えた。
 吸血鬼だと言われても納得してしまいそうな血色のない顔の中、ぎろりと剥いた目が冒険者や隊員たちを捉えている。
 薄い唇が笑いの形に歪んだ。
 粘性の笑いだ。
「……本当に困ったなぁ。まだ儀式が終わってないんだ。もう少し待ってくれないかな?」

安らかに眠れ5

「もはや聞くまでもないが、貴様が術者で間違いないな?」

 槍の石突が、苛ただしげに床を打つ。
 隊員のやりきれない怒りが、ヘルメットで覆われた顔よりも雄弁に、その音で伝わってきた。
 ロンドが掴んだらぽっきり折れてしまいそうな指が、一見無意味な曲線を宙に描く。

「術者……んー、まぁ合ってるね。でも君達にはぜひとも僕を”ご主人様”って呼んで欲しいよ」
「……ッ。あなたは一体、何を言って……?」
「下がって、シスターッ!」

 修道服の裾に指をかけ、彼女を床に引きずり倒そうとしていた死体を、流星のごとく投げつけられた短剣が標本の蝶のように縫い止める。
 何気ない動作でグールに合図を送っていた死霊術師は、その手際に感心した声を漏らした。

「……へぇ」
「……間一髪だったけど、奇襲が失敗して残念だね」

 もう一本の短剣を左手に持って、アンジェは不敵な笑みを浮かべる。
 もはや問答は無用、死霊術師は自らの行いによって敵意を露にしたのだから――それも、死んでしまった人たちを冒涜する形で。
 槍を腰溜めに構えた隊員が、

「……ちっ!構えろ、シスター!死ぬぞ!」

と警戒の声を発した。
 慌てて仲間達をきょろきょろと見回す彼女には見向きもせず、冒険者たちも各々の得物を構えて敵の襲撃に備える。
 儀式用に並べられていた死体の中から、すでに真っ白な骨に変わってしまったものや、まだ蛆がわいている腐肉を纏ったものなどが起き上がり、彼らに命令を下した死霊術師を守らんと陣形を整えた。

「これは……儀式用の死体に、防衛用の死体を紛れ込ませていたのですね……」

 ウィルバーが一歩下がり、敵陣を見極めようと陣取る。
 来る、というシシリーの言葉どおり、死体が群れをなしてこちらへと向かってきた。
 まずは防衛用の死体を減らさねば、死霊術師への射線も通らない――ウィルバーが仲間に指示をし終わった時、

「――皆さん!」

という声と共に、別働隊の聖職者や治安隊の人々がこの部屋へとなだれ込んできた。

「参ったねぇ。こんなに人が来るとは想定してなかったんだけど……」

 やや不満げに呟いた死霊術師だったが、一度に倒せばそれでいいかと思考を切り替えたようで、こちらに来いと別働隊を挑発してくる。
 周りの死体の不自然な多さに気づいた別働隊の一人が、先に周りの敵を叩こうと提案してくれた。

「術者の方をどうか……!」
「お願いしますッ!」

 ウィルバーはそう頼むと、≪万象の司≫を握り締めて詠唱の集中に入った。
 飛び出したシシリーとロンドが、それぞれグールとスケルトンを一匹ずつ倒したものの、その厚い陣容に守られた死霊術師から、聞いた事もない魔法が発せられる。
 死霊術のひとつであるそれは、不可視の鎧に守られた彼らの体をも通過して、体力を確実に削っていった。
 たまらず、アンジェが膝をつく。
 慌てて、後ろからテーゼンが彼女を支えた。

「くっ……!?」
「これ、は……」
「【死の呪言】……生きている者の生命力を、死者の怨念で削り取っていくのさ……ふふっ、いつまでこれに耐え切れるかな……?」

 不気味な笑いを浮かべた死霊術師に、食いしばった歯の下から唸り声を上げると、ロンドはその勢いをスコップに乗せて、見事なスイングですぐ近くにいたグールの半身を吹き飛ばす。
 特殊な強度を持つ細い糸でグールの一体を絡めとろうとしていたアンジェは、腐肉に足を滑らせて手元が狂ってしまったものの、彼女に腕を振り上げようとした敵は、後ろからシシリーが長剣を突き通し、難を逃れることが出来た。

「後、どれくらい!?」

 敵を討ち果たした彼女が振り返りつつ叫ぶと、それにウィルバーが応えた。

「グールがあと一匹です!……【蒼の軌跡】よッ!」

 彼の右手から放たれた冷気の光線が、近づこうとしていた敵を後退させる。
 凍りついたことで動きが鈍ったそれを、絶妙のタイミングで飛び込んだテーゼンが止めを刺した。
 徐々に狭められてくる猛攻に、さすがに死霊術師が焦りの色を見せた時――。

「咲いては散りゆく薄紅を、追って薫るは懐かしさ……」

 少ししゃがれた、詩人として訓練を施された声が、【まどろみの花】という名の子守唄を朗々と響かせる。
 一瞬にして意識が眠りへと引き込まれそうになったことに気づいた死霊術師が、初めて恨めしそうな声を上げた。

「これ、は……!この僕が、こんなので……ッ」

安らかに眠れ6

「悪いが、お若いの――やり過ぎじゃ。生け捕りにされる方が、おぬしには屈辱じゃろうて」

 テーゼンが施した【隠し薬草】で全快したテアの、渾身の歌であった。
 どうにも眠りに逆らえず、意識を手放して床に倒れた術者と同時に、彼の魔力によって動かされていた死体たちもその動作を停止した。

「これで……終わりですよね」

 呟いたシスターに、ウィルバーが頷いた。

「……そのようですね」

 ――数日後。
 旗を掲げる爪宛に、二通の手紙が≪狼の隠れ家≫まで届いた。
 手紙には銀貨の入った袋が添えてある。
 ずっしりと重量感のあるそれを確かめた後、シシリーは自分と同じ宿で寛いでいた仲間達をテーブルに呼び集め、一通目の手紙の内容を確認した。
 果たして手紙には、旗を掲げる爪の功績を称える文章が連ねられていた。

『掃討作戦の完遂と術者の確保。その両方を見事成功させたことで、邪教徒達の目論見を潰し、死者の眠りを邪なる企みから完全に解放できた』
『そして、懸念されていた残党の逃亡による討伐隊への報復も、掃討作戦の全面的成功により想定から除外できるゆえ、後日にて、改めて旗を掲げる爪の働きを正式に公開する予定がある』

……とのことらしい。

「……あら?ちょっと待って、皆」

 思いがけない栄誉にワッと湧いた仲間達を制し、シシリーは続きの文章を読み上げた。

『――また、教会側は旗を掲げる爪を信頼できる者と見なし、件の術者が持つ技術の一端を、尋問したのちに入手できた情報への、報酬として渡すこととする』

「……つまりそれって?」
「うん……死霊術を追加報酬代わりに送ってきた、みたい」

 戸惑ったようなアンジェに答えたシシリー自身が、この思い切った措置に関して驚いているようだ。
 えー、と声を上げたアンジェが問う。

「いいのかなぁ、あたしたちで使っちゃって。……というか、こういう難しいのは多分、ウィルバーの専門だけれど」
「うーん……なかなか手強い術でしたからねぇ。全体攻撃は魅力的ですが」

 当のウィルバーも少々勝手が違う術に首を捻っている。

「私たちの手段として使うかどうかは、もう少し検討してからにしましょうか。どうしてもネクロマンシーが嫌だったら、親父さんを通じて売ってしまう手もありますから」
「おい、シリー。もうひとつの手紙は誰からだ?」
「あ、これね。えーと……」

 彼女が手に取った二通目の封筒は、飾り気のない質素なものであった。
 聖北教会独特の印璽が使われている。
 レース細工のように柔らかく綴られた文字が、あのシスターの人柄を表しているようだった。

『拝啓、旗を掲げる爪の皆さんへ。先日は大変お世話になりました。今こうして手紙を書けているのも、皆さんが守ってくれたおかげです……』
『聖職者としてでなく、一個人として何れは皆さんを教会まで招きたいと思っています。聞き忘れていた皆さんのお名前を、その時に教えていただければ幸いです』

「あ」

 シシリーが口に手を当てると、ロンドも腕組みして唸った。

「……そういや、俺たち名乗ってなかったな」
「すっかり忘れていましたね……」

 たはは、とでもつけそうな雰囲気でウィルバーが薄い頭を掻いている。
 その間に、テアがまだ続く手紙の束を取り上げた。

『≪狼の隠れ家≫の旗を掲げる爪へ。先日の作戦を肩を並べた、治安隊の一隊員だ。覚えているのだろうか?』
『実はこの手紙を書くつもりはなかったが、あのシスターさんが口煩く言ってくるのでな』

 一同は、あの壮年の男の、苦りきった顔を思い出す。
 フルフェイスのヘルメットを取った彼は、意外なくらいの男前であった。
 手紙の中で、彼は生け捕りにした連中の尋問へ、上層部への報告などで忙しく走り回っているらしい……そんな中でペンをとって手紙を書いてくれたとは、ご苦労なことである。

『――正直に言うと、先日の作戦の時は助かった。私とシスターだけでは、今頃は死体の仲間になっていることだろう』
『治安隊の一員として、任務の中で命を落とすのは仕方なく思う。だがこうして忙殺されていられるのも、お前達のおかげだ。……改めて、感謝する』

 朴訥とした文章の中にも彼の誠意が見えるようで、冒険者たちはくすぐったそうに笑いあった。
 彼の言によると、近々シスターが小さな食事会の準備をしているそうだ。
 きっとこれが、彼女の『一個人として何れは皆さんを教会まで招きたい』という希望のことなのだろう。
 手紙の最後の方で、恐らくは自分も強引に誘われるから、その時にまた会おうとある。

安らかに眠れ7

 この辺りで、きっと憮然とした、だけど限りなく優しい顔になっていたに違いない。
 食事会の招待が早く宿に届きますようにと、シシリーは神に祈りを捧げた。

※収入:1200sp、【死の呪言】
※支出:
※ライム様作、安らかに眠れクリア!
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■後書きまたは言い訳
11番目のお仕事は、ライム様の安らかに眠れでした。
はい、またもやハロウィン・カーニバル!(仮)からの作品です、ありがとうございます。
のどかなハロウィンらしいお仕事の続く中、いきなりシリアスぶち込んでみましたがいかがだったでしょうか?
私はギャグシナリオも好きですが、こういう依頼も大好きです(何)。
見所の多い作品なものですから、つい画像ちょっと多めになりましたが……もし気になる方がいらっしゃいましたらすいません。

後一回くらいハロウィン・カーニバル!(仮)のシナリオをやって、またいつものお仕事に戻っていこうかと思います。
別に妖魔の砦(匿名様&クエスト様)や水の都アクエリア(SARUO様)とはクロスオーバーされてないのですが、このパーティ不思議なくらい占拠した敵を討伐する仕事が多いので、シスターの発言に絡めてちょっと追憶させてみました。
作者のライムさんは母国語でないため日本語に自信がないと書いておられましたが、はっきり言って純粋日本人の私より日本語が達者でいらっしゃると思います、ええ。自信持っていいですよ!
死霊術師を生け捕りにしたのは、テアに発言させたとおり、多分殺されるよりも生け捕りにされる方が彼の中では屈辱だろーなー、という思いからやってみたのですが、よもや死霊術もらえるとは知りませんでした。
ウィルバーをネクロマンサーにする予定はないのですが、旅の途中で得た技能や魔法は、出来る限り使っていきたい方針なので…しかも便利な全体攻撃だし…やっぱり使おうかなー。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/03/01 13:02 [edit]

category: 安らかに眠れ

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