Tue.

安らかに眠れその2  

 一人で廊下を巡回していた男を倒し、別働隊の突入を確認すると、一行は先にある地下通路を目指して走っていた。
 その通路は事前に見ておいた見取り図で確認したものであり、シスターなどは信用のできるものなのか疑問を呈していたが。

「何事だッ!!」
「……どうやら間違いないようですね」

安らかに眠れ2
 ランタンを掲げてこちらへと向かってくるローブの集団に、ウィルバーが肩を竦めて≪万象の司≫を構えた。

「あぁ、いい歓迎で実に助かる。奥に何かがあるって教えてくれてるようなものだ」
「ここから立入禁止って看板かざしてるみたいだね」

と言ったアンジェが、まあ看板を倒して進むんだけどと続けた。

「あ、あの……大丈夫ですか、この人数差!」

 うろたえるシスターに、隊員が自信満々の声で応じた。

「何、心配いらんよ。聞こえるか?この音を」

 複数の足音と共に、治安隊の別働隊が旗を掲げる爪の後ろから追いついてくる。

「先行部隊の皆さん!ご無事ですか!?」
「これで形勢逆転、だな」

 ニヤッと笑ったテーゼンが、槍を軽く回して穂先をローブの集団へ突きつけた。
 見張りは一体どうしたと慌てる彼らに、手を口に添えてシスターが降伏勧告する。

「あ、あの……!抵抗しないでくれませんか!?あなた達を間違えて殺してしまいたくないんです……ッ!」
「シスターさん、無駄ですよ。彼らは――」

 淡々とウィルバーが諭す。
 が、彼のセリフを打ち消すように別働隊の一人が叫んだ。

「死を冒涜する邪教徒どもに、差し伸べられる手などない!」
「――黙れッ!聖北の犬どもめ!今宵の儀式の生贄にしてやる!」

 ふう、と隊員が息をついた。
 こうなることは分かっていたとでも言いたげである。

「残念ながら、話し合えるような場面でも面子でもないって訳だ」

と言った隊員は、別働隊と同様に得物を握り、突進の構えを取った。
 だが、今にも突撃しそうな他の隊員と何かが違うことに、隣に立っていた冒険者が気づく。
 スッ、と篭手に包まれた手が上がった。

「――今だ!やれッ!!」
「――!目、閉じてッ!」

 ある動作に気づいたアンジェが、仲間に怒鳴る。
 瞬間、”邪教徒の一人”が明かりを地面に投げつけたため、あたり一面を暗闇が覆った。
 そして咄嗟に目を閉じていた旗を掲げる爪が、暗くなった後に目を開けると、狼狽する邪教徒たちと、予定調和と言わんばかりに自前のランプを素早く灯したらしき別働隊の姿が、ぼんやりした明かりの中にあった。
 ローブを素早く脱ぎ捨てた黒髪の男が、今のうちだと叫んでいる。
 どうやら、彼こそ隊員が予め仕込んでいた内部協力者だったらしい。
 相手の視界を混乱させることに成功したのなら、あとはここを別働隊に任せ、自分たちが先を急ぐことにしたほうが、より早く首謀者の所へ辿り着けるだろう。

「――突破します!」

と宣言したシシリーが、長剣をかざして指示する。

「ついてきて!」
「……くっ、まだよく見えん!――おいっ!誰かそいつらを止めろ!」

 未だに目が眩んでいる敵の一人が、抜き放った短剣をこちらに投げつけてきたが、内部協力者の青年がそれを滑らかな動きで叩き落す。
 彼の右手にある小剣が、別働隊のランプの光にきらっと光った。

安らかに眠れ3

「彼らの後は追わせません。あなたたちの相手は私たちですよ!」
「……邪魔をするなッ!この、裏切り者めが!!」
「今だッ!総員並べ――」

 別働隊と敵勢力の戦う声を後ろに、一行は予定の通路へ向かい走り続けた。
 彼らは作戦開始前に見ておいた見取り図を元に、書庫らしき部屋に飛び込む。
 あの見取り図が正しければ、この書庫のどこかに地下室へ通じる入り口と通路があるはずなのだが――彼らは手分けして探索した。
 数ある本棚の中で、本の背表紙が妙にでこぼこしているものが気になり、アンジェがその中のひとつを指でなぞる。
 その感触は――。

「これ、本じゃない……」

 ぐっとそれを押し込むと、壁に埋め込まれた本棚が横にずれていく。 

「……あったよ!みんな、こっちこっち!」

 ”死”が大量に蠢いているだろう地下は生贄を求め、一行の前でその口を開いた。
 石造りの暗い通路を走りながら、息も切らさず隊員が言う。

「突入してからまだそんなに時間が経っていない筈だ……!今のペースを保てれば――」

 ひらり、と上方の青い灯火に彼がストップする。
 その横に立ったシシリーが、

「――やはり出ましたね」

と言って、≪光の鉄剣≫を抜いた。
 隊員が警戒した青い灯火は人魂であり、その不吉な明かりに照らされて動く死体が、特有の頼りない足取りでこちらに近寄ってくる。
 ”生”であった”死”が、このような形をとって姿を現したことで、旗を掲げる爪は改めて確信を持った。
 この通路の終わりには――”死”を弄ぶ者がいる。

「ちっ!足止めのつもりか……いつもながら惨いことをする!」
「……辛いのでしょうね」

安らかに眠れ4

 この動く死体たちは、あの錆の魔女のように自我も持たず、言葉を交わすこともできない。
 それどころか他者によって動かされ、捨て駒として投入される。
 剣を正眼に構え、シシリーは目を細めた。

「今から解放してあげますよ」
「シリー、いくぞ」

 人魂は魔法による攻撃か、魔力のかかった武器でなければ倒すことができない。
 物理的な攻撃しかできないアンジェやテーゼンがゾンビたちの足止めをし、その隙にシシリーやロンドの武器、ウィルバーの魔法で人魂を倒そうということになった。
 テアは手早く【活力の歌】で、仲間達を鼓舞して援護する構えだ。
 はたして、戦いは……全てが終わるまで、3分ほどであった。
 終わってみればテアがややかすり傷を受けていたが、≪ペロキャン≫を食べて体力を回復する。
 もう一度【魔法の鎧】をかけ直して、彼らはまた通路を走り続けた。

「――ハァ、ハァ……ッ!まだ、着かない、のですか!?」
「シスターさん、もう少しだから頑張って!」

 シシリーが発破をかける。
 鎧を着けていないとは言え、戦闘はおろか体を激しく動かす機会のない聖職者にとって、今回の突入行動にここまでついて来れた事自体がすでに驚嘆に値するものだろう。
 なかなか根性があると感心した隊員も、修道女を元気付けた。

「いや、もうすぐ着く筈だ……ッ、出口が見えてきたぞ!」

 携えるランプの光で照らされる道を走り続け、一行はついに開けた場所に出た。
 薄暗闇の中で荒れ果てた内装を辛うじて見て、独特の建築様式に気づいたアンジェが、

「ここは……礼拝堂?」

と声を上げる。
 ……日の光が差すことも許さず、隠蔽されてきた地下に設けられた参拝の場。
 かつてここで多くの者が捧げた祈りは、未だここに蓄えられているのではあるまいか。
 向ける対象をなくした強烈な人の”思い”は、様々な形で再利用されやすいという。
 今回のような、魔法的な儀式を執行するのに、まさにもってこいな場所とも言える。
 そして。
 見渡す限りの死体の山。

「なにこれ……」

 眉根を寄せたアンジェは、そっと2歩ほど仲間の方へと戻り、つばを飲み込んだ。
 無造作でなく、何らかの規則に沿った置き方をされているように見える。
 それらは、今まさに良からぬ事に利用されているのだろうと言う予測を、見たもの全員が一瞬で行なった。
 息を呑んで蒼白になったシスターの横で、隊員ががちゃりと鎧を鳴らす。

「儀式用の模様になるよう、調達してきた死体を並べているか。……本当に、むごいことをする」

 彼が持っていた槍をぎゅっと握りこんだ瞬間、

「――もう来たのかい?」

という細い声が響いた。

2016/03/01 13:00 [edit]

category: 安らかに眠れ

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top