Fri.

かぼちゃ屋敷の夢その4  

 自分と同じ白髪の、自分とはずいぶん違う体躯の人間が、部屋の片隅に体育座りをしているのを見つけたロンドは、訝しげな顔になってずかずかと近づいた。
 頭部につける南瓜の被り物を抱えた魔女っ子は、ぎょっとした顔になって思わず後ずさる。
「迷子か?」
「迷子ではないわ!!わしじゃわし!!テアじゃ!!」

かぼちゃ屋敷の夢4

「えっ。……ずいぶん思い切った若作りだな、テア婆さん」
「作っておるわけではないわ」

 ふん、とテアは鼻を鳴らした。
 なるほど、たしかにその鳴らし方はテアだな――などと、余計なことで本人確認をしたロンドである。
 本人にそれを言っていたら、やはり怒られていただろう。

「気がついたら姿は変わっとるし、荷物はないし、周りには賑やかな景色になっておるし……」

 状況がよく分からなかったながらも、人間としての形を保っていたおかげで、それなりに周囲を調べていたらしい。
 もっとも、子供の身長では見えづらいところも多かったはずだが。

「それにしても、ウィルバーが言ってた妙な魔力というのが気になるのう」
「うーん。なんでこんなところに飛ばされたかは知らないが」
「それはどう考えてもおぬしのせいじゃろ」
「そうかあ?だって…」

 ロンドはもう4回目になる説明を繰り返した。
 悪いのは白いお化けであり、自分がペンダントを握っていたからではないと主張したいらしい。
 先ほどかなりお化けを警戒していたテーゼンと違い、テアは相手に敵意がないのかもしれないというロンドの話には首肯した。
 彼女にしてみれば、こんな風に姿を変えて放置するくらいなら、いっそ怪物に襲わせて楽しむ方がよほど敵意や悪意を持つ相手のすることだと納得できる。
 それをしない以上、たしかに遊びたいだけなのだ――万聖節前夜の子供のように。
 テアは南瓜の被り物に突っ込んでおいた拾得物を仲間に差し出した。

「忘れるといかんから、今のうちに渡しておこう。宝探しに役立つかの?」
「なんか凄い甘い匂いだな」

 彼女の拾い物は赤い液体の入ったガラス瓶で、コルクで栓をしてあるにも関わらず、甘ったるい匂いがロンドの鼻腔にも届いていた。

「本当にこれが役に立つかは知らんぞ」
「貰って損はないさ。ありがとな、テア婆さん!」
「どういたしまして。それよりも……」

 戸惑ったように、幼児になった身体を見下ろしてため息をつく。

「早く元に戻しておくれ」
「頑張るよ」

 彼女のいる部屋を出て、また椅子だけ置かれた部屋や、不気味な絵画の飾られた部屋を通過していく。
 山羊姿の悪魔の絵が飾ってある部屋まで来た時、部屋の真ん中に置かれた巨大南瓜と、それに止まっている黄色い小鳥の姿に気づいた。

「……………フォウだ!!よーし!捕まえて今夜の晩飯にするぞ!!!」

 悲しいことに、精霊であるランプさんとの出会いはあったものの、精霊術を専門に学んだ仲間がいないために、ロンドにとって光精フォウの存在は鳥=食えるものという程度の認識でしかない。
 ≪狼の隠れ家≫でそれをやると逆に小柄なエルフによって人間たちが焦がされる為に、フォウへ火の魔法を放つ命知らずな冒険者は皆無なのだが、何処かの宿ではフォウの焼き鳥が食べられる、という専らの噂だ。
 それを思い出したロンドは太い腕を伸ばしたのだが……。

「いやいやいやおかしいでしょ!!!やめてよだれ垂らしてこっち見ないでえぇ!!!」
「……シリー、か?」

 幼馴染というより家族に近い存在の声に、その動きを止めた。
 嘴でつつかれる前に、慌てて手を引っ込める。

「っていうかロンドだけ?他の皆はどこいったのよ?」
「あー…皆お前と同じように姿変えられて、この…屋敷?をうろうろしてる」

 同行しようにも、今居る部屋から不可視の力によって出ることが叶わなかったことを説明されると、フォウの姿のシシリーの目が丸くなった。
 ロンドがシシリーへ、事情を説明する前にこの辺で見つけたものを訊ねてみると、嘴で突き当たりの部屋を示された。

「書庫なのかな。本棚があって。ただ、ちょっと気になったこともあってね…」
「うん?」
「『本は読んだらしまえ』って貼り紙があったにも関わらず、本が抜けていたのよ」
「へー。その本持ち出した奴、相当な無精者なんだろうな」
「でしょうね、多分」

 しかし、この館自体が普通のものではない以上、貼り紙にも何らかの意図が働いているのかも知れないとシシリーは語る。
 本を見つけたら戻してみたら、とアドバイスするシシリーに、ロンドはウィルバーから預かった本を示してみせた。

「あ、それかもしれない」
「わかったよ。後で戻しておく」

 とりあえず最後になるだろう事情説明を終えると、人間の姿の髪と同じ金色の羽根を膨らませてシシリーが怒りを表明する。

「なんてお化けなんでしょう。まったく迷惑ね」
「まあな。ただ、本気で俺たちを困らせたいわけじゃなくて、遊んで欲しいだけみたいだ」

 だから、と彼は立ち上がった。

「探し物があるから、また後でな!」
「ええ、また何かあったら伝えるわ。そっちも頑張ってね」

 シシリーの話に従って書庫へ入ると、そこにはたしかに本棚があった。
 ここに飾られている絵は南瓜頭のもので、今まで見た絵画よりは不気味さがいくぶん薄れている。
 ロンドは空いている箇所へそっと紫色の装丁をした本を戻すと、そういえばこの童話らしき本を最後まで開かなかったことに不意に気づいた。

(この行為自体がなにかの術にかけられている証明なのか……童話が魔法の品なのか?)

 棚から滑り落ちた蝙蝠の形をした鍵を拾い上げ、彼は手にメモをした文章を読み返した。

『お鍋のスープは夜の色』
『朝=白、昼=青、夕=赤、夜=紫』

「うーん……」

 こういった頭を使う作業は苦手だった。
 ロンドはどちらかというと直感に従ってまず行動をする人間であり、集めた情報を整理して何らかの結論を出すのはウィルバーやテアの得意とするところである。
 だが、今回の宝探しを受けて立ったのはロンドであり、他の仲間が残らず姿を変えられてしまった以上は、彼らを元に戻すためにこの謎かけを解くのも、彼でなければならないのかもしれない。
 そうでなければ、犬やら猫やら子供やらに変身した仲間達が、現在いる部屋から出ることが出来ないわけがない。
 試されている――ロンドのこめかみを汗が伝った。

(汗――液体――液体?あれっ??)

 ロンドは手に持った二つのガラス瓶を注視した。
 青と、赤。

「そうか、これだ!」

 彼は謎が解けたことに、喜び勇んで鍋のあった部屋まで走り抜けた。

 ――文章に従って扉を開き、最後の部屋で熊のぬいぐるみを手に入れたロンドは、辛抱強く彼のことを待っていてくれたらしいお化けのところまで戻ってきた。

「おっかえりー!!宝物は無事見つけられた?見つけられた??」
「見つけてきた見つけてきた。ほい、これだろ?」

 かぼちゃ屋敷の夢5

 ぬいぐるみを手渡すと、お化けは重力にとことん逆らった動きでふよふよと喜びを表した。

「遊んでくれてありがとう!!!」
「どういたしまして。さ、早く仲間を元に戻して、さっきの場所に帰らせてくれよ」
「ああー…そうだよねー…見つけてくれて嬉しいし、すっごく楽しかったけどもう、楽しい時間は終わりかぁ…」

 哀しさと嬉しさの入り混じった複雑なお化けの感想に、ロンドが首を傾げたがお化けは何でもないよと言って笑った(ようであった)。

「それじゃ、今元に戻すから、目をつぶっててー!」
「こうか?」
「そうそう!じゃあ、またいつかあっちで会おうねー!!」

 お化けのカウントダウンと共に、またロンドの視界が一瞬光ったと思うと、すぐさま暗転する。
 ……誰かが、また自分の名前を繰り返している気がする。

「ロンド殿。ロンド殿、起きるんじゃ」
「んー…う、うーん……」

 しばらく唸り声を上げていたが、彼は聞き覚えのある声に反応し、そろそろと目を開いた。
 ロンドの視界に、かなり古いため梁にひびが入っている天井がまず映る。
 それをバックに、他の5人の仲間たちと近くを漂っているランプさんが安堵している顔が見え、徐々にピントが合ってきた。
 全員の心配を他所に、

「ん?あれ?ここはどこだったっけな」

と呑気な声を発したパーティの重戦士を見て、呆れたようにアンジェが首を振った。

「ちょっと兄ちゃん、まだ寝ぼけてるの?さっきまで兄ちゃんのせいで大変だったんだよ」
「まあまあ。たしかに大変な目にはあったけど、こうして戻ってこれたことだし」

 まだ状況を理解していないロンドの横で、彼が手放していたらしいペンダントを杖で引っ掛け、ウィルバーが鑑定している。

「……例のペンダントの魔力がなくなってます。…いや、なくなってはいないか」
「どういうこと?」

 アンジェの質問にウィルバーは丁寧に答えた。

「先ほどまでの強力な力は感じません。もう、これに脅威はないと思います」

 光を放ち、彼らの姿を変えてしまったペンダント以外、この屋敷で何か警戒をしなければならないようなものは見当たらない。
 精霊であるランプさんものんびり漂っているだけのようなので、シシリーはじゃあと口を開いた。

「もうひと晩見張ってみて、何もなければ報告に戻ることにしない?」
「それがいいと思う」

と言ったのは誰だったか。
 呆然としているロンドをそのままに全員が賛同し、彼らはその日、隙間風が吹き込むボロ屋敷でもうひと晩過ごした。
 結果、何もいないという結論に達した一同は、腐れかかった木のドアを苦労して開き、やっと外に出たのだが――。

「ロンド殿。それを持ち帰るのかえ?」
「うん、まあ。せっかくだし記念にな」

 どういった記念か、ということに意味があるわけじゃない。
 ただ、あのぬいぐるみを見て本当に嬉しそうにしていた孤独なお化けのために、たまに祈ってやるくらいはしてもいいんじゃないか、と彼は思っている。

※収入:600sp、≪ペンダント≫≪おばけのクッキー≫≪ペロキャン≫≪葡萄ジュース≫
※支出:ネジ倉庫(もみあげ様作)にて【花葬】、秘術の学徒(kobold様作)にて【飛翼の術】を購入。
※島兎様作、かぼちゃ屋敷の夢クリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
10回目のお仕事は島兎様のかぼちゃ屋敷の夢です。
またしてもハロウィン・カーニバル!(仮)からのシナリオでございます。
Next用6人専用のシナリオとなっておりまして、一人旅がお好きなプレイヤーさんには申し訳ないのですが、このシナリオは6人パーティだからこそ面白いのだと力説させていただきたい。
今回、主人公の役割は特に振らずランダムに任せたのですが、当たったのは脳みそ筋肉とテーゼンに言われているロンドでした。
精神的に子供に近い人が主人公に相応しい、とReadmeにありまして。
確かにと頷かずにいられません…あの子、本能で動く人なんだもの。
それにしても、このお化けシーツさんいい味出してるので、また会えたら楽しいでしょうね。
いつかこの子が、満足して成仏できますよーに。
一部、発言したのが子供なのでとセリフを変えた箇所はあるのですが、ほとんどシナリオのとおりです。
ぽんぽんと面白いやり取りをしてくれる彼らの姿に、物凄く楽しませてもらいました。ありがとうございます。
所々でお菓子とかジュースを拾ってるので、大事に食べようと……でも沈黙しちゃうんだっけ?

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/02/26 12:51 [edit]

category: かぼちゃ屋敷の夢

tb: --   cm: 1

コメント

拍手とご感想、ありがとうございました!

>タビビト様
パーティ名会議ではお世話になりました、拍手もいただきましてありがとうございます!
まさか、拙作のシナリオも遊んでいただいてるとはつゆ知らず…!
楽しんでもらっているのであれば、作者冥利に尽きます。
本当はあの楽しいパーティ内の会話をもっと盛り込みたかったのですが、まだ100KB祭り開催中で遊んでない人もいたであろうことを考えると、自重したほうが良さそうだったので断念してしまいました。
ですが、いろんなパーティで会話させて、「ああ、こいつ言いそう(笑)」「なるほど、こういう感じになるキャラだったか」などと、じっくり遊ばせていただいております。
タビビト様のシナリオのおかげで、無事彼らのパーティ名も決まりました。
まことにありがとうございます。
ウィルバーさんは、「彼女に振られたくらいで勤め先辞めるのかよ!?」とツッコミを入れざるを得ないメンタルの弱さがあるんですが、ちょっとばかり世間ずれする部分が他人とずれているだけなので、そこそこどうにかなる…予定です。髪は増えないけど(笑)。
3/12現在、パーティは結構な危機を迎えておりますが、これを乗り越えてまた楽しい冒険を繰り広げられたらと思っておりますので、よろしくお付き合いください。
ではタビビト様、拍手とご感想ありがとうございました!

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2016/03/12 13:00 | edit

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top