Fri.

かぼちゃ屋敷の夢その1  

 子供達のために、ハロウィン用新作菓子を試していたのが一週間前。
 もうそろそろ、本格的に万聖節前夜がやってくるというある日、その依頼人が仕事を持ち込んできたのだった。

「……というわけで、君達にはその屋敷の調査をしてもらいたい」

かぼちゃ屋敷の夢
 リューンの片隅にある廃屋敷。
 依頼人の説明では近日撤去予定であったのだが、何やら夜な夜な声が聞こえてくると界隈で噂が広まっており、それを調査して欲しいという。
 一説では、幽霊が出ているとか……シシリーは豊かな感受性をよく表している碧眼を、自分のやや斜め上方へとさり気なくやった。
 部屋の照明に紛れて、ふよふよと彼女に憑依しているランプさんが漂っている。
 確か、ランプさんと初めて出会った時も、お化けと勘違いされての事だったはずだ。
 眼鏡をかけた堅物そうな依頼主が、上方の精霊に気づく気配はない。
 ウィルバーが、ソファからやや身を乗り出すようにして依頼人に問う。

「…私たちが言うのもなんですが、冒険者を雇うほどのことでしょうか?資金が勿体無い気が…」
「………その」

 それまで明晰な口調だった依頼人が、そこで言い淀んだ。
 ウィルバーが眉根を寄せると、彼の耳にやっと届くような小さな声で依頼人が応える。

「………幽霊やアンデッドの類が、苦手なんだ」
「………。ああー……」

 いますよね、そんな人。大丈夫、あなただけじゃないですよ。前にもいました。
 ちょっとばかり乾いた声音であったものの、アンジェの首肯はそういう意味を多分に含んでいる。
 それに安心したのかどうか、依頼人は元の音量に戻して屋敷の調査を重ねて頼んだ。
 何かいたら、その場合は退治もして欲しいらしい。
 報酬は銀貨600枚……ますます、ランプさんの仕事を思い出す。
 これが出せる精いっぱいだという依頼主にそれ以上の交渉はできなかったが、代わりに屋敷の中で何かを発見した場合は持ち帰っていいということになった。
 断る理由はないようだったので、引き受けることにする。
 屋敷の場所が記された地図ももらい、彼らは屋敷へさっそく調査に向かった。

「…というわけで、そのボロ屋敷に着いたわけだが……」

 細い三日月が放つ光に照らされて、テーゼンが屋敷を仰ぐ。
 その横に並んだアンジェが、

「まぁまずは入ってみないと話にならないでしょ。見た感じ怪しい気配はなさそうだけどね」

といいながら扉を調べ、施錠も罠の仕掛けも無いことを確認すると、シシリーに向かって頷いた。
 ぐっと扉を開ける。

「………」

 部屋に立ち入った彼女は絶句した。
 屋敷の外側もなかなか時代を感じさせる……というか、はっきり年月の経過が刻まれていたものだが……。

「………なんていうか、思った以上にボロじゃな」

 シシリーが内心で下した評価を、テアが遠慮なく口に出す。

「この分じゃ追加報酬には期待できそうにないなぁ」
「ああ、そうだな」

 腕を組んだアンジェに迎合したロンドが、足元に転がった椅子の破片を蹴飛ばした。
 とっとと調べて除霊をして帰ろうと急かすアンジェに、ウィルバーが首を縦に振る。
 全員が辺りを調べ始めると、家具を動かして裏を覗き込んでいたロンドが、

「おっ!」

と声を上げた。

「どうした、白髪男。何か見つけたのか?」
「ふっふっふ、聞いて驚け黒蝙蝠!お宝だお宝!」

 彼が自信満々で発見場所から引っぱり出したのは、南瓜お化けの形をしたペンダントだった。
 端整な顔が無表情になってその品を見つめる。
 無言である。

「………」
「………」

 にらみ合う犬猿の仲の2人のうち、片方をぺしっと叩いたのはテアであった。

「ただの子供用のおもちゃではないか!!真面目にやれ真面目に!!」
「至って真剣に探した!!!ほら、この飾りかわいいだろ!?な!!?」

かぼちゃ屋敷の夢1

 まるで漫才のようなテンポでぽんぽん言い合う仲間に向いていた視線のひとつが、真剣なものに変わった。
 異界から魔力を引き出すための焦点具――魔法の媒介となる物質が異様な振動をウィルバーに伝えていたのだ。
 これには【魔力感知】の作用があることを思い出し、彼はとっさに叫んだ。

「ちょっと待って、そのペンダント!何か妙な魔力を感じます!今すぐ離れて下さい!!」
「えっ!?」

 碧眼を丸くして驚いたシシリーの後ろで、軽い子供のような声がした。

「あっそびーましょー♪」
「!!」

 ロンドがぎょっとした顔になる。
 手に握っていたペンダントが白い光を放ち――それがあっという間に旗を掲げる爪全員を包み込んで――。

「ん、んー………」

 しばらく気を失っていのか、暗い中で起き上がったロンドは一人きりになっていた。
 頭を軽く振って何が起きたか整理しようとしていると、急に目の前にオレンジ色の光が灯る。
 急変した出来事に警戒して後ずさると、それが形を伴って彼の視界に入り……ジャック・オー・ランタン、万聖節前夜に南瓜で作るお馴染みの灯りであった事に気づいた。

「ん、あれ?たしか俺はボロ屋敷にいたはずじゃ…」
「ふふふふ……呼ばれて飛び出て……」
「お?」
「じゃじゃじゃじゃーん!!」

 気合の入った声と共にロンドの前に現れたのは、白い――シーツお化けだった。
 いや、とロンドは警戒を崩さない。
 子供の仮装にあるはずの足が、こいつにはない。
 お化けはそれを分かっていないのか、

「ようこそ!!我がマイホームかぼちゃ屋敷へーー!!!」

と歓迎の声を上げた。
 スコップを片手に、ロンドはがくっと体を傾けた。
 なんだこれ。

2016/02/26 12:45 [edit]

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