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 そろそろ、秋風に本格的に冬の寒さが忍び寄る頃――。

「あら、もうすぐ万聖節だわ」
「ああ。その前にハロウィンだけどな」

鈍色錆通り
 シシリーが店に置いていた暦を見て呟いたセリフに、テーゼンが相槌を打つ。
 旗を掲げる爪はアルエス駐屯軍との共同作戦を成功させた後、以前に簡単な依頼を引き受けた水の都アクエリアで、仕事を世話してくれるマスターの食料調達の頼みと、またもや放棄された砦に住み着いたというゴブリンの掃討を片付けた。
 前者は純粋な好意から行った仕事として、後者の方は、

「あの赤毛のバイアン殿、よほどにわしらを買い被ったようじゃな。手柄はフォルカス殿のままに、わしらを紹介できる伝手に連絡しまくっておるようじゃ」

というテアの言葉からも分かるように、徐々に彼らの良い評判が水面下で広まっているらしい。
 それ自体はいい事ではあるが、そろそろゆっくりと休みを満喫したいとも思う。
 ところが、ヤシの木などが立ち並んでいた温暖なアクエリアに比べると、リューンの市街で吹き荒ぶ風は、肌を冷やすためじわじわと侵蝕してくるかのようだった。

「ハロウィンってあれでしょ?子供がお菓子もらえるのよね?」

 孤児院ではあまりやらなかった行事のせいか、アンジェの認識はひどくたどたどしいものではあったが、それはそれで間違いではない。
 そのため、一応テアは頷いたものの、その横に座っていたテーゼンは、

「お化けや魔女が魔界から湧き出す日だぜ。だから、子供は自分の魂を取られないように仮装をするんだよ」

と付け足した。

「へえ、仮装かあ…いいなあ。面白そう」
「やりたいのか?なら、衣装を引き受けてくれる人を知ってるぜ」
「えっ、羽の兄ちゃん、本当?」

 ガタッと椅子に――椅子から、ではない――立ち上がったアンジェが、すぐ行きたい連れてってと騒ぎ出す。
 今までそんな人の噂を聞いた事がないシシリーは首を傾げたが、相手とは面識があるという彼の言葉に釣られて、他の仲間達も説得し出かけることにした。
 夕暮れ――紫と朱が溶け合う、微妙な時間帯。
 ハロウィンの準備をちょっとずつ進めている人々を避けるように、小さな路地を選んでテーゼンが先に立って歩く。
 テーゼンと仲が良いとは言えないロンドが、

「まだかよ、黒蝙蝠」

と口を尖らせて文句を言っている。

「もうちょっとだっつーの、戦士って体力勝負なんだろ?我慢して歩けよ…おっと、こっちの道だ」

 結構入り組んだエリアに入ったようだが、彼は全然迷う様子がない。
 その自信ある足取りに導かれて、パーティは石畳と明かりのつかない建物の続くストリート……鈍色錆通りへと入り込んだ。

「アラー!!!また来てくれたかテーゼンさーん!」

 聖北教会の正式なシスター服を着ているのは、金髪のゾンビ娘であった。

「!!!」

 とっさに各々の得物へ手をかけた仲間に、テーゼンが慌てる。

「オイオイオイ、ちょっと待てって。彼女は僕の友達!仮装を手伝ってくれるんだよ」
「仮装って……それじゃ」
「いや、彼女は本物なんだけどさ」
「えっ」

 別に正体を隠す様子もないテーゼンにリーダーが絶句する。
 テーゼンによると、彼女は≪錆の魔女≫という名前で――本名は当人すら忘れている。
 通常は何かに強い未練があってアンデッドと化すのだが、彼女の場合はなにかの贖罪のためにここに縛り付けられているのだと、近くに浮いているジャック・オー・ランタンが口を挟んだ。

「まぁあいつは忘れてるけどな。動死体になると記憶までなくなっちまうのかな」
「死ぬとよほどのことがなきゃ、そこら辺は曖昧になるのかもしれねえな」

と、にこにこ笑顔でいる本人を横に、悪魔と魔物がのんびり話をしていた。
 魔女を名乗る割に魔法も使えない彼女は、唯一の得意技である裁縫を生かして、ハロウィン用の仮装を作っているのだという。
 通常であれば、アンデッドは神の御許へ送ってやらねばならない存在である。
 生きている者に害を及ぼし、歪んでいる遺志をすっかり浄化してやらねばならない――のだが。

「未練がなんだったか本人が忘れてて、裁縫を生きがい(?)にしてるんだぜ。おまけに誰かを襲うより誰かを仮装させるほうに夢中になってる。しかも本当に無料で。なんかあの世に送らなきゃいけねえこと、ある?」

 きょとんとしたテーゼンの美貌は、理解できないと雄弁に語っている。
 最初こそ覚えたての【十字斬り】の使いどころかと思っていたシシリーだったが、さすがにこう理路整然と事情を説明されてしまうと、ウキウキしながら衣装をしまってある箱から取り出し始めた錆の魔女を、問答無用であの世に連れて行くのが躊躇われてしまった。
 おまけに、錆の魔女の顔をしげしげと眺めた後、

「あたしもそんな格好で仮装したい!」

と言い出したアンジェが、大人しく彼女のメイクに身を任せているとあっては、どうあってもここで暴れるわけにはいかなかった。
 結局シシリーも、錆の魔女が勧めるままに天使の仮装をさせられてしまったのである。
 彼女よりも先に、ふさふさの耳と尾をつけたウィルバーが仲間を見た。

「テアは魔女ですか。……めちゃくちゃお似合いですよ」
「おぬしは狼男かえ?ちょいと迫力に欠けるの」
「ねーねー、角があるからテーゼンは悪魔なの?」
「翼が自前だから、たいして仮装せずに済むだろ?そういや、白髪男は…」

 黒曜石のような双眸が、ある一点を見て凍りついた。
 ぴしっ、という音さえ聞こえそうである。

「……おい、白髪男」
「なんだ、黒蝙蝠」
「お前、それ、それって……」
「墓石の何が悪い」

 しーん、と静まり返った鈍色錆通りの一角、当のこの衣装というか被り物を作成した魔女でさえ、

「息出来るように空気穴を開けたから大丈夫、と言い出したのは私ですが、マジで仮装するとは思いませんでした」

と小声で呟いたのが印象的であった。

2016/02/25 12:35 [edit]

category: 鈍色錆通り後のハロウィン・ナイト!

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