Sat.

妖魔の砦その3  

 いくつもの扉があり、そのほとんどにゴブリンたちの声がする。
 いびき声、複数の足音とゴブリン語による話し声、たまに機嫌の良さそうな談笑……それらの扉の向こうに、ゴブリンのリーダーたる存在がいるとは判断できず、旗を掲げる爪は二階にある一番奥の扉の前まで来ていた。
 一人先行して扉の向こうにある部屋の聞き耳を行うと、アンジェははっとして仲間たちの方へとにじり寄った。
「複数の声が聞こえるけど、そのひとつに他とは違う威厳のようなものを感じるわ」

妖魔の砦4

「……間違いないな。ここだろ」

 ロンドが断じると、他の仲間達も頷いた。
 施錠と罠の有無を確認しておいたアンジェは、どちらの心配も要らないと報告している。
 ウィルバーはすぐ妖魔たちとの戦闘に入るだろうと予測し、仲間たちの怪我を減らすべく【魔法の鎧】を唱えた。
 不可視の鎧が自分たちの体を覆ういつもの感覚に、革鎧の感触に心許ない表情をしていたロンドが顔を輝かせる。
 少し笑ったウィルバーが、【理矢の法】を唱え終わってから彼の背中を叩いた。

「いつものように頼りにしていますよ」
「お任せあれってな」

 その勢いのままに、武骨な手が扉を開ける。
 旗を掲げる爪の闖入に対してゴブリンたちが慌てて得物を構える。
 だが、その中の一際立派な体格と装備の一匹は、落ち着き払って一瞥を投げただけであった。

「……白髪男みたいなゴブリンがいる」
「ぶっ」

 しげしげとロード種を眺めやった後に零したテーゼンのセリフに、思わずアンジェが吹いてしまった。
 ロード種は彼らのやり取りにやや訝しげな顔を作ったものの、威厳をまったく損なうことなく己の主張を繰り広げた。

「…人間よ、自らの所業に疑問を感じぬのか?元よりこの砦は放棄されていたものなのだ」
「何を仰りたいのです?」
「我々は住処を追いやられ、ここに安住の地を求めてやってきたに過ぎぬ。好んで人里近くになど住まぬわ」

 気を取り直し、トン、と槍の石突で床を叩いたテーゼンが言う。

「人間の家畜等を奪っておいてよくそんなことが言えるな」

 元より彼は、人の倫理に縛られるものではないが、人間側から見てもロード種の主張がおかしいのは分かる。
 肉を欲し、家畜を食べたいと思うのなら、その営みを自分たちで行うべきであろう。
 横から生計のために育てていた家畜を奪われた農民たちの暮らしは、妖魔たちがどう主張したところで立ち行かないのだから。
 第一、妖魔にしろ人間にしろ、横から成果を奪うものは罰せられるものなのである。
 シシリーが腰に佩いた剣をスムーズに抜く。

「お望みの安住の地へと私たちが送ってあげましょう。もっとも、あなた達が天国に行ければの話ですが」
「禅問答してる場合かよ!さっさとカタを付けるぜ!」

と叫んだバイアンも、腰に差していた小剣を抜き放った。
 ある程度の広さがあるとは言え、一応は室内。
 長い柄の武器は不利と見て、すでにテーゼンは槍を短めに持ち、振り回すのではなく突く体勢に入っている。
 彼はそのままロード種へと突撃した。
 ガイィィィン!!という鋭い金属音が響き、テーゼンが腕のしびれを誤魔化すように言った。

「…いい鎧を着てやがる。こいつは物理攻撃でダメージを与えるのはちょっと骨が折れそうだぜ」

 それを聞いたウィルバーは、【蒼の軌跡】を唱えながらロード種までの射線を確保せんと、じりじり角度を変えている。
 パーティはすでに、この妖魔の集団にゴブリンシャーマンが2匹もいることに気づいている。
 一撃で奴らを仕留められるかどうかが分からない以上、後の者でまずは一匹ずつシャーマンを攻撃していくのが最良のように思われた。
 ロンドとシシリーの攻撃でシャーマンの一人が倒れ、攻撃後に体勢を崩していたシシリーや、詠唱に集中していたウィルバーがゴブリンたちによって軽傷を負ったものの、その猛攻が止まることはない。

「咲いては散りゆく薄紅を、追って薫るは懐かしさ……帰りたいあの頃に……」

 テアの歌う【まどろみの花】が、魔法にさほど抵抗力のないゴブリンやホブゴブリンたちを眠らせていく。
 驚くほどの手際のよさに、バイアンが妖魔たちの攻撃を避けながら呆気にとられていた。

「あんたら…これで駆け出しから抜けたばかりだって?冗談だろ?」
「冗談じゃねえよ。ベテランなら、もうちょいうまくやるさ」

 携帯用の強化した薬草を、肩に傷を負ったシシリーへ投げながらテーゼンが応じる。
 停滞とはかけ離れた動きで、室内であることをものともせず天井ギリギリを通過して、生き残ったシャーマンの背後を取り攻撃する。
 慌ててテーゼンへ向き直ったシャーマンを、今度はアンジェがダガーで刺した。
 手負いのくせに恐るべし膂力でホビット娘を追い払おうとするロード種だったが、もう一度【蒼の軌跡】による冷気が、上等の鎧に身を包んでいるはずの彼の体を吹き飛ばす。
 冷気を発した手をかざし、額から血を流したまま、ウィルバーがロンドに指示を飛ばした。

「ロンド、今です!」
「よっしゃ、もらったあああ!」

 燃え盛るスコップを上段から突き下ろす。
 ただのスコップと侮って嘲ろうとしていたロード種は、まるで日干しレンガでも割るように胸甲をぶち抜いた得物を驚愕の目で見つめ……そのまま、息絶えた。
 残っていたゴブリンたちは首領の死を信じられないという目で見ていたが、その鈍い頭にもやっとそれが現実として染み込むと、戦意をたちまち喪失して逃げ出した。
 後は狼煙を上げることで任務の成功を伝えるだけだ。
 そうすればアルエス駐屯軍があの参謀殿と一緒にこの砦へと突入してくるだろう。

 ――翌日。
 再び参謀の前に立った旗を掲げる爪の前には、報酬の入った皮袋が置いてある。
 その向こうにいるフォルカスは相変わらず態度が横柄だが、口の端がともすれば綻びそうになるのを必死に抑えているのが分かった。

「…今回はよくやってくれた。約束の報酬だ、受け取ってくれ」
「では、遠慮なく。シシリー」
「ええ」

 金髪のリーダーがそっと報酬を受け取ると、それを嬉しそうに眺めていたバイアンが口を開いた。

「いやー、お前等すげえよ。アルエス駐屯軍が大苦戦の厄介なゴブリンどもをやっつけちまったんだ」
「その後の掃討作戦を無事成功させたのが、アルエス駐屯軍なのを忘れて貰っては困るな」

 むっとした顔つきに変わったフォルカスを、抑えて抑えてとでも言うようにバイアンが両手でジェスチャーする。

「わーってるって。…ま、悪いけどよ、こいつのためにも手柄は譲ってやってくれよ」
「勿論構いませんよ。私たちは報酬さえいただければ何も文句はありません」

妖魔の砦6

 とりわけ、こんな労苦にちゃんとした相場で報いてくれたならば。
 ウィルバーは後のセリフを口に出さずに飲み込み、にっこり笑った。
 今回の戦い方によほど感銘を受けでもしたのか、次に会う機会があれば一緒に仕事をまたやろうと持ちかけるバイアンや、これから何か関わることがあれば良いように計らうと約束してくれたフォルカスに彼らは別れを告げ、エールやジュースで祝杯を上げんと≪狼の隠れ家≫への帰途に着いた。

※収入:報酬1200sp+800sp
※支出:
※その他:SARUO様の水の都アクエリアにて”食料調達””ゴブリン城砦”をクリアし、【活力の歌】≪火晶石≫を獲得。
※匿名様&クエスト様作、妖魔の砦クリア!
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■後書きまたは言い訳
8回目のお仕事は、匿名様&クエスト様の妖魔の砦です。
初のハイリスクハイリターンシナリオ!…それでも妖魔退治なのがあんまり仕事変わってないって?
いいえ、ただのゴブリン討伐だと甘く見ると、ひどい目に遭います。
……初回のあれが忘れられない……。
クエスト様のAdvancedCharacterMakingでクラスクーポンをつけておくと、今回のシナリオの判定に反映されます。
あまり能力判定に自信のないパーティをお使いのプレイヤーさんは、ぜひお試しになってみてください。アイテムを上手く使えば、あるところも上手くかわしていけますよ。
今回は買い物こそしてませんが、SARUO様の水の都アクエリアにまた立ち寄らせてもらい、お仕事をしてきました。
おかげさまで呪歌ひとつゲット!もちろん、お婆ちゃんにつけてあります。
実はすでに全員4レベルまで到達しているのですが、面白いシナリオを楽しむために3レベルのままで遊んでおります。
このレベル帯のまま、次回はいよいよ気軽なお祭り騒ぎに突入しようかと……。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/02/20 12:32 [edit]

category: 妖魔の砦

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