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妖魔の砦その1  

 本日、旗を掲げる爪が着席して話を聞いているのは、珍しいことに≪狼の隠れ家≫ではなくアルエス駐屯軍の兵舎の中であった。
 装飾といったものを一切省いた簡素だが頑丈な建物に、居心地の悪さを感じながら彼らは席についている。
 それというのも、アルエス近辺の砦に妖魔――ゴブリンやホブゴブリンの群れが住み着いてしまい、砦がもともと持っていた防御力の強さにいまだ駐屯軍が攻めあぐねているため、ついに冒険者の手を借りて、妖魔の首領を狩ってしまおうという計画が持ち上がったからである。

妖魔の砦

 そのお鉢が、≪狼の隠れ家≫に所属している彼らに回ってきたわけだった。
 こないだの狼退治の依頼が早く済んだことで、思いがけない評判が伝わっているのかもしれない。
 旗を掲げる爪の目前にいる若き参謀には、エリートらしい横柄な態度を崩さないまでも、その強い光を放つ黒瞳の中に、冒険者たちへの期待が垣間見えている。
 恐らくは士官学校の出身なのだろう。
 彼の一挙手一投足には、よく鍛えられた軍人にありがちな自信と、規律に従う者によく見られる抑制がちらついていた。
 涼しげな目元をして長い黒髪を一つにまとめた彼は、フォルカスと名乗った。

「用件は貼り紙の通りだが、改めて内容を確認させて貰う。今回我々が依頼するのは砦に拠るゴブリンの討伐だ」
「砦について少し詳しく教えていただけますか?」

 ウィルバーのもっともな言葉に、フォルカスは軽く頷いて卓上に置いた手を少し硬く握り締めた。

「奴等が立て篭もる砦は、所謂動乱期の城砦のひとつ…妖魔や山賊の根城になり易い放置された石組みの建造物だな」
「そのような不安材料を当局は今まで無視していたのですか?」
「私からもアルエスの行政に注意を促していたのだが、予算不足で取り壊しは当面延期となっていた」

 切り込むような鋭い指摘に動揺することもなく答えると、彼はふっと息をついた。

「が、実際に発生した脅威は我々アルエス駐屯軍の管轄だ。尻拭いをするのは癪だが、現状に対処せねばならん」
「でも、アルエス駐屯軍はゴブリン達に撃退されたんでしょ?」
「これ、おちびちゃん……」
「…そうだ。奴らは堅固な砦を活用して組織的に防衛を行った」

 恐らくは、ゴブリン達を統率する存在――ロード種がいるとしか思えない。
 緑色の肌と凶暴な性情、そして繁殖力の強さで知られているゴブリンだが、駆け出しを脱した冒険者たちにとっては雑魚に近い。
 ただし、それがシャーマンのように魔法を使う個体や、ロードと呼ばれる知能の高さと体の頑健さを併せ持つ個体であれば話は別だ。
 烏合の衆としか呼べないゴブリン種が、ひとたびそれらの統率を得られた時の手強さは、中堅以上の冒険者とて決して侮れるものではなくなってしまう。
 だからこそ、アルエス駐屯軍にさえ対抗できているのだろう。

「ともあれ、これ以上の失態は我々の沽券に関わる。だが、正攻法ではこちらの損害が増えるばかりだ。敵の大将の首級を挙げて早々に決着を着ける必要がある」
「そこでわしらの出番というわけじゃの」
「そういうことだ。君たちの働き如何で戦況は大きく左右される」
「うむ。詳細を聞かせてもらえるかの?」
「今回の作戦はこうだ。我々が砦の正面に布陣してゴブリンどもの注意を引き付け、君たちが裏門から砦に潜入する」
「なるほど、陽動作戦ですか……オーソドックスですが効果的な手ですね」
「侵入するルートは決めているのか?」

 常人よりひとまわり以上大きなサイズのロンドが、椅子からはみ出そうな体をどうにかこうにか落ち着かせようと、無駄な努力を払いながら訊ねる。

「砦の裏側は断崖だが、少人数なら登攀も可能だろう。首尾よく潜入に成功したら敵の首領を討ってくれ。我々は所定の時間までに君達の狼煙がなければ、奇襲が失敗したと見なして止むなしの正面攻撃をかける」
「ちょっと待ってくれ」

 フォルカスの話を止めたテーゼンの視線は、テアとロンドを捕えている。

「その崖は本当に登攀可能なんだろうな?」

 テーゼン自身は、翼があるのだからどんな崖だろうとなんら問題はない。
 他の仲間達も、崖の角度やロープの補助さえあればどうにか超えられるだろう。
 だが、身体能力が衰えているテアと、筋肉量が多いためにかなり重いロンド。
 この2人はとても登攀向きではない。

「…そうだな。バイアン、中に入ってくれ」

 フォルカスは予めその件について手を打っていたらしい。
 参謀の声を受けて部屋に入ってきたのは、若い冒険者風の男だった。
 彼はパーティに快活な笑顔を閃かせた後、アンジェが目を丸くするほどの滑らかな動作でフォルカスの横に移動した。

(……この人、十中八九盗賊だわ。)

 アンジェは心の中で呟いた。
 砦に侵入する裏道の案内は、彼が引き受けてくれるという。
 不思議なことに、フォルカスとはかなり親しい仲であるのか、

「よろしく頼むぜ、兄弟。フォルカスの奴、ここで失敗すると中央に戻れないかも知れないからな」

等と軽口を飛ばす余裕すら見られる。

 妖魔の砦1

「なっ!お前は…いらんことを!それに言葉遣いには気をつけろ!」
「へーへー。幼馴染の俺にもそういう態度でございますか、中央のエリート様は…」
「ちっ…」

 鋭い舌打ちの後に、公務中だぞという釘刺しの声は、それでもずいぶんと温かみのあるもののように冒険者たちには思われる。
 少しフォルカスの肩に入っていた力が抜けた、と見て取ったウィルバーが、報酬の値上げをこのタイミングで頼んでみると、参謀は難しい顔になってしばし考え込んだ後、首肯して契約書の報酬欄を書き換えた。
 銀貨1000枚が1200枚になったところで、バイアンが忠告する。

「さて、問題の崖の話だが、軽装備で少人数ならロープで登ることができる」

 もっとも、それは金属鎧を着ていなければの話である。
 それを指摘されて渋い顔になったロンドは、嫌々ながら鎖帷子を脱ぎ、兵舎にある在庫の革鎧を代わりに貸してもらったが、ずいぶんと着心地が悪いようだった。
 
「崖を登った後はどうするんだ?」

 テーゼンの問いに、バイアンは明瞭に答えた。

「ゴブリンの砦の裏手までそのまま一直線だ。間の森には狼や熊もいるから気は抜けないけどな」

 かなり慎重に綿密に調べてきたのだろう、その答えには信頼が置けるようだ。
 そんな彼でも、さすがに砦の中の見取り図までは手に入らなかった。
 つまり、砦に入った後の行動は冒険者たち自身の裁量となるわけである。
 作戦決行日までに、その場へバイアンを含めた全員が集合する手筈になる。
 健闘を祈る、と言ってくれたフォルカスに各々が首を縦に振ると、彼らは目的地へと出発した。

2016/02/20 12:26 [edit]

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