Sat.

遺跡に咲く花 1  

「おぉ、おはよう。もう、昼過ぎだぞ。いくらなんでも寝過ぎじゃないのか?」

 しょぼしょぼした目を瞬かせて起きてきた”金狼の牙”一行に、宿の親父さんが声を掛ける。
 が・・・・・・。

「・・・・・・・・・」

 愛らしい顔を眠気に歪めたミナスは、まだ頭が前後にフラフラ揺れている。

ScreenShot_20121112_155929015.png

 後ろに立っていたギルが、慌ててミナスの体を支えた。
 ジーニが、ゆったりと伸びをしながら親父さんに言う。

「だって・・・・・・フォーチュン=ベルから帰ってきたばかりで、疲れがなんだか取れなくて」
「まぁいいさ。こないだの依頼でたんまり儲けたんだろう?たまにはゆっくりするのもいいだろうよ」

 親父さんの言う「こないだの依頼」とは、紅き鷹旅団というモグリの盗賊団を、盗賊ギルドに代わって壊滅させた事件である。
 盗賊団に加勢していた魔術師は逃したものの、手ごわいとあらかじめ忠告されていた首領を見事討ち果たし、中々の手際だったと依頼人からも誉められた。
 その時に手に入れたお宝を近くのフォーチュン=ベルで売却・練成し、やっと帰ってきたのが昨日の夜のことである。
 宿の親父さんが微かに笑みを口の端に上らせて、

「さて、朝飯を作ってやろう。いや、もう昼飯だな。テーブルで待ってな」

と促し、笑いながら店の奥の調理場に入ろうとしたとき、店の扉を開けて一人の女性が入ってきた。
 荒事にはおよそ不向きな、華奢な体型。コーラルピンクの唇が可憐な、若い女性だ。

「おや、いらっしゃい。お食事ですかい?それともお泊まりかな」

 親父さんは怪訝そうな表情を隠そうともせず、その女性に尋ねた。
 宿の親父さんが訝しがるのも無理はない。
 その女性の身なりからは、とても冒険者や旅人には見えない。

「あの・・・、こちらで冒険者の方を雇えるって聞いたんですけど・・・」
「あぁ、仕事の依頼だね。ちょっと、待ってなさい」

 親父さんは溜め息をついた様に見えた。
 無理も無い。こんな何処にでもいるような女性が冒険者なんぞに依頼に来るという事は、それは不幸な境遇にいるからに違いない。
 そして、親父さんは奥の棚から紙を持ってきた。

「それじゃぁ、この紙に依頼内容を書いてくれるかな。なるべく詳しく書いておくれよ」

 まるで初めて字を習う子供に言い聞かせるかのような、物柔らかい態度で親父さんは彼女に接している。
 その様子をこっそり眺めて、ギルとアレクが顔を寄せ合って相談した。

(おい、アレク。今日の宿って、俺たちくらいしか真っ当に動けそうなのはいないんじゃなかったか?)
(ああ。確かアイリーンのパーティは戦士が骨折、ミロンの奴は魔術師が里帰りしてるんだったな。)
(他の格上のパーティならいけるかもしれねぇが・・・)

 こそこそした二人を知ってはいるものの、あえて無視して親父さんは彼女に報酬を尋ねた。

「えぇ。えっと、500sp・・・」

(こりゃいかん。その報酬で雇えるまともな面子は、俺たち以外にないぞ。)
(・・・・・・引き受けるのか、ギル。)
(じゃないと、彼女が困るだろ。)

「ふむ。そして、次に・・・」
「ちょっと待って、親父さん」

 幼馴染同士の会話が耳にずっと入っていたのだろう。
 お人よしのアウロラが、絶妙のタイミングで声を掛けた。

「ん、どうした?お前さん達が引き受けてくれるとでもいうのか?」
「ええ。うちのパーティのリーダーも、そのつもりのようでしたから」
「そうか。よかったな、お嬢さん。こちらの冒険者の方が依頼を引き受けてくださるようだよ。見かけは弱そうだが、仕事の腕はわしが保証するよ」
「『見かけが弱い』なんて、大きなお世話だ!」

 親父さんの余計な一言に、ギルが大きな口をあけて反論したが、ギルにも親父さんが安堵していたのは分かっていた。
 他の面子が紹介できない以上、”金狼の牙”が受けなければ、この依頼がいつ冒険者の目に止まるか知れないだろう。
 リィナ、と名乗った依頼人からいろいろ話を聞く間、親父さんは後を任せたと言って調理場の方へ入っていった。
 リィナによると、彼女の弟が病気で倒れたのは2週間ほど前の事だった。
 弟は寝ていれば直ると言っていたのだが、2日、3日と経っても一向に病状は回復しない。
 そこで、リィナは村の医者に、弟の病状を診てもらう事にした。

『申し訳無いが、これはちょいとやっかいな病気じゃぞ』
『えぇ?・・・では、この子は・・・』
『待ちなさい。やっかいだとは言ったが、治らんとは言うとらんぞ』

「・・・・・・で、その病気を治すお薬に必要なのが・・・」
「ええ。フィロンラの花、というそうです。私も初めて聞いたんですが、非常に希少価値のある花とか・・・」
「フィロンラかあ。やっかいなのは確かね」
「知っているんですか?ジーニ」

 リィナが語った依頼の事情から出てきた花の名前は、ジーニの既知のものだったらしい。
 アウロラが尋ねると、ジーニは「大雑把にだけどね」と付け加えてから全員に説明した。
 フィロンナの花は、一説によると古代文明期の有名な魔道師が作り出したとも言われ、野生のものはほとんど残っていないという。
 リィナが頼った医者の話にも、ジーニの記憶にも、フィロンナの花がさる遺跡で見つかったのは30年も昔のことだという。

「そっか。僕らにその遺跡に一緒に行って、花を見つけて欲しいんだね」
「はい。この”狼の隠れ家”のご主人は、村の先生の古い友人だと言ってました。どうしても行くというのならば、ここで冒険者を雇いなさいって」

 特製の具タップリのスープと焼き立てのパンが、いい匂いと湯気を立てながら、親父さんの手によって調理場から運ばれてくる。
 リィナも、「その様子だと、今日はまだ何も食べていないんだろう?」と薦められ、パンをひとつ手に取った。
 冒険者達とリィナは、店の自慢料理である具たっぷりのスープにしばしの間、舌鼓を打った。
 空腹を満たした”金狼の牙”は、引き受けた依頼に対して、病気だというなら早いほうがいいだろうと手早く準備を済ませ、遺跡に案内役のリィナを伴って向かった。

2012/12/01 08:17 [edit]

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