Sun.

そこにいるその5  

 急ぎ、村に帰った冒険者達が村人と総出で西の岩山で見つけた子供達は、死因の違いはそれぞれあれど、状況からして不慮の事故に遭い、亡くなったものと推測される。
 夜更けまで捜索を手伝った旗を掲げる爪に、村長は丁寧に礼を述べて報酬を支払った。
 あの岩山は、今回のことから完全に封鎖するという。
 それでも、亡くなった子供達のことを忘れるつもりはない、と彼は言う。
 これから違う形で事故の件を言い伝えようというのか…村長がそのことに言及する様子は無かった。
 カリアの叔父については、もう村には戻ってこないだろう事を村長も冒険者たちも分かっていた。

「もし見つけたら、しばき倒した上でこの村に連れてきて下さい」

と、村長は憎々しげに吐き捨てた。
 時に、大都会の刑罰よりも、田舎の村人による私刑の方が惨いこともある。
 しかしシシリーにとって、そんな重い気持ちを、これまで子供達が無事であるよう必死に祈ったに違いない素朴な彼らに背負わせるのは、ひどく良くないことのような気がした。
 踵を返し始めた一行に気づいた村長は、

「お帰りになりますか?」

と声をかけた。

「盗賊こそいませんが、夜道は危ないでしょう」
「……まあ、普通ならな」

 肩をすくめたロンドへ、先ほどの憎悪に歪んだ顔から、一変して申し訳なさげな表情になった村長が懇願する。

「せめて夜が明けるまで、この村で休んでいてください。明日の朝には馬の疲れも引いて、朝一で馬車を――」
「いえ」

 静かにウィルバーが首を横に振る。

「走って帰ります。馬車ではなく、走って帰りたい気分なんですよ」

 集会所から出発し、集落を出てある道をまっしぐらに駆けていく他の仲間達に、怪訝そうな声でアンジェは尋ねた。

「別に急ぐ旅じゃないんだから、ひと晩くらいゆっくりしても…なんで全力疾走?」
「朝まで待っていたら逃げられてしまいますよ」

そこにいる9

 静かだが、その分込められている怒りは計り知れない――そんな声だ。
 びくり、とアンジェは首を竦ませた。
 ふと、人の気配を前方に感じ……その人影が誰であるかに気づき、きゅっと彼女は顔を強張らせた。

「…。こんな夜遅くに、まさか走って追ってくるとは思わなかった」

 カリアの叔父である若い男は、悔しげに顔を歪ませて帽子に手をやった。
 手のやり場がない、だからつばを掴む――言葉にしなくても、それはそういう行為だった。
 結果的に、彼自身の顔を冒険者に見えづらくなったのだとしても。

「言い訳なら聞いてあげます」

 ゆらり、とウィルバーが前方に立った。
 そのすぐ後ろでは、テーゼンがすぐ妙な真似をしたら男へ飛びかかれるよう、体勢を整えている。

「――本当のことを話しなさい!」

 ぴしゃりとした鞭のような魔術師の声に、本当に打たれたかのごとく身を震わせて、

「…俺は悪くない。何も悪いことはしていない」

と男は合間に繰り返しながら語った。
 出稼ぎの仕事でいい加減疲れていたこと。
 見張り中にうたた寝をして、その間隙に子供達が禁足地に入ってしまったこと。
 いなくなった子供の妹がそれを見ていたが、脅して口外を禁じておいたこと。

「それでも夕方くらいには帰ってくるだろうと思ってた。けど、帰ってこなかった」
「……どうして」

 激情にかられまいと必死に制御しながら、震える声でシシリーは問うた。

「それを最初から言わなかったのですか!」
「子供たちも心配には思ったが、それ以上に俺自身が心配だった。こんなことがバレたら、村を追い出されてしまう」

 男はどこまでも自分勝手だった。
 だからこそ、シシリーの問いに返した答えは到底納得できるようなものではなかった。

「見張りをサボってたから子供が帰ってこなかった…なんて、言えるわけないだろ」

 ここで初めて、男はふっと身体から力を抜く。
 そして笑った。
 奇妙に歪んだ笑顔は、泣いているようにも見えた。

「盗賊騒動を作ってそいつらのせいにしようとしたり、色々やってみたんだが…どうも、うまくいかないな。まあいい」
「……どういうことです」
「俺はもう、あの村には帰らない」
「自分のやったことにケジメもつけず、子供を亡くした親たちに謝罪もせず、どこに逃げれると思うんですか!」
「ケジメ?謝罪?俺は悪くないんだ。子供達が悪い、以上」

そこにいる10

 あまりの身勝手さにそれ以上責める言葉が見つからないシシリーを気遣い、アンジェがそっと彼女の背中を擦る。
 2人の横では、ギリギリと話の途中から歯噛みをしていたロンドが、抑えきれないとでも言うように拳を固めていた。
 あまりの握力の強さに、握りこんだ爪が傷を作って血が出ている。
 それにも気づかず、男はへらへらと奇妙な笑みを浮かべ続けている。

「ま、過ぎたことだ。忘れてくれよ」
「こいつ……ふざけるな」
「お前らは関係ないだろ。それに、少しは罪悪感もあるんだぜ?」

 後がどうだろうと構いはしない、一発といわず十発は殴ってやろうとロンドが構えたのと同時に、

「本当に?」

という、氷のような声。

「……えっ」

 さすがに異常に気づいた男が声の方を見やると、いつ彼に接近していたのか、あの双子の幽霊が傍で微笑んでいるではないか。
 ススッと優雅な仕草で男に近づいた一人は、葡萄酒色の瞳に冷酷な感情を乗せて彼を見つめた。
 小作りの形の良い唇が、優しげに言葉を紡ぐ。

「じゃあ、連れて行ってあげる。みんなのいるところに」

 たちまち男を囲んだ青い鬼火――ウィスプの群れに、彼は絶叫をあげた。

「わあああぁぁァァ!!?お、お前らは、昔死んだはずの…ひっ!?」
「くすくす」
「ふふっ」

 双子の幽霊は、悲鳴を上げる男が道化のように滑稽だとでも言いたげに笑っていた。

「ぼ、冒険者!助けてくれ!死にたくないんだ!」
「だからどうした?」

 ロンドは助けに入ろうとしたシシリーを止めて、真っ直ぐ彼の恐怖に見開かれた目を見返した。

「……子供たちも、死にたくなんてなかったろうよ」
「ロンド……」
「お前、この期に及んで、あいつを助けるべきだと思うか?」

 シシリーはそう問われ、しばし迷った。
 子供達の幽霊に男を委ねれば、村人たちが彼を裁くことができなくなる。
 だが、所詮それがどうだというのだろう――恐らく、裁きの結果、無残に子供たちを死なせる原因になった男が辿る道は、幽霊が彼を連れて行こうと思っている場所と結果的に変わらないはずだ。
 ジェインの顔を思い浮かべる。
 必死に孫を探したいと願っていた、初老の男の疲れきった顔を。

「……さようなら」

 シシリーは一つの決断を下した。
 もうこれ以上、あの孫を失った男に重荷を背負わせたくは無い。

「お、おい!?俺を、見殺しにする気か!」
「ケジメも謝罪も、行なうつもりが無い。そんな人を連れて行っても、村の皆さんには憤りと辛い記憶しか残らないでしょう。なら、ここであなたを裁くほうが正しいと――私は思うわ」

 シシリーがそう決断を口にすると、もう助かる手段がないことを理解した男は絶望に覆われた。

「――ひっ、うわああああ!?」
「あの世で子供達に詫びなさい」

 ……ある村で、子供が4人と、数日後には男が1人行方不明になった。
 子供達は、岩山で足を滑らせ遺体となって戻ってきたが、男は影も形もなく、乗っていた馬車だけが発見されるに留まった。
 そこにいたのに。

※収入:報酬600sp+200sp、【隠し薬草】→テーゼン所有、【手当て】を300spで売り払い。
※支出:モノクローナム・カトル(しろねこ様)にて【盗賊の手】購入。
※ituka様作、そこにいるクリア!
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■後書きまたは言い訳
5回目のお仕事は、itukaさんのそこにいるです。
今までほわほわした感じがぬぐえない冒険者たちですが、かなり緊迫した重いストーリーの作品を選択し、リプレイにすることにしました。
自分たちには手の届かないところで事態が動いてしまう仕事だってある、という現実を突きつけられたと思います。
冒険を続けていく上で、必ず遭遇せずにはいられないやりきれなさが現われていたらいいなあ…私の文章の力不足で、itukaさんのシナリオの良さが伝わってなかったら大変申し訳ございません。
ちなみに、こちらのシナリオ結末があと5つございまして。
今回選んだルートですと、冒険者たちはもう少し真相に気づくタイミングは遅い(戦う時まで彼を疑ってなかった)ようなのですが、人生経験豊富なお婆ちゃんと、お気楽といえども一応悪魔がついておりますので、ちょっと早めに疑問を持たせてみました。
彼らが語ってるのはほぼ、私がはじめてプレイした時の疑問点ですね。
TRPGでこの作品遊んだら、もっといろいろ情報収集に走れそうな……きっと面白いだろーなー。

あ、なお、SARUOさんのアクエリアでもらっていた【手当て】を野伏のテーゼンに持たせていたのですが、今回それを売り払って【隠し薬草】を新たにつけています。
物語的には、【手当て】の技術を売った金を元手に、【隠し薬草】に必要な器具や薬草を揃えたつもりです。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2016/02/14 11:56 [edit]

category: そこにいる

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