Sun.

そこにいるその4  

 ジェインの馬車に同乗させてもらい、リューンへの通り道の中ほどで馬車から降りた冒険者たちは、『大男・眼帯の女性・緑色の魔女』という3人組の賊を探して、小さな森の中を彷徨っていた。
 しばし屈みこんで辺りを調べていたアンジェが、立ち上がって仲間に呼びかける。
そこにいる5

「…足跡が3人分。間違いなく、奥の方へ続いているね」
「そうか」

 短く応答したロンドは、そのままテアの背負っていた荷物袋をひょい、と横から奪うと、黙って背負って歩き始めた。
 森の中の道は酷く荒れており、彼女には重労働だと感じたからだろう。
 無言のまま荷物を持っていかれたテアは、始めこそ呆れたように口を開けていたが、ロンドの気遣いなのだと分かると、小さくすまぬと呟いてまた歩き始めた。

 先行していたアンジェが戻ってくると、沢とでも呼びたくなるような細い流れに差し掛かっていると報告した。
 シシリーがそっと質問する。

「足跡は?」
「消えたけど、盗賊たちは間違いなくこの先を進んでいるよ」
「どうしてそう言い切れます?」

 訝しげなウィルバーの問いに、げんなりした顔のアンジェが、ちょうど旗を掲げる爪に向かってきている平べったい粘液のようなものを指して言った。

「よく分からない生物の残骸が向こうに続いているもん」
「で、アレはどうしたらいいわけ?」
「さあ?」

 アンジェとシシリーのやり取りに、二人分の荷物を既に下ろしていたロンドがスコップを構えて唸る。

「邪魔なら排除するだけだ」
「野蛮だなあ。だから脳みそ筋肉って言われるんだぜ、白髪男」
「言ってるのはお前だけだ、黒蝙蝠!」
「あなた方、いい加減にしてください。ほら、もうすぐ傍まで!」

 そのスライム状の生き物は、見た目に反して物理的な攻撃でも倒せることが判明したが、自爆による爆風でこちらにダメージを負わせる点だけが厄介だった。
 二度ほど遭遇した後、一行はしばし休憩を取ることにした。
 重傷を負った者こそいないが、ロンドは敵の自爆の際、隣にいたシシリーを庇って足に傷を負っている。
 また、身振り交じりに呪文を唱える必要上、薄い鎧しかつけられないウィルバーも、他よりは痛そうに顔をしかめていた。

「親父さんのサンドイッチがあっただろ。食っちまおうぜ、どうせ今日中に駄目になるもの」

 テーゼンの提案に、皆が賛成した。
 余った分は、もし失踪していた子供達が見つかった時に食べさせられるよう、念のためアンジェが携帯しておくことにした。
 十分ほど歩いたろうか、ふと右手にあった茂みの乱れに気づき、そこを触らないよう用心しながら調べていたテーゼンが、這い蹲って隙間を見通すようにしてから、そっと離れてアンジェを呼んだ。
 無言のまま、手で合図して自分の見たものを彼女にも確認させる。
 その体勢のまま2人は囁いた。

「アンジェ。間違いなく、3人がいるな」

そこにいる6

「うん。開けたところにいるみたいだから奇襲は難しいかも。真正面から挑もう」
「いえ、ちょっとお待ちなさい。せめて防御魔法くらいはかけさせてください」

 2人のやり取りに気づいたウィルバーが、小声で【魔法の鎧】を唱える。
 
「術の負担はつらいですが、これくらいはしておくべきでしょう」
「ありがとう、ウィルバー」

 不可視の鎧に手を置いたシシリーが、戦闘の予感に顔を強張らせる全員へ安心させるように微笑む。

「行きましょう。私たちなら大丈夫よ」

 茂みから進み出ると、スキンヘッドの大男がオウと警戒するように唸った。
 彼からやや斜め後ろに陣取った眼帯の女は、

「…人数通り。なるほど」

と手に持っていた獲物を構えて交戦する様子を見せた。

「問答無用だな」
「何か口上でも必要かしら?」

 テーゼンの言葉に緑色の肌をした魔法使いらしい女が皮肉げに嘲る。
 そう、あちらが自分たち冒険者を邪魔だと排除するのなら――こちらは火の粉を払うだけ。

「さあ?」

 同じ異種族同士、それでも陣営が違う2人はそれ以上のコミュニケーションを放棄した。
 回復手段を持つのは、魔法使いか、それとも眼帯の女か――まさか男の方ではあるまいととっさにどちらか迷ったウィルバーは、奥の狙いづらい位置に立つ魔女を諦め、眼帯の女に【蒼の軌跡】を放つべく狙点を定める。
 ウィルバーの仕草に気づいたシシリーとテーゼンは、まずテーゼンが【薙ぎ払い】で血路を開き、シシリーが眼帯の女へ一直線にかかって行くことにした。
 テアは咳払いして【まどろみの花】を歌おうとしており、今は回避がしづらいロンドは、一番手前に立とうとしているスキンヘッドと戦うつもりだ。
 アンジェは大回りして、魔法使いの女にフェイントをかけ、呪文詠唱の邪魔をする予定である。

「おりゃああああ!」

 槍を勇敢に振り回したテーゼンは、柄のしなりを利用して3人の敵の足元を薙いだ。
 見事にスッ転んだところを、ロンドが構えていたスコップでひっぱたく。

「そーらよ!」
「ぐっ」

 頭を殴られ、脳震盪でも起こしたのだろうか――男は白目を剥いて倒れた。

「えっ、えっ!?」

 仲間のピンチに慌てた様子の眼帯の女へ、容赦なくシシリーが長剣を抜いて詰め寄り、下から突き上げるようにして攻撃する。

「余所見は……危ないですよっ」

 左肩をえぐった傷は、かなり深いものの致命傷にはならない。

「ふっ……くそっ……」

 辛うじて持ちこたえて立っていた女は、それでも懸命に左手を動かし、何かをしようとしていたが――不意に聞こえてきたややしゃがれた声の呪歌に、がくりと膝をつく。
 視界の端には、同じように詠唱の途中で眠気に襲われてしまった魔女が映った。

「な……に……」

 離れようとする感覚を、必死で引きとめようとするも――その身体を、戦場に来る前の【理矢の法】で作り出されていた魔力の矢が貫き、今度こそ意識を奪った。
 後はくどくど述べるまでもあるまい。
 接近戦を防いでくれる護衛がいない魔法使いが倒れるまで、十秒はかからなかった。

「…オウ。強すぎる、こいつら…」
「盗賊が出るから注意とは依頼主から聞いていたけど…ここまで、とは」

 詳しい事情を聞きだすため、倒れた順にテーゼンが応急手当を施すと、気絶から起きたばかりで朦朧としている魔女を庇った2人が、ため息をつきながら言った。
 テアが何も知らないフリをして尋ねる。

「……どういうことかね?」
「……?あなた達って盗賊よね?最近、噂になっているという」
「いいや。どういう話を聞いてきたのか、詳しく知りたいのう…聞かせてくれるじゃろうな?」
「…まあ、その。ひとまず、落ち着いて話をしよう。うん」

 テアの据わった目が怖かったのか、それとも詫びの印なのか。
 眼帯の女は薬草師であるらしく、薬草を上手に利用するための技術が書き留められたメモを差し出してくれた。
 水の都で習い覚えた応急手当の技とは違い、事前に作成し忍ばせておいた薬草で、戦闘時でも仲間を癒すことの出来る技らしい。
 彼ら3人組はなんとリューンの同業者で、他の宿で冒険者をしているらしい。
 駆け出しではないようだが、旗を掲げる爪を相手するにはまだ実力が不足しているようだ。

「なんだ、≪狼の隠れ家≫の人たちだったの?勘違いしちゃったわ…」
「うむ。実は、この先に村があって子供達が行方不明なんじゃ。その探索に狩り出されておる」
「子供達が行方不明……?」

 あの村の子供たちの失踪の件については何も知らないらしい――魔法使いは可哀想に、と眉をひそめた。

「ここで何をするよう頼まれたのじゃ?」
「話せば長くなるわよ。いいかしら?」
「構わんよ。話しておくれ」
「今日のお昼前。私たちは仕事も無く、宿で暇を持て余していた…そこに『ある男』が一人、依頼をしたいと言ってきた。一時間後くらいに出直すと言ってすぐに出て行ったけど」
「一時間後……の」

 テアは先を促した。

「再び来た依頼主は、『この辺りで採れる薬草を採ってきてほしい』と依頼を出してきた。その時に、盗賊が出るから注意しろって言ってたわね」

 その盗賊は6人組だと――そう言われ、ここまで馬車で運ばれてきた。

「途中までは、依頼主の馬車に乗って…後はあなた達と一緒だと思うけど」
「ああ、たぶん一緒じゃな」

 魔女は恐らく、馬車から降りてすぐ仕事をしていたと言いたかったのだろうが――テアにとっては、違う。

「――依頼主が」

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「どういうことかしら?」
「依頼主…ある男に騙された。いや、隠そうとしておるのか?」

 そう誰とも無く呟くと、テアは3人を雇った依頼主の人相を確認した。
 間違いない。
 若い方の依頼主――カリアの叔父。

「裏に何かあるに決まってるじゃない、ソレ。今のうちに引いた方が良いって」
「…ま、そうかもね。向こうの落ち度もあるから、評判が下がることも無いでしょ」

 親切にも、これ以上の面倒ごとは避けた方が良いと忠告してくれる眼帯の女や魔法使いに、シシリーは首を横に振った。

「依頼はまだ続けるわ。肝心の、子供達の安否を確認しなければ、私たち落ち着かないもの」

 本当は、もう結果は分かっているのかもしれない――それでも、最後まで見届けたい。
 決意を碧眼に漲らせた彼女に、それ以上女性たちは説得を続けようとは思わなかった。
 街道沿いに徒歩で戻るという彼らと分かれ、馬車と共に待つジェインの所へと帰る。
 勢い込んで子供達についての情報が手に入ったか彼は聞いてきたが、不意に暗い顔つきになっている冒険者たちに嫌な予感がして、躊躇いがちにどもった。

「盗賊どもはどうした?何か情報はつかめたか?」
「話は後でいいですか?日が暮れる前に、村に帰りましょう」

 ウィルバーがそう言って、早く村へ真実を伝えに行こうと諭そうとすると。

「そうだよ。そこにいるのに」

と、やや甲高い、氷のようにぞくりとする声で横槍が入った。
 紫がかった銀髪に、葡萄酒色の目をした端整な顔つきの子供が2人。
 気配に聡いはずのテーゼンもアンジェも気づかないほど静かに、ジェインの背後に立っている。
 尋常のモノではない――理屈ではなく、ほとんど冒険者の本能で身構えた旗を掲げる爪だったが、蒼白になったジェインの呻きに、一瞬動きが止まった。

「お、お前たちは!?何十年も前に、あの山で亡くなった――」
「そこにいるよ」

 そう繰り返すと、

「待ってるからね」

と寂しそうな顔で微笑した子供たちは姿が薄れ……瞬く間に、消えてしまっていた。

「…まさか、子供達は禁足地に。でも見張りがいたはずだ。あそこに行けるわけがない」

 喘ぐようなジェインの言葉に、テーゼンが真実を確かめる。

「その日の見張りって、行方不明になった女の子の叔父さんだよな」
「…ああ、そうだが」
「本当に見張りをしていたのか?いや、普通に見張りをしていたのか?」

 容赦なく問いを続けるテーゼンの質問に、さすがのジェインも彼らが何を指摘したいのか気づいた。

「――ッ、あいつ、まさか!見張りをサボっていたのか?」
「それを知りたければ、村に一度戻るべきでしょうね」
「あの……テーゼン、さっきのってもしかして……」
「幽霊だろうぜ、たぶん」

 激昂し始めたジェインを宥めるウィルバーを横目に、シシリーとウィルバーが話し合っている。

「双子の子供。でも、ただのウィスプやゴーストにもならず、形を保っていたのが気になるな…」
「詳しいのね?」
「うーん。まあ……ね」

 シシリーは目を丸くして驚いているが、テーゼンにとっては闇の陣営に属するものが判断できないわけがない。
 しかし、悪魔であることをまだ明かしていないことから、言葉を濁してこの話題を終わらせた。
 ウィルバーの説得が功を奏したのか、ジェインは村へ帰るために急いで手綱を握った。
 恐らく、子供達は……。

2016/02/14 11:53 [edit]

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