Sun.

そこにいるその3  

日没まで3時間から4時間ほど。
 日が暮れるまでにやれることをと決意した一行は、村人から情報を収集しつつ集落を回った。
 彼らにとって不本意なことに、村長が別に情報を集める過程で盗賊の話をしていたせいか、冒険者を盗賊と勘違いして勝手に怯えられたりもしたのだが、肝心の盗賊を見たという証言や、盗賊に襲われた人間などが見つからないことに違和感を覚えた。
 少なくとも、数日前に出稼ぎから帰ってきた者は、盗賊についての話はしていなかったという。
 ならばごく最近の話ではないか――と、自作らしい色褪せたショールを弄りつつ、年寄りが話してくれた。

「なんかおかしいよね?」

 腕組みをして考え込んでいたアンジェが疑問を呈する。

「だって、あの姪っ子がいるって依頼主だけが、盗賊のことを知ってたなんて……」
「ですが、先ほどのご婦人も仰っていたでしょう?盗賊出現がごく最近の話だとしたら、この村から外に出ることがあまりない人たちや、違う方面から村へと帰ってくる人たちでは、まだ情報が行き渡っていないだけだ、ということもあり得ますよ」
「なあ……僕も変だと思うぜ」

 黒い翼を揺らして、テーゼンが横から口を出した。

「人々が村から離れる際にはほとんどが馬車で、歩くことは滅多にない。そういう慣習になっていたんだったら、子供たちだって歩いて村から出ようという発想は、しねえんじゃねえの?」
「そうじゃのう……それに、子供たちに関してはもう一つ重要な証言もある」
「なあに、テア?」

 シシリーが端的に問いかけると、テアは皺の寄った手で己の顔を撫でた。

「おぬし、もし数年前の遊び盛りに、孤児院の院長殿に遊んでもらおうとして、すげなく断られたとする。……どんな気持ちになる?」
「どうって……」

 真剣に考え込んだシシリーの横で、ぼそりとロンドが呟いた。

「つまんねえだろうな。舌打ちでもして、こっそり菓子でもつまみ食いに行くか、なんか悪戯でも仕掛けるか」
「それは大人への意趣返し、ということじゃな?」

 テアの言葉に、じゃらじゃらと鎖帷子を鳴らしながら彼が肯定した。
 手をすり合わせるようにして、老婆は続ける。

「それが子供の普通の心理じゃ。うちのちびちゃんは、幸いというか自分で稼ぐことを知っておるから、大人が本気で忙しい時に断られても、へそを曲げたりはせんじゃろうが……」
「まあね」

 得意げに胸を張ったアンジェに一つ頷くと、テアは目線を村の西方に向けた。
 西側――禁足地。

「一番、効果的じゃないかえ?禁じられている地に侵入するという意趣返しは」
「ばあ様。すると、子供は禁足地に行ったんじゃないかってことか?」

 有翼種の青年の言葉に、他の一同はハッと顔を見合わせた。

「……こいつは、どうあってもちょっと見張りに話を聞いた方がいいな」

 ロンドに全員が同意した。
 ――その日、禁足地の見張りに立っていたのは、ちょうどウィルバーよりもいくらかは年下の男性であった。
 滔々と流れる小川にかかった橋の向こうにおり、その背後には緑の茂る岩山がそびえている。
 黒い帽子を被って、退屈そうに香りのいい小枝を咥えている彼に、子供達が居なくなった日の当番を尋ねてみると――。

「その時の見張りの当番は俺じゃなかった。たしか、カリアの叔父が見張りだったな」
「カリアちゃんの叔父さん、というと――」

そこにいる3

「ジェインのオヤッさんと一緒に来たんだろ、アンタら。もう一人の若い男だよ」

 何となく心の奥底にわだかまっていた疑念が、徐々に嫌な匂いを発しながら立ち上がってくる気分だ。
 まさか、まさかな、という思いで互いの顔を見合わせるが、気持ちが晴れる様子はない。
 テアがふと、『禁足地』が出来た時の事故について訊ねると、ちょうど彼がまだ子供の頃に起きたので覚えているという。

「そうでなくても、昔からあの山は怪我人が絶えなかったんだ。この橋も壊して、誰も入れないようにする話もあったんだが」
「何かそうできない理由でもあるのかの?」
「事故死した子供達のことを忘れないために、こんな掟が残っているわけだ」

 ずっと帽子を被っていて頭が痒くなったのか、左手を無造作に突っ込んで掻き毟りつつ、見張りの男は苦い顔になった。

「俺はよ、変なことや禁足地とかそんな言い方をしなくても、『昔、事故があって危険』と言えばいいと思うんだけどな」
「……そうじゃの。そういう考えも確かにあるはずじゃの」

 子供へのインパクトを考えて、もっともらしい『禁足地』の話などを作ったのだろうが、男の言うことも一理ある。
 ただ、危ない所ほど入ってみたいという誘惑は、岩山の実際の危険性であっても、岩山に寂しい神様がいて人間を連れ込んでしまうということであっても、恐ろしさを知らない子供であるからこそ振り切るのが難しい――テアは、そのことをよく知っていた。
 拭いきれない不信感をそっと胸にしまったまま、まだ村を移動する。
 村の入り口で依頼主の一人であるジェインに遭遇し、そのまま話をしていると、まだあの帽子を被った若者は戻ってきていないということだった。

「おそらく帰るとしたら、日没を過ぎてからだろう。冒険者集め以外にも、何か用事があるらしい」

そこにいる4

「皆さん!」

 声高に冒険者たちを呼ぶ声がする。
 見ると、額に汗を滲ませながら、懸命にこちらに向かう村長の姿があった。

「た、たった今、伝書鳩が!」

 彼に促され集会所に移動すると、慌しい様子で鳩の文で知らせてきた内容を説明された。

「伝書鳩で、盗賊のアジトを発見したという連絡が来ました」

 目を興奮で光らせた村長は、そちらへ向かって欲しいと旗を掲げる爪へ訴えかけてきた。
 今まで彼ら自身が情報を収集した結果からすると、存在すら怪しいと思っていた盗賊の話である。
 正直な話をすると、誰から貰った情報なのか、村を襲うために彼らを動かすただの陽動ではないかと疑ってしまうのだが――。

「受けるべきじゃろうの」
「どうして?」

 アンジェは驚いてテアに尋ねた。

「まず、この話を断ると、村長のわしらへの心象が一気に悪くなる」
「そりゃそうだろうけど…もし、この話がなにかの罠だったら…」
「もちろん、罠じゃろうよ。しかし、わしらがここを移動しても村は無事じゃ。奴に黒幕がいて村を襲う前提でいたのなら、まずジェイン殿とリューンに辿り着く前に、あの御仁に手出ししていたはずじゃ。村を護衛するかもしれない冒険者など、どうあっても雇わせるわけにはいかんからの」

 あ、という小さな声を上げて、アンジェが腑に落ちたような顔になった。

「奴は子供達が行方不明で自分は無関係、ということをあくまで押し通したいはずじゃ」
「だとすれば……邪魔なのは私たちだけですか?」
「うむ。こっちを片付けるために何をやったかは分からんが、用心に越したことはあるまい」

 方針は決まったようだ。
 旗を掲げる爪は、『伝書鳩が知らせてきた盗賊』の退治のために出かけることにした。

2016/02/14 11:50 [edit]

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