Sun.

そこにいるその2  

 最近、リューンと村を繋ぐ道で盗賊が出ると聞いていたが教われなくて何よりだ、と集落近くの森についてから零していた青年は、非常に忙しげな様子で馬車から彼らを降ろすと、また人手を探しにリューンへ行くと説明し、馬首を再び交易都市の方向へと向けた。
 呆れたようにシシリーが言う。
「あの人、忙しそうですね」

そこにいる2

「あいつも、姪っ子がいなくなって不安なのだろう。――では、案内する。我々の村はこっちだ」

 村の構造をテアが尋ねると、集落の出入り口は南側にあり、各自の住居部はほぼ北側に集まっているという。
 集会所や遊び場が中央部。

「それと西側に……いや」

 再び疲労の影が見え始めてきた依頼人が、言葉の途中で口篭った。

「いや、今回の事件とは無関係だろう」

 何故無関係だと断言できるのか、とっさにテーゼンが問いただそうと口を開いたが、テアがその腕を軽く叩いて止めさせた。
 大都市から離れれば、各地固有の言い伝えや伝承、こだわり等があることをテアは吟遊詩人の一般常識として知っていた。
 詩人が口伝で伝えられることは、村で出入りを禁じられている場所や、神聖な場所として崇め奉っている遺跡などの真実を言い当てているパターンが多い。
 だからこそ、いわゆる『よそ者』が、覚悟もなしにその禁域に触れるのは避けた方が無難なのだ。
 どうしても聞き出さなければならない事態に陥ったら、その時に改めて訊ねればいい――それが彼女の持論だった。
 黒い翼を持つ青年は不満げな顔ながらも、それ以上の質問をやめた。
 一方で、依頼人は村長が居るのは集会所だろうから、そちらに同行して欲しいと先に歩き出している。
 一同は心労の強い彼にこれ以上の負担を与えまいと、さっさと彼についていった。

「……思ったより、しっかりした作りなのね」

 アンジェは頑丈な作りのログハウスをしげしげと眺めながら感心した。
 村の規模からすると、結構な大きさである。
 その建物の入り口に立っていたのは、濃い緑色の双眸に眼鏡――ドワーフなどの特に腕のいい職人が作る視力矯正具――をかけている、まだ20代ほどに見える男性だった。
 姿勢はやや猫背気味のようだが、特に貧弱な印象もなく、ハキハキとした物言いは話していて好感が持てた。
 驚いたことに、彼が村長なのだという。

「ジェインさん。後は僕が引き受けます」

 驚いていた冒険者たちを余所に、ジェインと呼ばれた依頼人と村長は話をつけたようだ。
 彼は入り口付近で仕事をするため、後のことは全て村長と相談するようにということである。
 丁寧な口調で通された集会所は、村の特産なのか樫の木で作られたらしき家具や、村の女性たちの心づくしらしい小さな鉢植えや手作りの絨毯などで、意外なほど居心地よく手入れされている。
 目の前の村長は、リューンにある私学の学校を卒業しており、村では教師として文字の読み書きを教えているそうだ。
 それゆえ、主に村民からは「先生」と呼ばれることが多いらしい。 
 彼は今回の子供の探索を、冒険者達が引き受けたことにまず礼を述べた。
 今までも村の住民で周囲を探したものの、子ども自身はおろか手がかりも見つかっていないようだ。

「この村は、安全の為と言うべきか、子供が勝手に村の外には出ないようにしています」

 テーゼンは頬を人差し指で掻きながら同意した。

「ああ、この村に入ってくる時に、さっきの人に聞いたよ。南側しか入り口がないんだっけ?」

 村長ははいと答えると、

「禁足地である西側は別ですが……」

と付け加えた。
 今は禁足地について説明するつもりはないらしい。
 ともかく、村の南側を探索して欲しい――と彼は繰り返す。
 子供たちが村から離れようとするのなら、そこしか入り口はないのだからと。

「ひとまず、前金として皆さんに銀貨100枚ずつ支払います。子供達が見つかり次第、後で成功報酬をお渡しします」
「そのことですが、村長」

 ウィルバーが、座った椅子をやや軋ませながら口を挟んだ。

「先にいくら成功報酬をお支払いになるおつもりか、聞いて宜しいですか?」
「成功報酬、銀貨300枚です。それと別に、もし何か危険な事が起これば…危険手当と治療費として銀貨200枚を用意します」
(つまり、子供達が無事に見つかるという前提であれば、銀貨900枚。トラブルがあれば1100枚ということですか。……子供が生きていれば、の条件の上に成り立っているわけですね。)

 ウィルバーはその条件に異を唱えることにした。
 知力の高さを買われて村長を任されている、と自負していた村長だったが、ウィルバーが慎重に子供たちに何か異変があった場合についても考えて貰いたい旨を話すと、少し自分を恥じたように俯き加減になった。

「僕は『井の中の蛙』でした。子供達が無事でないことを想定していませんでした」
「冒険者はあらゆるトラブルに対処しなければなりません」

 ウィルバーは薄く微笑んで、諭すように村長へ言葉を続けた。

「物事のいい側面だけを見ようとする冒険者は、決して生き残って大成することはできないのです。何が起きたか分からない以上、最悪のことも考えた上で探索をする必要があります」
「あらゆる事態を想定する冒険者の知恵、感服しました。増額こそはしませんが、既に最悪の事態が起きていたとしても――銀貨200枚は、お支払いします」

 最低の保証を受けられる、ということがはっきりした旗を掲げる爪は、次々に依頼の件について村長に問いただした。
 子供たちはやんちゃだが素直で、とても親にわざと心配をかける悪戯っ子ではなかったこと。
 居なくなったその日は、村長に読み書きを教わろうとしたが忙しかった為に、『別の所で遊んでくれ』と諭されていたこと。
 この村は普段、女子供や年寄りばかりで、働き盛りの男たちは村の外への出稼ぎで生計を立てており、村人の何人かは個人で馬車を所有する者がいること。
 そのため、村の者が外出する際はほぼ馬車を使うこと。
 先ほど言葉を濁していた西側の禁足地では、村長がまだ子供だった時分に転落事故が起きており、子供があの岩山に入っては危ないと、村人が交代制で24時間見張りをしていること。
 子供たちには『禁足地』と仰々しく呼ばせ、怖がらせて立ち入らないよう配慮していること。
 そしてさっき依頼人の一人が呟いていた盗賊のこと――。
 最後の事項について訊ねると、

「…盗賊?最近?この辺りに、ですか?」

などと、かなり戸惑った様子で反復した。
 あら、と右手を頬に当ててシシリーが言う。

「村の人から伺ったのだけど」
「――僕は初めて聞きましたが」

 村長が嘘を言っている様子はない、と人生経験豊富なテアは判断した。
 だとすれば、何故彼だけがそのことを――。
 老婆の思考を置いてけぼりにするように、子供の失踪と関係あるのかと憂慮する村長を、ウィルバーがそっと宥めていた。
 村長自身も情報を集めてみるということで落ち着き、旗を掲げる爪は、そろそろ探索に入ろうとかけていた椅子から立ち上がった。

2016/02/14 11:48 [edit]

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