Thu.
真夜中のランプさんその4 
一際大きな卓のある食堂で麻袋を、一階から二階に続く白い手すりがまだ綺麗な階段でロープを見つけた一行は、暖炉のある書斎へと乗り込んでいった。
「火消し壺があるよ。持ってく?」
「うん。さっきの丸いのを、それに閉じ込められるかもしれないね……それにしても…」
「火消し壺があるよ。持ってく?」
「うん。さっきの丸いのを、それに閉じ込められるかもしれないね……それにしても…」
アンジェに肯定しながら、シシリーが小首を傾けた。
「妙に物が落ちてるのねぇ。さっきなんて、ぱっさぱさになったパンが落ちてたし」
「別荘というには、確かに片付いてるとは言えませんね」
「そうじゃのう。まあ、あの御仁が清掃業者を入れる前に、例の奴が出現するようになったのかもしれん」
年長者たちの真面目な意見を左から右に受け流しつつ、ロンドが無造作に、ホビットが開いていると保証した客室のドアを開く。
二階は玄関ホールにあった仕掛けが壊れているらしく、暗い中での捜索だったのだが…。
ウィルバーは急に明るくなってしまった視界に目を細めた。
「ん、ここだけやけに明るいですね……」
「変だよ、さっきはこんなんじゃ――」
アンジェが言い募って警戒を発しようとした刹那、部屋の一点を見つめた老婆が、
「あ」
と口を開けた。
……丸い、ぽわぽわした光を放つ謎の物体が浮いている。
低く据わった声でテーゼンが呟く。
「デた」
「……何だ、案外かわいいもんじゃないか」
仲があまり良いと言えないテーゼンへの対抗心か、ただ単に感性が他と違うだけなのか。
ロンドの感想に、よく分からないながらも謎の生物は微笑んだ――のかもしれない。
そんな彼の背中には、
「どアップ……どアップは駄目……」
と常になくガタガタ震えるシシリーの姿もあったのだが。
しばらく無言で『何か』を眺めて観察していたウィルバーは、軽く杖で床をついてから説明した。
「これは幽霊ではありませんね。精霊のようなものです」
「精霊?」
「ええ、テーゼン。実体が限りなく存在しない、光の要素が強すぎるものですが」
「なるほどな……」
道理で同族の気配が微塵も感じられなかったわけである。
実は内心、正体をばらされるかもしれないなと覚悟していたテーゼンは、人知れず安堵した。
状況を冷静に分析した魔術師は、厳然たる事実をリーダーに突きつける。
「この分じゃ退治は難しそうです。光に魔法も物理攻撃も効きませんから」
か細く震える声で返事が来た。
「……どうしましょう」
背中に捕まっていたシシリーを残し、ざかざか無造作に前へ進んだロンドが、試しに先ほど拾ったロープで精霊を捕まえようと試みるが――。
「駄目だ、すり抜けてしまう」
「そりゃそうじゃろ。お主、何を聞いておったんじゃ」
「頭悪いぞ、白髪男」
「お前に言われたかないぞ、黒蝙蝠!」
何やら一気に険悪な雰囲気になったテーゼンとロンドを放っておいて、しばらくうんうん腕を組んで唸っていたアンジェは、
「あ、そうだ」
と独り言を言って、荷物袋からさっさと火消し壺を取り出……そうとして、その重さに諦めざるを得なかった。
「なんだ、アン。こいつで捕まえるつもりか?」
「だって、こいつ光なんでしょ?光は暗闇に弱いんだから、閉じ込めたらいいと思って。火消し壺は隙間がないんだから、これでいけると思ったんだけど…」
極めて現実的な案である。
意図が何とか分かったロンドが、ロープをアンジェに手渡して代わりに火消し壺を構える。

その様子を察したらしき精霊は、さっと天井近くまで移動してしまった。
「……ん?」
「嫌がってるの?」
新たな疑問を持ったウィルバーに、もしかしてとシシリーが囁く。
旗を掲げる爪の目が、きらりと光った。
「今だよ、やっちゃえ!」
アンジェの号令と共に、精霊が逃げ出さないよう各自が散開して部屋の隙間をふさいだ。
ロンドの抱える壺の蓋を、アンジェがさっと持ち上げる。
「あいつが壺に入ったらこの蓋で閉じ込めちゃおう」

同時に、フェイントで精霊を追い詰めろと指示していたウィルバーが、慌てて彼女に付け加える。
「火消し壺に入ったら急いで蓋を閉めてください!もたもたしてたらやり直しですよ!」
「大丈夫、分かってるって!」
――以後、4分ほどバタバタ動いていたが――。
「よし、捕まえた!」
ロンドの高らかな凱歌が上がった。
それまでの消耗に疲れきったシシリーが窓の外を見てぼやく。
「ああ、もうすっかり朝ね……」
仲間が抱えた火消し壺を眺めながら、アンジェは肝心なことを尋ねた。
「さて、この子どうする?」
「依頼人に渡したところでどうにもならないと思います。つき返されるのがオチでしょうね」
ウィルバーの出した提案は二つだった。
連れて帰るか、賢者の搭に売るか――。
「売るのは可哀想だよ」
「だよなぁ、こんな可愛いツラしてるんだし」
「……うむ、害もないしのう」
何となく愛着を感じてきた三名は、すっかり連れ帰るつもりになっている。
まともに眼前でにらみ合った経験があるシシリーがしきりに首を横に振って否定しているが、テーゼンはあまり自分に近づけさせなければ気にするつもりはないし、ウィルバーは賢者の搭に連れて行っても二束三文にしかならないだろうことを分かっている。
…………結局。
「おお、お前達」
快く戻ってきた旗を掲げる爪を出迎えた宿の亭主だったが、
「ぎゃああああああああああああああああああああ」

と、火消し壺の蓋を開けたロンドの手元から出てきた見たこともない物体に、二階に宿泊している冒険者達が仰天するほどの悲鳴を上げた……。
後日、何もデないことを確認した依頼人から、無事に銀貨600枚が届いたそうだ。
なお『ランプさん』の命名は娘さんのものであり、旗を掲げる爪が宿で怠けている時は、酒場を浮遊して明るく照らしてくれているそうである。
※収入:報酬600sp、ランプさん(召喚獣:光の精霊)→シシリー所有
※支出:モノクローナム・カトル(しろねこ様)にて【盗賊の手】購入。
※春秋村道の駅様作、真夜中のランプさんクリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
4回目のお仕事は、春秋村道の駅さんの真夜中のランプさんです。
春秋村道の駅さんのシナリオは、発想が面白かったりほっこりしているシナリオが多く、よくプレイさせていただいているのですが、中でもキャラクターたちの反応具合が笑えるこちらの作品を今回リプレイにさせて頂きました。
これはあくまで私の場合ですが、ある程度設定を練っていても、まだスタートしたてのキャラクターはなかなか反応が掴みづらいことがあります。
そんな中、こちらのシナリオをやらせて頂いたおかげで、各々の適切な反応というか、力関係的なものもなんとなくわかってきました。リーダー、結構支えられて生きてますね(笑)。
春秋村道の駅のお二方(こちら桜林囃子さんと酒月肴さんのチームです)には、篤くお礼を申し上げます。
あ、可愛いランプさんですが、あれだけ嫌がったにも関わらず、シシリーにくっつくことになりました(酷)。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
「妙に物が落ちてるのねぇ。さっきなんて、ぱっさぱさになったパンが落ちてたし」
「別荘というには、確かに片付いてるとは言えませんね」
「そうじゃのう。まあ、あの御仁が清掃業者を入れる前に、例の奴が出現するようになったのかもしれん」
年長者たちの真面目な意見を左から右に受け流しつつ、ロンドが無造作に、ホビットが開いていると保証した客室のドアを開く。
二階は玄関ホールにあった仕掛けが壊れているらしく、暗い中での捜索だったのだが…。
ウィルバーは急に明るくなってしまった視界に目を細めた。
「ん、ここだけやけに明るいですね……」
「変だよ、さっきはこんなんじゃ――」
アンジェが言い募って警戒を発しようとした刹那、部屋の一点を見つめた老婆が、
「あ」
と口を開けた。
……丸い、ぽわぽわした光を放つ謎の物体が浮いている。
低く据わった声でテーゼンが呟く。
「デた」
「……何だ、案外かわいいもんじゃないか」
仲があまり良いと言えないテーゼンへの対抗心か、ただ単に感性が他と違うだけなのか。
ロンドの感想に、よく分からないながらも謎の生物は微笑んだ――のかもしれない。
そんな彼の背中には、
「どアップ……どアップは駄目……」
と常になくガタガタ震えるシシリーの姿もあったのだが。
しばらく無言で『何か』を眺めて観察していたウィルバーは、軽く杖で床をついてから説明した。
「これは幽霊ではありませんね。精霊のようなものです」
「精霊?」
「ええ、テーゼン。実体が限りなく存在しない、光の要素が強すぎるものですが」
「なるほどな……」
道理で同族の気配が微塵も感じられなかったわけである。
実は内心、正体をばらされるかもしれないなと覚悟していたテーゼンは、人知れず安堵した。
状況を冷静に分析した魔術師は、厳然たる事実をリーダーに突きつける。
「この分じゃ退治は難しそうです。光に魔法も物理攻撃も効きませんから」
か細く震える声で返事が来た。
「……どうしましょう」
背中に捕まっていたシシリーを残し、ざかざか無造作に前へ進んだロンドが、試しに先ほど拾ったロープで精霊を捕まえようと試みるが――。
「駄目だ、すり抜けてしまう」
「そりゃそうじゃろ。お主、何を聞いておったんじゃ」
「頭悪いぞ、白髪男」
「お前に言われたかないぞ、黒蝙蝠!」
何やら一気に険悪な雰囲気になったテーゼンとロンドを放っておいて、しばらくうんうん腕を組んで唸っていたアンジェは、
「あ、そうだ」
と独り言を言って、荷物袋からさっさと火消し壺を取り出……そうとして、その重さに諦めざるを得なかった。
「なんだ、アン。こいつで捕まえるつもりか?」
「だって、こいつ光なんでしょ?光は暗闇に弱いんだから、閉じ込めたらいいと思って。火消し壺は隙間がないんだから、これでいけると思ったんだけど…」
極めて現実的な案である。
意図が何とか分かったロンドが、ロープをアンジェに手渡して代わりに火消し壺を構える。

その様子を察したらしき精霊は、さっと天井近くまで移動してしまった。
「……ん?」
「嫌がってるの?」
新たな疑問を持ったウィルバーに、もしかしてとシシリーが囁く。
旗を掲げる爪の目が、きらりと光った。
「今だよ、やっちゃえ!」
アンジェの号令と共に、精霊が逃げ出さないよう各自が散開して部屋の隙間をふさいだ。
ロンドの抱える壺の蓋を、アンジェがさっと持ち上げる。
「あいつが壺に入ったらこの蓋で閉じ込めちゃおう」

同時に、フェイントで精霊を追い詰めろと指示していたウィルバーが、慌てて彼女に付け加える。
「火消し壺に入ったら急いで蓋を閉めてください!もたもたしてたらやり直しですよ!」
「大丈夫、分かってるって!」
――以後、4分ほどバタバタ動いていたが――。
「よし、捕まえた!」
ロンドの高らかな凱歌が上がった。
それまでの消耗に疲れきったシシリーが窓の外を見てぼやく。
「ああ、もうすっかり朝ね……」
仲間が抱えた火消し壺を眺めながら、アンジェは肝心なことを尋ねた。
「さて、この子どうする?」
「依頼人に渡したところでどうにもならないと思います。つき返されるのがオチでしょうね」
ウィルバーの出した提案は二つだった。
連れて帰るか、賢者の搭に売るか――。
「売るのは可哀想だよ」
「だよなぁ、こんな可愛いツラしてるんだし」
「……うむ、害もないしのう」
何となく愛着を感じてきた三名は、すっかり連れ帰るつもりになっている。
まともに眼前でにらみ合った経験があるシシリーがしきりに首を横に振って否定しているが、テーゼンはあまり自分に近づけさせなければ気にするつもりはないし、ウィルバーは賢者の搭に連れて行っても二束三文にしかならないだろうことを分かっている。
…………結局。
「おお、お前達」
快く戻ってきた旗を掲げる爪を出迎えた宿の亭主だったが、
「ぎゃああああああああああああああああああああ」

と、火消し壺の蓋を開けたロンドの手元から出てきた見たこともない物体に、二階に宿泊している冒険者達が仰天するほどの悲鳴を上げた……。
後日、何もデないことを確認した依頼人から、無事に銀貨600枚が届いたそうだ。
なお『ランプさん』の命名は娘さんのものであり、旗を掲げる爪が宿で怠けている時は、酒場を浮遊して明るく照らしてくれているそうである。
※収入:報酬600sp、ランプさん(召喚獣:光の精霊)→シシリー所有
※支出:モノクローナム・カトル(しろねこ様)にて【盗賊の手】購入。
※春秋村道の駅様作、真夜中のランプさんクリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
4回目のお仕事は、春秋村道の駅さんの真夜中のランプさんです。
春秋村道の駅さんのシナリオは、発想が面白かったりほっこりしているシナリオが多く、よくプレイさせていただいているのですが、中でもキャラクターたちの反応具合が笑えるこちらの作品を今回リプレイにさせて頂きました。
これはあくまで私の場合ですが、ある程度設定を練っていても、まだスタートしたてのキャラクターはなかなか反応が掴みづらいことがあります。
そんな中、こちらのシナリオをやらせて頂いたおかげで、各々の適切な反応というか、力関係的なものもなんとなくわかってきました。リーダー、結構支えられて生きてますね(笑)。
春秋村道の駅のお二方(こちら桜林囃子さんと酒月肴さんのチームです)には、篤くお礼を申し上げます。
あ、可愛いランプさんですが、あれだけ嫌がったにも関わらず、シシリーにくっつくことになりました(酷)。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
2016/02/11 11:34 [edit]
category: 真夜中のランプさん
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