真夜中のランプさんその3

「……それで?」
「め、目が合った……」

 ようやく生ける彫像からガタガタ震える人間にまでクラスチェンジしたシシリーに、ウィルバーは辛抱強く問いかけ続けている。
「目が、目があって……目が合った……」

 彫像は辞めても、意味のある言語を紡ぐことのまだ出来ないリーダーを見て、テアが可哀想にとでも言いたげな手つきで、彼女の頭を撫でてやった。

「至近距離で見てしまったからのう、シシリー殿……」
「あ、そういえば」

 ロンドがそう呟いた後、ウィルバーの肩を叩いて荷物袋を指差した。
 はて、と彼が首を傾げていると、そのままコップを持ち上げるような仕草をしている。

「ああ」

と魔術師は思い当たった――葡萄酒だ。
 さっそく荷物袋から取り出して栓を開ける。

「大人しく飲んでください。その為の葡萄酒ですよ」

 旅をする者に愛用されている木製のコップに葡萄酒を注ぎ、それに手を添えてシシリーに持たせる。
 ゆっくり彼女が飲めるように傾けてやると、最初こそ噎せていたものの、徐々に口の中に注ぎ込まれていくアルコールに正気づき、3口目からは自分でコップを掲げて飲めるようになった。

「あ、ありがとう……」
「それで、何があったの姉ちゃん」

 今までの支離滅裂な言葉ではさっぱり理解できなかったアンジェが、改めてシシリーに問いかける。

「何か、丸くて、ぼーっと光るものが目の前でにっこり笑ってた」

真夜中のランプさん5

「怖い」

 何を想像したものか、人並みよりはるか優れた容貌をあからさまに歪めてテーゼンが呻いたが、その横でテアがぱたぱたと手を横の方向に振って否定する。

「いや、見た目には……まあ、間抜けと言うか、怖くはなかったぞ」
「本当に出るなんてねぇ」

 現実主義のアンジェが嘆息する。
 彼女は依頼人の勘違いや見間違いだと思っていたのだが――。
 今まで口を噤んでいたロンドが、ぼんのくぼを叩きながら言った。

「出たものは仕方ない。早速調査しよう」

 旗を掲げる爪は、自分たちが寝袋を引いていた玄関から探索を開始することにした。
 とりあえず今までいたところには、怪しいものも使えそうな道具もない。
 続いてホールに続く道を行く。
 広大なメインホールには玄関のところにあったものに、勝るとも劣らない豪華なシャンデリアが複数ぶら下がっており、階段に続くドアの近くには、青銅製らしい彫像が杖を片手に立っている。

「使えそうなものはないや」

 首を竦めるアンジェによると左手側が客室ドア、右手のカーテンが食堂、正面右のドアが階段へとそれぞれ繋がっているそうである。
 見取り図と変わってしまった箇所がないか確認をしながら、一同はゆっくりと探索を続けた。

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