Thu.

真夜中のランプさんその2  

「うわあ、大きな屋敷だな……」

 呆れるような広さの『別荘』に、ロンドは口をぽかんと開けて慨嘆をした。
 この大きさの建物を調べるとなったら、なかなか時間がかかるだろう。
 ましてや、本当に幽霊などではなかった場合、原因を見つけるのに一晩中かけてしまうかもしれない。
 段々不安要因が積み重なっていくロンドとは裏腹に、シシリーは預かった鍵を取り出して別荘の扉を開けた。
 ちょっとした軋みをあげて開くと、窓に覆いでもしているのか、中に日は差し込んでいない。
 テーゼンはため息をついて頭を横に振った。

「……真っ暗じゃねぇか。今、灯りを――」
「待ってください」

 手探りで荷物袋のいつもの場所からランタンを取り出そうとした青年を、ウィルバーが言葉で止めた。
 何かあったのかと問いかけようとしたテーゼンが、不意に口を噤む。
 ――ぱっと。
 まるで舞台において、役者が出る抜群のタイミングで照明係が灯りを用意するかのように、一瞬で辺りが明るくなったのだ。

「な、なにこれ?魔法……?」

 何者の気配も感じなかったのに、とやや及び腰に変わったアンジェが囁く。
 しばし天井のシャンデリアを睨んでいたウィルバーが、

「生物に反応して明るくなるようです」

真夜中のランプさん3

と応じた。
 彼の視線の先には、誰かが通過した場合に反応できるよう細工をしたものか、微かに天井の一部に赤い線が引かれた部分がある。
 とんだ酔狂に、翼を揺らしてテーゼンが言った。

「はぁ……どれだけ金がかかってんだよこれ」
「……つまり、今『ここ』には生物は居なかったということです」

 彼らしい冷静な推測である。

「……そういえば、いつデるのかしら?」

 シシリーの疑問に、テーゼンが肩をすくめる。

「夜じゃねぇのか?お約束的に」

 彼自身はアンデッドではないものの、一応闇に属するもの――悪魔である。
 アンデッドにしろ悪魔にしろその他の魔族にしろ、まず闇に属する陣営に、太陽の光というものは、太古の昔より優しくなかった。
 死に近い状態となる睡眠状態、闇の中で行なわれる秘め事、暗い中で初めて目を覚ます化け物……陽光は、容赦のないエネルギーでそれらの意味を失わせてしまう。
 もし本当にこの屋敷に依頼人の恐れるものが現れるなら、それは夜に活動を始めるはずなのだ。
 端的に言えば――光る何かに気づくのなら、闇の中でなければ見えづらくて気づかなかったろうし。
 テーゼンがした説明は最後の部分だけだったが、それに納得したシシリー(ちなみにまだ彼のことをただの有翼種だと思っている)は、見張りを交代で立てて休もうと提案した。
 しかし、左の拳をぶんぶか振り上げつつ、アンジェが強硬に主張する。

「折角見取り図があるし、あたしはちょっと中を見てくるよ!」
「一人では行かないで。複数で行動するようにね」
「分かってるよ!無理しない」

 彼女の言葉に微笑んだウィルバーは、「では」と切り出した。

「班分けをしましょう――」

 布のきれっぱしに番号を書き、それをくじ引きして決めた班分けに従い、彼らは休憩に入った。
 数時間後。
 ぶるり、と身を震わせた老婆が誰ともなく呟く。

「陽が完全に落ちたのう……」

 自分の次の見張り要員でありながら、徹夜にまだ慣れてないためすっかり眠り込んでいるシシリーの肩に触れる。

「シシリー殿、そろそろ起き――」

 ふと、揺すろうとしたその手を止めた。
 今ここにいるのは――自分たちだけではない。

「……?」

 ローブの袖に包まれた腕に、何かが掠める。
 ぎょっとして身を思い切り引いたテアをあざ笑うかのように、その『何か』はぶつかるかと思った壁を垂直に上昇し、見事な螺旋構造を宙に描きながら天井まで上がっていった。
 まるで相手の正体が分からず、いつでも竪琴をかき鳴らせるようにと構えていたテアだったが、シャンデリアの辺りで動きを止めたその物体に、顎が外れんばかりに驚いた。

「な、な、な、何じゃこれはああああああ!!」

真夜中のランプさん4

 一際大きな声で叫ぶ。
 さすが吟遊詩人、若い頃は酒場の花として鳴らしただけはあって、彼女の叫び声はすっかり眠り込んでいた仲間を起こすに足りた。
 半眼になったまま、寝癖も直さずに身を起こしたリーダーが声を上げる。

「何、いったい――」

 恐らくは、その後に「どうしたの」とでも続けようとしたのだろう。
 シシリーはしかし、シャンデリアからまるで移動の魔法でも使ったように素早く降りてきた『何か』が眼前に迫ってきたのに、セリフを胃の腑の底まで飲み込んだ。

「……!!?」

 我知らず硬直する。
 きょとん、としたそいつの目は、つぶらで見方によっては可愛らしいとでも言えただろうが――起き抜けの回らない頭で正面から向き合ったシシリーには、そこまで評価するのは無理だった。
 吸血鬼に襲われた女性もかくや、という悲鳴が屋敷をつんざいたのは、実にこの5秒後である。
 テアの声でも起きなかった他の仲間達も、これにはさすがに度肝を抜かれて起き出してきたが、彼らが見つけたのは毛布を抱いたままカチカチに固まったシシリーと、地団駄を踏みながら「どこいった!?」と湯気を立てて怒っているテアであった…。

2016/02/11 11:30 [edit]

category: 真夜中のランプさん

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