Thu.

真夜中のランプさんその1  

 首を捻りながら貼り紙を眺めているアンジェが気になり、

「どうしたんじゃ、おちびちゃん?」

とテアが声をかけた。

真夜中のランプさん
 ちび呼ばわりされても怒ることなく(何しろ相手は大分年上である)、アンジェはずずっとテアの目前まで剥がした羊皮紙を突きつけた。

「これ。なんかさ、とっても急いでるぽいの」
「ほほう、なんじゃ…『期限:今すぐに!』じゃと…?」

 内容は別荘の調査であった。
 別荘の何についての調査なのか、それ以上詳しいことについては直接聞いてくれ、ということだろう。
 そこまではいい。
 問題はそのあとに書いてある期限や報酬に、しきりと「今すぐ!」「急いで!」の二つの単語が付け加えられている点である。
 銀貨600枚の報酬が安いとは言わないが、どういう理由でこんなに急かされているのだろうか?
 それは、旗を掲げる爪が宿の亭主に貼り紙の件について口に出した途端、ぱっと走り出して依頼人を自分たちのテーブルに連れてきた数分後に判明した。

「ワタクシ、お金持ちですの。それもう貴方達の生活からは考えられないほどの」
「は、はあ…」

 自分の名前やら何やらより、まず経済状態の自慢から入ってくると思わなかったアンジェは、やや引き気味に返事をした。
 依頼人がそれに気づいた様子はなく、マイペースに自分の話を続けている。

「それでワタクシ、主人にお願いして、自分だけの別荘を買って貰いましたの」

 ところが――である。

「デる、らしいのよ」
「デ、デる?」

 イマイチ話の意図が分からず首を捻ったロンドに、依頼人は噛み付くように叫んだ。
 ついでに、ダンっ!!と机を叩く。

「そうなの!デるのよ!!真夜中に!!ぼーっと光るの、何かが!」

 冒険者は怖いもの知らずなんだから、それくらい退治するか、どうにか処置できるだろう――というのが彼女の主張もとい依頼であった。
 報酬は銀貨600枚、ボーナスはなし。
 おまけに、ぼーっと光る『何か』とやらの正体は果たして不明なままである。
 あまり状況の分からない依頼に、さすがにテアとウィルバーは眉根を寄せたものの、シシリーやロンドの持ち前の好奇心には何やら火がついたようである。
 二人とも拳を握り、ワクワクしたような表情に変わってしまった。
 おまけに、先ほどからずっと黙りっぱなしのテーゼンまで、目線で受けろ受けろと合図をしている。
 お前もか悪魔、とテアは内心でぼやいた。
 引き受ける旨を依頼人に話すと、彼女はさっそく行ってこいと命令をした。

真夜中のランプさん1

「ワタクシはお屋敷で待ってますからね。さっさと済ませるように!」

 そのまま、ばたばたと首を落とされた鶏のような勢いの足音を立てて、冒険者の店を出て行く。
 呆れたように首を振った宿の亭主が、

「やれやれ、騒がしい依頼人だ」

と言いつつ、シシリーへ預かった別荘の鍵を手渡す。
 簡単な別荘の見取り図もあるということなので、そちらはアンジェに渡して貰った。
 続いて取り出してきた思いがけない道具に、ウィルバーが目を丸くして呟いた。

「葡萄酒?」
「ああ……デるんだろ?やばかったら飲め。葡萄酒ってのはそういうもんだ」」
「はあ。そういうもんですか」

 特に逆らうこともせず、ウィルバーは宿の亭主から餞別に葡萄酒を貰った。
 住所を確認すると、リューン郊外にあるらしい。
 ちょっと急げば往復しても半日ほどで戻ってこれるはずだ。
 そのことを確かめつつ、ウィルバーは顎に手をやって息を吐いた。

「しかし、デる、ですか……レイスかバンシーか、とにかく油断しないようにしないと」
「そうね、私もやっと【癒身の法】の奇跡は会得したけれど、【亡者退散】のように亡霊たちすら退ける対アンデッド用の法術は覚えてないし」
「その辺はどうにかなるだろ、シリー。俺もお前も、幽霊も殴れる武器を貸して貰ってるんだから」

 孤児院出身の年長組みの話を聞きながら、リアリストなアンジェが口を挟んだ。

「というか、本物なの?見間違いもよく聞くよね」

真夜中のランプさん2

 ましてやあの依頼人なのだから――と言いたげなアンジェに、シシリーも頷いた。
 その後で、「でも」と付け加える。

「それならそれで、悪くない仕事でしょう。ちゃんと原因を発見さえすれば、もう光る何かになんて怯えなくてもいいんだから」
「ま、そりゃそうね。じゃあ行こうか、皆」

 アンジェは気軽な様子で仲間達に声をかけた。

2016/02/11 11:26 [edit]

category: 真夜中のランプさん

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top