Thu.

大時計その3  

 塔内は思ったより狭く、6人は一列となって階段を上がっていった。

 結構な長さのあるそれに、体力のないウィルバーやテアが少し息を切らし始める。
 それを他の者が助けながら搭の上部に広がる部屋に辿り着くと、微かに眉を上げたアンジェが声を発した。

「……なんとなくだけど……違和感があるんだ。ちょっと調べてみてもいい?」
「構わないわ。お願い」

 シシリーの返事に、小さく敏捷性のある娘の身体が部屋のあちらこちらを駆け回りながら、壁と床の継ぎ目や床に広がっている紋様などを調べ始める。
 やがて、ある床の上に立つと、右足を思い切りその場で踏みしめた。
 それが合図だったように、石で出来た壁の一部が音もなくスライドし、明らかに木製の扉と分かるものが姿を現す。
 ふふん、と得意げに笑ったアンジェが言った。

「やっぱりね。隠し扉だよ」
「……魔法の技術を使った時計台、とは聞いてましたが……。さすがにこれは予測していませんでしたよ」

 ウィルバーはそうぼやくと、シシリーに向かって意見した。

「先に調べる方が良いと思いますよ。奥に何か魔法の仕掛けを施してあるのなら、隠し扉の向こうに番人を置いて邪魔者の背後を突くでしょう。扉の向こうにあるのが魔法の仕掛けなら、私たちの仕事はそれを調べることですから支障ありませんし」
「分かったわ。じゃあ、準備しましょう」

 シシリーの決断に、ウィルバーは小さく頷いて【理矢の法】の呪文を紡いだ。
 駆け出し冒険者と変わらない実力の今の彼に、この魔法は少々荷が重いのだが、この魔法で生み出される矢は術者が合図を送らない限り、勝手に消えることなく周囲を回り続けてくれる。
 前準備できる攻撃魔法としては、まずまず使い易い呪文であった。
 一方、【魔法の鎧】の方はまだ温存することにした。
 この先に隠されている部屋は、建物の構造上、今いる部屋より広いということはありえない。
 もしこの先にいるのが敵だとしても、そう多くはないはずである。
 覚悟を決めた一行は、そっと隠し扉を開いた。
 しばらく暗い場所に視力を奪われるが、細く差し込む微かなランタンの光に浮かび上がるものがあった。
 怪訝な顔になったロンドが呻く。

「ゴーレム……か?」 
「……防犯用か何かの……ガーゴイルみたいだね。今のところは何もしてこないけど……先に攻撃するか、動きを封じるか……」

 しばし上体を折り曲げるようにして相手を観察していたアンジェが言った。
 彼女のその言葉に、ぐりぐりと右腕を回したロンドが続ける。

「あいにくと、相手を縛り付けるような技術や魔法は誰も習得してない」

 ロンドは魔法のかかったスコップを担ぎ直すと、思い切り振りかぶって敵の脳天に叩きつけた!

大時計3

 並みの生物であれば昏倒したであろう、真っ赤な炎と共に叩き込まれた一撃は、それでも相手を倒すことはできなかった。
 今のロンドの行動を攻撃と判定し、軽い軋みを上げながら動き始める。 
 狭い部屋の中で機敏に動き回り、ロンドの再びの攻撃をいなしてシシリーの長剣の横薙ぎを避けたガーゴイルだったが、さすがに先ほど準備してあった魔力による矢にはなすすべは無かった。
 ウィルバーの杖を振った仕草を合図に、レモンイエローのオーラを纏った魔力の集合体がガーゴイルの胸に突き刺さる。
 あっさりと崩れてしまったガーゴイルを、短剣の先でアンジェが突付く。反応はない。
 肩をすくめて安全を示した仲間に全員が頷くと、もう一度先ほどの部屋を通って奥へと進むことにした。
 石造りの床の上で足音を響かせていると、ある扉の前で鋭い視線を走らせ、きゅっと口元を引き締めたシシリーが仲間へ確認した。

「嫌な予感がするわ……準備はいい?」

 荷物袋から一輪の白い花を出すと、その香りを嗅いで勇気を奮い起こす。
 前の依頼で魔女から与えられたものだ。
 そしてウィルバーがとうとう【魔法の鎧】を唱え、パーティ全体に不可視の防御フィールドを生成する。
 そしてまたもや【理矢の法】による魔力の矢を待機させ、彼らは時計台の奥へと歩んでいった。
 一番先頭を歩いていたシシリーが、あるものを目にして口を開く。

「これは……」

 東西南北の位置に置かれた、四つのオーブが彼女の視界に入ったものであった。
 濃い灰色と白に彩られたオーブは、ただならぬ気配を発している。

「ずいぶん大掛かりな魔術ですね……。依頼人の言っていた『なにかすごい魔法』というのはこれのことでしょうか……」

 杖を構えていたウィルバーがそう呟いた後、

「……ひとつだけ割れているのが気になりますね」

と発動体の先端にある宝玉で欠けたオーブを示した。
 ――その動作と同時に。

「――!」

 がちゃりという甲冑を鳴らすような音に反応したテアが、身構えた後にオーブの置かれている更に奥へと視線を走らせる。
 そこには、先ほど相手をしたガーゴイルと同じデザインのものが、ずらりと7つも並んでこちらへじりじり近づいてきていた。

「構えよ、皆の衆!」

 竪琴を抱えなおした老婆は注意を促し、他の者達は素早く目線を交し合う。
 ほぼ一瞬の出来事であったが、深く踏み込んだロンドのスコップとアンジェのフェイントを含めた攻撃が一番奥のガーゴイルをさっそく破壊し、その手前に陣取っていた一体を、ウィルバーが待機させていた魔力の矢とテーゼンの槍による刺突が容赦なく屠る。
 ――時間にして、わずか40秒。
 残りのガーゴイルを、中々様になってきたチームワークで退け、叩き壊した。
 最後の一体の破片を部屋の隅へと蹴飛ばすと、

「……これでまともに調査できるね……」

とアンジェが大きく息を吐いた。

2016/02/04 13:59 [edit]

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