Thu.

大時計その1  

 不可解な異変の調査をお願いしたい――そう書かれている依頼書を見つけたテアは、小さくふむと呟きつつ貼り紙を剥がした。
 拘束期間は帰還を含め一週間、やや長いように思われるが、その代わり報酬は銀貨800枚と少々高めである。

大時計
 老婆の持ってきた依頼を検討し始めた宿の亭主が、宿の中に依頼人がいるから話を直接聞いたほうが良いだろうと、とある青年を旗を掲げる爪のテーブルに連れてきた。
 年の頃はシシリーやロンドよりもいくつか年上であろう。
 気の弱さが表情によく滲み出た、繊細そうな顔立ちをしている。

「……どうも……」

 消え入るような声で挨拶しながら会釈した依頼人は、クォーツと名乗った。
 ルオランという町で時計屋を営んでいるそうである。

「何からお話すればいいでしょうか……」

 ぼそぼそと話す青年に苛つくこともせず、シシリーは貼り紙をもう一度見直してから質問した。

「依頼文には『異変』ってあったけど……具体的には何が起きてるの?」 

大時計1

 その異変とやらによっては、受けられるか受けられないかを判断する必要がある。
 リーダーらしい自覚が少し出てきたのか、そう言って相手の返答を待つシシリーを自信なさげに見つめたクォーツ氏は、やや口篭った後に一言。

「『明日が来ない』んです」

と説明した。
 怪訝そうに問い返したシシリーたちに、クォーツはまだ頼りないながらもある程度腹を決めた顔に変わって、依頼の内容を詳しく話し始めた。

「初めは……ただの勘違いだと思いました」

 よく似た出来事が起きるものだと、そんな偶然もあるのだと思っていたそうだ。
 だが、クォーツ氏の友人の祖父は毎日階段から落ち、向かいに住む夫人は毎日同じ料理を失敗し、金物屋の旦那は毎日同じ時計を引き取りに来店する。
 めくったはずのカレンダーは日付が元に戻っており、店で直したはずの時計はまた壊れた状態になっている……。

「……僕がおかしくなってるのかとも思ったけど……リューンでは、何事もなく日が変わります。ルオランだけが同じ日を繰り返しているんです……」

 依頼人の話を顎に手をやりながら聞いていたウィルバーは、その手を外しながらゆっくりと問いかけた。

「そんな事が本当に起こりうるとして……どうして、あなただけは影響を受けていないのですか?」
「わかりません……だから本当は、本当に僕がおかしくなってるだけなのかもしれない。でも」

 クォーツ氏は咳き込むように言った。

「原因の見当はついているんです」
「む?」

 テアが促すと、彼女の怪異な容貌にやや怯んだクォーツ氏だったが、気を取り直したように見当とやらを口にした。

「ルオランの街の中心には、大きな時計台があります。正午と、朝夕6時に鐘が鳴るんですが……おかしくなり始めた日から……その鐘の音が変なんです。くぐもってたり、変に反響してたり……」

 鐘の音に関しては、職業的な関心も抱いているだけにやけにきっぱりと断言する。
 それゆえ、彼はどうしてもあの時計台が今回の異変に関係しているのだろうと思っているようだ。
 時計が壊れただけではないかというロンドの意見に、クォーツ氏は水に濡れた子犬のように首を横に振って否定した。

「違う……と思います。あの時計台は、何百年も壊れたことも止まったこともないんです」

 不思議なことに、錘の巻上げすらしていないのに正常に動き続けている。
 何かすごい魔法がかかっている、という町の言い伝えくらいしか依頼人には分かっていなかったが、ウィルバーは腑に落ちたような表情に変わって頷いた。

「なるほど……それなら調べてみてもいいでしょうが……」

 同時に、なぜクォーツ氏のみが正常な時の流れを刻んでいるのか、もしかしたら彼の先祖がその時計台に関わっているのではないか――そこまでウィルバーは推測しつつ、依頼人になぜ自分で調べてみなかったのかを尋ねた。
 クォーツ氏も時計台に注目した時点でそうしようかと思ったのだが、時計台への立ち入りには管理者の立会いが必要になる。

「手続きが要るから『明日』来るようにって……」
「なるほど、そりゃ入れるわけねえわ」

 自らの黒髪をぐしゃぐしゃと左手でかき回しながら、テーゼンが声をあげた。
 時計台の管理者の言う『明日』は、ルオランには来ないのだから。
 ついでに、報酬に関してテーゼンが口にすると、前金として半額を渡すつもりでいるという。
 解決できなかった場合は後金はなしだが、前金はそのまま持っていってくれて構わない、と話すクォーツ氏の言葉に、シシリーは他の仲間たちへ目で合図した。
 どうやら反対の意見はなさそうである。
 依頼を引き受ける旨を彼に告げると、クォーツ氏は嬉しそうに礼を言いながら銀貨400枚をさっそく支払った。
 旗を掲げる爪は前金を元に支度を整え、依頼人を送りがてらルオランの町へ向けて出発した。

2016/02/04 13:56 [edit]

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