辿り着いた魔女の住む家は、赤い屋根が少々色あせたこじんまりとした建物だった。
 彼らが通された部屋も、魔法使いの部屋というより、静かな薬草師などの住む庵のように質素である。

 依頼人である魔女は、年齢を感じさせない整った顔に儚げな笑みを浮かべ、

「ようこそいらしてくださいました」

と出迎えた。
 依頼について詳しい話をしたい、とアンジェが促すと、依頼人は頷いて傍らのベッドで起き上がっている娘の、蜂蜜色の髪を愛しげに撫でながら説明し始めた。
 治療薬の材料がある森は、この家の裏側にあること。
 野生の狼や蜂が出ることはあるが、さほど広くはないので迷う心配だけはないこと。
 目的の植物は、【サネアの実】という植物の実と『フーカ草』という薬草の一種であること。
 話の途中で、ウィルバーが出来れば報酬に色をつけて欲しいと交渉を始める。
 家の中を見ていた仲間たちは、これ以上の金を依頼人は出せないだろうということを家の質実な様子から理解していたので、やや非難の色を含んだ目を彼に向けていたのだが、ウィルバーはそれにめげることなく言葉を続けた。

「いえ、現金でなくていいのです。あなたはよく効く薬を作ると宿の亭主に伺っております。もし、冒険の役に立つような薬があれば、それを支障のない量だけ分けていただければ…」
「なるほど……分かりました。銀貨600枚の報酬に加えて、私の作った万能薬を一つ、差し上げます。それでどうかご勘弁下さい」
「ああ、願ってもないボーナスですよ。無理を言って申し訳ない」
「いえ……薬があなた方のお役に立つとは思いませんでした。さて、話すべきことを続けましょう」

 ――娘の病は急性のものであり、進行が早いためになるたけ急いで材料を集めてほしい。
 ベッドにいる少女は声が聞こえる方向へ可愛らしい微笑を向けてはいるが、依頼人は実はかなり苦しんでいるはずだと述べた。
 問題の材料について依頼人から特徴を記した羊皮紙を貰った一同は、健気な娘のために時間を無駄にしないよう森へ移動した。

「あまり深い森ではねえようだが、道から外れるのは剣呑だな」

 野外に慣れているテーゼンが、ざっと辺りを確かめて仲間に告げる。
 彼はすぐ二股に分かれている道のうち、右手の道を指し示した。

「怪しい足跡なんかがあるわけじゃないが、なんかこっちから変な気配が漂ってる」
「変な気配だって?」

 すわモンスターか、と意気込んでいるロンドの機先を制すように、テーゼンはおっとりと付け加えた。

「こちらに敵意がある感じではねーよ。ただなあ……生き物だろうか、これ?」
「あン?」

 彼の言によると、獣や虫の気配とはまったく違うそうである。
 正体は分からないものの、気になるものがあるのなら、薬草採取の邪魔をされないうちに確かめておこうと一行は右手に伸びた道を進むことにした。
 ありふれた小鳥や花を森で見かける中、依頼人から注意されていた狼たちの出現もなく、彼らはとある突き当たりで足を止めた。
 ぼそりとロンドが口を開いた。

「骨が気になるな」

魔女の依頼2

 彼の視線の先には、時間が経ってやや灰色がかった上に白い花まで絡んだ人間の骨が座っている。
 どう見ても、骨だ。ただの死体である。

「……?」

 調べていたテアが首を傾げると同時に、肋骨のあたりからはらりと地面に落ちたものがある。
 肝の太いロンドは躊躇いなくそれを拾い上げ、読み上げた。

「なになに?『私は酒好きです。葡萄酒以外』……?」
「兄ちゃん……骨って、お酒、飲むの?」

 アンジェが訝しげな顔になって問いかけた。
 それにはさあと生返事したロンドだったが、

「酒か……依頼人にもらえないだろうか」

と、すっかり骨に酒を供える気になっている。
 ロンドは、実は大酒飲みである。
 リューンで普通に販売している葡萄酒はもちろん、北方で取引されているようなきつい度数の酒や、ドワーフが引っ掛けるような、凄まじいの一語に尽きる酒まで好んで口にする――もちろん、そんな資金がある時くらいだが。
 もし自分が死んだあとも酒が欲しくなったら、そりゃあ供え物に注文もつけたくなるだろうと、彼は大真面目に骨に同情していた。
 酒豪の様子にあきれ返った他の仲間たちも、ここに人骨があるということは依頼人から聞いてはいないため、それを確認するため彼女の家へ引き返すことには同意した。

 疲れた冒険者たちを休ませるために部屋を整えていた魔女も、さすがに酒を求めるロンドの要求に目を丸くした。

「お酒…ですか?ちょうど葡萄酒がありますが」

 面食らっている彼女に、テアが森の奥で見つけた骨と、その肋骨部分から落ちた紙面の文章について説明する。
 依頼人は承服しかねるように首をひねっている。
 彼女の知る限り、あの森で最近死んだ者はいないということである。
 ただ、そう書き残すほどに酒好きな人間が亡くなっているというのは確かに哀れな話ではあるため、葡萄酒以外とあつかましくも注文を発したロンドに逆らうこともせず、彼女は薬効のない品だが、と注意をしたうえでマムシの入った酒瓶を手渡してきた。
 それを見てごくりと喉を鳴らしたものの、ロンドは横取りはしなかった。
 元の場所まで取って返し、さっそく瓶の口を開く。

「酒ぇ!!!酒さけサケだぁ!!!」

 マムシ酒を骨に注いでやった途端、元気(?)な声を上げた骨に、アンジェは呆れたように

「まあ」

と呟いた。
 アンデッドの一種なのだろうか?
 しかし、それにしてはこちらに対する敵意もなければ、禍々しいオーラもない。
 おまけに、髑髏だけに表情がよく分からないながらも感激した様子の骨は、酒の礼に冒険者の質問に何でも答えるといい始めた。
 骨当人のことについて質問した一行だったが、あいにくとその記憶はないようだ。
 あとは草を生やし化石となって、塵と化す予定のただの骨だと名乗っている。
 すっかり警戒心も毒気も抜かれたついで、戯れにテーゼンは魔女について骨に問うてみた。
 すると、驚くことに骨はちゃんとした返事を寄越したのである。

「魔女とは魔女、名前はカトレア、生まれは東、はるか東!趣味は園芸と昼寝、白い花が大好き!」
「……まさか知ってるとは思わなかったぜ」
「そしてそして、好きな食べ物はゴブリンの素揚げ!さて嘘か誠か、どちらと思うね!」
「それは嘘だ、ぜってー嘘だ」

 骨を相手に漫才をやりだしたテーゼンに、仲間たちは頭を抱えるしかなかった。

2016/02/04 13:40 [edit]

category: パーティ名会議後の魔女の依頼

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top