「パーティ名か……確かに考えてなかったわね」

 ウィルバーの提案に、シシリーは飲んでいたホットミルクのカップを机上へそっと戻しながら頷いた。
 今は仮に「シシリー一行」として宿に登録している彼らだったが、これからこの面子で依頼を受けるつもりがあるのならば、ちゃんとしたパーティ名をつけるに越したことはない。
 評判が上がれば、必然的にパーティ名も人々の知るところとなる。
 指名による依頼も増えていくだろう。

パーティ名会議
「私たちは今、シシリー一行と名乗っているけれど、他につけるとしたらどんな名前があるかしら?」

パーティ名会議1

 彼女の問いかけに、メンバーはそれぞれ自分の思う名前を挙げ始めた。
 おふくろの豆、不死身の戦斧、確かなる卵、醒めた流れ者、指し示す道標、水も漏らさぬ詐欺師(?)等など…。
 ふざけたものもあれば、真剣に考えたものもある。
 ふと、シシリーが、

「旗を掲げる爪…」

と呟いた。
 こてり、と首を傾げたアンジェが彼女に反復する。

「爪?」
「あ、いや、ここの宿の名前に狼がつくでしょう?そこから何となく連想したんだけど……ゴブリンに勝った時、勝利の旗でも掲げたような気分だったし」

 本当にただの思いつきで喋っただけのつもりだったシシリーは、首をちぢ込ませるようにして皆からの視線をやり過ごそうとし、失敗して赤面した。
 果たして、テアがポツリと零す。

「悪くない……悪くはないのぅ」
「そうだな、ばあ様。確かに悪くない」

 有翼種であるテーゼンが、黒翼を揺らしながら同意する。
 金髪のリーダーの横にそれぞれ陣取っているロンドとウィルバーも、目を見交わして首を縦に振った。
 ――10分後、彼らは自分のパーティ名を≪狼の隠れ家≫に登録した。
 新たなリューンの冒険者、旗を掲げる爪のこれが正式な出発である。
 やる気に満ち満ちた彼ら6人に、宿の亭主はさっそく入って来たばかりの依頼を彼らに見せた。

魔女の依頼

 ほう、という短い歎息と共に、ウィルバーが呟く。

「『魔女』、ですか……」

 すかさずリアリストであるアンジェが応じる。

「怪しいわね」
「魔法を使える奴なんてわんさかいるのに、わざわざ魔女を名乗るのは確かに怪しい」

 彼女の訝しげな視線に、宿の亭主は大げさに肩をすくめてみせた。

「だがまあ、悪いやつじゃないんだ」

 彼の親しげな様子に、「知り合いか?」とロンドが問うと、亭主は昔少々の交流があったことを明かした。
 よく効く薬を作るのを生業にしているらしい。
 それを何とはなしに聞きながら、テーゼンは羊皮紙の一文を確かめた。
 魔女を名乗る依頼人の娘の患った病は、失明の危険性がある。
 彼女の看病で身動きが取れない自分の代わりに、治療薬の材料を森で取ってきて欲しい…という内容であった。
 報酬は銀貨600枚とある。
 こないだ果たしたゴブリン退治と同じ金額で、薬草探しである。
 悪くはないんじゃないか、と同意を求めるテーゼンへテアは慎重に返答した。

「採りに行こうというその材料とやらが、強力なモンスターの身体の一部だったりしなければ、確かにそうじゃろうがのう」
「そんな注意が必要な材料なら、ちゃんとこちらへ書いて寄越すと思うぞ」

 宿の亭主は首を横に振りながら言った。
 作った薬を使う対象は依頼人当人の娘である。
 材料を手に入れるのに条件に合わない冒険者を派遣されても、薬を作る助けには到底ならないのだから、そんな危険性が高いはずはないのだ。
 亭主のその説明に、一同は納得した。

「まあ、あいつの家はリューンの近郊にある。詳しい話を聞きたいのなら、あまり時間をかけずに行く事ができるだろう」
「そっか。どうしよう皆、もう出かける?」

 アンジェの言葉に被せるように、さらに亭主が言い募る。

「もし行くなら急いでやってくれ。病気っていうのは長引いただけ、辛いものだからな」

 しみじみとした人情味のあるセリフに、旗を掲げる爪は依頼を受ける決心をした。
 住所はゴブリン退治の依頼が出ていた洞窟に近い。
 気をつけて行って来いという亭主に、一行は軽く頷いて出発した。

2016/02/04 13:39 [edit]

category: パーティ名会議後の魔女の依頼

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