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「……ゴブリンの姿が見える。間違いない、この洞窟だ」

ちょっとだけ150仕様3


 さっと宙を飛んで斥候してきたテーゼンによると、ゴブリンが一匹だけ洞窟の入口で見張りをしているという。
 シシリーたちは自然の赴くまま手前勝手に生えている茂みに身を隠しつつ、テーゼンの案内で問題の場所へと静かに移動した。
 洞窟までまず10メートルといった地点で、どうしたものかと顎に手を当てて考え込んでいるウィルバーの肘を、皺くちゃの指が突付いて注意をこちらに向けさせた。

「眠りの歌がある。ワシが眠らせてやろうか?」

 テアがそっと運んできた竪琴を顎で示す。
 見張りのゴブリンがこちらに気づいていないのは明らかであった。
 下手な遠距離攻撃を行い、仕留めきれずに応援を呼ばれてしまうよりは、そっと効果を現す子守唄の方が今の妖魔には有効かもしれない。
 問題は、歌いだしてしまったテアはほぼ無防備になる点であった。
 ロンドが肩をすくめる。

「盾になるくらいはできる」
「――いや、君は重い鎧を身につけている。これ以上近づけば、あちらにばれてしまう可能性が高い」

 妖魔くらい首をねじ切ってやろうと意気込んでいる若者に、ウィルバーは言葉の冷水を浴びせた。
 結局、そっと歩くのに慣れているアンジェがテアに同行することにした。

「では歌うとするかの…」

 始めはそれとわからぬよう小さな弦の響きであったが、年齢とともに深みを増したややしゃがれた声が、徐々に【まどろみの花】と名づけられている子守唄を妖魔の耳へと届くよう歌い上げる。

「……?」

 ふらり、と揺れたのは一回だけ。
 そのまま妖魔の体は傾いでいき、近くの岩へともたれかかってイビキをかき始めた。

「……眠ったようじゃ」
「それなら今のうちにってことだよね」

 音も立てずに進み出たアンジェが、持っていたダガーでゴブリンの急所を迷いなく突いた。
 リアリストの彼女らしい、事務的で合理的な手つきである。

「むぎゅう……!」

 ゴブリンの断末魔は、ごく小さなものであった。
 ダガーについた血をそこらに生えていた柏の大きな葉で拭うと、アンジェはくるりと獲物を回して鞘に収めた。

「こっち終わったよ、姉ちゃん」
「よし、行きましょ」

 ランタンに火を灯し終わったシシリーの先導で、一行は洞窟の中へと踏み込んでいった。
 洞窟内はくねった道が続いている。
 ひとまず奥へ奥へと進んでいくと、三叉路に行き着いた。
 洞窟の壁に、明かりに照らされた冒険者たちの影が、不器用な道化師のように揺らめいている。
 ふと、立ち止まってランタンを額より上に掲げたシシリーが、仲間達に振り返って言った。

「……東の通路から地鳴りのような音が聞こえるわ」
「背後を突かれるのは上手くないよね。そっちから先に見てみない?」

 アンジェの意見に、皆が同意した。
 更に息を潜めるようにして東の通路へと歩を進めると、通路奥でホブゴブリン――ゴブリンの亜種で、体格がひとまわり大きく力も強い――が熟睡している。
 ……それにしても凄いイビキだ。 
 食べ物の夢でも見ているのか、いかにも気持ちよさげに眠りの国にいるホブゴブリンには悪かったが、ロンドが獲物を思い切り振りかぶった。

ちょっとだけ150仕様4

「せぇ~のっ!」
「むぎゅっ☆」

 いささか間の抜けた断末魔を残し、妖魔はトドメを刺された。
 確かに死んだことを確認するため、アンジェが妖魔の首に手を伸ばすと、汚れてところどころ黒光りをしているホブゴブリンの革鎧から、するりと落ちたものがある。
 小さな鍵であった。
 不思議そうな顔をしてウィルバーが拾い上げる。

「この鍵は……?」
「はて……いずれにしろ、この洞窟で使うものじゃないかねぇ。怪力のホブゴブリンたちはゴブリンの用心棒役と言っていい。大事な物を預けるなら、より強い個体に渡すのが道理じゃろう」

 テアがそう指摘すると、なるほどと頷いて彼は鍵をポケットへと入れた。
 ここは行き止まりであるため、一行は先ほどの三叉路まで戻った。
 西の通路は入口に戻ってしまうため、残りの北の通路を行くことにする。
 通路がほぼ直角の曲がり角になった辺りまでくると、先ほどと同じ動作で、再びシシリーが足を止めた。

「今度はどうした?」

 ロンドのセリフに、シシリーは真剣な光を宿した碧眼で答えた。

ちょっとだけ150仕様5

「西の通路から騒々しい物音が聞こえるの。ゴブリンたちかしら…?」
「かもしれない。私たちに能力を向上させる補助魔法はないが、精々注意して先へ行くことにしよう」

 大人であるウィルバーの促しは、これまで順調に進んできて気が弛んでいた若者三名の背筋を伸ばさせた。
 シシリーの聞きつけた物音は、複数のものであったようだ。
 だとすれば……冒険者たちは、思い思いに武器を抜いて深呼吸をした。

「行きましょう」

 いつの間にかリーダー役を務めている金髪の少女の言葉に、他の五名は黙って首を縦に振った。
 覚悟を決めた彼らが西の通路に突っ込むと、そこにはゴブリンたちが集団を形成してこちらに身構えようとしていた。
 不快な警戒の声を発して、刃がガタガタになったショートソードや血の付いたスピアを振り上げている。

「きぃぃっ!!」
「ん……!?ありゃ……」

 老眼著しいテアが、それでも目を凝らしてゴブリンや、ゴブリンが奴隷としているらしい犬のような外見のコボルトの群れの向こうを眺める。
 草色をもっと濃くしたようなフード姿の敵は……。

「なんてこった、ゴブリンシャーマンじゃないかえ!」

 魔法を操る知能を持つ厄介な妖魔は、普通のゴブリンやコボルトに身を守らせながら何かを呟いているようだ。
 正体を看破したテアからすれば、それがこちらに放つつもりである呪文であることは火を見るより明らかだった。
 慌てて竪琴を持ち直し、こちらも息を整える。
 ゴブリンシャーマンが魔法を唱えるよりも早く、こちらが歌で眠らせられれば仲間たちにとって有利な状況となるはずだ。
 シシリー・ロンド・テーゼンは、それぞれコボルトを無視して奥の方へと攻撃する体勢でいる。
 三者とも駆け出し冒険者でありながら、コボルトという種がひどく臆病者であることを承知していた。
 それでもかかって来ようとするコボルトには、テアとウィルバーを守る位置に陣取ったアンジェが接近戦を挑む予定である。
 ホビットであるアンジェは、手先が恐ろしく器用である割に力が弱く、とても重戦士であるロンドのように戦うことはできない。
 相手が見張りの妖魔のように眠り込んで抵抗できないならともかく、生きているゴブリンたちに痛手を負わせられる自信はなかった。

「退ケ、人ノ子ラヨ……!」

 案の定、人語の後にゴブリンシャーマンは【眠りの雲】という広範囲の催眠効果のガスを発生させる魔法を発動し始めた。
 緑色の指先から、無味無臭の誘眠性ガスが冒険者たちへと放たれる。

「くっ……」

 ウィルバーのうめきを契機に、たちまち6人の膝が砕ける。
 このシャーマンはある程度魔法に習熟しているのだろう、呪文に躊躇いも停滞もなかった。
 だが、眠ったところを襲ってきたゴブリンの攻撃は浅く、ロンドとアンジェは、それぞれ怪我を負った箇所から血を流しながらも、気丈に立ち上がって敵へ向かっていく。

「うおおおおお!」
「ぎぃぃっ!」

 勇ましく吼えたロンドの棍棒が、ゴブリンシャーマンの胴を薙いでダメージを与える。
 未だ浅い、と彼は舌打ちした。
 その隙に、ゴブリンの一匹がロンドの脚を狙って槍を振り回す。
 もう一匹がまだ眠っているシシリーの脇腹を突き刺し、宙に赤い飛沫が飛んだ。
 自らも刺されつつ、また戦士が吼えた。

「シリーぃぃ!」
「ぐぅ……くっ」

 痛みに正気を取り戻した少女は、唇が白くなるほど噛み締めながらどうにか起き上がる。
 魔法の効果時間を脱したテアが、その傍らに跪いた。
 戦闘は未だ続いているため、猶予はない。
 彼女は迷わず、清浄な雨垂れを表現することで相手の傷を癒す呪歌を選んだ。
 いつの間にかコボルトの頭数は減っており、それがどれほどこの戦闘が激しく恐ろしいものだったかを物語っている。
 避けることに専念しようとしていたゴブリンシャーマンは、怒りに任せた大ぶりなロンドの一撃を回避してのけたが、密かに呪文を唱えていたウィルバーの指先にまでは注意を払っていなかった。

「極低温の軌跡よ、蒼なる光線よ…!」

ちょっとだけ150仕様6

 彼の唱えていたのはさる魔術師の遺産、【蒼の軌跡】と呼ばれる冷気を放つ魔法であった。
 およそ、通常の生き物で追尾性をもつこの冷気の矢から逃れるすべはない。
 彼の人差し指に宿っていた蒼と白に輝く凍気は、狙い過たずシャーマンの胸を貫き絶命させた。

「ほら、あと三匹ですよ!」

 ウィルバーの示したとおり、いつの間にか一行にとっての敵がまた減っていた。
 先ほどから流した血による怪我が痛むものの、士気は高まる一方である。
 総力戦しかない――そう判断した冒険者たちは、ロンドがゴブリンの片方を、もう片方のゴブリンはシシリー・テーゼン・アンジェの三人がかりで、コボルトはテアとウィルバーの二人で何とか相手することにした。
 何とか作戦は実を結び――。

「ぶぎゃぁっ!」

 最後の一匹が情けない声を上げて倒れると同時に、冒険者たちは自分たちが戦いに勝利したことを知った。
 初めての戦闘だけあってぎこちなさにより苦戦はしたものの、誰も気を失うところまではいっていない。
 お互いに顔を見合わせ、苦い笑みを交わした。
 これでこの洞窟の妖魔達は大方片付いたようだ。
 何匹かは逃げてしまったが、当分は帰ってくることもないだろう。
 特に怪我のひどかったシシリーとアンジェの二人を癒すと、冒険者たちは南へ続く通路を念のため捜索することにした。

2016/02/04 12:58 [edit]

category: ちょっとだけ1.50仕様のゴブ洞

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