Mon.

熊が来た! 1  

 セランス東部、コセンソール地方。
 小高い山々が穏やかに連なる、のどかな土地である。

「いやー。ベルサレッジの盗賊団には、参ったよな」
「あんなに的確な指示を出せるなんて・・・彼も、真っ当な職にあれば、もっと素晴らしい人生だったでしょうにね」
「おい、リーダー。あれ」

 冒険者一行は、要港都市ベルサレッジで、盗賊退治の依頼を片付けた帰りだった。
 ギルとアウロラが依頼の感想を言い合っていると、先を歩いていたエディンが振り返って、山あいの小さな村を指差した。

「なんだ、あの騒ぎは」

ScreenShot_20121026_081444812.png

 ギルが呟くのも道理、村の教会堂の前の広場では、テーブルや長椅子がひっくり返り、村人たちが右往左往しながら騒いでいる。
 冒険者一行が得物に手を添えたその時、一人の少女が彼らの姿に気づき、駆け寄ってきた。
 年のころはまだ十代前半といったところか。波打つ褐色の髪を短くした、丸顔の賢そうな娘である。

「冒険者の方たちとお見受けします。ちょっとした厄介事が起きまして。とりあえず村の教会堂へお越し願えませんでしょうか」
「・・・いいぜ、厄介事は俺たちの飯の種だ」

 興奮した村人でごった返す教会堂の奥。
 説法壇の周りには、村の頭立った人々が集まっていた。
 この教会堂の主であるピコネリ司祭が、まず口火を切って説明を始める。

「この近在では、秋口から熊が頻々と人里に出没するようになりましてね・・・・・・」

 何でも、熊狩りを思いついた領主が村の若い連中を勢子として連れて行った留守に、親子連れの熊が村に現れたのだという。
 村に残っていた人々は、老人や病人や子供を連れて、どうにか教会堂まで避難してきたとのこと。
 熊は今、村の中央を流れる小川の向こう側の民家の一軒に上がりこんでいる。

「・・・・・・いやまったく、クマっているのです」

 司祭の言葉に、秋よりもむしろ冬にふさわしい冷たい空気が流れた。
 村人たちの反応を見るに、司祭は日頃からこの調子なのだろう。
 気を取り直したように、司祭の隣に座っていた、お団子頭のふくよかな女性が言った。

「熊が上がり込んだの、ウチなのよ。ホントに困るわ。あんたたち、冒険者なんだって?なんとかならないかい?」
「そりゃあ、一般の人が手を出すよりは確かだろうが」
「それを頼むのなら、仕事ってことにさせてもらうけどいいの?」

 エディンが苦笑しながら頭をかく横で、ジーニが報酬のことについて言及する。
 二人の冒険者の反応を見て、慌てて元村長という老人が、お団子頭の女性の言葉を撤回させようと自分の主張を始めた。

「いや待て、領主さまのお帰りを待ったほうがええ」
「あのタマ無し領主に熊をくれてやることはない。そもそもがあのお人は・・・・・・」

 それを機に、村人はてんでに喋りだして収拾がつかなくなった。
 領主の噂話で盛り上がるのは結構だが、熊の話はどこへ行ったのだ。
 司祭が人をまとめるのに慣れているせいか、とりあえず周りを落ち着かせ・・・ようとして、コネタを喋ろうと隙を狙う。
 大人たちの呆れた醜態を見かねたらしく、冒険者一行をここに連れてきた少女――ミシェルが、この場を仕切り始めた。

「ごめんなさい冒険者さん。質問は私が承ります」
「・・・・・・お前も、若いのに苦労してるんだな」

 ため息をひとつついたアレクが、要領よく村や領主、熊のことについて質問をまとめた。
 それによると、この村はサンカンシオン村といい、特に目覚しい産業があるわけでもない平凡な村らしい。
 普段なら大騒ぎにはならない熊の出現だが、司祭の言っていたような事情――ブルイエ城に住む領主は、温厚だが思いつきで行動することが多いようだ――があり、人手がまったくない状態なのだ。

「熊は三頭か・・・・・・」
「ウチの子が家の中に居なかったのが幸いだけどね。慌てて近くにあった鍋ひっつかんでガンガン叩きながら”熊が来た!”って触れて廻ったわけさ。もう大騒ぎだね。隣の婆さんなんてそりゃあすごい勢いで飛び出して」
「・・・・・・かいつまんで言うと、3頭のうち大きな1頭が母熊、あとの2頭は仔熊と思われます」

 猟師の女房だというコルバおばさんの長広舌を遮って、ミシェルが言う。
 普通のツキノワグマだというから、妙な妖魔を相手取るよりは楽かもしれないが、まだ新米の粋を出ない彼らにとっては油断できない。
 待っていれば騎士団の派遣もあるだろうが、村として貴重な熊の毛皮や肉を領主側に持って行かれるのは惜しい、という裏事情もあるが故の仕事の依頼だった。

「わが村はご覧のとおりの貧しい村・・・・・・逆立ちしても150sp程度しか報酬は出せんでの」
「えー・・・・・・それっぽちで熊退治をさせるつもり?昼寝しているほうがマシね」

 愛用の杖ごと腕組みをしたジーニが、鼻を鳴らしてぴしゃりと言うと、ミシェルの祖父ロベールが広い額に汗を滲ませつつ、報酬を値上げた。

「ジーニさんと見込んで特別ですじゃ。300spでどうか手を打ってくだされ。この通りですじゃ」
「最初の提示額の2倍か」
「ってことだけど、どう?ギル」

 エディンとジーニが、口の端を上げて自分たちのリーダーを振り返る。

「よし、その条件でやらせてもらうか」
「ありがとうございますじゃ。よろしくお頼み申しますでの」

 冒険者一行がその場に立ち上がると、コルバおばさんが「そうだ、網を見つけたんだけど」と、熊退治に貸与を申し出てくれたので、ありがたく網を借用することにした。

2012/11/12 15:17 [edit]

category: 熊が来た!

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top