Thu.

敵意の雨 11  

敵意34

「言っておくけど――暗黒邪竜は他のドラゴンと違って、財宝の類は一切持ってないわよ」

 雪精トールが治療に走り回る間、≪知恵の果実≫を食べて気力と体力を回復した”金狼の牙”たちが立ち上がった時、初めてジュビアが顔をこちらに上げて言った。

「アイツはそんなものには全く興味がない。アイツが本当に好きなのは、強者との戦いだけよ」
「そうかい」

 ギルの返答はごく短かった。そのまま仲間たちに声をかける。

「皆。やれるな?」

敵意35

「ああ」
「仕方あらしませんなー。わても最後までお付き合いさせてもらいますわ、毒喰らわば皿まで言いますし」
「・・・・・・うん、猛毒ですまないトール」
「意地でも10000sp手に入れてやるわ」
「このまま帰ったんじゃ、ジーニのキライなただ働きになっちゃうもんね」
「何のために島に来たのか分からなくなりますからねえ・・・・・・」
「うるっさいわよ、ミナスとアウロラ!いいじゃないの、報酬があって燃えるのはプロとして健全な証よ!」
「やれやれ・・・・・・。仕方のねえ奴らだ。ま、リーダーをリーダーに推薦したのは俺だしな。最後まで付き合うぜ」

 ギルの掛け声にアレクが、トールが、ジーニが、ミナスが、アウロラが、エディンが返事をしていく。
 その様子にジュビアは目を細めた。

「これと似たような”地獄”を今までに幾つも潜り抜けて来たんだ。このぐらい、どうってことはないさ」
「フッ・・・・・・。どうやら、少しあんた達のことを見くびっていたようね。本音を言えば、奴は私がブチ殺したかったんだけど――あんた達に譲ることにするわ」
「じゃあな。行ってくる」

 ひょいっと片手を上げて振ったギルは、そのまま気軽に――まるで近くの店に出かけるかのような調子で赤い炎のようなマントを翻した。
 ひと際大きな山の麓にある洞窟の奥を目指し、彼らは歩き続けた。
 洞窟に入る直前につけたカンテラで、エディンが周りを見渡す。
 罠も何もないと判断し、仲間たちへ近づくよう手で合図を送ると、先頭を進んだ。

「中は、さっきの洞窟とあんまり変わらねえな」
「ええ。もっとも、さっきの洞窟ではこんなやばい気配は感じませんでしたけどね・・・・・・」

 アウロラの背中を冷や汗が伝う。先ほどから、彼女の聖職者としての勘に何かが訴えかけてきているのだ。
 瘴気と悪意の渦巻くその向こう――邪竜の存在を。
 言葉少なになり、カンテラの明かりだけでは不十分なほど暗くなってきた頃。

「ギルバート。分かってるとは思うけど・・・・・・」
「ああ。いるな、これは」

 2人が言葉を交わした刹那、辺りに地響きが起こった。
 慌てて地を踏みしめた彼らの視線の向こうに――。

「こいつが――暗黒邪竜」

敵意36

 今まで戦ったどの敵よりも恐ろしい相手を前に、ミナスは落ち着いた声音で呟いた。
 とてつもなく巨大な竜だ。
 たいていの場合、伝承と言うのは捻じ曲げられているものだ。
 いかに巨大な竜だと言い伝えられてきたとしても、実物を見れば、せいぜい一軒家くらいの大きさだったという例は珍しくない。
 しかし――この邪竜、確実に全長70mはある。まさに、伝承に恥じないほどの巨躯であった。
 全身の黒い鱗は朧げな光を放っており、深い暗闇の中でも鮮明に巨竜の姿を現している。
 邪竜は、ただじっと”金狼の牙”たちを見つめている。その瞳に宿るのは侮蔑か。怒りか。憎しみか。憐れみか。・・・・・・ギルたちには分からない。
 唯一つ、確実に言える事は、この竜がギルたちを生かして帰すつもりがないこと。

「やれやれ・・・・・・。どうやら、かなり気に入られたようだな」

 ギルは≪護光の戦斧≫を構えた。
 その刃から放たれた【暴風の轟刃】を合図に、ミナスが、ジーニが、己の魔法を邪竜の頭部へと叩き込んでいく。

「マナよ集まれ、魔法の矢となり穿て!」
「イフリート、お前の息吹を少しここに貸して!」

 白い魔力の矢と業火が過ぎ去った後を、二刀の盗賊と魔剣を構えた剣士が奔る。その目に躊躇いはない。

「・・・ったくよお!とんだ依頼だぜ!」

 両手を硬化させたエディンが遠距離から振りぬき、それとタイミングを合わせたアレクが反対方向から緋色に輝く魔法剣技を披露する。

「・・・・・・緋の翼を、刻まれろ!!」

 辛うじてその攻撃を弾いた硬い鱗が音を立てる中、アウロラは息を整えて神精を召喚する歌を歌った。
 黒く柔らかな毛並みをした獣は、方陣から飛び出すと分厚い鱗をものともせずにその足へと噛み付き、肉を引きちぎった。

「――――――――!!!!!」

 とんでもないダメージを初っ端に食らった邪竜が、大きく息を吸い込む。恐らくはジーニの言っていた黒い火炎の準備動作であろう。
 ところが、それをいち早く察したエディンが、尾から登って竜の鼻先に飛び上がり、思い切りその鋭い細剣で顎を貫く。

「――!!」

 邪竜は凄まじい憎々しげな視線を浴びせた。これでは火炎を吐くことができない。
 それでも血の流れる両の太い脚で地響きを起こし、竜は何とか冒険者たちの体勢を崩そうと試みる。

「・・・・・・くっ!頭が悪いと言う割に、やるではないですか・・・・・・!」
「・・・・・・同感だな。トール!ジーニの治療は任せるぞ!」
「了解でんがな、アレクはん!」

 アウロラとアレクの足場が崩され、ジーニも思わぬ方向からの攻撃に膝をつく。だが、彼女はそんな不利な体勢からも呪文を完成させ、強烈な【神槍の一撃】を竜の頭部へと叩き込んだ。

「我が敵を貫け、神の槍よ!」
「うおおおおおお・・・・・・!」

敵意37

 丹田に力を込めたギルは、巨大な尾に薙ぎ倒され壁に叩きつけられた。
 それでもどうにか歯を食いしばり、めり込んだ体をどうにか引き剥がすことに成功すると、筋肉の躍動を喉に集める。ジュビアも使った【獅子の咆哮】である。
 さらにミナスはナパイアスを、アウロラは再度神精ヴァンを召喚した。

「ここに来て、渓流の魔精よ!僕らの敵を押し流して!」
『あいよ、ミナス!あたしに任せな!』 
「我を助けるは聖なる獣、神に近しきその血筋・・・・・・!」
「ワンッ!!」

 幻獣などよりも神に近いと言われる聖なる獣の幼生が、アウロラの歌に合わせて竜の翼を引き裂いて。
 勇気ある精神力の持ち主でしか制御なしえないと言う渓流の精霊は、≪エメラダ≫による束縛を打ち破った竜の動きを、つかの間停止させた。

「よし、いいぞ!喰らえ【花散里】の氷片を!!」

 何度も原始的なまでの再生能力をもって、千切れたはずの翼や腕が元に戻るのを、エディンは必死に【花散里】で削ってゆく。彼の肩には、いつかリューンの店で入れた黒猫の刺青が汗に光っていた。
 咆哮によって1度召喚獣を打ち消されたりはしたものの、エディンの決死のサポート的攻撃が及んでか、いつの間にか竜の動く部分は頭部のみとなっていた。

「あと少しだ、皆頑張れ!」
「おう!!!」

 リーダーの励ましに、汗みずくでありながらも皆笑顔になり、生き生きとした答えを返した。
 そんな中、誰よりも幼馴染によって奮起した男が、鋭い爪や暴れまわる尾を回避しながら一つの技を竜の頭部へと突き刺す。
 彼の心は無心――全ての意識を刃へと乗せていた。

「これで・・・・・・どうだッ!!」

敵意38

 特殊な生き物――竜、という存在を打ち破るために開発された回避を捨てた技、【竜牙砕き】――。

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 邪竜が凄まじい悲鳴を上げる。普通の人間がいたならば、鼓膜が破れるか下手をするとショック死しかねないほどの絶叫だった。

「やったのか、アレク!?」
「いや、この技でも一撃では倒せない!だが・・・!」

 竜の牙を砕き鱗を破ると言われるこの特殊な技により、邪竜は本来持っている原始的な能力のいくつかを封じられてしまった。
 3体のスネグーロチカが雪の華を飛ばし援護をこなす中、エディンは【磔刑の剣】でもって邪竜の頭部を突き刺す。

「ガアアアアアアアアアアッ!!!」

 苦痛を振り払うかのように、暗黒邪竜が咆哮を上げる。聖なる光に耐え抜いたらしい。

「まだ死なないのか!お前さん大した奴だよ、本当に・・・・・・」
「ああ。だが、これで終わりだ」

 アレクの【魔風襲来】が、エディンの【暗殺の一撃】が続き――。

「風よ!我が力となりて敵を引き裂け!」

 ≪死霊術士の杖≫を振り上げているジーニの周囲を取り巻く旋風が、恐ろしいほどの勢いでもって邪竜の全身を引き裂いた――!

「――――」

敵意39

 断末魔の悲鳴が上がることもなく、邪竜の体がゆっくりと傾いてゆく。
 重々しい音が響き、”金狼の牙”たちが再び動き出すまでには、暫くの間があった。
 やがて誰からともなく・・・・・・。

「や・・・・・・」
「やっ・・・・・・た・・・・・・!」

 ある者は地面に倒れこみ、ある者はその場でへたりこみ、ある者は地面に突きたてた武器に寄りかかって大きく息を吐いた。

「あー、やべー。本当に疲れた。皆、少しだけこのまま休もうぜ」
「さんせーい・・・・・・」

 ギルの決定に、地を這うような仲間たちの声が応じた。

2013/05/16 00:05 [edit]

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