Wed.

敵意の雨 9  

 下級悪魔の後を尾行してディアーゼの元へと辿り着いた”金狼の牙”たちは、目の前の少年に呆気に取られていた。

「・・・・・・アンタがディアーゼ?」
「わかりきったこと聞いてんじゃねえよ」

 一行は目の前にいる魔族の少年が、自分たちを悪質な罠に嵌めた魔王だということが、にわかには信じられないでいたのである。
 肌の色と、額で不気味に蠢く眼を除けば、秀麗な顔立ちをした小柄な美少年に見える。

敵意28

「ギルバート以外は、間抜けな表情浮かべてやがんなオイ。敵の魔王が、こんなガキで調子狂ったか?」
「・・・・・・外見なんて関係ないさ。お前が恐ろしい力を持っていることはよくわかる」

 黄金色に輝く≪護光の戦斧≫を肩に担ぎ、ギルは少年を睨み付けた。

「これはこれは。天下のギルバート様にお褒めいただき、誠に光栄でございます」
「・・・・・・ッ!ふざけてんじゃねえぞコラア!」

敵意29

 よほどにその態度が癇に障ったのか、珍しくエディンが誰よりも先に切れた。
 その肩をトンと叩いて我を取り戻させたジーニが、今までの疑問をディアーゼに問いただした。

「アンタ・・・・・・一体何を企んでるの?あたしたちをこんな手の込んだ罠に嵌めて、どうするつもり?」
「たくらみ、ねえ。まあいくつかあるんだけどよ。その内の3割くらいは、てめえらがやってくれたぜ?」
「何だと・・・・・・?」

 訝しげな顔になったアレクへ、話には順番ってもんがあるとディアーゼは声をかけ、その質問に答えた。
 第一の目的は簡単である。噂に名高い”金狼の牙”をブチ殺したと言う肩書き――それが欲しかったのだ。
 カナン王を始めとする人外の強者たちが倒されているのだ。”金狼の牙”を殺せば、そのネームバリューは計り知れない。 
 第二の目的は人間の世界を支配する前段階における、最大の邪魔者――英雄を始末したかった。
 ディアーゼの考える中で、およそもっとも面倒な敵とは大国が抱える騎士団などではない。己の実力だけをたのみに人外の実戦経験をひたすら磨いてきた英雄である。
 そこで気づいたジーニは、我慢できずディアーゼに自分の推量をぶつける。

「”毒蛇”や”狂犬”をけしかけたのは、何もあたしたちを疲弊させるためだけじゃない・・・・・・!あいつ等にも死んで欲しかったからね!?英雄の候補生であるあいつらに・・・・・・」
「正解!さすがは”金狼の牙”のブレインだ。人間にしておくのが惜しいぜ」
「ふざけた事を・・・・・・!」

 確かに”漆黒の鳳凰”や”青い毒蛇”、”白銀の狂犬”たちは今の一同には遠く及ばない。だが、数年先にはどうか?
 そして、ディアーゼの策であれば、今でも少なからずこっちに被害を齎す厄介な英雄候補生たちを、最小限の被害で片付けることができる・・・・・・。
 実際に”白銀の狂犬”にやられていたロードヴァンパイアのことを、思い出しながらギルはぽつりと言った。

「そこで・・・・・・俺達の出番か」
「その通り。そうすりゃこっちの被害はゼロ。おまけに、てめえらも奴らとの戦いで消耗してくれる。いいことずくめじゃねえか!」

 無言でディアーゼを睨みつけているアレクの唇が、僅かに震えている。
 怒りと言う激情を、必死に言霊に乗せないようにしているためであった。

「だがッ!そこまでは順調だったのに・・・・・・!一番肝心な『最後の目的』が、達成できなくなっちまった・・・・・・!」

 急にどうしたことであろうか――全ての眼をカッと見開いたディアーゼが、アレクの怒りを上回るかのような勢いで怒鳴りだす。

「このクソボケのせいでなあアアア!?」

 ディアーゼは忌々しげにそう吐き捨て、魔族の死体を乱暴に蹴りつけた。
 この魔王に相対する直前まで尾行し、一行が切り捨てた下級魔族だ。

「てめえ、なんで来やがった!?合図がない限り、俺の所には来るなっつったろが!?頭沸いてんのか!?あア!?」
(もう死んでるのに・・・・・・。)

 ぞっとしたミナスは、さすがにその場に怯えて後じさりはしなかったものの、やや青ざめてその光景を眺めている。
 急に怒りを露にし、部下をボロ雑巾のように踏みにじっている秀麗な異形の少年を。
 そんなうかつに身じろぎもできない状況を、ばっさりとギルは断ち切った。

「・・・・・・やめろ」
「あア!?」
「その辺にしとけと言ってるんだ。・・・・・・見苦しい」
「なんだア・・・・・・!?その辺ってのは・・・・・・この辺か!?この辺のことか!?」

 ディアーゼは、その後も魔族の大きな体がただの肉片に変わるまで踏みにじろうとでもいうようにしていたが、やがて激情が遠ざかったのか――いや、無理矢理治めたのか。
 ふっと足を引くとニタリとこちらを眺めた。

「見苦しい所を見せた。わりいな」

 さっきまでの激昂ぶりが嘘のように、気味が悪いほど落ち着き払っている。
 あまりといえばあまりの豹変振りに、一行は咄嗟に言葉が出ない。

「・・・・・・一応説明しとこうか。『最後の目的』ってのはてめえらと邪竜のクソ野郎を戦わせることだったんだ。とは言っても、どっちに勝たれても正直こっちには困る」
「何故なの?」

 ジーニは容赦のない声で詰問した。

「あたしたちが邪竜に殺されたら困るってのは分かる。あんたが直接手を下したいでしょうからね。でも、逆のケースは!?あたしたちが邪竜を殺すのに、何の問題があるの?竜の1匹2匹死のうが、あんたの知ったことじゃないでしょ?」
「・・・・・・それが大問題で、俺の知ったことなんだよ」
「何だと?」

 想定外の返事に、ギルは片眉を上げた。
 そういえば・・・・・・1階層目で退治したワーウルフも、そのようなことを言っていた。「暗黒邪竜を倒すのは『あのお方』なんだよ!」と・・・・・・。

「お前――過去に暗黒邪竜と何があった?」
「へっ・・・・・・。昔の恥を晒すのは気が進まねえが、てめえらには教えてもいいか」

 そしてディアーゼは語りだした。
 祖父、父の代から魔法も使えぬ古竜との戦いを続けてきたことを――そして、彼自身も100年前に邪竜に戦いを挑んで負けたことを。
 思わず「何だってー!?」と叫んでしまった”金狼の牙”たちを冷めた眼で見やり、彼は話を続けた。

「あの時は――ジュビア・バルガス・イルードの3人は勿論のこと、部下の魔族2万人も引き連れて奴の所にカチ込んだんだ」

 結果は惨敗。
 壮絶な戦いなどと言うものですらなく、一方的な虐殺という有様だったらしい。
 実に手下の八割を失うこととなったディアーゼは、恐らく百万人いたとしても暗黒邪竜には勝てる気がしないと言った。

「で――そんな化け物を俺達にぶつけようと考えたわけだ?シアノス商会に圧力をかけてまで・・・・・・」
「”圧力”だなんて人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ。シアノス商会とは、普段からいい”お付き合い”をしててな。今回の話を持ちかけたら会長の奴、ノリノリで承諾しやがったぜ?」
「どでかい商会と魔族の”お付き合い”ね・・・」
「お前ら、商会から何か恨みでも買ってるんじゃねえか?」

 商会に限らず、恨まれる心当たりなどいくらでもある。例え、逆恨みや妬みといった理由からのものでも――。

「まあ、俺が邪竜のクソ野郎をブチ殺したがってる理由はわかっただろう」
「まあね。ついでに、アンタがあたしたちと邪竜が弱ったところで、漁夫の利せしめようと考えてたことも理解したわ」

 ジーニが肩をそびやかした。

「で?どうすんの?」
「こうなったら計画変更だ。ここでお前らを殺しとくぜ」

 その明白な意思表示に、冒険者たちはそれぞれの得物を構える。

「ジュビアたちや”漆黒の鳳凰”共との激戦で既にガタガタなんだろ?そんな状態で俺に勝てると思ってんのか?」
「思ってるね」

 金色の斧を掲げた男が、迷いなく言い放った。

「・・・・・・ホント、いい目をしやがるぜ。つくづく殺すのが惜しい」

 キュイ、と三つの目全てが愉快そうに細められる。

2013/05/15 23:55 [edit]

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