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敵意の雨 8 
自前の薬を使って自分たちを強化し、それによって狂戦士と化した吸血鬼の”白銀の狂犬”たちも、さすがに”金狼の牙”には叶わなかった。
最初のラウンドで盗賊のゲイルと剣士のナツキが倒れ、程なく魔法使いのミラージュやリーダーのソフィアも、前衛たちの波状攻撃により斃れる。

最後まで立っていた蛮族出身のロミナをギルの斧が引き裂いた時、”金狼の牙”たちは1人として怪我を負ったものがいなかった。驚異的な強さであった。
「怪我人いないのはええんですが、わての出番はまるでありませんな」
「贅沢言わないでくれ。こっちはヒヤヒヤものだったんだから」
相棒のぼやきに、刀身の血を振り落としながらアレクが答えた。
彼女たちの攻撃を受けることは、すなわち吸血鬼になる可能性があるということである。早々怪我を負うわけにはいかなかったのだ。
半ば以上千切れた腕を押さえつつ、ソフィアが呻く。
「アレ(薬)さえ使えば、あんたたちにも勝てると思ったんだけどね・・・・・・」
「お前、バカじゃないのか?」
ギルは容赦なく言った。
死に瀕したソフィアの顔が、痛みや恐怖とは別の感情から引きつる。
「・・・・・・何ですって?」
「あんなものに頼ってるから負けたんです。どうしてそのことがわからないんですか?」
抉るようなリーダーの台詞を、アウロラは正確に補足してみせた。
「あんな外道の薬に手を出した時点で、あなたたちの負けは決まっていたのです」
「・・・・・・言い返せないわね」
ソフィアは、まだ息があるうちにと自分を雇った者について話すと言い始めた。
きょとんと眼を丸くしたミナスが訊ねる。
「・・・・・・誰なの?」
「ふふっ、どんな奴だと思う・・・・・・?聞いて驚いちゃダメよ。魔族よ。それも魔王レベルの・・・」
名前はディアーゼ。
人間の間ではほとんど知られていないが、「あちら」の世界では結構な有名人らしい。
魔族の頂点に立つデーモンロード(魔王)の1人だと、ジーニが頭の倉庫を引っくり返してソフィアの情報に付け加えた。
狡猾さと、魔力。その二つに秀でた魔族は、タチが悪いという点において、今回の目的である邪竜と同レベルであった。
「ちょっと待ってください。そういえば、”鳳凰”のジャックも自分たちの雇い主は人間じゃないとか言ってましたよね?」
「あ・・・・・・」
アウロラの指摘にミナスも声をあげる。
エディンは誰にともなく呟いた。
「ワーウルフの言っていた『あのお方』とやらは、ディアーゼなのか?」
「そう考えるのが妥当でしょうね」
「・・・・・・やっぱり」
3組の冒険者パーティ、狼男、吸血鬼は既にない。
残る敵は最後の手下とディアーゼ、そして暗黒邪竜・・・・・・。
自分が捨て駒にされたことへの意趣返しとして”金狼の牙”たちへ情報を漏洩したソフィアが事切れた後、アレクが近づいてその目を閉じさせた。
「・・・・・・行こう。終わりはもうすぐだ」
一同のリーダーは真っ直ぐ洞窟の奥を指差す。
そして北へ、と彼らは急いだ。
「・・・・・・どうやら洞窟の出口にたどり着いたみてえだな」
「ええ。でも、この階層を守る”仲間”の姿が見当たりません」
エディンとアウロラはそっと仲間たちを見回した。それは、彼らなりの仲間への忠告だ。
恐らくこの出口を出たところにいる――そう睨んだ彼らは、もう何度目になるかも分からないが戦いの前準備を始めた。
「行こう。俺達に関わったこと、後悔させてやろうじゃないか」
「おお!!」
ときの声をあげた冒険者たちは、赤く燃える夕日が見える外へと歩いていった。
黄昏に照らされた辺りの山々は絶景と言ってよかったが、ぽつんとその中に佇む影があることに全員が気づいていた。
ふ、とギルが口角を上げる。
「夕焼けの山で、1人物思いに耽る女戦士――ってところか。結構絵になる風景だな」
「はっ・・・・・・」
こちらを振り返ったのは、黒髪に鋭い眼を持つ女だった。
先ほどまでの立ち姿では隙だらけと言ってよかったのに、ギルの声で振り返り構えるまでの動作に、まったくの無駄がない。
今の一挙手一投足を見れば、彼女が明らかに歴戦の戦士であることは知れた。
「見たところ――どうやらお前さんが、ワーウルフの言ってた”仲間”のようだな」
「バルガスの事か。予想通りってところかしら。バルガスたちじゃあ、足止めにもならなかったようね」
エディンのからかうような声音に激することもなく、女はこの階層を任されているジュビアと自己紹介した。
精霊術師の常であろうか、誰に言われるともなく何となく【生命感知】を行なっていたミナスは、忙しなく眼を瞬かせて首を捻っている。
「あれ・・・・・・魔族?いや、妖魔?それとも人間・・・・・・?」

「さあ?どうかしら?」
黙ってじっと様子を窺っていたジーニが、挑発にも似たジュビアの台詞にぼそりと返した。その左手には、杖の≪カード≫が握られている。
「あなた・・・・・・人間じゃないわね。恐らく魔法生物、それもフレッシュゴーレムじゃない?」
「あら、すごいわね。一目見ただけでわかるの?普通の人間なら、ただの体がでかいだけの女にしか見えないでしょうに」
「ちょっとズルはしたけどね。・・・・・・でもアンタは何かおかしい」
ギルやミナスが怪訝そうな顔になるのに、すらすらとジーニは説明を始める。
「フレッシュゴーレムは、それほど強くない魔物のはずよ。・・・・・・でも、コイツは明らかに”鳳凰”やさっきのワーウルフより強い」
フレッシュゴーレムは人間の死肉を使って作られる魔法生物である。
ゴーレムにしては高い俊敏性と、ゴーレムだからこそ高いタフネスさは中堅の冒険者などにとってみれば悪夢のような相手ではあるが、今の彼らにとっては脅威ではない。
しかし、現実として目前の彼女は脅威と言ってよかった。
「あら、それは素直に喜んでいいのかしらね?」
「明確な自我や知能を持っている。こんなゴーレム見たことない。・・・・・・あなた、一体何者なの?」
「何者って言われても・・・・・・。魔族のお坊ちゃまの世話に疲れ気味な、ただの戦闘狂としか?」
ジュビアは肩をすくめて見せた。
少なくとも、この言葉自体はウソではない。200年前、ディアーゼの祖父の代に1度手痛くやられた魔族の軍が、復讐に燃えるディアーゼの父に率いられて暗黒邪竜との戦いに挑んだ。
その時からディアーゼの守役であったジュビアも、類稀な実力を買われて竜討伐に加わっていたのである。
ただ――その時に、彼女は一度死んでいる。
今の彼女の体は、魔族であった彼女の手下6名が文字通り命を捨てて作り上げてくれた、かりそめの肉体なのである。
「さて、と。そろそろ始める?それとも、もう少しおしゃべりする?」
「お前との話は退屈しなさそうだが・・・・・・こっちの話の方が楽しめそうだ」
ちゃきりと音を立てて構えられた≪黙示録の剣≫を見て、「あなたとは気が合いそうね」とジュビアは笑った。晴れやかな戦士の笑みである。
生きていた時は斧を愛用していた彼女であったが、今は素手で戦っている。
ゴーレムと言う性質上、繰り出される彼女の拳は武器など笑ってしまうほどに重い。
また、彼女の馬鹿力に耐えうる武器と言うものが、魔族のいる世界においても滅多にないことから、ジュビアは今や徒手空拳のエキスパートとなっていた。
開始早々による一撃で、そのことを否応無しに体に叩き込まれたギルは、彼女の体勢と息を吸い込み気を練る様子を見て目を瞠った。
あれは――彼自身が母から受け継ぎ体得した、倣獣術の一つ【獅子の咆哮】ではないか――!?
「くっ!」
「おおおおお!」
鼓膜を破らんとする獣じみた叫びは、容赦なく”金狼の牙”たちの恐怖心を煽った。
その心を押し殺してジーニはベルトポーチから取り出した薬瓶を放ったが、その電撃をジュビアはいとも簡単に握りつぶす。
「なっ!?」
「無駄よ。私に電撃は効かないわ。・・・・・・雷の力によって、再び生を受けた身なんでね」

「くっ!厄介な!」
舌打ちでもしそうな顔になるジーニ。これほどまでに戦いに手慣れた敵は、今までの彼女の戦歴にもそうはいなかった。
再び【獅子の咆哮】でダメージを受けた”金狼の牙”たちだったが、神精ファナンの幼生がぶつかり、彼女の体を吹き飛ばした事が勝機に繋がった。
いちかばちか――恐怖心や沈黙の効果を、ジーニによる【破魔の薬瓶】で支援魔法ごと消去されたアレクが、体勢を崩した敵に正確な一撃を浴びせる。
膝をついたジュビアに、ジーニはびしっと杖を向けた。
「あたしたちの勝ちよ。・・・・・・通してもらうわ」
「まだよ・・・・・・!まだ終わってないわ・・・・・・!」
立ち上がったジュビアに、アレクが再び剣を構える。咆えるような懇願に負けてもう1度、今度は1対1で戦い始めた。
――彼女の轟音と共に突き出された蹴りを、辛うじて篭手を嵌めた手でアレクが受け流し、最低限の動きで女戦士の背後をとる。
そして発動させた【炎の鞘】を力任せに叩きつけ、よろけて体勢が完全に崩れたところで【召雷弾】を這わせた篭手がみぞおちへと吸い込まれた。
――ジュビアのつぎはぎだらけの肢体は、めり込むほどの強さで近くの岩山に叩きつけられた。
すると――ぐらり、と。
血色の瞳の視界の中、動いたものがある。
(あれは・・・・・・!ジュビアの体がぶつかった衝撃で岩が・・・・・・!?)
「ジュビア・・・・・・!」
避けろ、と叫ぼうとしたアレクの声は、ジュビアにまで届いたのかどうか――蹴りを回避され、みぞおちに強烈な突きを喰らったせいでピクリとも動かない彼女の上に、多くの岩が落下した。
・・・・・・さすがに、こうなってはもう生きてはいないだろう。
同じ戦士として共感できる部分があっただけに、アレクは悲しげな顔で岩と、その下に潰されたであろうゴーレムの女性を見つめた。
ギルが行こうと声をかけるまで。
最初のラウンドで盗賊のゲイルと剣士のナツキが倒れ、程なく魔法使いのミラージュやリーダーのソフィアも、前衛たちの波状攻撃により斃れる。

最後まで立っていた蛮族出身のロミナをギルの斧が引き裂いた時、”金狼の牙”たちは1人として怪我を負ったものがいなかった。驚異的な強さであった。
「怪我人いないのはええんですが、わての出番はまるでありませんな」
「贅沢言わないでくれ。こっちはヒヤヒヤものだったんだから」
相棒のぼやきに、刀身の血を振り落としながらアレクが答えた。
彼女たちの攻撃を受けることは、すなわち吸血鬼になる可能性があるということである。早々怪我を負うわけにはいかなかったのだ。
半ば以上千切れた腕を押さえつつ、ソフィアが呻く。
「アレ(薬)さえ使えば、あんたたちにも勝てると思ったんだけどね・・・・・・」
「お前、バカじゃないのか?」
ギルは容赦なく言った。
死に瀕したソフィアの顔が、痛みや恐怖とは別の感情から引きつる。
「・・・・・・何ですって?」
「あんなものに頼ってるから負けたんです。どうしてそのことがわからないんですか?」
抉るようなリーダーの台詞を、アウロラは正確に補足してみせた。
「あんな外道の薬に手を出した時点で、あなたたちの負けは決まっていたのです」
「・・・・・・言い返せないわね」
ソフィアは、まだ息があるうちにと自分を雇った者について話すと言い始めた。
きょとんと眼を丸くしたミナスが訊ねる。
「・・・・・・誰なの?」
「ふふっ、どんな奴だと思う・・・・・・?聞いて驚いちゃダメよ。魔族よ。それも魔王レベルの・・・」
名前はディアーゼ。
人間の間ではほとんど知られていないが、「あちら」の世界では結構な有名人らしい。
魔族の頂点に立つデーモンロード(魔王)の1人だと、ジーニが頭の倉庫を引っくり返してソフィアの情報に付け加えた。
狡猾さと、魔力。その二つに秀でた魔族は、タチが悪いという点において、今回の目的である邪竜と同レベルであった。
「ちょっと待ってください。そういえば、”鳳凰”のジャックも自分たちの雇い主は人間じゃないとか言ってましたよね?」
「あ・・・・・・」
アウロラの指摘にミナスも声をあげる。
エディンは誰にともなく呟いた。
「ワーウルフの言っていた『あのお方』とやらは、ディアーゼなのか?」
「そう考えるのが妥当でしょうね」
「・・・・・・やっぱり」
3組の冒険者パーティ、狼男、吸血鬼は既にない。
残る敵は最後の手下とディアーゼ、そして暗黒邪竜・・・・・・。
自分が捨て駒にされたことへの意趣返しとして”金狼の牙”たちへ情報を漏洩したソフィアが事切れた後、アレクが近づいてその目を閉じさせた。
「・・・・・・行こう。終わりはもうすぐだ」
一同のリーダーは真っ直ぐ洞窟の奥を指差す。
そして北へ、と彼らは急いだ。
「・・・・・・どうやら洞窟の出口にたどり着いたみてえだな」
「ええ。でも、この階層を守る”仲間”の姿が見当たりません」
エディンとアウロラはそっと仲間たちを見回した。それは、彼らなりの仲間への忠告だ。
恐らくこの出口を出たところにいる――そう睨んだ彼らは、もう何度目になるかも分からないが戦いの前準備を始めた。
「行こう。俺達に関わったこと、後悔させてやろうじゃないか」
「おお!!」
ときの声をあげた冒険者たちは、赤く燃える夕日が見える外へと歩いていった。
黄昏に照らされた辺りの山々は絶景と言ってよかったが、ぽつんとその中に佇む影があることに全員が気づいていた。
ふ、とギルが口角を上げる。
「夕焼けの山で、1人物思いに耽る女戦士――ってところか。結構絵になる風景だな」
「はっ・・・・・・」
こちらを振り返ったのは、黒髪に鋭い眼を持つ女だった。
先ほどまでの立ち姿では隙だらけと言ってよかったのに、ギルの声で振り返り構えるまでの動作に、まったくの無駄がない。
今の一挙手一投足を見れば、彼女が明らかに歴戦の戦士であることは知れた。
「見たところ――どうやらお前さんが、ワーウルフの言ってた”仲間”のようだな」
「バルガスの事か。予想通りってところかしら。バルガスたちじゃあ、足止めにもならなかったようね」
エディンのからかうような声音に激することもなく、女はこの階層を任されているジュビアと自己紹介した。
精霊術師の常であろうか、誰に言われるともなく何となく【生命感知】を行なっていたミナスは、忙しなく眼を瞬かせて首を捻っている。
「あれ・・・・・・魔族?いや、妖魔?それとも人間・・・・・・?」

「さあ?どうかしら?」
黙ってじっと様子を窺っていたジーニが、挑発にも似たジュビアの台詞にぼそりと返した。その左手には、杖の≪カード≫が握られている。
「あなた・・・・・・人間じゃないわね。恐らく魔法生物、それもフレッシュゴーレムじゃない?」
「あら、すごいわね。一目見ただけでわかるの?普通の人間なら、ただの体がでかいだけの女にしか見えないでしょうに」
「ちょっとズルはしたけどね。・・・・・・でもアンタは何かおかしい」
ギルやミナスが怪訝そうな顔になるのに、すらすらとジーニは説明を始める。
「フレッシュゴーレムは、それほど強くない魔物のはずよ。・・・・・・でも、コイツは明らかに”鳳凰”やさっきのワーウルフより強い」
フレッシュゴーレムは人間の死肉を使って作られる魔法生物である。
ゴーレムにしては高い俊敏性と、ゴーレムだからこそ高いタフネスさは中堅の冒険者などにとってみれば悪夢のような相手ではあるが、今の彼らにとっては脅威ではない。
しかし、現実として目前の彼女は脅威と言ってよかった。
「あら、それは素直に喜んでいいのかしらね?」
「明確な自我や知能を持っている。こんなゴーレム見たことない。・・・・・・あなた、一体何者なの?」
「何者って言われても・・・・・・。魔族のお坊ちゃまの世話に疲れ気味な、ただの戦闘狂としか?」
ジュビアは肩をすくめて見せた。
少なくとも、この言葉自体はウソではない。200年前、ディアーゼの祖父の代に1度手痛くやられた魔族の軍が、復讐に燃えるディアーゼの父に率いられて暗黒邪竜との戦いに挑んだ。
その時からディアーゼの守役であったジュビアも、類稀な実力を買われて竜討伐に加わっていたのである。
ただ――その時に、彼女は一度死んでいる。
今の彼女の体は、魔族であった彼女の手下6名が文字通り命を捨てて作り上げてくれた、かりそめの肉体なのである。
「さて、と。そろそろ始める?それとも、もう少しおしゃべりする?」
「お前との話は退屈しなさそうだが・・・・・・こっちの話の方が楽しめそうだ」
ちゃきりと音を立てて構えられた≪黙示録の剣≫を見て、「あなたとは気が合いそうね」とジュビアは笑った。晴れやかな戦士の笑みである。
生きていた時は斧を愛用していた彼女であったが、今は素手で戦っている。
ゴーレムと言う性質上、繰り出される彼女の拳は武器など笑ってしまうほどに重い。
また、彼女の馬鹿力に耐えうる武器と言うものが、魔族のいる世界においても滅多にないことから、ジュビアは今や徒手空拳のエキスパートとなっていた。
開始早々による一撃で、そのことを否応無しに体に叩き込まれたギルは、彼女の体勢と息を吸い込み気を練る様子を見て目を瞠った。
あれは――彼自身が母から受け継ぎ体得した、倣獣術の一つ【獅子の咆哮】ではないか――!?
「くっ!」
「おおおおお!」
鼓膜を破らんとする獣じみた叫びは、容赦なく”金狼の牙”たちの恐怖心を煽った。
その心を押し殺してジーニはベルトポーチから取り出した薬瓶を放ったが、その電撃をジュビアはいとも簡単に握りつぶす。
「なっ!?」
「無駄よ。私に電撃は効かないわ。・・・・・・雷の力によって、再び生を受けた身なんでね」

「くっ!厄介な!」
舌打ちでもしそうな顔になるジーニ。これほどまでに戦いに手慣れた敵は、今までの彼女の戦歴にもそうはいなかった。
再び【獅子の咆哮】でダメージを受けた”金狼の牙”たちだったが、神精ファナンの幼生がぶつかり、彼女の体を吹き飛ばした事が勝機に繋がった。
いちかばちか――恐怖心や沈黙の効果を、ジーニによる【破魔の薬瓶】で支援魔法ごと消去されたアレクが、体勢を崩した敵に正確な一撃を浴びせる。
膝をついたジュビアに、ジーニはびしっと杖を向けた。
「あたしたちの勝ちよ。・・・・・・通してもらうわ」
「まだよ・・・・・・!まだ終わってないわ・・・・・・!」
立ち上がったジュビアに、アレクが再び剣を構える。咆えるような懇願に負けてもう1度、今度は1対1で戦い始めた。
――彼女の轟音と共に突き出された蹴りを、辛うじて篭手を嵌めた手でアレクが受け流し、最低限の動きで女戦士の背後をとる。
そして発動させた【炎の鞘】を力任せに叩きつけ、よろけて体勢が完全に崩れたところで【召雷弾】を這わせた篭手がみぞおちへと吸い込まれた。
――ジュビアのつぎはぎだらけの肢体は、めり込むほどの強さで近くの岩山に叩きつけられた。
すると――ぐらり、と。
血色の瞳の視界の中、動いたものがある。
(あれは・・・・・・!ジュビアの体がぶつかった衝撃で岩が・・・・・・!?)
「ジュビア・・・・・・!」
避けろ、と叫ぼうとしたアレクの声は、ジュビアにまで届いたのかどうか――蹴りを回避され、みぞおちに強烈な突きを喰らったせいでピクリとも動かない彼女の上に、多くの岩が落下した。
・・・・・・さすがに、こうなってはもう生きてはいないだろう。
同じ戦士として共感できる部分があっただけに、アレクは悲しげな顔で岩と、その下に潰されたであろうゴーレムの女性を見つめた。
ギルが行こうと声をかけるまで。
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