Wed.

敵意の雨 7  

 ギルの言葉どおり、途中で立ち塞がってきた狼男・バルガスをやっつけた”金狼の牙”たちだったが、先ほどから困惑した雰囲気を漂わせていた。

「・・・・・・厄介なことになったな」
「古竜や”狂犬”だけでも大変なのに、”あのお方”とやらとその手下まで・・・・・・」

 最年長と最年少が、同時にため息をつく。
 バルガスは人間嫌いの魔物であったらしく、興奮しきって負けた挙句に、色々な情報を漏らして死んでいったのだが・・・。
 彼はこの洞窟があと2階層はあり、それぞれに魔物が配置されていることや、自分たちを配置した”あのお方”とやらがいることを示唆して逝ったのである。

「全く困ったもんだな」
「・・・・・・ギルバート」
「ん?」
「『困った』とか言いながら・・・・・・どうして笑ってるの?」

 ジーニは彼の顎の辺りを、杖の髑髏でぐりぐりと押しながら訊ねた。

「楽しみが増えたかと思うと、どうしても・・・・・・な」
「アホか」
「ワクワクしてくるじゃないか?一体どんな強い奴なのか・・・・・・。ホント、冒険者をやっててよかったと思うよ」
(・・・・・・やれやれ。今更ながら、とんでもないリーダーを持ったものだ。)

敵意22

 とんでもないリーダーの幼馴染は、無言で肩をすくめるに留まった。
 そして縄の梯子を上がり、次の階層へと向かうが――その瞬間、ギルたちは突然襲ってきた不快な臭気に顔をしかめた。

「血の匂いだな。それも腐った血の・・・・・・。いくら嗅いでも、この匂いだけは好きになれそうにない」
「・・・・・・同感」

 ギルとアレクはそう言って、それぞれ先頭と殿の位置についた。
 少し歩いた先にはボロボロになった遺体が積み重なっている。形のよい眉をしかめたミナスが首を横に振った。

「ひどいね・・・・・・。他の冒険者の死体かな?」
「いえ・・・・・・それとは違うと思うわ。腐敗がかなり進んでいる所から見て、死後数ヶ月は経っている」

 倒れている者たちを目視で確かめていたジーニは、これは他の冒険者の死体ではないと断じた。杖の先でぺろりと剥いた服を戻してやる。

「もっとも、【病魔の呪詛】で殺されたというなら話は別だけどね・・・・・・」
「あんまり気が進まねえけど、ちょっと調べてみるぜ。何かわかるかもしれねえ」

 エディンは手際よく死体を引っくり返した。

「何かわかったか?」
「ああ、リーダー。・・・・・・これ、人間の死体じゃねえよ」
「え?」
「アンデッドの死体だな。でも、ゾンビやグールとはちょっと違うんだ」

 かつてトラップ男爵の館の地下で、さんざっぱらグールや後輩冒険者たちの遺体を検分した覚えのあるエディンである。その見立てはかなり確かだ。

「たぶん、レッサーヴァンパイアの死体じゃねえかな」
「ロードヴァンパイアに血を吸われて吸血鬼化した人間だな。そいつらがいるということは・・・・・・」
「間違いなく、近くに親玉のロードヴァンパイアがいるわね」

 ギルの懸念をジーニがはっきり口にする。
 つまり、この階層を守るのはロードヴァンパイアというわけだろう。
 しかし、ここで一つの疑問が生まれる。

「それはわかりますが、では一体誰がこの吸血鬼を倒したのでしょう?」

敵意23

 アウロラの冷静な指摘に、エディンは彼らを倒したのは魔物ではなく、人間の可能性が高いことを告げた。明らかにそういう痕跡が残っているのだと言う。
 この島に来ている冒険者は、ほとんどが駆け出しか中堅程度だが、彼らではこれほどの数のヴァンパイアをさばききれるかどうか。
 となれば、残るは――。

「やったのは、”白銀の狂犬”か」
「確実じゃないけど、その可能性はかなり高いわ」

 ギルの言葉にジーニは首肯した。だが、いくら熟練である彼女たちでも、さすがにロードヴァンパイヤには歯が立たないのではないか――とも付け加えた。
 最悪の場合、すでに”白銀の狂犬”がロードヴァンパイアに倒されていて、眷属にされていることもあり得る。
 完全に体を破壊され、再生する様子も見られない吸血鬼の死体をその場に置いて、”金狼の牙”たちは警戒を強めながら歩き始めた。

「何かこう、死体の山を見ていると・・・・・・」
「ん?」

 アウロラが首を傾げてギルの次の言葉を待つ。

「コボルトのゾンビがいる洞窟から、商人を助けた時のことを思い出してきたよ」
「あったね、そんなことも・・・・・・」

 ミナスがジーニの持つ杖を見ながら、小さくくすっと笑った。

「ヴィザニールって街で商売してるって言ってたよな。今回のヤマが片付いたら行ってみようか」
「・・・・・・それも良いかもしれませんね」

 アウロラはうっすらと笑みを浮かべ、支援魔法をまた仲間たちにかけた。

「この先から嫌な気配が致しますからね。準備は万端で行かないと」
「こっちもオッケーだよ!」

 それぞれの支度を終えた一行は、北の方角へと歩を進めた。
 目の前の光景に、ギルが呆気に取られて足を止めるまで。

「・・・・・・これはまた」
「まるで、吸血鬼の死体のバーゲンセールね」

 妙な例えであったが、ジーニの台詞はまさにその場の光景を現すに相応しいものであった。
 間髪いれず、若く高慢そうな女の声が響く。

「そのバーゲンに、あなた達の死体も追加販売しなきゃね」
「!」

 たちまち顔を硬くした”金狼の牙”たちの前に、6人の女性が姿を現す。アレクは雪精トールを肩に乗せながら、剣の切っ先を彼女たちに向けた。

「アレクはん、このおねーちゃんたちは・・・・・・」
「ああ、分かってる。・・・・・・”白銀の狂犬”、だな」
「あら、伝説の”金狼の牙”に知っていてもらえたとは光栄ね」
「ひょっとして、私たちがあなた達を狙っている事も知っているのかしらねえ?」
「あははははははは!それは困ったわあ」

 嘲るような女の笑い声に、ピクリとアレクの眉が動いた。

(コイツら・・・・・・生気が感じられない)

敵意24

 殺気はある。闘気もある。・・・・・・だが、人間が人間たる所以であるエネルギー、生気が感じられない。精霊であるトールは、いち早くそれに気づいてアレクに注意を促したのだ。
 最悪の想像があたったのかも、とギルは斧を握り締める。
 一触即発の雰囲気に誰もが息を詰める中、唐突にトン、と静かな音が響いた。
 その場の全員が見つめる先、≪死霊術士の杖≫をついたジーニが背筋を伸ばして、堂々とというよりはむしろせせら笑うかのように”狂犬”たちを見つめていた。

「この吸血鬼の群れ、あなた達が倒したの?だとしたら大したものね」

 いやらしい笑いと共に、彼女たちから返答がある。

「ああ。どっかのバカが聖印落としたせいでな」
「うるさいわねえ。あんたの方こそ、過ぎたことをグチグチ言わないでよ」
「もういいじゃない。今となっちゃ必要なさそうだし」

 それは、聖印が必要ない存在に変わったと言うことに他ならない。ぴくりとミナスが身を強張らせた。

「でも、おかしいわね?この吸血鬼たちを束ねるロード種がいるはずなんだけど、まだ見てないわ。あなた達・・・・・・知らない?」

 通常の駆け引きもしくは交渉はともかくとして、戦場における腹の探り合いであればジーニが誰よりも長けている。
 彼女の質問に、案の定1人がにいと唇を吊り上げ笑った。

「ええ、よ~く知ってるわよ?」
「そこの粗大ゴミのことだろ?」
「なっ・・・・・・」

 そこに倒れていたのは、他とは明らかに異なる吸血鬼だった。ロードヴァンパイヤと見て間違いないだろう。
 しかし――徹底的に痛めつけられ、血みどろになって倒れているその姿は一行が考えるロードヴァンパイア像とはあまりにもかけ離れていた。

「ぐっ・・・・・・!ち、ちくしょお・・・・・・!」
「・・・・・・何よ、まだ息があったわけ?」

 蛮族出身らしき大女が、ロード種へと唾を吐く。

「しぶといわね。さすがは死に損ないというべきか」
「・・・・・・あんた達が倒したの?」

 誰もが眉をひそめて成り行きを見守る中、ミナスは真っ直ぐな瞳で彼女たちに問うた。

「他にいると思う?」
「きっ・・・・・・汚ねえぞてめえら・・・・・・!妙な薬なんて使いやがって・・・・・・!」
「ケッ!よく言うぜ。そっちは何十匹も手下連れてたくせによ!」

 呻く吸血鬼の吐いた気になる単語に、ジーニは心中で考えをめぐらせていた。

(・・・・・・何か毒薬の類を使ったって事?でも、アンデッドに効く毒なんて聞いたことないわ。)

「くそおおおおお・・・・・・!呪ってやるううううううう・・・・・・!化けて出てやるぞおおおお・・・・・・!」
「呆れた。化けて出てやるだって」
「いまどき、子どもでもそんな事いわないんじゃない?」

 黄色い肌をした、東洋風の剣士がぶらぶらと吸血鬼へ近づいていく・・・・・・得物の刀を手に。

「てめえ、既に死んでんじゃねえかよ・・・・・・。つーか、死に際の台詞ならもっとマシなこと言いやが――れッ!!」
「ぴぎいいいいいいいいいいいッ!!!?」

 剣士の止めの一撃を喰らい、ロードヴァンパイアはみっともない悲鳴を上げて塵と消えた。それと同時に、配下らしき吸血鬼の死体も消えていく。

「・・・・・・随分と容赦ないんだな」

 平坦なアレクの声に、1人がにっこりと微笑みながら言った。

「相手は人間じゃなくて邪悪な吸血鬼よ?情けなんてかける必要がある?」
「そうか、なら――」

 ≪黙示録の剣≫に、風が宿る。

「俺も情けをかけるのはやめよう」

2013/05/15 23:50 [edit]

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