Wed.

敵意の雨 6  

 たっぷりとした悪意を込めた笑いを顔に張り付かせた眼帯付きの戦士が、一歩前に出て冒険者たちへ言った。

「裏の世界じゃ、お前らの首には莫大な賞金がかけられているからな。依頼があろうがなかろうが、俺達にとってはそれが充分な『理由』さ」

 森の木陰からばらばらと出てきたのは、”蒼い毒蛇”の面子であった。大扉を開けようと油断したところを襲おうと思ったのに、先に”金狼の牙”たちに察知されていたことが忌々しい様子である。
 戦士の真後ろに立つフードを目深に被った男・・・リーダーのゼノは、地を這うような声で呟く。

敵意18

「”金狼の牙”・・・・・・俺達の踏み台になってもらうぜ」
「そいつぁ無理だ。だってさ・・・・・・」
「俺たちのが・・・・・・強い!」

 たちまち、ギルとアレクがとんでもない速さで前方に飛び出し、呪文を唱えようとしていたゼノを同時に攻撃する。
 痛みに身を硬くしたゼノに、治療をと赤毛の女や眼帯の戦士が傷薬を構えるが、揃ってジーニの≪エメラダ≫に気を取られてしまった。

「そーら、こっちにいいものがあるわよ!」
「ぐっ・・・・・・ゼノを死なせはせんぞおおおおお!」

 1人、重戦士であろう男が力任せにその束縛を打ち破るも、多勢に無勢では対処のしようがない。
 たちまちミナスの援護を得たエディンによって、渾身の力を込めた攻撃が空振り、がら空きになった脇へ致命的な一撃を喰らう。
 束縛の終わった眼帯の戦士が彼へ襲いかかろうとするのを、体当たりをするようなギルの【風割り】が防いだ。
 慌てたリーダーのゼノが攻撃魔法を放つ。

「くっ・・・・・・回復役を狙うのは、向こうも同じでしたか・・・っ」

 彼の白い指先から飛び出した一条の閃光がアウロラの肩を穿つ。
 よろけた仲間を支えたアレクが、仕返しとばかりによく練られた電撃をゼノにぶつけた。続いて、赤毛の女が今度こそゼノを助けようと彼に近づいていくが・・・。

「そいつをやられちゃ、形勢が不利になっちゃうだろうがよ」
「元”黒鼠”かっ・・・・・・!」

 毒の篭ったダガー代わりの簪を隠しポケットから取り出し、女は次々と仲間たちが倒れる中、エディンの腕を狙って緑に輝く先端を突き出した。
 まるで一流の舞踏を見ているかのよう――女の赤いぴったりとしたドレスと、エディンのボロボロのマントがひらりひらりと宙に躍り、互いの得物が光を放つ。

敵意19

「うあっ・・・・・・!!」

 一瞬の光芒ののち――鋭く突いた胸から≪スワローナイフ≫を引き抜くと、

「終わったな・・・・・・」

とエディンが乾いた声で倒れゆく女を見た。

「いや・・・・・・ゼノがまだ生きてる」

 ギルはもう息も絶え絶えのゼノにゆっくりと近づいていく。

「へっ・・・・・・そのツラだと、このまま見逃してくれそうにはないな・・・・・・。俺たちのような腐れ外道は、生かしておけないってか・・・・・・?」
「・・・・・・その傷ではどの道、もう助からんさ」

敵意20

 ひどく冷静な声だ。ゼノは、本人の与り知らぬところで”暴風”と例えられ、熱血青年だとばかり思っていたギルの思いがけない言葉につかの間絶句した。
 鉄のような冷たい瞳がゼノの視線を捕えて離さない。

「それとも何だ?止めを刺されずに、そのままもがき苦しんで死ぬ方がいいのか?」
「・・・・・・やってくれるんなら、痛みを感じないように一瞬で頼むよ・・・・・・」
「いいだろう。・・・・・・最後に言い残すことはあるか?」
「死ぬまでに1度・・・・・・『フィロンラの花』ってのを見てみたかったよ・・・・・・とても美しい花なんだろうな・・・・・・」
「ああ。・・・綺麗だったよ」

 かつて遺跡でその花を2度も採取したギルは、ゼノの焦がれるような声に優しく――斧を構えているとは思えないほどの――声で同意した。

「そろそろ・・・・・・おやすみ」

 ギルはし損なうなんてことはしなかった。真っ直ぐ振り下ろした刃は、正確にゼノの命を絶った――昔エセルの父をそうした時のように。
 エディンがそっと声をかける。

「リーダー・・・・・・」
「ふん・・・・・・。悪人の癖に、随分と安らかな死に顔しやがって・・・・・・」

 口調は明らかに憎まれ口であったが、彼の顔はひどく青白い気がした。
 脳裏にこびりつく人々の悲鳴、怒号、怨讐の声――ギルの脳裏にこの時あったのは、かつて自分が殺しつくした村のことであった。
 今も後悔はしていない・・・・・・依頼だったから。
 だが、それを忘れずにいること、そしてそれを背負ったまま生きていくこと――ギルはエセルに口止めを施したからこそ、1人で向き合わねばならない。

「・・・・・・さあ、行こう」

 何かを押し殺すような彼の声に、誰も異を唱えようとはしなかった。
 改めて扉を開けると、ジーニが入る前に忠告したように扉は自動的に閉まってしまった。

「・・・・・・邪竜の所に急ごう。帰り道のことを心配するのはそれからだ」
「確かにな」

 リーダーの決断に頷いた一行は、たまに出てくる下級悪魔を適当に倒しつつ、前へと進んでいった。
 途中の分かれ道で宝箱を発見し、レベルの高い罠を解除して中の品物を覗き込む。

「これは≪魔法薬≫ね。大きい瓶に入ってるから3回くらいは使えるわよ」
「使わなきゃならねえ事態は勘弁だぜ」

 分岐はあるものの入り組んでいる洞窟ではない。ほぼ一本道に等しい道行きで、”金狼の牙”たちはトラップよりもむしろ不意打ちに気をつけて歩くことにした。
 ふとエディンが足を止める。

「・・・・・・なあ」
「うん・・・・・・わかってる。この先、誰かいるね」

敵意21

 幼いながらも美しい顔に緊張を浮かばせたミナスが応じ、アレクがぽそりと呟く。

「これは人間の気配じゃない。どちらかと言えば魔物の気配に近いな」

 ザンダンカルで散々魔物に苦しめられた経験を持つ”金狼の牙”である。その独特の好戦的で異質極まりない気は、間違えようがなかった。

「ということは、”狂犬”ではない・・・・・・?」

 考え込み始めたアウロラの肩を、ぽんとギルが叩いた。

「誰だろうと、立ち塞がる奴は薙ぎ倒すだけさ」

2013/05/15 23:47 [edit]

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