Wed.

敵意の雨 5  

 島を探索する内、”漆黒の鳳凰”や”蒼の毒蛇”とは違うはるか格下の冒険者の不意打ちを受けたが、あっさりとそれを返り討ちにした”金狼の牙”たちは気になる情報を拾った。
 この島の中央にはやたらとでかい扉があり、その先に邪竜がいるであろうこと。
 それを開く為には2つの石が必要で、それはこの島のどこかにあること。
 6人の女たちが、青い石と赤い石を使ってその扉を2時間ぐらい前に開けていたこと――。

敵意15

 そこまで聞き出してすっぱり相手を殺してきたギルについて、誰も詮索はしなかった。実直と狂気を重ね合わせたようなこの男の性情は、あまり追及するべきではない。

「とすりゃ・・・・・・ここか?」

 ある地点でごそごそと茂みを調べ始めたエディンをサポートしようと、他の仲間は周囲警戒を行なっていたが、やがて彼は青い宝玉を持って出てきた。

「これが・・・・・・扉を開けるのに必要な石?」

 ミナスが突付くが、石にこれと言った反応は見られない。
 肩をすくめた一行は、残る赤い石とやらを求めてまた島を彷徨ったが・・・・。

「・・・・・・ッ!」
「この先・・・・・・誰かいるな」

 真っ先に人の殺気を感じ取ったエディンに、横にいたギルが囁いた。相変わらず、妙な勘はいい男である。

「例のパーティかもしれないわね。”鳳凰”か”毒蛇”かはたまた”狂犬”か」
「準備してから進んだ方がよさそうだな」

 落ち着き払ったアレクの台詞に、ミナスとアウロラがそれぞれ頷いて支援魔法を仲間にかけた。さらにジーニが、自分の周りに風の結界を張る。

「そんじゃま、行きましょうか」

 足を進めると、そこはひときわ荒れた土地であった。
 茶色の色彩が殆どを占めているその空間の中で、

「来たか――」

という声が聞こえてくる。
 気配もさせずに大木の陰から6人の冒険者達が現れた。

「≪狼の隠れ家≫の”金狼の牙”さんでいらっしゃいますな?」

 モノクルをつけた男が尋ねてくるのに、ギルは肩をそびやかした。

「・・・・・・人違いです、と言っても信じないんだろうな」
「ふむ、噂どおりというべきか。中々肝が据わっていらっしゃる」
「まずは、『第一陣』か――」

 面倒くさそうな顔で彼らを見つめるジーニの台詞に、聖戦士らしき金髪の女性と、髪を二つ縛りにした魔術師っぽい装備の娘が声をあげる。

「第一陣?」
「なるほど。今の言葉から察するに・・・・・・まだ”毒蛇”とも”狂犬”とも遭遇していないのね?」

 その台詞は、つまり彼ら自身が”漆黒の鳳凰”であること、そして彼らも競争するパーティの存在を認知していることを示している。
 きょとんとした様子のギルが口を出した。

「・・・・・・まさか、他の2つと手を組んでるのか?」
「ふふん。俺達を見損なうんじゃねえぜ」
「そんな汚い真似をしてまで勝ちたいとは思わねえよ」

 それぞれの獲物を構えた”鳳凰”側の男たちが言う言葉に、ギルは「ふーん」と興味なさそうに返しただけであった。
 若干その態度に苛立ちながらも、聖戦士らしき女性が鼻を鳴らす。

「私たちは今まで、多くの冒険者たちを殺してきたけど――。まさかあなた達を標的にする日が来るとは夢にも思わなかったわ。あなた達を相手にするのは、ドラゴンや魔王と戦うようなものだからね」
「ずいぶんおだてるじゃないか」

 アレクはそう言いつつ、愛剣の柄に手をかけた。
 その動作に若干後退った”鳳凰”たちが、同じように武器を構えた。アレクの見えない気迫に押されているのだ――そのことを誤魔化すように、魔術師の女と黒髪の男が再び口を開く。

「まあ、そういうことで。気の毒だけど、ここで死んでもらうわ」
「俺たちや”毒蛇”共に狙われてるのは知っていたはずだ。それでも逃げずにここまで来たのは、その覚悟があったからだろう?」
「御託はいらん」

 抜き放った≪黙示録の剣≫は、ぬらりとした輝きを放っている。赤褐色であるはずの瞳が、血色の輝きに変わっているのに気づいた雪精トールがごくりと喉を鳴らした。
 彫刻のような美青年は、厳しく一言だけ突きつけた。

「態度で示せ」
「さて――お喋りはこれくらいにするか」

敵意16

 魔法剣士同士、何か反発するものでもあるのか――アレクとジャックの目がぎらりとかち合う。
 それが開戦の合図であった。
 だが、すでに氷姫を自らに憑依させていたミナスを始め、”金狼の牙”たちの戦闘時の動きは、十分に練られ、経験に裏打ちされているものであった。
 最初に気を失ったリーダーのジャックをはじめ、ものの30秒ほどで”鳳凰”のメンバーたちは打ち倒されていく。 

「見事だ――」

 最後まで立っていた長い黒髪の男が倒れると、アウロラはぼそっと呟いた。

「これでまず1組と」
「そうだな。それにしてもコイツら――まるで話にならん。冒険者専門の暗殺集団というから、どれほどのものかと思えば――がっかりさせやがる」

 ギルが困った顔で慨嘆し、ジーニが”蒼い毒蛇”や”白銀の狂犬”も彼らとほぼ互角の強さだと思うと言うと、アレクが眉間に皺を寄せた。

「・・・・・・要するに、残りの2組も全く期待できないってことか」
「やれやれ・・・」
「随分とひどい言われよう・・・だぜ・・・・・・」

 倒れていたはずのジャックが呟くのに全員が得物を構えたが、彼の寿命がもう長くないことは、口から溢れる血泡からして明らかであった。

「さすがは天下の”金狼の牙”だぜ。俺たちが手に負えるような相手じゃなかった」
「それはどうも」
「ま、くだらねえミスで死んだりチンケな奴に殺されたりだと死んでも死にきれねえが・・・・・・お前さんたちのような英雄と戦って死ぬなら、悔いはねえさ――」
「死ぬ前に一つ聞かせろ。お前ら、誰に雇われた?」

 ギルのその言葉に、ジャックはゆるゆると首を振る。
 依頼人のことを漏らすのは冒険者のタブー――彼らもまた、冒険者だったのだ。

「とりあえず雇い主は人間じゃない、とだけ言っておくぜ」
(妖魔か、知能の高い魔物に雇われたって事・・・・・・?)

敵意17

 後方で柳眉をひそめたジーニの様子は、もうジャックの霞がかった視界には入っていないだろう。
 それでも、彼はおぼつかない手つきで荷物袋をまさぐり、そこから赤色に輝く石を取り出した。

「何も言わずに持っていきな。俺たちにゃあもう必要ねえ・・・・・・」
「・・・・・・何故敵である俺達にこんな大切な物を渡す?」
「これから死んでいく俺達には無用な物さ。それなら、生きているあんた達が有効に活用するべきだろう。違うかい・・・・・・」

 言葉もなく彼を見つめてくる一行に、ジャックは最後の力を振り絞って言った。

「簡単に”こっち”には来るんじゃねえぜ・・・・・・」

 もう楽にさせる必要もなくなった男を置いて、一行は石で開くという大扉の前まで移動した。
 色の違う宝玉が二つ、目の前の扉と共鳴するように眩しい光を放ち始める。

「これで――封印は解けたはずだ」

 そう言ってエディンは仲間たちを振り返った。
 ”漆黒の鳳凰”との戦いの後、何かを無言で考えていたジーニはようよう口を開く。

「これはあくまでもあたしの勘だけどさ。いったんこの扉の中に入ったら、邪竜を倒すまで外に戻れないような気がするの」
「・・・・・・あり得る」

 エディンはうんざりとした顔で頷いた。

「それに、扉を開けてすぐの所に敵が待ち構えているかもしれない。ちょっと準備整えてからいきましょ」
「・・・・・・そうしますか」

 ジーニの説得に首肯した仲間たちは、再び支援魔法をかけてから扉を開こうとしたが・・・・・・。
 ギルを始め、”金狼の牙”の面々は向かって右手にある森に眼を向けた。

2013/05/15 23:42 [edit]

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