Wed.

敵意の雨 4  

「引き受けよう。俺たちなら不可能ではないはずだ」

 通常であれば絶望的状況とも言える今回の件に、あっさりとギルはそう決断を下していた。有体に言えば、そういう状況だからこそ燃えたのである。救い難い性を持つ青年であった。
 ――そんなわけで、翌日の正午に”金狼の牙”の面子は、シアノス港から出発した船に乗っていたのである・・・・・・。
 黒い眠たげな瞳がチロリと動いた。

「・・・・・・いねえな」
「やはり、わかるか?」

 ギルが熟練者と睨んだ3名について、彼らだけはこの船に乗っていないのをエディンは察知したのである。
 いや、エディンだけではない。他の仲間たちもまた、その違和感に気づいていた。
 だが油断はできない・・・・・・とジーニは言う。先に違う船で島へ先回りし、罠を仕掛けて待機している可能性もあるからだ。

「あ・・・・・・そうそう。万が一、島で”鳳凰”や”毒蛇”の襲撃に遭った時のことを想定してあたしなりに対策を考えてみたんだけどね」
「お、どんなのだ?」
「対策・・・・・・とは言っても、それほど大したもんじゃないわ。結局、相手の具体的な戦法とかもわからずじまいだったしね」

 期待に目を輝かせるアレクの出鼻をくじく様な言い方をジーニがする。その横でエディンがため息をついた。

「エルリースの盗賊ギルド、本当に使えなかったぜ・・・・・・。まあ、規模がかなり小さいようだったから無理もねえけど」
「まあ、その辺りについては文句を言ってもしょうがないさ。・・・・・・それで、考えた対策というのは?」

敵意12

「相手の戦法が分からない以上、堅実な方法を取りましょ。回復係を優先的に潰していくってのが、一番簡単な方法よ」

 ジーニは羊皮紙にある相手パーティの回復役を推察し、仲間たちへ話していく。
 ただ、”蒼い毒蛇”については魔法を使える人員が1人しか見当たらないので、全員が傷薬を携帯している可能性が高く、≪エメラダ≫の呪縛か、全体攻撃で蹴散らすべきだと彼女は主張した。
 話が終わると、ジーニが杖の髑髏で自分の頭を掻いた。

「さて、さっきから気になってんだけど・・・・・・」
「俺達と話がしたいなら、コソコソしてないでこっちに来いよ。ダニー」

 ギルがマストの裏に呼びかけると、「うっ」という小声とともに説明役をしていたあの青年が姿を現した。

「き、気づいてたんですね・・・・・・。いや、別に隠れてたつもりはなかったんですが・・・・・・」
「あれで気づかない方がどうかしてるだろ」
「ど、どうも初めまして!シアノス商会のダニーといいます!以前から”金狼の牙”の皆さんとは、是非お会いしたいと思っていました!」

 しゃちほこばって挨拶するダニーに、アレクが首を傾げた。

「俺達と?」
「はい!実は俺、商会で働く前はヴィスマールで冒険者をしてたんです!」
「やはりな・・・・・・。そんなことだと思った」
「え・・・・・・。知ってたんですか?」

 舳先に体重を預けながら笑うギルに、ダニーがぎょっとした顔になった。

「だって、身体つきが明らかに素人のものじゃないしな」

 淡々と幼馴染がギルの代わりの種明かしをする。

「肉体労働者ともまた違う――実戦向けの肉体をしている」
「ひ、一目見ただけでそこまでわかるんですか!?さすがだ・・・・・・!俺、冒険者やってた頃はずっと貴方達に憧れてたんです!それが今こうして会えるなんて・・・・・・!夢のようだ!」
「そ、そうか」

 あまりの興奮具合に若干引き気味になりながらも、アレクはどうにか笑顔らしきものを作ることに成功した。彼の懐では、その戸惑い具合を察知したトールが声を殺して笑っている。
 特に何もすることがない”金狼の牙”たちは、ダニーに請われるまま彼といろいろな話をしてやることにした。
 ダニーは珍しい話に飢えた田舎村の子どものように、色々な質問を一行にぶつけた。彼らが質問に答えるたびに、目を輝かせては耳を傾けている。

「やっぱり皆さんは世界一の英雄っす!ウチの商会も会長自らが出向いて、皆さんに依頼を申し込むべきだったのに!」
「う~ん。でも、名が売れた今となっても白い眼で見られることは少なくないわよ。英雄だろうが勇者だろうが、冒険者の地位はまだまだ低い」
「そうさなあ。冒険者の俺たちなんかより、商会で働くダニーのほうが世間受けはいいはずだぜ」

 エディンの言葉に、それまで底なしに明るかったダニーの表情が急に曇る。

「あ・・・・・・何かマズい事言ったか?」
「え・・・・・・。あ、ああ、すいません。その・・・実を言いますとね」

 なんとダニーは、自分から進んで商会に就職したわけではなく、ヴィスマールの宿の主人が借金を拵えて夜逃げしたことから、金を貸したシアノス商会の末端に捕まり商会で働かされることになったのである。
 商会で働いているとは言っても、ほぼ力仕事ばかり。借金の件があるために賃金はすずめの涙ほどだと彼は愚痴った。
 今回の説明会での司会も、人手が足りずにお鉢が回ってきた・・・というのが正しいそうで。

「・・・・・・まあ、幸運と言えば、まだ幸運かもしれません。やばい所に売り飛ばされたり、臓器を売られたりすることに比べれば・・・ね」
「・・・・・・話題を変えようか」

 泣きっ面になりかかっているダニーを見かねて、ギルが切り出した。
 特に助け舟を出すつもりはなかったのだが、ジーニが「それにしても」と口を開く。

「商会も思い切ったことするわね。冒険者を雇って古竜討伐だなんて」
「あ、それは僕も思った。古竜なんて、一大国の全兵力を持ってしても討ち取るのは至難の魔物なのに・・・・・・」

敵意13

「・・・・・・そのことなんですけどね。どうもおかしいんです」

 ダニーはぽろりと自分の意見を話し始めた。

「ん?」
「と言うのも――依頼を出す前は、商会の中で邪竜の話題が出てきたことなんて、全くなかったんですよ」
「じゃあ、なんで今回のような依頼を出したの?」

 ミナスのその質問はまったくもって真っ当なものであったが、ダニーにはそれに答えることができずに首を横に振る。

「俺にも分かりません・・・・・・。邪竜討伐の話が出てきたのは、つい5日前のことでしたし」
「5日前って――」
「商会の人間が、私たちに依頼の話を持ちかけてきた日じゃないですか・・・・・・」

 絶句したようなギルの台詞をアウロラが引き取った。
 ダニーによると、その日の昼頃に商会の人間全員が集められ、会長の命が下ったのだと言う。
 曰く、「暗黒邪竜の依頼を出すぞ!都市にいる冒険者全員に声をかけて来い!」・・・・・・と。
 ダニーは、会長のワンマンさや日頃からムチャな命令をしていることは承知していたが、今回の件だけはしっくり来ずに首を傾げていたらしい。
 彼がそこまで語った時、

「おい、ダニー!悪い、ちょっと来てくれ!」

という商会の同僚の声が響いた。
 ダニーは”金狼の牙”たちに中座を詫び、その場を足早に離れた・・・・・・。

「・・・・・・ジーニ」
「ええ、わかってるわ」

 大人組には、その呼びかけだけで充分であった。すなわち――どう考えても、今回の依頼は不自然で怪しすぎること。

「今回のヤマが片付いたら――会長とやらに、じっくり話を聞いてみましょう」

 さっくりと尋問もやってしまう一行の頭脳は、実は恐ろしい意味を秘めた台詞をさらっと口に出した。
 やがて一行の乗った船は、竜の島へと近づく。
 離れていても魔物の殺気をびんびんと感じるアレクの横で、ギルは左手をかざしながら島を眺め、心中で呟いていた。

(島を見てると――ケノダインの依頼を受けて財宝を探しに海賊王の島まで行った時のことを思い出すな)

敵意14

 かつての海賊王シェクザがどんな人物だったのか・・・・・・今回の依頼とは関係のないそれを、ギルは船を下りるその時までつらつらと考えていた。

2013/05/15 23:39 [edit]

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