--.

スポンサーサイト  

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--/--/-- --:-- [edit]

category: スポンサー広告

tb: --   cm: --

Wed.

敵意の雨 3  

 彼が宿≪舌ピアスの聖母亭≫にたどり着いたのは夜9時過ぎのことであった。≪304≫と、装飾のなされた文字で書かれたドアをノックする。

「誰だ?」

敵意09

「俺だ。今帰った」

 ギルの声に、明るいジーニの声が応じる。

「あ、お疲れ!開いてるわよ」

 部屋に入ると、アウロラが疲れた様子のギルにお茶を淹れてくれた。

「お帰りなさい。どんな仕事でした?」
「案の定と言うべきか、厄介そうなヤマだ。というのも――あれ?」

と、部屋の中にエディンがいないことに気づく。

「ああ。エディなら、盗賊ギルドに行ってるわ」
「盗賊ギルドに?なんでまた?」

 秘蔵のお菓子であるクッキーをギルのソーサーに乗せながら、ミナスが答えた。

「どうも商会が胡散臭いんで、何か情報がないか聞きに行くって言ってたよ。・・・・・・まあ、商会が胡散臭いってのは同感だけど」
「多分、そろそろ帰ってくるんじゃないか」

 アレクがそういった矢先、またもや静かなノックが響いた。

「俺だ・・・・・・。今帰ったぜ・・・・・・」
「噂をすれば何とやら」

 肩をすくめるギルの横で、アウロラがにこやかに言った。

「お疲れ様。開いてますよ」
「ただいま・・・・・・」
「お帰り・・・・・・って、どうしたの?そんな暗い顔して」
「ああ、ちょっと・・・・・・な。悪い知らせというか何と言うか・・・・・・」

 無言で眉を寄せたアレクの反応に続き、ギルが「一体、何事だ?」と訊ねる。

「あー・・・・・・。俺の話の前に、とりあえず依頼の詳細を聞かせてくれね?その後で話すからよ」

敵意10

 言われるままに、ギルは仲間たちへ今回の依頼について話を聞かせた。
 顎に手を当てて考え込むアレクや他の仲間がため息をつく中、ぽつりとエディンが漏らした。

「・・・・・・最悪だぜ」
「まあ、確かに最悪と言えば最悪かもね。全ての魔物の中で最強という意見が一番多い奴だし」

 素直なミナスが同意する。
 こてり、と小首を傾げたアウロラがエディンに向き直り口を開いた。

「でも、古竜クラスの魔物とは過去に何度も戦ったことがあるでしょう?」
「確かに、そうなんだけどよ――」

 そこで、杖の髑髏を人差し指でリズムカルに叩いていたジーニが発言した。

「まさか、よりによってあの暗黒邪竜とはね――」
「え?知ってんのかよ、ジーニ?」

 エディンが水を向けると、ジーニは「まあね」と肩をそびやかした。

「一応、竜に関する知識ではそこらの学連の教授より上だと自負してるわ」
「知ってる範囲でいいから、暗黒邪竜とやらのことについて詳しく教えてくれないか?」

 ギルがそう切り出すと、ジーニは割りとあっさり頷いた。
 気分屋の彼女は、勿体つけて講釈を垂れる時もあれば、こちらが拍子抜けするほど素直に説明してくれる時もある。
 何から話そうかな、としばしジーニは人差し指を紅唇に当てていた。ギルが大まかな特徴を教えて欲しいと希望すると、すらすらと頭の中にあるデータを引っ張り出してきた。

「まず、年齢については定かじゃないの。古竜だから、少なくとも千年は生きていると思うけど、専門家によっては、三千年以上生きているという説を唱える人もいるわ」
「三千年・・・・・・。もしその説が本当なら、古竜の中でもかなりの長寿ですね」
「体の大きさは?」

 トールに残りのお茶を全部あげてしまったアレクが、振り返って問う。

「それも説によってバラつきがあってね。でも、おおよそ50mから100mの間だと思うわ」

 呆気に取られた様子のエディンの横で、ジーニは竜族の平均全長は30mほどと説明する。つまり、暗黒邪竜の大きさは平均の2倍から3倍もあるのだ。
 勇敢な少年であるはずのミナスが、さすがにジト目になった。

「・・・・・・死ぬかもね」
「他の特徴はと言えば――鱗の強度は並みのドラゴン以上で、金剛石にも匹敵するという説すらあるわ。それと、さっき言ったように体が半端なくでかいから、普通のドラゴンより遥かに力が強い」
「・・・・・・」

 黙りこんでしまったギルをちろりと見てから、エディンが挙手した。その口元は敵の強烈な情報にひくついている。

「先生。我々に勝てる要素が見つかりません」
「そう悲観することもないわ」

 驚くべきことに、ジーニはけろっとそう言い放った。

「確かにこれまでは長所しか述べてないけど、奴には致命的な弱点が2つもあるもの」
「致命的な弱点・・・・・・?」
「そうよ、エディ。わかんない?・・・・・・まず一つ目だけど、奴は神聖な攻撃に弱いの」
「神聖な攻撃っていうと、【浄福の詠歌】みたいな?」

 エディンの視線の先で、アウロラが目を丸くして自分を指差している。

「そう。でも、暗黒邪竜はアンデッドじゃないから、そういう攻撃で消滅することはないんだけど、神聖な光を浴びれば、その強靭な鱗は大幅に脆くなってしまうの」

 ひらひら、と繊手が踊った。

「一説によれば、人間の皮膚と同じくらいの脆さになるらしいわ」
「なーるほど。神聖な攻撃を食らわせて鱗を弱体化させてしまえば、充分勝機はある・・・!」

 ギルが小さなガッツポーズを作る。

「二つ目の弱点は、これはもう致命的なんてもんじゃないわ。古竜にあるまじき欠陥とも言えるわね」
「・・・・・・何なんです?」
「ぶっちゃけて言えば、ムチャクチャ頭が悪いの。魔法を使うことは愚か、言葉を喋ることもできないわ」
「え・・・・・・」

 そう呟いたギルをじーっと見つめながら、ジーニは続ける。

「多分、知能は獣並みなんじゃないかしら」
「・・・・・・おい待て、何でこっち見る?俺喧嘩売られてるの、ねえ?」
「いいから、ギル落ち着いてって!」

 ミナスが泡を食って彼に近寄り、その膝をぽふぽふ叩いた。
 落ち着いたところを見計らって、小さな顔がジーニを振り向く。

「・・・・・・マジですか?」
「ええ。そもそも古竜であるにも関わらず、ツガティグエやローファフォンのような固有名がないのはそれが原因なの」

 何しろ、自分で名乗ろうにも言葉を喋れない。
 人間が名づけようにも「あんな知能の低い古竜は古竜にあらず。固有名は不要」という意見が一般的だったりする。

「まあ、名前のことはさておき。魔法が使えないってのは深刻な弱点でしょ?」

敵意11

「確かに」
「でも、何故でしょう?古竜のくせに、そんなに知能が低いなんて・・・・・・」

 首肯しているアレクに、トールと違う新たなお茶を注いで渡してから、アウロラが心中の疑問を投げかけた。

「大男、総身に知恵が回りかね――ってやつじゃない?」
「うーん・・・・・・。弱点についてはよくわかりました。これは思ったより、楽な相手かもしれませんね」
「油断は禁物よお。確かに致命的な弱点があるとは言ったけど、邪竜が弱いなんてこれっぽっちも言ってないじゃない」

 ジーニは「例えば」と髑髏のついた杖を振り回して言った。
 邪竜は口から黒い火炎を吐く。闇の属性が強く、恐ろしいまでの破壊力を秘めたブレスは、魔剣を持った魔族50人を一瞬のうちに焼き尽くした。
 そして、魔法が使えないということは、ひたすら力任せのゴリ押し戦法で攻めてくる――ということでもある。
 決して勝てない相手ではない。だが、ほんの僅かな油断が命取りになるのが暗黒邪竜という敵なのだ。

「・・・・・・よく肝に銘じておくよ」

と呟いたギルは、”金狼の牙”の他の面々を見渡して依頼を引き受けるか否かを問うたが、概ね引き受けようかと言う流れになった。
 その時、エディンが発言した。

「俺は反対だ」
「あら」

 ぱちくりと目を瞬かせたギルの膝の上に座っていたミナスが、「・・・・・・どうして?」と小首を傾げる。

「タイミングが悪すぎる・・・・・・」
「タイミング?どういうことです?」

 大体において、”金狼の牙”での交渉役を担っているエディンとアウロラは、盗賊と僧侶という対照的な立場にありながら、お互いの考えというものがある程度は読めている。
 それは人生経験を積み様々なことを学んできた最年長の男と、時に聡明すぎるほど聡明な知識欲の強い娘の、他者にはよく理解できない交感であった。
 アウロラのどういうことか、という問いは、必然的に「どういう不利な情報を抱えてきたのか?」ということに他ならない。
 それに気づいたギルとアレクは顔を見合わせ、同時にエディンの方を見つめた。

「結論から言うぜ」

 彼は腕組みをした。

「同業者の集団が俺達の命を狙ってるらしいんだよ・・・・・・。それも3組」

 さすがに動揺の声をあげる”金狼の牙”の仲間たちに、エディンはフラットな声でとびっきりタチの悪い3組について語った。
 冒険者の暗殺を生業としている特異な集団の”漆黒の鳳凰”。優れた実力と功績を持つが、黒い噂の絶えない”蒼い毒蛇”。女性のみで編成されているが、全員が凶暴で好戦的と名高い”白銀の狂犬”。

「・・・・・・どの名前も聞いたことはあるだろ?」

 それぞれのパーティ構成を書き留めた羊皮紙を配られた。
 普通に考えればどれも”金狼の牙”よりは格下のパーティだが、一度に3組となると憂鬱にならざるを得ない。
 羊皮紙にちらっとだけ視線を向けたミナスが、困惑したような顔で訊ねる。

「一体どこの誰が雇ったんだろ?そこまではギルドも教えてくれなかったの?」
「教えてくれなかったんじゃなくて、ギルドもそこまでは掴めなかったみてえだ。・・・・・・信じられないことだがよ」
「・・・・・・なあ、ちょっといいか?」
「なんだい、リーダー」
「その3組のパーティの情報なんだが・・・・・・最初に名前が書かれているのがそこんとこのリーダーか?」
「そうだぜ」

 鳳凰はジャックという魔法剣士、毒蛇はゼノという魔術師、狂犬はソフィアという女戦士、いずれも大した実力者だと言われている。

「どうかした、ギルバート?」
「俺・・・・・・そいつらと会ったかも」

 ジーニの問いに、ギルは説明会で見かけた3名の冒険者について話した。

「”鳳凰”や”狂犬”ほどの冒険者パーティはそうそういない。それに連中のこと・・・・・・あたしたちがエルリースにいるという情報はすでに手に入れてるはず」

 シアノス商会の依頼を受けるふりをして、自分たちに近づこうとしているのではないか――という意見に、一同は厳しい顔つきとなった。
 いずれにしろ商会の依頼を受ければ、最悪、暗黒邪竜だけではなく3組の冒険者パーティと戦う羽目になる。エディンの危惧はもっともであった。

2013/05/15 23:37 [edit]

category: 敵意の雨

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。