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Wed.

木の葉通りの醜聞 8  

 さて、問題の1ヶ月後。
 その日の早朝のやり取りを回顧するなら、こんな感じであった。

「皆さんにお願いする事は3つです」

 アウロラは普段と変わらない口調で説明を始めた。

「私は画家としてあの女優の家に入ります。そして夜もとっぷり暮れた頃、屋敷を後にします。それまでに館へ侵入してください」

醜聞25

 召使も今日は居ないだろうと彼女は言う。
 エディンは不審そうに尋ねた。

「お前さん、何故そうだと分かる?」
「あの女優は、自分の秘密を誰にも知られたくない割に、その秘密は手元に置かないと落ち着かない性分でしたから」

 女優イルマ・スカルラッティ邸――その麗姿を眺めやりながら、”金狼の牙”たちの脳裏ににっこりと笑ったアウロラの言葉が思い浮かぶ。

「そして私が館を後にしたら、居間へ忍び込んで、見て下さい」
「見る?一体何を・・・?」
「彼女のお友達ですよ。洞察通りならば・・・かなり厳つい」

 そこでアウロラは2つ目のお願いとやらも口にした。
 事件を解決させるためのもっとも重要な庶機になる、と釘を刺した彼女は、その友達とやらがアウロラを狙って屋敷を飛び出すと断言した。

「その姿に狼狽するかもしれません。ですが暫くの間、足留めして頂きたいのです。罠を張るのに・・・手間がかかりますから」
「聖北教会から返答が来たんだな?」

 ギルの台詞にアウロラはくたびれたといった顔で返答した。

「ええ、骨が折れそうな結果を寄越してくれたものです」

 後は仲間を信じるだけ――アウロラの双眸が雄弁に語るそれに、ギルは得物をくいと持ち上げ返答とした。
 緋色の髪の娘が館を後にする・・・それが作戦決行の狼煙である。

「またお会いしましょう」

と言って邸宅へと消えていった華奢な背中を、ミナスやアレクは心配そうに見送った。
 そして現在――。

「今日はありがとうございました」
「お役に立てて何よりです」

 女優イルマ・スカルラッティとアウロラが正面玄関から現れた。いよいよ、作戦決行である。

「それでは私はこれで。前回にましてこんな土産まで申し訳ないですよ」
「前にも申しましたけれど、私の気持ちの問題ですのよ。家まで気にせずお持ちになって」
「ええ、そうさせて頂きます」
「・・・・・・」

 イルマはアウロラの後姿が見えなくなるまで名残惜しそうに立ち尽くしていた。
 そして玄関の戸を開け放したまま、屋敷の中へと引き返して行く。

「居間はここから東だった・・・作戦決行しよう」

 アレクの促しに、全員が首肯した。
 ――居間の窓はアウロラの手筈で錠を外されており、中を詳しく見ることが出来た。

(ここに何を隠しているのだろう?)

 もとより好奇心の強い子どもであるミナスは、興味津々といった態で濃藍色の目を瞠っていた。そんな彼の視界の中で、女優イルマ・スカルラッティは暖炉まで歩いていくと、中の薪を取り除き始める。
 ずずず・・・という重々しい音が響き、ミナスは息を呑んだ。

醜聞26


(驚いた・・・!暖炉の下に階段がある・・・!)

 イルマは、その階段前に立った。

「さあ、出ていらっしゃい」

 鐘を鳴らして何かを呼んでいる。どうやら「友達」のお目見えらしい。
 ギルがミナスにそっと囁く。

「そういえば・・・3つ目のお願いとやらは、覚えてるか?」
「うん・・・勿論だよ」
「女優イルマ・スカルラッティ及び、その友達は・・・」

 そうギルが語るうちにも、階段からにょっきりと毛の生えた醜い脚が突き出されている。
 脚があるということは、その向こうに居るであろう胴体、顔もやがて顔を覗かせてくるわけで・・・。
 エディンが静かにギルの台詞を結んだのは、「友達」とやらが顔を居間に現したのと同時であった。

「殺すべからず・・・」

 暖炉からその巨躯を捩らせ姿を現したのは――高さ5ヤードはある大蜘蛛であった。
 内心でアレクがその醜悪さに呻く。

(うっ・・・これは・・・?!!同じ階下よりの異形でも大海蛇のほうがマシだったな・・・!)

醜聞27

 かつて海精の神殿に巣食っていた化け物を退治した思い出と比較しながら、アレクの目は油断なく大蜘蛛の動きを注視していた。
 その横で、≪森羅の杖≫を構えたミナスが元気よく言った。

「でも今更背に腹は変えられないね!行こう!」

 少年に遅れを取るまいと、残りの仲間も隠れていた場所から居間へと飛び出していく。彼らの気配に振り返ったイルマ・スカルラッティは、驚愕に目を丸くした。

「・・・・・・!!!迷い人か強盗かは存じません。見られたからにはお灸をすえる必要がございますわ」
「勘弁してもらいたいな!ほんの道すがらだ!」

 リーダーに応答を任せていたエディンは、冷静に敵との距離や能力を測っていた。

(とはいえ・・・あの巨躯に加えて脚の毒・・・100秒持てば十分だな)

 全員、2人をアウロラのいう時期が来るまでは殺してはいけないことを承知していた。だからこそ・・・。

「あたしの出番ってわけよ!さあ、これはどうかしらね!?」

 ジーニが高々と見せ付けた≪エメラダ≫の輝きに、秀麗な女優とそれに操られる醜悪な蜘蛛の気がそれた。
 足止めを見事に喰らったことに舌打ちをしながらも、イルマ・スカルラッティは彼らを睨みつける。

「あなた方・・・何かご存知のようですわね」

醜聞28

「詳しくは知らないさ、女優さん。その蜘蛛を使って何をする気かもね・・・」

 宝石の輝きによる束縛を打ち破ろうとする大蜘蛛の注意を引くように、幼馴染とともに敵の目の前を駆け回るギルが応えた。
 アレクはといえば、鋭いステップから繰り出されるフェイントを多用して、蜘蛛の脚が束縛の要であるジーニの方へ行かないよう努力している。
 イルマは苦しげな声をして呻いた。

「今夜・・・今夜限りなのです。どうか見逃してくださって」
「それはできない相談よ。貴女の友達はこっちを見逃すように思えないわ」

 慈悲の欠片もないジーニの言葉により不快げに柳眉を逆立てた女優は、横に立つ蜘蛛の脚を優しげに撫でる。

「ごめんなさい・・・耐えるのよ・・・」
「・・・・・・・・・!!」

 声帯を持たないはずの蜘蛛の声なき咆哮が響き渡る。
 痺れを切らした大蜘蛛の前足が、束縛を打ち破って”金狼の牙”たちの足元をなぎ払った。
 たちまち体勢を崩してしまった彼らであったが、ジーニは果敢にも起き上がってすぐに【眠りの雲】の魔法詠唱を始めている。
 ミナスも、仲間たちの援護をするためにと精霊魔法【蛙の迷彩】の呪文を唱え始めた。

「あなた達の目的は・・・この蜘蛛ですか?それとも私ですか?」

 問いかける女優の言葉に、斧を構え直したギルが笑う。

「両方だよ。木の葉通りの変死事件・・・その蜘蛛の仕業だな?」
「・・・・・・。やっておしまい!」

 大蜘蛛の振り上げた脚は、存外の素早さを持ってギルの鍛え上げた体躯を柱に叩きつけた。

「ぐはっ・・・・・・」
「ギル!」
「トール、頼む!」

 アレクは丁度【癒しの煌めき】でもって仲間たちの回復を図ったのだが、ギルだけが遠くに吹き飛ばされたせいで呪文の範囲外に出てしまっている。
 1人離れた位置であばらの辺りを押さえ込むギルへ、懐から飛び出した雪精が氷の魔力で治療に当たった。

「ギルはん、もう大丈夫でっせ。わてが付いてます!」
「ありがとよ、トール・・・」

 ジーニによる【眠りの雲】によって女優は崩れ落ちたものの、大蜘蛛は相変わらず束縛を半ばぶち切りながら、こちらのほうを睨んでいた。
 ギルは人差し指に嵌めた指輪の感触を意識しながら、トールへ呼びかける。

「トール、俺によっく捕まっててくれよ・・・『その姿、霧の如く影の如く消え去り!』」

 ギルが唱えたのは、ジーニが練成したマジックアイテム≪霧影の指輪≫のコマンドワードである。
 透明の魔法を封じ込めたこの品は、非常に短い時間だが、合言葉を唱えた者への物理的攻撃を完全に回避することができるのだ。
 それによって更なる怪我を回避したギルは、眠りから早い段階で覚めたイルマ・スカルラッティの言葉を耳にした。

「この蜘蛛には1ヵ月に1度・・・消化液を飲ませた人間に・・・使い魔を封じた札を張り、夜中に襲わせておりました」
「今、消化液って言ったわね。それって・・・」

 怪訝そうなジーニは、油断なく指輪をかざしながら己の思考が間違いであることを祈らずにいられなかった。
 蜘蛛の食事方法を、彼女は一般的な知識としてだが知っている。
 彼らは網に掛かった獲物に消化液を注入し、溶け果てた体液を啜り取るのである。

「ごめんなさい・・・。先ほど1人・・・画家に飲ませました・・・あの方は・・・今頃」

醜聞29

「くっ・・・『手間がかかる』理由ってこれかよ!?まったく強がりだな、もう!!」

 襲ってきた脚を、今度は余裕を持って斧でさばきつつギルが仲間を想って叫んだ。
 アレクは額から流れ落ちる冷や汗を拭うこともせず、大蜘蛛を睨みつけている。

(そろそろ頃合・・・)

 約束した100秒はそろそろ過ぎ去っている。
 幼馴染の目配せに頷いたギルが合図し、彼らは一斉に後退した。
 邪魔の消えた大蜘蛛は、元の獲物を追うべく部屋を飛び出た!

2013/05/08 05:14 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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