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木の葉通りの醜聞 5  

 処変わって、木の葉通りの娼婦の館――。
 ギイィ・・・という微かな軋みをあげたドアに反応して、娼婦の館の女主人は元気よく声を張り上げた。

「一名様ご案内だよ!」

 そして姿を現した客の姿に、女主人は目を剥いた。
 形の良い頭部を覆う癖の無い銀髪。こちらを真摯に見つめる、照明によっては血色に見える赤褐色の瞳。雪花石膏に彫られた半神半人のような、端整でどこか浮世離れした美貌――。
 逞しい長身と相まって、恐ろしいほどの美丈夫ぶりである。
 女主人は、その美貌に呑まれないよう深呼吸をしてから彼に声をかけた。

「お・・・お先にチップで500。決まりだから頂戴致しますよ」
「これで丁度か?」

 そう言って500spを差し出し、さらにそれとなく女主人の懐に100spを追加して押し込んだ。
 気を良くした女主人が、こちらの機嫌を窺いながら捲くし立てる。

「お客さん、本当にツいてますねぇ。今日は新酒が入ってるんですよ」

(とびきりの美い男な上に、チップをどこで使うかも知っている・・・。こりゃ上客だよ、逃がしたくないねぇ。)

 彼女は内心で舌なめずりした。ただ顔が綺麗なだけではない――この客は一体どんな素性なのかは分からないものの、若いながら相当の修羅場を潜ったのだろう落ち着きと自信に溢れていた。
 出来れば自分がつきっきりになりたいくらいだが、女主人は自分の館における役割をちゃんと心得ていて、それを逸脱する愚かしさも承知している。
 その代わり、この男には上等の娘を見繕ってやろうと心に決めた。

「じゃんじゃん!飲んでいって頂戴よ!」

 そこへ千鳥足の男が転がり込んできた。

「へッ・・・葬儀の余り酒さ・・・有り難く飲んでやれよ、ヒック」

醜聞16

(チッ。こんな時に面倒なヤツがきやがった・・・!)

 女主人は心のうちで眉をひそめながらも、表面上は笑顔を取り繕って酔っ払いに応対した。

「誰がそんな失礼をしますか。ほら!飲みすぎですよトラビス公、お席のほうへどうぞ!」

 そして居合わせたウェイターに彼を任せると、こちらは営業スマイルではない本当の笑顔でアレクに向き直る。

「さっ、お気にせず奥の方へどうぞ」
「いや、結構。葬儀というのが気になるな。それはラウラ・パリッラ嬢のことではないか?」

 ラウラの名を出した途端、女主人の顔はみるみる青くなった。
 微かに動く紅唇を読み取ると、「どこでその話を?」と動いている。
 アレクは白皙の美貌を女主人の耳近くにそっと寄せて囁いた。

(紳士の名誉には謎がつきもの。『筋』の者とでも言えばいいか?少し話を聞きたく参ったわけさ。)

 中々の演技ぶりに、外套の懐に入っているトールが笑いをこらえて震えている。内心で自分も苦笑しながら、アレクは女主人の反応を待った。
 刹那、彼女は沈んだ顔を見せたが、頷きながら囁き返す。

(裏でお話しましょう、こちらへ。)

 アレクは、おやと眉を上げた。
 職業柄、秘密主義の色濃い場所である。何度か足を運ぶ羽目になるだろうと構えていただけに、この反応は意外であった。
 女主人の後を追いながら、すれ違う娼婦の顔を窺う――。
 みな意気消沈した様子でどこか落ち着きがない。
 館の裏口にたどり着くなり、女主人は口を開いた。

「可哀相なラウラ。あの子はいい子だったよ・・・」

醜聞17

 女主人の無聊を堪え切れない左手が煙草に火を点け、狼煙をあげた。

「ラウラは・・・。器量良しとは言えなかったが、誰にも好かれるいい子でしてね」
「家事も進んでする女性だったようだな」
「そんなことまで?」

 目を丸くした女主人に、アレクは話の出所を明かさずに話の続きを促した。
 明らかに、女主人は自分の話をしたがっている。こういった商売をしている女性にしては珍しいことであったし、この機会を逃がすべきではない。
 煙管の吸い口を、落ち着かなさげに弄くっていた彼女は、ようよう口を開いた。

「誰かから疎まれたり恨みを買うようなことは、決して無かったと思います」

 その言葉にしばし顎に指を当てて考え込んでいたアレクが、静かに訊ね始めた。

「惚れこんだ客が駆け落ちを目論んだりは?」
「あたしはここを高級な館として上手く仕切ってるつもりですよ。そんな素振りはありません」

 ふと女主人が眉をひそめる。

「あるとしてもさっきの酔っ払い・・・アドレア・トラビス公くらいだね」
「何かに巻き込まれたと考えるべきだな」

醜聞18

「ええ。あんな良い子から逝くなんて神はなんて理不尽なんだろうね」

 巧妙に顔を伏せてはいたが、アレクはそっとハンカチを彼女に差し出した。
 ハンカチを受け取った女主人は、目じりの光を押さえる様にして目前の青年へと言った。

「どんなヤマを抱えてるか存じませんが、よろしくお願いしますよ」
「ああ。些細なことでも良い。何か変わった事はなかったか?」
「事件の日の夜・・・ラウラは『調子が悪い』と言い出し、開店準備の後、店の裏で休ませておきました」

 みるみる顔色は悪くなるし、小刻みに震えっぱなしであったそうだ。
 一緒に医者へ行こうと女主人は言ったのだが、結局は仕事が立て込み、1人で行かせることになった・・・。

「あの時・・・一緒に行ってやっていれば・・・」

 女主人は目を閉じ、肩を震わせた。彼女の手にある煙草から立ち上った煙は、夜の漆黒に啜られて再び目の当たりにする事はなかった。

「心中お察しする。最近、変わったことなどは?」
「そうだね・・・外へ出たからない娘だったけど、何か稽古事を始めたらしく時折外出していたね」
「具体的には?」
「時期が来たら教えると言ったので、詮索はしませんでしたよ」

 彼女は深々と煙管を吸って煙を吐き出した。

「我々は日陰の女ですが、心までは落ちぶれちゃいない。お互いを探り合うような関係になったらもうお仕舞いだよ」
「承知しているさ」
「そうだ・・・事件の日の午後も30分ほど外出したかもしれません」

 それ以外に思い当たるものはもうないという。慎ましやかで誇れる娘だった、と女主人は追憶の向こうにいるラウラを評した。
 アレクは左手の拳を胸にあて、静かに礼を言った。

「感謝する。お悔やみ申し上げよう」
「さあ、夜はこれからですよ。中でお飲みくださ・・・」
「!!」

 女主人が誘いの言葉を言い終わらないうちに、店内から何か物が割れるような音が裏口まで響いてきた。

2013/05/08 05:11 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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