Wed.

木の葉通りの醜聞 3  

 現在、”金狼の牙”は騎士団員ロレンツィオに招聘され、木の葉通りを訪れていた。

「これで6人目だ・・・」

 哀れな変死体の数がまた増えてしまった、と若き騎士団員は臍を噛んでいる。
 冒険者たちは目の前の「元人間」へと視線を転じた。
 なるほど、これは噂どおりの変死体である。
 体中の水分という水分を抜かれ、ミイラをさらに干し物にしたような見事な出来栄えだ。

「現場は?」

 アウロラの短い問いに、ロレンツィオはきびきびと答えた。

「発見されてから一切触れられていない状態だ。野次馬が入らないよう、一時通りは封鎖してある」
「上出来です。・・・・・・エディン」
「あいよ」

 エディンは常の眠たげな双眸を鋭くして変死体を観察する。
 服装・体格からしてこれは女性・・・指輪や機工式ブローチ等の装飾品が付いたままとなっている。

「お金目当ての線ではなさそう」

 仲間の盗賊の指摘でアクセサリーを観察していたギルが言った。
 近頃、エセルにプレゼントする装飾品をあれこれ見ていたので、目が一時的に肥えているのだ。その彼の基準からすると、特にブローチ等は高く売れるはずの品であった。

「それと・・・一見、干からびていてただの皺に見えますが首筋に傷がありますよ」

 アウロラは、この哀れな女性の長く美しかったであろうブロンドの髪をついと持ち上げ、その首筋を仲間へ見せる。
 赤褐色の目を細めてアレクが呟く。

「ほぅ。何かに噛み付かれたような傷跡に見えなくもないな・・・」
「やはり吸血鬼の仕業か・・・?」

醜聞09

 顔を強張らせたエディンに、アウロラは首を横に振ってみせた。

「いえ。その割に血の抜かれ方が奇妙です」
「新種かもしれねえだろ」
「ええ・・・断定はまだできません。それとこの傷跡は独特の形を成しているようです。少し調べてみるべきでしょう」

 ミナスが背負っていた荷物から、素早く羊皮紙と木炭をアウロラへ手渡した。
 それを受け取ったアウロラが、手早く模写を取りながら干からびた手も持ち上げてみる。

「軽い、まるで羽の様・・・!外見上は干からびていますが、『空っぽ』という表現のほうが相応しいかもしれませんね」
「どれどれ?・・・ハーン、確かにね。それにしてもこのストール・・・」

 リューンで最近流行のやつよね、と緑色の透ける布を拾い上げたジーニが、しげしげと見つめて言った。
 後ろではエディンが現場の足跡やなんらかの痕跡が無いか、丁寧に再調査をしている。
 やがて、変死体は騎士団員により検死官の元へ送られて行った。

「さて、この可哀相な娼婦について詳しく教えて貰いましょう」

 静かなアウロラの台詞に、ロレンツィオは目を丸めた。

「な、何故娼婦と知っている・・・?」
「少し演鐸しただけです。下着は安物ですが化粧は濃く、装飾品は豪華でここは高級街」
「そんな女が爪を短くするのはね、平素家事もこなすからよ」

 丁寧にケアしている桜色に塗られた爪を、これ見よがしに騎士団員へ突きつけながらジーニが補足した。彼女は手が荒れるのを嫌がり、家事は一切やらない。
 アウロラはやや苦笑を閃かせながら首肯する。

「雇われる身分の者にしては、ずいぶん派手で偏った服装ですしね」
「いかにも・・・。被害者の名はラウラ・パリッラ。木の葉通りの一角にある館で高級娼婦として働いていたそうだ」
「それだけ情報があればお手柄ですよ。全ての事件には共通項が必ずあるはずです。項と項を結ぶ公式を見つけた時、全ての=(イコール)は犯人を提案する」

 ジーニが繊細な手を、ピエロのように冗談めかしてヒラヒラ動かしつつ言う。

「それを求めるには地道な行動というのが誰かさんの金言だったわ」

醜聞10

「ご名答!それでこそ”金狼の牙”です」

 アウロラは、分断作戦をすることを提案した。

「ああ同感だね。娼館となると、大勢で聞きに行く場所ではあるまい」

 もう少し踏み込んで言うと、子どものミナスを連れて聞き込みを行なうような場所ではない――発言者のアレクとしては、小さな一人前冒険者の心情を傷つけないよう言葉を選んだわけである。
 娼婦相手ということであれば、その手の商売の事情に通じているエディンが適役かと思われたが、彼は笑って否定した。

「高級娼婦相手だろ?俺よりは、お前さんが行った方が向こうも喋ると思うね」
「・・・・・・俺が?乗り気はしないんだが・・・」

 きょとん、とした顔でアレクは自分を指差した。その懐から顔を覗かせている雪精トールが、不思議そうに顔を見上げている。

「お前さんぐらいの男前相手なら、女も安心すらァな。行ってこいよ」
「・・・・・・分かった」

 一人で調査に行くというアウロラと、渋々了承した態のアレクが静かにその場を去ると、ギルは残りの三名の仲間を見回して発言した。

「俺は他の被害者を当たってみようと思う」
「・・・・・・ギル、何はみ出してるの?」

 ミナスの指摘に、慌ててギルは自分のポケットを見やった。メモが挟まれている。
 ぴ、と紙を伸ばして目を通したギルは、呆気に取られたような顔になった。

「・・・・・・これは・・・また困った頼まれ事を残していったなぁ・・・」

醜聞11

2013/05/08 05:10 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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