Wed.

木の葉通りの醜聞 2  

 届いた資料によると、事件の概要はこういうことだったらしい。

 木の葉通り全域で起きている連続変死事件、死亡者は述べ5名。いずれも干からびた状態で遺体を発見されている。
 最大の特徴として、死亡者は皆体内から血や水分等を抜かれ、干からびて死んでいることである。体内の臓器もなくなっており、その死体はまさに「骨抜き」状態にあった。
 事件の起きる頻度にも規則性があると考えられ、およそ1月に1度事件を確認している。
 事件のあった現場の保存状態はいずれも良好。
 1・2件目は木の葉通りの貴族邸宅内。3件目は飲食店地下。4件目は倉庫として使われていた空屋敷。5件目は路上であった。
 5件目の被害者ホフマン氏以外には争った形跡や外傷は無く、現場での出血の痕跡なども確認はなされなかった。
 金銭や装飾品の類も身に付けたまま死亡。着衣等の乱れも無し。

(余計な苦しみを被害者に与えることもなく、物盗りの様子も無い。つまり、犯人の目的は明らかに被害者の体液そのものだけであった――ということですね。)

 手紙をめくりつつアウロラは一人頷いていた。
 最後のページは死体の検証結果についてである。
 被害者の死因は体液を抜かれたことによる失血と脱水。いずれも死亡推定時刻は夜中の2時~5時。発見された時点で遺体は干からびており、脱水と失血のどちらが先に起きたかの判別は不可能。
 被害者らには差し迫った持病等は無く、薬物の検出もされなかった。ただし路上で死亡していた5人目の被害者・ホフマン氏には前頭部打撲が見受けられた。
 彼女は丁寧に手紙を折りたたんだ。

(人の手による犯罪の動機は大抵3種類に大別される。金銭・怨恨・情事・・・どれも罪深いことです。人の性、という奴ですか。)

 だがここに提示されている資料だけでは、この事件を解決する突破口とはなりえない。

醜聞05

「それぞれ現場へ向かって話を聞かねばなりませんか」

 深くため息をついた時、部屋のドアがノックされる。

「・・・お入りなさい」

 だがアウロラには、この時間に部屋を叩く人物には大方察しがついていた。――ほかならぬ、アウロラを指名した依頼人である。
 皆で引き受けた騎士団員の依頼とは別口の仕事について、彼女が話を聞くつもりになったのは、いささかの事情あってのことだ。
 清々しい朝にも関わらず、神妙な面持ちでこちらを眺めやる依頼人に、アウロラは椅子を勧めて座るように指示した。
 礼を言って腰掛けた新たな依頼人は、おもむろに口を開いた。

「朝早くから失礼しました。私はマリーオ。アウロラ様へ極秘裏に依頼したく参りました」
「これはご丁寧に。養父からもあなたのお話を伺うよう、言伝を貰っております」

 アウロラの養父は聖北教会の司祭である。とはいうものの、ざっくばらんで気の置けない人物であり、妙なところで顔が広い。
 このマリーオ氏も、彼の数多い交友関係の一人に位置しているはずだが・・・。

「極秘裏とは・・・どういったご用件でしょう」
「口のほうは固いとお約束できますか?」
「そのつもりですが」

 そもそも、秘密を守れる冒険者でなければならないからこそ彼女を指名したのではないのか――そういった意味の視線で射抜かれたマリーオ氏は、眉間の皺をさらに深く刻みながらため息をついた。

「あるものを取り返して頂きたいのです」
「あるもの、ですか」
「私は外交官をしております。近く魔道都市カルバチアに大使として赴任することが急に決まったのです」

醜聞06

「これは、おめでとうございます。来月は式典と聞いてますよ」

 なんという皮肉か、偶然の一致か。
 先ごろの依頼で聞き及んだ情報を頭で反芻しながら、彼女はとりあえずの祝辞を述べた。

「しかし、困ったことがありましてな」

 依頼人は言い辛そうに言葉を濁していたが、覚悟を決めたのか思い切ったように話を続ける。

「私も若い頃はカルバチアで学生をしておりました。魔術はからっきしでしたが・・・それを利用した経済学を修めておりました」

 その時分は、魔術を金銭と結びつけて考えるというのは少しばかり斬新過ぎたらしい。
 今でこそ当たり前になりつつある話だが、当時のマリーオ氏は魔術を市民生活に広く受け入れてもらうためにも、と学生運動に参加していたという。

「しかし・・・私はリューンの大使になる身分です。他に私の名誉を後ろ暗くするどのような行いも、決して致してはおりません」
「はい」
「ただこの学生運動に所属していた諸々の事実が公に暴露されるのは、歴史上の醜聞となりかねません」

 訝しい顔をしたアウロラに、依頼人は己の所属していた学生運動について説明をした。曰く、経済学だけではなく錬金術や生物実験等・・・際どい分野も要する運動一派だったのである。

「つまり貴方にはその運動に参加した紛れもない証拠があるということですね」
「ええそうです。同じ運動をしていた学生にイルマという女性がおりました。イルマは聡明で明朗快活、男を命がけにさせる瓜実顔をもつまさに華のある女性でした」

 マリーオ氏はイルマ女史と親交を持ち、互いに切磋琢磨していた。ただ、互いに進むべき道が異なる為に卒業と同時に決別することにした・・・。

「その証として、学生運動の参加腕章と自筆の論文を交換しました。その、論文が依頼品です」
「問題ないでしょう。国家反逆の証拠として扱うには、強い力を持つものとは思えません」
「それが・・・私の書いた論文は・・・法の網を上手く潜る偽造sp硬貨の作成方法を著したものです」

 よりにもよって、端くれとはいえ聖職者の前でなんという告白であろうか。アウロラは苦虫を噛み潰したような表情を、わざとらしくしてみせた。

「なるほど。それはマズイですね。実にマズイ論文ですよ。だがしらを切れば良いのでは?」
「自筆ですから筆跡で分かりましょう」
「模倣と言い張れば・・・」
「それに学院内でしか使われない透かしの入った紙を使いました」

 若き日の過ちとはいえ、真に厄介なことをしたものだ。
 アウロラはもはや面倒になって単語を口に乗せる。

「偽造」
「シグニチュア(サイン)に私本人に反応するインプを契約しています」

醜聞07

「チェックメイト。使い魔ばかりは手に負えません」

 額に手を当てたアウロラを恐る恐る窺いながら、マリーオ氏は話を結んだ。

「今回の依頼は、その論文を彼女から取り返して頂くことです」

(義父さん・・・。義父さんの人間関係とやらは、1度見直すべきだと不肖の娘からも思わざるを得ませんよ・・・・・・っ!)

 遥か遠い目をしながら、アウロラはそう養父に頭の中で忠告した。
 マリーオ氏の言によると、不可思議なことにイルマ女史は彼の論文返却についての手紙に、

『人違いではないか、手紙は見なかったことにするから忘れなさい』

というような事を書いて返送してきたらしい。おまけに、「貴方のことなんて知りません存じません」の一点張りということだ。
 論文を交換した相手が人違いではないことは確か。とすれば、マリーオ氏に推測(邪推の域だが)出来るのは、イルマ女史が彼を貶めようとしているのか。それとも彼女が何らかの陰謀に関与してしまっているのか。
 大変情けない上に、聖職者になんてことを頼むのかという仕事ではある。
 これはどちらかというと、エディンのような職業の者に頼むものではないだろうか。
 だが、世の中には浮世の義理という言葉もあり――何より、ささやかな好奇心が疼いた。
 依頼を受けると口にしたアウロラに、マリーオは歓喜した。
 礼よりも先にイルマ女史のことを詳しく知りたい、と問われたマリーオ氏は、少々早口になって問題の人物について語った。

「名はイルマ・スカルラッティ。半年前から名の馳せてきた女優です」

 当時は質実剛健の権化と表現足るに相応しい淑女であったため、大変驚いたという。

「ところで、貴方が手紙を送り始めたのはいつからですか?」
「一ヶ月前からです」
「なるほど・・・では、彼女の住所などもお聞かせ願えますね」
「ええ。木の葉通りの中ほどにある閑静な二階建ての屋敷ですよ」

 メモを取ることもなく、それを頭に叩き込んだアウロラは小さく首を縦に振った。

「結構。進展があればお知らせできましょう」
「どうかよろしくお願いします。それでは私はこれで」
「事は重大極めましょう、気を楽にもつことです」

醜聞08

 依頼を引き受けてもらった反動からか、やや強張っていた表情筋を和らげたマリーオ氏は、前金として1000spの入った皮袋を彼女に手渡した。

2013/05/08 05:09 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top