Sun.

ネルカ城砦跡 5  

 目の前に開いた巨大な穴を、恐々と”金狼の牙”たちは覗き込んだ。
 底は見えない。
 穴が深すぎてロープがあっても安全に降りることは出来ない。

ネルカ城砦15

「持ってて良かったよね、この腕輪」

 ミナスが腕を振って元気よく合言葉を唱えると、その背中からうっすらと輝く翼が伸びた。
 代わる代わる、≪エア・ウォーカー≫と呼ばれる魔法の腕輪の効果で翼を作った彼らは、穴を跳び越して向こう岸へと到着する。
 床や壁、天井に仕掛けられた罠が無いかを警戒しつつ進むと、5個目の宝箱に行き当たる。
 鮮やかな手並みでエディンが取り出したのは、宝石つきの杖であった。

「≪万象の司≫ね・・・。回数制限はあるけど、≪賢者の杖≫やあたしの使ってる≪死霊術士の杖≫よりも強力な魔法の媒体よ」
「魔法詠唱を助ける道具か・・・」
「ええ、そう。優れた宝石回路がついててね、これが使用者の集中力を何倍も高めてくれるって寸法よ」
「大した魔法文明の遺産だな・・・。誰も今まで手をつけてないのが不思議なくらいだぜ」

 ギルが肩をすくめてみせたのを見て、ジーニは顔色も変えずに部屋の一方を指差した。

「それはね。ああいうことだと思うわよ」

 彼女の優美な指が示すのは、すっかり石化したらしい冒険者の姿であった。
 原因なのであろうビボルダーが2体、後ろでふよふよ漂っていたのだが、それはミナスの護符による光で動きを止められる。
 古代王国期の遺跡に希に出没する最悪の生物兵器がもう動かない様子を確認した”金狼の牙”たちは、揃って石像のほうへと近寄った。
 灰色の石と化した顔は意外なほど若く、整った顔立ちの女性であった。
 石の体に欠けた様子が無いことを素早く確認したアウロラが、

「石化さえ解ければ助かるかもしれません」

とギルを振り仰ぐ。
 彼が浅くはあったものの首を縦に振ったので、アウロラはかつて海賊王の秘宝が隠された孤島で使った、≪水銀華茶≫というお茶を石像に注ぎかけた。
 コルクの栓が外された口から緑色のお茶が滑り落ち、たちまち灰色の体がかつての色彩を取り戻して、石の硬い質感を失っていく。

「あ・・・・・・」

 石化の解けた唇が戦慄いた。
 しばし待つと、石像は亜麻色の髪の少女に戻っていた。
 ふらりとよろめいたところをアレクに抱えられる。

「貴方達が助けてくれたの?」
「ああ。解ける手段があって良かった」
「ありがとう。何かお礼をしないといけないわよね・・・・・・」

 間近にある白皙の美貌に、半ばうっとりとした目つきに変わった少女の背中を、ジーニは杖についた髑髏でノックした。

「ね、アンタさ。ここの採石するための工具持ってない?」
「・・・工具ですか?それでしたら・・・」

 彼女は腿に固定していたナイフを外し、鞘ごとジーニへと渡した。

ネルカ城砦16

「そのナイフを使えば、この辺りの壁からネルカの石を採取できるの」

 ジャンナと名乗った彼女は元々、それで一山当てようと来ていたのだと言う。
 しかし、ここの魔物はジャンナには強力すぎた。

「だから、貴方達に譲る。それじゃあね。バイバイ」
「ばいばい、じゃあね」

 望みの工具を手に入れた”金狼の牙”は、ジャンナを出口の近くまで見送ると、さっそくそれで近くの石を掘り出し始めた。

「なるほど、さくさく石が切れるな。・・・でも、これはいつまでも持つものじゃないぜ。精々、八回が限度ってとこだ」
「とりあえず、それで切り出せるだけ切り出しちゃう?」
「ちょっと待ってください」

 大人組みにアウロラが異を唱えた。

「先ほどの大きく裂けた穴ですが・・・何となく放置しておかないほうがいい気がするんです」
「アウロラの予感か。当たるからな・・・」

 ギルが頭を掻く。
 それを見つめつつジーニが言った。

「でも、もしそっちに何かの仕掛けなり敵なりがいるんなら、ここの石は持っておいたほうがいいんじゃない?回復と強化できるんでしょ?」
「・・・確かにな。エディン、取れるだけ取ってしまってくれ。その後であそこも調べてみよう」

 ギルの決定に一同は頷いた。

2013/05/05 05:28 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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